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月を見上げたら  作者: とんぶり
4/7

どうしようか?

4話目

 偶然にしろ、彼に会い話をした事を来希に告げるべきか悩みつつ、仕事が終わり、俺は自宅の駐車場へ車を入れた。来希を心配している事は言ってやった方がいいのかなとも思う。でも・・もし完全に別れを決めていて、いらない事を考えたくないとしたら?俺の言う事は来希の気持ちを惑わす迷惑になるかもしれない・・。

どうする!?俺!!

そんなに深く考えないで、ぽんと教えるべき・・かな?

あーほんと俺は、こういう事には向かないんだよぉ・・。

自分の事すら全然駄目で彼女に振られたのに・・。

ハンドルに突っ伏して、俺は多分百面相していた。

「わかんねぇ。」

そう吐き出して顔を上げるとコンビニの袋を提げ来希が車の窓の横に居た。会社帰りらしく、オフィスカジュアルな感じの服装で窓を覗き込んで笑っていた。

俺は車を降りる。

「こんばんは。どうしたの?何か悩み?」

実はコンビニに行く前に俺の車が入ってくるのを見ていて、今戻った時にも車の中に俺の姿があるのに気が付き声をかけたと言う。

最近の来希は、始めにあった頃より元気だ。最初のうちは色々な事も隠していたと言うのもあっただろうし、相当に悩んでいたみたいだから仕方ないだろうな。なんて思いながら俺が来希の顔を見ると・・。

「大丈夫?風邪でもひいたの?風邪薬持ってるなら飲んだほうがいいよ?

ないなら俺の部屋から持ってく?」

「いや・・ごめん大丈夫。ちょっと話したい事が在るんだけど・・今時間いいかな?」

「んーと・・いいけど。ご飯、まだだからお腹空いたんだけど・・。あ!相場さんカレーでよければ、俺の部屋で食べていかない?」

今、ご飯炊いてるんだ。と彼は笑顔を浮かべる。

着替えたら部屋にいくと約束して俺は部屋へ戻る。ジーンズにカットソーという軽装に着替えると俺は冷えたビールを数本袋に入れて、来希の部屋へと向かった。

 来希の部屋はシンプルで、白っぽい家具で統一されている。

引越しを手伝った時に「汚れは気になるけど、白が大好きなんだよね。」と来希が言っていた。

特に物が増えているわけでもなく、整然と片付けられた部屋、窓際にはサボテンがいくつか並んでいた。

「適当に座ってて。」

来希はキッチンへと姿を消す。俺はクッションのあるソファに腰を下ろす。

「話って何?」

カレーを盛り付けた皿を二枚持ち、来希が戻ってくる。サラダもあるんだよ。とドレッシングと野菜がかなりの量入ったサラダボウルも姿を現す。

「飯食いながらって・・言いにくいんだけど・・。」

「んじゃ食べてからにしよう。ビールはご飯食べながら飲む?」

「来希にあわせるよ。」

「俺は食べてからがいいな。スッゴイお腹空いてるもん。」

満面の笑みで来希はカレーを頬張る。

俺も釣られてスプーンを動かす。

「料理・・上手いのな。」

たかがカレーとは言えなかった。何種類かのスパイスがどうのって、よく聞くが、まさにそんな感じ。俺は豪快に食べて、お代わりまでした。

「料理好きなのか?」

食器を下げつつ、グラスを持ってくる来希に聞くと、来希は頷く。両親が、昔ながらの洋食屋をしていて、見よう見まねで好きになったという。

ビールを注ぎあい、視線で促され俺は陽都と偶然会った事と、彼が来希を気にしている事を告げた。

「なんだ・・。それで悩んでたんだ。」

意外にあっさりとした反応を来希は返した。

「だって、来希が別れ決心してたりしてるとこに言ったら、何か良くないだろうし、だからって隠して置くのも悪いだろうし・・。」

「ごめん。俺もどうすればいいかは分からないんだよね。」

グラスを空け、少し赤みの差した顔で来希は言う。

「だよなー。恋愛は難しい・・。」

俺もグラスを空け、また互いのグラスにビールを注ぎあう。普段より大分互いに飲むペースが速い。来希が俺の事について聞いてきたのは、多分酔いのせいだったんだろう。

「相場さん彼女は?」

「あ・・それ聞くか・・。」

「相場さんの地雷?」

「んー、そんなとこ。別れたばっかりだよ。『あたしと仕事と野球、どれが大事なの!?』ってさ。」

「あーなんか分かる気がする。相場さんほっときそうな気がするもん。んで、野球も大好きで、休みは試合でしょ?そりゃ切れるかもだね。」

「来希も言うのかよ。」

俺はテーブルに突っ伏した。脳内で彼女の台詞が蘇る。

「確かに悪かったとは思うんだよ。仕事も凄く忙しかったしなぁ。」

「仕方ないよね。社会人だし、仕事しなきゃ生活も出来ないもんね。」

俺たちは同時にため息を付いて笑い出す。

「まぁ飲め。」

「ありがとう。」

そうして持ってきたビールはすでに全部空になり、来希が会社の飲み会で当たったというウィスキーに手を付けたのは飲み始めてから1時間も経たない頃だった。

「俺、どうすればいいと思う?」

水割りでウィスキーを飲む来希がため息と共に呟いた。

空になったグラスにロックを作っていた俺は顔をあげる。

「多分、まだ好きだとは思うんだ。でも・・もう嫌だ。あいつ勝手に持ち出した俺の通帳の金、全部勝手に使ったんだ。自分の親とか俺達の友達からも金借りまくっててさぁ。通帳勝手に持ってく前だって、かなりの金渡したんだ。金が大事って思われたら・・嫌なんだけど・・でもこのままずっとそうやって、あいつは俺に頼るだけなのかって、もしかして俺を金づるって思ってるんじゃないかって・・思ったら不安で・・あいつ家にも帰ってこなくなって・・仕事だって、いつも言ってて・・。

一緒に居て欲しい時だって居てくれなくて・・そんな生活してたら、本当に不安で胸の奥がギュッて、いつも痛くて眠れなくなって・・。」

両手で持ったグラスの中身がゆらゆら揺れる。多分、来希の手が震えているからなんだろう。

寂しくて、苦しい。それでも相手を信じたい思いと、現実のせいで信じきれない自分を来希は責めて居たんだと思う。

「今の選択でいいと思うよ。来希、最近凄く元気で楽しそうだろ?俺も振られた時は、死にそうなくらい苦しくてさ。でも時間経ってきたら元気になったんだよね。だから、俺も一緒に遊んでやっから、元気になろうぜ。」

俺の手は自然に来希の頭を撫でていた。

「うん・・ありがとう。」


 朝・・起きて、互いに酒臭さに驚いた。

ついでに時間にも驚いた。昼過ぎ・・だった。部屋の中で雑魚寝なんて相当に久しぶりだと俺が言うと、意外にも来希はたまにやると笑っていた。

「酒・・くせぇ。」

「休みで良かったよね。」

来希から予備の歯ブラシを一本貰い、歯を磨きつつ笑いあう。

顔も洗い、大分すっきりした。

「これで互いに二日酔いじゃないところが凄いよな。来希、相当強いだろ?」

「多分強いかなぁ・・まだ酔ってる感じ。」

携帯を見るとチームの仲間からの着信がいくつかあった。

メッセージを確認し、慌てて俺は電話を返す。


 背を向けて電話をする後姿が、結構好きかも知れない。

優しくて、人の事考えすぎて一緒に悩んじゃうとことか、ちゃんと人の話を聞いてくれるとこも好きだ。陽都は人の話を聞いてくれない。聞いている風で、自分の事ばかりを語りたがる。

だから俺があいつの話をしっかり聞いて覚えておいて会話しないと、後ですごい喧嘩になる。

なのに、俺の言葉の単語だけを覚えていて、後でひどく突っ込まれたり罵られたりすることもある。その場は俺が謝るんだけど、後からよーく考えると違う意味合いに取られて居たりとか、前後の言った事を考えると・・俺は別に悪い事を言ってなかったりとか・・それでも好きだったから・・一緒に居たんだ。でも・・このままずるずる一緒に居たって、変わらない。だから、俺はもう頑張るのはやめる。自分を楽しんで生きたいと思うんだ。

陽都と会ってからは陽都が全てになっていた。でも俺だってやりたい事もある。

今は本当に苦しいかもしれないけど・・相場さんと一緒に居たら変わっていけると思うんだ。

電話相手に頭を下げる相場さんを指差して笑い、俺は部屋の窓を開けた。




 社長が発起人で飲み会があった。仕事が終わってから皆で飲みにいった。うちの社長は豪快。元々は割と有名なデザイン事務所に居たのを辞めて会社を興したんだって。『趣味と実益を兼ねた会社ですよ。』と社長は面接に来た時に俺に言った。現在のスタッフはバイトも含めて総勢20名居るんだけど、二次会まで全員が参加。でもそれが強制じゃなくて皆が楽しそうなとこがいいよね。

二次会の店は社長の知人の店。女の人がだいすっきな社長の事だから、女の人の居る店に行くだろうという数人の期待は見事に裏切られた・・。そこはライブハウスも兼ねた店で、今日はライブはしてないそうだけど、すごく落ち着ける雰囲気の店だった。

店の中を美人な黒猫さんが歩いて居るのは何故だろう・・。俺はその黒猫さんを抱っこしてカウンター席に座る。店のマスターがにっこりと笑って、水割りを差し出してくれた。

「姫が君を気に入ったみたいだ。」

黒猫は姫って名前みたい。

「マスターの飼い猫ですか?」

「飼い猫というか、相棒ってとこかな。」

俺が喉を撫でてやるとゴロゴロと気持ち良さそうに彼女は喉を鳴らす。

「いいなぁ・・にゃんこ。」

まぁ皆は皆でボックスの席で盛り上がってるみたいで、俺はすっかり会社の飲み会という事も忘れて、マスターから猫じゃらしを借りて、俺は姫と遊んでいた。

「なにやってんの来希。」

と社長が声をかけるまで、俺はすっかり姫に遊んでもらっていた。

社長の声にびっくりして止まった俺の手。そこへ繰り出された猫パンチがポスっと決まった・・・。

肉球がふにっと俺の手に当たる。

「あーびっくりした。」

「お前、猫好きか?夢中になってただろ。」

社長が肩越しに覗き込む。止まった俺の手を隙ありとばかりに姫は前足で押さえ込んで後足で夢中で蹴っていた。

「ぶっ・・捕まっちまったか?」

「実家の猫もこんなんだったなぁ~」

俺は姫に好きにやらせる。若干、痛いんだけど、実家に置いてきた猫を思い出してちょっと幸せというか・・。

「お前、最近明るくなったな。一時期、仕事が忙しかったのもあっただろうけど、それ以外にもなんか在っただろって思ってたんだが・・それは俺の思い過ごしじゃないよな?」

「・・はい。」

社長は凄く人を見ている。ただ眠いとか、そんなんなら何も言わないんだけど・・体調悪いのを誤魔化しているとか、私事で何かあったとか、そう言うのをすぐ見抜く。

俺はいつも通り以上に気を使って仕事をしたつもりだったけど・・。

「もう大丈夫なのか?」

「ええ。いい友人にも恵まれたんで。」

相場さんの笑顔が浮かぶ。

「友人ねぇ・・?」

俺の言葉に社長は人の悪そうな笑みでにんまりと笑う。

「な・・なんすか社長。」

「顔が赤いなぁ~。」

「からかわないで下さい!社長っ」

実は陽都と付き合い始めた頃に、ばれる様な出来事があったから・・社長は俺がゲイだって知っている。社長がずっと面倒見ていた弟みたいな人もそうなんだって・・だから偏見を持ったりはしないと言ってくれた。

「社長、来希さん、二人で盛り上がってないで、こっちで飲みましょー!!」

ボックス席から同僚の声がかかる。

「お!! 来希、行くぞ。」

俺の背を軽く叩き、社長は楽しげに皆の輪の中に入っていく。

姫は俺の手を甘咬みしていた。その背中を撫でて、手を離すと俺も皆の輪へと加わった。


 俺がふにゃふにゃに酔って、部屋に帰ったのは夜中だったと思う。全然、記憶にないので解らないんだけど・・どうも社長が俺をタクシーで連れて帰ってくれたらしく・・更に部屋まで運んでくれたらしい。何故、それが解ったか・・酔った俺は、相場さんの部屋に連れて行ってもらったようなのだ・・。酔った俺を社長から引き取って、布団に寝かしつけてくれたと・・朝と言うか昼に本人から聞いた。

「ごめんなさい・・。」

起きた俺に冷えたポカリを投げ渡し、いいよと笑う相場さん。俺が寝ている間に早朝練習も済ませてきたみたいだ。

「びっくりしたけどな。本とまぁ見事な酔っ払い?抱きつくわ、歌うわ、触るわ。よくまぁ、お前んとこの社長、三階まで背負って来たなぁ。」

「抱きついて・・触った・・。」

「キスまでされたぞ?」

相場さんはにやにやと俺を見る。

俺は目を見開く。

顔が赤くなってると思う。

「あの・・ごめんなさい・・。」

布団に顔を隠し謝る俺に、いつも通りの笑顔が向けられてるなんて思わなかった。

顔を隠したままの俺の頭におっきな手が普通に乗っかった。俺は布団から目元だけを出して、相場さんを覗き見る。

「気持ちの整理、ついたのか?」

穏やかで優しい顔が俺を見つめてた。

「・・相場さんのお蔭だと思う。」

「良かったな。」

おっきな手はポンポンって俺の頭を二度叩いて離れていった。

それは何だか幸せな温かさが残った。


サブタイトル付けが苦手です。

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