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月を見上げたら  作者: とんぶり
1/7

なんだかなぁ・・

BL作品です。

「はっ・・」

雪空の下、白い息をため息と共に吐き出して舞い降りる雪を見上げた。

心が痛い・・。

なんでこんな事になったんだろう・・。

ただ一緒に居たかっただけなのに・・。

それでも朝の澄んだ空気は俺の肺の中をいっぱいに満たしてくれる。

どこに行く当てもなく、河川敷のグランドを見下ろす堤防に座り込んで、朝から元気に走り回ってる社会人野球のチームの練習風景を見つめていた。

朝っぱらだってのに、大きな声をだして彼らは楽しそうだ。

俺は・・何やってるんだろう。

夜中に帰ってきた、付き合ってた奴と喧嘩をした。

俺は一応、プログラマーをしてて普通に収入もある。でも奴は夢を追って、転職を繰り返していた。それは構わないと思うんだ。誰だって、夢はあるんだ。俺もそいつが成功できるならいいと思ってる。でも・・最近は酷いと思うんだ。変な仕事に手を出して、親から大金を借りて失敗。俺も少し貯金を渡した。友達連中からも相当な額を巻き上げていたらしい・・。それでも・・俺は、奴を信じていた。でも・・違っていたみたいだ。

昨日、俺が休日出勤での打ち合わせが早く終わって・・家に戻ったら・・俺の部屋の扉が開いていて、俺の通帳が消えていた。『借りる』そのメモが俺の机に置いてあった。

夜中に帰ったあいつに問い詰めて・・もう少し金を何とかして欲しいって言われた。

俺は断った。

あいつは猫なで声で・・俺を組み敷いて、懇願した。

嫌だと・・もう何とも出来ないと俺は言った。

傷ついたような顔で・・あいつは出て行った。

その場所に・・部屋に居たくなくて・・俺も外へ出た。

多分・・もう無理だ。

あいつの事は好きだ・・。でも最近・・あいつの考える事が分からない。

部屋・・出ようかな・・。

二人で借りた部屋。最近はあいつが帰ってくることも少ない。

別に大した荷物もないから。

グランドに視線を置いたまま、でも野球を見るわけでもなく・・俺はずっと考え込んでいたみたいだ。人が隣に座り込んでるなんて気がつかなかった。

「野球好きなの?」

突然話しかけられて、俺はびくりと肩を震わしたみたいだ。

隣に視線を移すと、眼鏡の学校の先生みたいな風貌の男が座って笑ってた。

「練習、ずっと見てたでしょ?」

ああ・・練習してたチームの人間なのかもしれない。

別に好きなわけでも、嫌いなわけでもない。小学生の頃、近所のチームに居た事もあったけど・・その位だった。

「元気だなーって思ってた。」

その人は俺の言葉に笑う。

「やってみない?」

「え?」

「時間在るから見てるんでしょ?」

「いいよ。小学校以来やったことないし、普段は仕事忙しいから時間もあんまない。」

「そっか、残念だ。最近、転勤とかでメンバーが減ったから補充できるかって期待してた。俺、チームのマネージャー兼コーチ。相場って言うんだ。もし暇ならいつでも見においでよ。」

「ありがと。」

俺は立ち上がる。

その時だった、視界がぐらって歪んだ。朝礼で倒れる女の子みたいだって、どこかで冷静な自分が、その様子を突っ込んでた。

横に居た相場さんが手を伸ばしてくれなかったら俺は地面に倒れていたと思う。

「・・大丈夫かよ?」

真剣な顔で間近に顔を覗き込まれて、俺は顔を背けた。ほんの一瞬、あいつを思い出しだから・・。

「悪い。野郎に抱きとめられたら嫌だよな。

・・しかしお前冗談抜きにして軽いな。あれか、社畜で飯も食えてませんとか?」

手を離しつつ、しみじみと言われてムッとする。

仕方ないだろ。本当に仕事が忙しくて、ここんとこは寝る暇もなかったのに加えて、あいつの一件があったから・・って言いそうになって、俺ははっとする。赤の他人に、言う必要なんてない。

「ありがとう。」

俺は礼をいって今度こそ立ち上がる。

「送っていってやろうか?丁度、練習も終わったし・・片付けたら帰れよー!!」

後半の言葉はグランドにむけて放ったようだ。おー!!って元気な声が跳ね返ってくる。

「・・いい。この後、アパート探しに行くつもりだから。」

部屋には帰りたくない。早くあの部屋を出てしまいたい。

俺の言葉に、相場さんは笑顔を向けた。

「俺、不動産屋。」

俺はそのまま車に乗せられ連れて行かれた。

「まだ時間あるから、俺んち寄って行くけどいいか?着替えとシャワーだけ済ませたいから。」

河川敷から車で10分ほど、駅の近くの小奇麗なアパート。

部屋の中も整頓されている。

「お邪魔・・します。」

俺が小さくいうと相場さんは笑顔をむける。

「礼儀正しいんだな。珈琲でいいか?」

目の前に温かい珈琲とミルク、砂糖が置かれた。

「じゃ、ちょっと待っててな。」

相場さんは廊下に消える。

モノトーンでまとまられた部屋。

見ず知らずの俺を上げて、一人置いてって、何か盗まれたらどうするんだよ。ってちょっと思った。

「暇だったらテレビでも見てろよ。」

浴室側から大声がする。

別に見たい番組が在るわけでもない。3階の部屋はそんなに見晴らしがいいわけでもない。窓の外には、住宅地と駅が見える。

居間兼ダイニングともう一つ部屋があるみたいだ。

そっちは寝室に使ってるみたいでドアが閉まってる。

そっとドアを開けると、やっぱ綺麗に整頓されている。

ベッドも綺麗に整えてあって、スーツが壁にかけられている。

居間のカーテンは開けられていたけど、寝室は若干薄暗くカーテンも閉まってる。

なんとなく・・居心地がいい。


ざっとシャワーを浴びて、ジーンズを身につけ・・居間へ戻ると、客人の姿は消えていた。

「ありゃ・・帰ったかな?」

だが、出て行ったような音はなかった。ふと視線をあげると寝室のドアが少し開いている。

覗き込むと、ベッドにもたれ掛かって寝息を立てる姿があった。

「見ず知らずの人間の家で寝るか?」

まぁ・・見ず知らずの人間を家に入れたのも俺だけど・・。

今時の子って体つき。学生以降、全くスポーツはやっていない感じがする。

色が白いから仕事は室内の仕事かな。

まだ時間はあるから少し寝せてやろう。そう思って、着替えのスーツを居間へ持って行こうと手をかけたとき、小さな声が呼び止めた。

彼を見ると、寝言を言っているようだった。でも、その声が余りに哀しそうで俺は彼の側による。

「大丈夫だから・・安心して眠るといい。」

声に安心したのか、彼は薄く笑みを浮かべた。

身体を離そうとしたときに、彼の首筋に赤い痕を見つけてしまった。白い肌にくっきりと残ったそれは、妙に艶かしい。

まぁ・・大人だからな。

何故、動揺したのか分からない。同僚や友人の首筋にあったら、間違いなく冷やかして終わるだけなのに・・俺はそう自分を納得させ部屋を後にした。



以前に自作ホームページで掲載していた作品を手直しして掲載しています。

見覚えがある方はお久しぶり、初めての方は初めまして。

誤字や脱字などもありますが、脳内で上手い事変換して読んでください。

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