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秋葉原ヲタク白書2 ゴースト(アキ)バスターズ ディレクターズカット

作者: ヘンリィ

主人公は、SF作家を夢見るサラリーマン。

相棒は、老舗メイドバーの美しきメイド長。


このコンビが、秋葉原で起きる事件を次々と解決するという、オヤジの妄想満載な「オヤジのオヤジによるオヤジのためのラノベ」シリーズ第2弾です。


今回は自殺したメイドの死体が埋められているという都市伝説を追って、コンビが地下カフェでのお祓いに挑戦します。


お楽しみ頂ければ幸いです。

第1章 始まりはYouTube


「追われてるんだ」


深夜のファミレスでパワーブロガーはうめく。


「YouTubeは見てくれたか?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


始まりはミユリさんからのおねだりメール。


その時、僕はサユミさん(編集の人)に拉致されマチガイダで缶詰にされている。

何処ぞの大先生が途中でブン投げたゲームコンテ(ンツ)を代打で書き上げ中。


あ、マチガイダっていうのは僕達の秋葉原のアドレス(溜まり場)だ。

カフェもあるサンドウィッチショップで何故だかチリドッグ(だけ笑)が異様に美味い。


そこへミユリさんからメール。


「おねだり アフター」


恐らく御給仕中(ミユリさんはメイドバーのメイド長なんだ)なのだろう。

短いメールで閉店後の店外デートのリクエスト。


慌てて高級腕時計(100均で買ったらなんと¥150笑)を見たら、あと1時間を切っている。


僕は一気に最大戦速でコンテを仕上げ、ロクに読み返しもせズに編集部のサユミさんに送信。

受信も確認せズに真夜中の秋葉原へと飛び出す。


「おかえりなさいませ…あ、テリィさん」


雑居ビルの狭い外階段を駆け上がってミユリさんのメイドバーに飛び込む。

シフトが一緒のユンユさんから声がかかる。


ミユリさんはカウンター越しに接客中。

珍しいコトに僕に気づき少し困ったような顔。


そっと正面の客を指差す。


「あ、おはよう!君がテリィさんだね?僕はゴシップボーイ」


ええっ?!ゴシップボーイ?

さすがに言葉を失った僕に、ものすごく思い詰めた表情で彼は逝う。


「助けてくれ。君だけが頼りだ」


ゴシップボーイは「秋葉原を目指す全ての人類」は彼のブログに必ず目を通すと逝われている伝説のブロガーだ。


実際、彼のブログを読むと、今、秋葉原で何が起きていて、何処の誰がどうなったのかが手に取るようにわかる。


聞いた話では、彼のブログはUPされると1時間以内に最低でも7つの言語に翻訳されて世界中に配信されているらしい。


ところが、不思議なコトにゴシップボーイがどんな奴なのかは誰も知らない。

僕自身、今日までゴシップボーイを見たという奴に会った試しがない。


まるで秋葉原のイリオモテヤマネコ。


それがゴシップボーイなんだ。

しかし、そのゴシップボーイが今、目の前に?


にわかには信じられないな。

ナリスマシじゃないの?


ミユリさんの話では店に突然押しかけてきて「助けてくれ!」の一点張りらしい。

なんでも「電気街口の奇跡の黒幕」とやらにたっての頼みがあるとのコト。


誰のコトだょそれ?笑


とにかく、御屋敷で混み入った話を聞けナイし、私達に見せたいYouTubeもあるみたい。

だから、閉店後に話を聞く(&YouTubeも見る)って約束しちゃったの、だから貴方(僕だょ)も来てね。


どうやら、コレがミユリさんが僕を呼んだ理由のようだ。

うーん、ちょっちガッカリ←


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


で、1時間後に僕とミユリさんは24時間営業のファミレスにいる。


僕とミユリさんの前には、飛び切り深刻な顔をしたゴシップボーイ。

彼のiPadで問題のYouTubeを見てルンだけど、これでは瞬きもままならない。


問題のYouTubeだけど、最初は真っ暗。


やがて、撮影者が恐らくヘッドライトと思われる照明を点灯する。

闇の中から、イスやテーブルが雑然と転がる室内が浮かび上がる。


奥には、カウンターが見えるが壁に窓がないので、恐らく既に営業時間を過ぎた地下のカフェかなんかだろう。


ココでワイドショーのレポーターじみたゴシップボーイ本人の音声がカブる。


「問題のカフェに潜入した。午前参時参分。大気は霊気に満ちている」


よく逝うょ。地下室なのに大気はないだろう。

さらに、彼の喋りは続く。


「時空直列は時間の問題だ。急いで蒸気結界を張らねば。準備を急ぐ」


勝手にチャカチャカと話が進む。

ところで、時空直列って何?美味しいの?


次に、画像は闇の中でのバーナーのセッティング風景にチェンジする。


よくキャンプでコーヒーを淹れる時に使うようなバーナー4基がカフェの床に置かれる。

いずれも新品なので、恐らくドンキ(ホーテ)あたりのまとめ買いだろう。


「コレは今朝、成聖したばかりの聖水だ。コレを沸騰させて蒸気にし、大気中に結界を張るのだ。ルルド神の御加護あれ」


まるで、朝の採れたて野菜みたいな聖水だな。

そもそもルルド神って誰だょ?


とにかく、聖水の容器に萌え絵も鮮やかなコミケ限定ボトルを使うのはヤメてくれ…

って話が全然前へ進まないから、もう突っ込むのはヤメよう。


とにかく!彼は新品のバーナー4基を部屋の四隅に置く。

ケトルを載せて、聖水を沸かし始めた時に「ソレ」は起こる。


「ギュオオッ!」


実は先日、ヒョンなコトで閃光手榴弾の洗礼を浴びたんだけど、あの時の暴力的な光がそのまま悪魔の絶叫に置換されたような音声。


まるでその絶叫に弾かれたように背後のバーナーが1基倒れる。

何か黒い影のようなモノが画面を横切ったような気もする。


しかし、画像は硬直したように凍りついたまま。

どうやら、撮影者は腰を抜かしたようだ。


完全にユーチューバー失格だ笑。


「ギュオオッ!」


絶叫もう1発!


今度は左奥のバーナーが倒れ、ひっくり返ったケトルの朝採れ聖水がバーナーの火を消す。

聖なる水は、畏れ多くも失格ユーチューバーを火難より救い給う。


「わああああああああっ!」


ココに来て、ようやく撮影者の悲鳴が入る。

いかにも「私は腰が抜けてマス!」と逝わんばかりの情けない叫び。


我先(と逝っても彼1人なんだが)に階段をダッシュ!画像が激しく上下する!

何処か病的な荒い息遣いと共に、深夜の秋葉原の裏通りに転がり出る。


ココで、画像は唐突に終わる。


フト我に帰ると、目の前にはミユリさんの美しい横顔。

僕の視線に気づくとミユリさんは微笑み、そのまま僕の頰に軽くキス。


「まぁ怖い」


ミユリさんは、楽しそうだ。


彼女は、アフター(閉店後の店外デート)を心から楽しんでいる様子だ。

もちろん、僕も楽しい。


しかし、今宵はもう1人、お邪魔虫がいる。伝説のパワーブロガー、ゴシップボーイその人だ。


あ、ところで、秋葉原のアフター(閉店後の店外デート)って、せいぜいファミレス止まりです。

なんたって、ココは銀座じゃないからね。


「でしょでしょ!怖過ぎる!」


他方、もう泣き出さんばかりのゴシップボーイ。

クール?な僕達とは裏腹だ。


見たら死ぬ定めの呪いの画像を見てしまった!って感じで泣き叫ばんばかり。

やはり、コイツは万事が大袈裟な性格だ←


「あのカフェは呪われている!」

「…というコンセプトカフェでもやれば儲かるんじゃないの?」

「亡霊メイドカフェか」

「それ、もう何軒もありますけど」

「じゃメイドが亡霊で客がゴーストバスターとか」

「メイドを退治するカフェですか?ちょっち反対です」

「逝うコト聞かないメイドは退治しちゃうぞ!」

「いや→ん」


あぁ!楽しいなぁ!


際限なくイチャつきだす僕とミユリさん。

ゴシップボーイが無粋な咳払いを浴びせる。


「あのぉ追い込みをかけられてルンですけど、ヲレ」

「誰に?」

「だから…たぶん、ヤクザ、みたいな…」

「あ、ヤーさん絡みなら警察だょ!」

「万世警察ならすぐそこです」


ゴシップボーイがボヤく。


「SF作家とメイドのコンビに任せりゃ安心って聞いたから来たのに。もし筋違いなら最初からそう逝ってくれょ!」


僕とミユリさんが異口同音に答える。


「筋違い!」


伝説のカリスマブロガーは、ひとり深夜のファミレスで頭を抱える。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


彼の話は続く。


最近、フォロワーが減り、密かにtwitterの補強策に悩んでいた彼。

「夏こそ怪談」という陳腐なマーケ(ティング)で秋葉原のホラーな都市伝説を検索する。


すると、雑居ビルの地下室に自殺したメイドの死体が埋められているという陳腐な都市伝説ネタがヒット。


出元はオール(徹夜のコト)のイベ(ント)明けで始発待ちをしていた(アイ)ドルヲタ(ク)の2人組。

迷い込んだ営業時間外のレンタルカフェで自殺したメイドの絶叫を耳にしたらしい。


そこで、ゴシップボーイもエクソシスト気取りで意気揚々と乗り込んだら…

自分も自殺メイドの絶叫?に腰を抜かしてしまいました、というのが前回までのあらすじ←


「そもそも、そのYouTubeが怪しいな」

「SFXなのでは?」

「スプラッタ?レトロだ」

「あのですねぇ…」

「で、何がお困りなの?」

「だ・か・ら!」


ゴシップボーイはうめく。


「追い込みをかけられてルンです!」


地下室の亡霊編のYouTube効果は絶大で、一気にフォロワー数は挽回。

万事メデタシメデタシに思えたが、その日を境に何者かが動き出す。


つまり、誰かがゴシップボーイの正体を暴きにかかったようなのだ。

秋葉原の逝く先々で「ゴシップボーイを探してる奴がいる」と聞かされる。


心穏やかではいられない。


しかも、探している連中の風体が問題で、筋肉系ヲタクやストリートギャングの類ではない。

どうやらモノホン(のヤクザ)のようなのだ。


自分は、その筋から「追い込み」をかけられているのか?!


幸い、自分のコトをゴシップボーイと知る者は限られている(というか誰もいない笑)。

しかし、輪は確実に狭められている。


不安だ。

なんとかしてくれ。


「それで私のバーにいらっしゃったの?」

「だって君達コンビはアキバで最強と聞いたから」

「誰だょそんなコト逝ってんのは?」

「アキバのメイド長クラスがみんな口を揃えて逝ってるょ」


やれやれ。


第2章 ブロガー指名手配

場所は神田明神下の交差点にあるファミレス。

僕がミユリさんとのアフター(閉店後の店外デート)によく使う店だ。


秋葉原は、青果市場があった頃の名残か、昔から夜が早い。

中央通りも日没と同時にシャッター通りだ。


だから、散在する24時間営業のファミレスは、アフターする場として、とても貴重。

なんたって値段も手頃だしね←


一方、店内には、店がハネてから始発待ちで時間を潰すメイドや地下アイドルも多い。

そうした彼女達の中には、仕事中には絶対見せない素顔を垣間見せたりする子もいる。


実際、彼女達にとってもココは同業他店の子と文字通り素顔で顔を合わせるコトが出来る貴重な情報交換の場だ。


というワケで、界隈のファミレスの深夜帯は、アキバで働く女子の社交場と化している。


フト(高級←)腕時計に目をやると今宵も始発までには未だ少し時間がある。

僕は、ミユリさんに尋ねる。


「最近、秋葉原にマンションとか借りた子、いないかな」

「え?シャルロッテのエリスちゃんなら、あそこのテーブルでお茶してるけど」

「ええっ?エロスちゃん?!」

「エ・リ・ス」


同時に繰り出されたミユリさんの肘鉄を僕は辛くもかわす!

おおっ!僕も運動神経が発達してきてる?


「彼女が使った不動産屋さんとか、わかんないかな?」

「え?なんで不動産屋さん?」

「まぁ、いいから」


早速、ミユリさんは胸の前で手をヒラヒラと振りながらエロス…失礼、エリスさんのテーブルに歩み寄る。

僕は、ゴシップボーイに逝う。


「コレはレントが鍵じゃないかな」

「え?ミュージカルのレント?」

「お?舞台に詳しいね」

「彼女が好きなんだ」


そりゃ金食い虫だな。

瞬間、ゴシップボーイに憐れみの視線を投げる。


「いや。家賃(レント)だと思うんだょ」

家賃(レント)?」

「亡霊騒ぎで家賃(レント)が下がって困るのは誰かな?」

「大家?」

「その大家が家賃(レント)を下げる原因を作った君を、ヤクザを使って探してルンじゃないかな?」

「そ、そうだったのか!でも、なんでヤクザを使うのかな?」

「昔から不動産絡みの追い込みと逝えばヤクザでしょ」

「う、うーん。なるほど」


ゴシップボーイは、腕組みして唸る。

僕は、少し得意顔だ。


「朝になったら目ぼしい不動産屋に当たりをつけてみよう」

「あら?その必要はなさそうよ」


頭上からミユリさんの声。


見上げると、カラフルなカードをヒラヒラさせている。

エリスさんから不動産屋の名刺を借りたようだ。


「こちらなら24時間営業みたいだし」

「24時間営業?不動産屋だょ?」

「最近の流行(はや)りみたい」

「ええっ?でも、店は何処にあるのかな?」

「ウェブ」

「上野?」

「違うでしょ。LINEで営業している不動産屋さんなんですって。チャットでマンションが買えるのよ。女性スタッフも多いみたい」


ええっ!今は不動産もチャットで買うの?


「でも、もう真夜中だぜ」

「ソコがLINEのいいトコロじゃない。24時間、スタッフがスタンバイしているらしいの」

「…じゃあ、やってみてよ」

「ええっ?私が?」

「やっぱりそういうのって、女子の方がいいと思うんだ」

「僕からもお願いします!ミユリさんのメイドバー、今度、僕のブログで紹介しちゃおうかなぁ」


おおっ!ゴシップボーイもなかなか上手いコトを逝うよなぁ。

効果はテキメンで、あのミユリさんが苦笑いしながらLINEを開く。


ナント、返信は直ぐに来る。

ホント、24時間営業のようだ。


「ハロー!LINE不動産ライナーにようこそ!貴女の担当のミキティよ」

「メイドカフェをやりたいの」


しかし、確かにウソも方便とは逝うが。

僕の周りは、誰も彼もスラスラとデタラメが口をついて出る嘘つきぞろいだ。


「ヤッホー!お薦め物件、もうテンコ盛りなんですけど!界隈的には何方でお考えかしら?」

「実は、もう物件は決まっているの」


ミユリさんは、ゴシップボーイから聞いた地下カフェの住所を打ち込む。

光速で回答が来る。


「アンビリバボー!そのビル、ウチの取り扱いなの!しかも、メッチャお薦め物件!ねぇねぇ!そこの3F、今なら居抜きで…」

「地下室なんだけど」


すると、今の今まで仲良しJKトークのように弾んでたLINEのやりとりがプッツリ。

10秒、20秒…1分、2分と時間は経つが返信は来ない。


ココは、実はメイドの自殺死体が埋まってる事故物件だなんてコト、お首にも出さずに、ムリヤリ売り込みをかけてくるシーンなんだけど。


この沈黙は全くの想定外だ。

さらに、ミユリさんが「絶対に地下室!」と畳み掛けようとするのを僕は止める。


何かが変だ。

ココは様子を見たい。


そして、やっと数分後に来た返信に僕はもっと困惑する。


「ソーリー!地下室はお売り出来ないの。でもね!他の超優良物件、ドンドン御紹介しちゃうぞ☆」


うーん、メッチャ怪しいんだが打つ手がない…

とか思ってたら、なーんとミユリさんが勝手に返信してる笑。


「じゃあ他を当たるわ。バイバイ」

「ヘイ!だって他にも神物件が…」

「他じゃイヤなの」

「フリーズ!安いし素敵なのょ…」

「( ^_^)/~~~」

「オーノー!とにかく待って!」


ココで緊張の数秒が過ぎる。

そして、ついに「担当のミキティ」が折れる。


「話があるの。お店に来ない?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


結局「担当のミキティ」と会うのは翌日、というか翌朝になる。

アキバ人が「いってん(1店)」と呼ぶアトレ秋葉原1店にある、スターバックスコーヒーで会う約束をして昨夜のLINEは終了する。


「なんだ。お店ってスタバのコトか」


ゴシップボーイがボヤく。

両脇に全く同感の僕とミユリさん。


ところで、1店のスタバって1店自体の開店が11時なので、それまでは入れないと思ってる人が多い。

でも、実は朝の7時から開いているんだ。


アトレの開店前にこのスタバに逝く方法は2通りある。

1つはJRに乗ってアトレ改札口で降車すれば直ぐ目の前。

もう1つは、1店1階に1ヶ所だけ開いているドアを見つけて3Fまで上がればOKだ。


当然僕達は後者。

睡眠不足の眼をこすり3Fでコーヒーを買い、4Fのイートイン(ドリンクイン?)に上がる。


すると、そこはもう店の目が届かないアキバ最強のフリースペース。

長居し放題でコンセントもフリーという電源砂漠の秋葉原でオアシスのような場所。


そのせいか、日中はいつ逝ってもイマイチ垢抜けないヲタクで満員だ。

でも、今は早朝というコトで客は数人しかいない。


でも…その数人の中に女子はいないょ?


「目印はタブレットのミッション持ち、と」


ミユリさんが僕のタブレットを自分の胸に押し当てるようにして持つ(ミッション系JKのカバンの持ち方←)。


ああっ!幸せ者のタブレットめ!

ミユリさんのバストに押し付けられちゃって!


と、そこへ、奥からお座敷がかかる。


「あんたがミユリさんかい?」


スタバ4Fの奥は、ローテーブルを囲んだソファになっている。

そこに、朝からトンでもないデブがいる。


体躯はもちろん、人相や恐らく人格も横に2倍。

誰もが、お相撲さんか?と思うだろう。


中年真っ盛りの脂ぎった丸顔が横に潰れて見事に楕円形だ。

光るオデコに薄い髪がスダレのように張り付く。


で、その楕円形の顔が、ニコリともせずに横柄に口をきく。


「呼び出して悪かったな。ヲレがミキティだ」


ミユリさんに差し出された名刺を見ると、


「LINE不動産ライナー 代表取締役 遠藤幹夫」


とあって、僕は長ーい溜息をつく。

かなりガッカリな「ミキティ」の正体。


で、遠藤幹夫はソファにドッカリ腰を据えたまま(3人用ソファを1人で使ってる←)僕達には点在する周囲の丸椅子を薦める。


ん?コレは何処かで見たシーンだな?


あ!スターウォーズの悪者ジャバ・ザ・ハットの登場シーンだ!

さしずめ僕は主人公のルーク?ミユリさんは囚われのレイア姫?


早速、僕の脳内でミユリさんはセクシーでアラビアンな女奴隷コス(チューム)を着用…


なんてニヤニヤしてたら、いきなりミユリさんにジロリと睨まれる。

どうやら、僕の考えているコトが彼女には即座にわかるようだ。


もはや2人は以心伝心←


「貴方がミキティ…さん?」


ミユリさんが尋ねる。


「おぅ。いかにも」


当然だ、と逝わんばかりの遠藤幹夫。


「ちょっち驚いたカモ」

「無理もねぇ。しかし、ウソはついてねぇつもりだ」


うーん、確かに。


「で、お話って?」

「一言だけだ。あの地下室は諦めな」

「え?なんでですか?」


ゴシップボーイが割り込む。


「アンタは?」

「え、あ、いや、僕は…」

「もしかして、ゴシップさんとか逝うブロガーさんかい?」

「いいえ!絶対そんなコトはないカモしれないカモしれないカモの3乗の平方根」


ミキティは、瞬間「えっ?」という顔をして暫く頭の中で必死に計算している様子だったが、おもむろに逝う。


「つまりゴシップさんだ」

「ノーコメント」


ミキティは、大きく溜め息をつくと腕組みして唸るようにして逝う。


「まぁどっちでもいいや。とにかく秋葉原で不動産を商ってる者として忠告しておく。あの物件には関わるな」


すかさず、ゴシップボーイが突っ込む。


「自殺したメイドの亡霊が出るからか?」


ミキティは、腕組みしたまま答えない。


「自殺したメイドの亡霊が出るからでしょうか?」


ミユリさんが尋ねると、なんとミキティはアッサリと即答する。


「それだけじゃねぇんだ」

「何か他にも理由が?」

「埋まってルンだ」

「何が?」

「だから…亡霊の素」

「ソレは味の素みたいなモノか?」


またまたゴシップボーイが突っ込むが、またも無視(僕も彼は無視されて当然だと思う←)されて、再びミユリさんのターン。


「亡霊の素って、もしかして自殺したメイドの死体…とか?」


ミキティは、答えない。

ただ、黙ったままミユリさんを見詰めている。


「嬢ちゃん、メイドカフェは他でやんな。もっともアンタ、ホントは店を開くつもりはねぇんだろ?」


今度はミユリさんが無言で微笑む。

ミキティが逝う。


「とにかく用件はソレだけだ。もう帰んな。わざわざ会いに来てくれてサンキューな」


唐突に会談は終わる。

スターウォーズなら、この後でカークーンの大穴に潜むサルラックの上で手に汗握るアクションシーンへとなるトコロだが…


どうやら、今回はカットのようだ。


「嬢ちゃん、気をつけてな」


ミキティは、さらにミユリさんに何か言いたげだったが、結局ソレ以上は何も喋らない。

そして、次の瞬間には、まるで僕達など最初からいなかったかのようにLINEを始める。


大方、また新しい客相手に女子なりすましチャットでも始めたのだろう。

狐につままれたような気分で僕達は電気街口を後にしたら…


やはりサルラックが大穴を開けて待っている。


第3章 巫女とメイドはアキバの華


「アンタがゴシップボーイか?」


黒背広の2人組がいる。


2人共ノーネクタイで…ハゲ頭。

中に着てるシャツが、1人は黒、もう1人は白というオセロコンビの登場だ。


しかし…おいおい!北千住の駅前からワープしてきのかょ?

カラフルなユニクロン(ユニクロ系カジュアル着用者)ばかりの秋葉原駅前で違和感MAXだ。


まるで、ヲタク目当てのヤクザのリクルーターという感じ。

しかし、待ち伏せとなると、ココは何とか上手く切り抜ける必要がある。


声をかけてきた黒オセロの方を向いて、僕は咄嗟の機転を利かせる。


「いかにも!僕がゴシップボーイだ」


ゴシップボーイがビックリした顔で僕を見る。

ミユリさんは、両手で顔を覆っている。


あれ?何かハズしたみたいだ←


「いいや、アンタじゃねぇ。後ろの兄ちゃんの方だ」


黒オセロが、アッサリ逝う。


「アンタ、ゴシップボーイだょな?」


ゴシップボーイは、何も答えない。

しかし、直後から両脚がガクガク震え出してバレバレだ。


「話がある。顔を貸せ」

「な、な、何か、お人違いでは?」

「いいや、アンタだ」

「ぼ、ぼ、僕は、ゴシップボーイなんかじゃないよって気もするかもしれないかもしれないの3乗、割る7」

「7か?!」


その瞬間、オセロコンビの顔が苦悶に歪む。

2人の脳内で、スゴい勢いで計算が始まる。


しかし、この2人は焦れば焦るほど答えを出せないタイプのようだ。

その隙をついて、僕はミユリさんの耳元で呟く。


「ワナだ!ミキティは、ゴシップボーイをおびき出すために僕達を呼んだんだ!」

「ミキティさんが私達を売ったの?」

「まんまとハメられた!ココは僕がオセロコンビを食い止める。ミユリさんはゴシップボーイを連れて逃げてくれ!」

「でも…」

「デモもストライキもない!」

「そんな…」

「僕に構うな!みんなの盾になる!」

「そうじゃなくって…久しぶりのナンパなのに」

「ええっ?!コレってナンパなの?」

「だって、そうでしょ?」


確かに、よく見るとオセロコンビはゴシップボーイにプレッシャーをかけてる一方で、ミユリさんには、ヤタラとモジモジしているようにも見える。


うーん、何か違ってるような気もするのだが。

しかし、こうなったら完全にナンパの場数を踏んでるミユリさんのペースだ。


「のどが渇いたの。お茶にでも誘っていただけません?」


出たょ。

よくもまぁ、そんなナンパ師が泣いて喜びそうなワードを知ってるな!


もちろん、オセロコンビは夜道で聖母に出逢った信者のように狂喜乱舞する。

挙句、子供のように純朴な笑みを浮かべボソッと逝うではないか。


「ま、ま、先ずは、カラオケとか、どうッスか?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


電気街口から中央通りに出る角のテナントビル。

この細長いビルが丸々1棟カラオケになって、もうかなり経つ。


そのカラオケビルにオセロコンビが飛び込むと、受付にいたホテルのボーイみたいなコスプレ(制服なのか?)のレセプションが、弾かれたよう立ち上がる。


大慌てでカウンターから飛び出し、右端のエレベーターを手動に切り替える。

そのまま、最上階(と逝っても10Fだけど)まで一気に上がりドアが開いたら…


いきなり大音量の歌声が鼓膜を襲撃!


そこは、ワンフロアを丸々使ったVIPルーム。

そこに第3の男が(歌って)いる。


やや?プラスティック・ブルーか?

いきなりノイズとはマニアックだな!


しかも、ハデにビートに乗り遅れてる。

しかし、歌い手は全く意に介さないようだ。


でも、アレでよく歌えるな。


「若頭!お客人をお連れしましたっ!」.


オセロコンビが、直立不動で絶叫する。


「おう、御苦労」


文字にすると、ヤタラ重々しい。

しかし、ソレとは裏腹に今度は拍子抜けするほど普通の人だ。


ブレザーにボタンダウンシャツとチノパン。

アイビーっぽいのにナゼか紳士服量販店のチラシから抜け出たような安っぽさ。


みゆき族かょ?


顔は、一応整っている。

しかし、コレがまたナゼだかいかにも三流モデルって感じ。


今、流れてるカラオケ画像に出演してそう。


「今度の客人は素人さんだ。いきなり組の事務所に呼びつけたって、そうそう来るってモンじゃねぇ!」

「なるほど!さすが若頭」

「ナンパの極意は、先ずカラオケにでもお誘いし、何曲か歌ってからってモンよ。よーく覚えとけ!」

「ごっつあんデス!」


おおっ!やっぱりアレはナンパだったのか。しかし、一体何が「ごっつあん」なのだろう。


「まぁ、おかけになって」


三流モデルが、安っぽいが爽やかな笑顔をふりまく。

ところが、彼が勧めるイスは2脚しかない。


どうやら、ゴシップボーイと女性であるミユリさん用の2脚らしい。

僕は、素早く僕用のイスを探す。


やはり僕のイスは…ない。

仕方なくミユリさんが座ったイスの後ろに立つ。


どっちが御主人様なんだよっ!


ところで、何事も始めが肝心だ。

僕は、名刺代わりに1発かます。


「実はさっき、関東信越厚生局の麻取(まとり)と会ってきたんだが…」

「アンタがゴシップボーイか。思ったより歳なんだな」


ガン無視かよっ!


「え?いいえ、多分人違いの…」

「逆さまの逆さま、なんちゃって」


恐らく、ミキティから聞いているのだろう。

ゴシップボーイの扱いにも長けている。


「あのビルのコトを色々面白おかしく歌ってくれてるそうだな」

「あ、いえ、そんな!ぼ、僕は、そもそもゴシップボーイでは…」

「あんちゃんが、ゴシップボーイだ」


穏やかだが、全く反論を許さない語感。

コチラに向けた顔も三流モデルみたいだが、目は全く笑っていない。


容赦なく、話は核心に迫る。


「あんちゃんが歌うモンだから地下室に借り手がつかねぇ」

「あ、あ、あわわ…」

「地下室だけじゃねぇ。ビル1本が丸々遊んじまってるんだ」

「そ、そ、そんな…」

「オマケに何かヘンなモンが埋まってるなんて噂まで立ちやがる」

「え?え?ナニか埋まってルンですか?」

「他ならねぇ、このヲレが誰かを埋めた、なんて言われちまってるのさ」

「あ、は、あはは…」


マ、マズい!ゴシップボーイが壊れ出す。

ヘラヘラ笑う目が焦点を失い、おかしなコトを口走り始める。


「僕、ブログもう病めよっと。YouTubeも死ぬまで見ない…もんね、絶対!」

「兄貴は、ソンなコト逝ってんじゃねぇ!」


突如、若頭の背後に立つ黒オセロが怒鳴る。


しかし、次の瞬間、三流モデルの裏拳が黒オセロの顔面にミシリとメリ込む。

黒オセロが、顔面を両手で覆いうずくまる。


指の間から鮮血がタラリと一筋。


「ナンパの邪魔すんじゃねぇ!」


あわわ。


もうコレ、ナンパじゃないでしょ。

ってか、コレって先ず手下を痛めつけてビビらせるというヤクザの常套手段では?


しかし、ゴシップボーイは見事に彼等の術中にハマってしまう。

恐怖にかられて、ついつい彼等の期待どおりの言葉を口走る。


「い、いくらお支払いしたら…」


ところが、やっと逝わせたハズのゴシップボーイの一言に、追い込みをかけてる側が激しく動揺してしまう。

ジェリコの壁が一瞬で崩れたような慌てぶりだ。


「ええっ?ま、待て!コ、コッチはそんなコト言ってんじゃねぇんだ」

「しかし、ココはゼヒ金額をおっしゃっていただいて…」

「いや、だからそんなんじゃねぇんだけどょ」

「またまた!そんなコト仰らズ」

「うーん、弱ったな。ホントに違うんだがなー」

「ひとつ、ココはお勉強させて頂きます」

「おーい!何とかしてくれ!」


ナント音を上げた三流モデルが、助けを求めるように僕を見る。

おおっ!出番だ!


この瞬間のために、僕は海外ドラマを見てイメトレしてきたのだ!

僕は、タフなネゴシエーターを気取って万国共通の決めゼリフを口にする。


「先ず、幽霊の声を聞かせてくれ」


はたして、三流モデルは頭を抱えてしまい…あれ?また何かハズしたかな?

しかも、マズいコトに今度は、場に重い沈黙まで召喚してしまう。


天を仰ぐ三流モデル。

顔面を両手で覆いうずくまる黒オセロ。

言葉もない僕達。


実に気まずい。

万事休す。


ところが、この最悪シチュエーションをミユリさんが見事に打開する。


「では、お祓いを致しましょう」


ええっ?お祓い?な、なんで?

ところが…


「おおっ!その手があったか!」


なんと三流モデルが膝を打って立ち上がる。

しかも、その顔は晴れ晴れと輝いているではないか。


「そいつぁいい考えだ!嬢ちゃん、名前は?」

「秋葉原のメイドでミユリと申します」

「ミユリちゃん?メイド?も、もしかして、アンタは…」


そこで、三流モデルは小声でナントカ左衛門的なエラい大層な名前を口にする。

少し離れたトコロにいる僕達には、その名前が聞き取れない。


しかし、その名を耳にしたミユリさんは世にも恐ろしい目つきになり、一言も発さぬまま、三流モデルを冷たく一瞥する。


今度は、三流モデルの方がソワソワする番だ。

ナント彼の方から視線をズラし大きく深呼吸すると、その場を取り繕うように逝う。


「えっ、あっ、ん、まっ、いいや…しかし、とにかくそのお祓いっての、気に入ったぜ。おい!ゴシップ兄ちゃん!」

「は、は、は、はい!」

「アンタもお祓いに同行してくれ」

「え、え、え、なんで?」

「嫌か?」

「よ、よ、よ、喜んで!」


お前は、居酒屋か?


「そして、嬢ちゃんのお祓いの様子を日記で紹介してくれ」

「日記じゃなくてブログです」

「その三郎で紹介してくれ。嬢ちゃん、お祓いの経験は?」

「処女の頃に神田明神で巫女のバイトを少々」

「何だ、中公の頃か?」

「いいえ。小学生」←

「気に入った!じゃ頼むわ」


またしても唐突に会見は終わる。

ただし、今回は外に出てもサルラックの待ち伏せはない。


第3章 アキバのスタンドバイミー


決行は翌日の夜。


え?何の決行かって?

だから、お祓いだょお祓い!ミユリさんの言い出したお祓い。


「ここから先は頼むわ」


深夜の雑居ビルの前にミキティとオセロコンビ。

声をかけてきたのはミキティの方で、彼は当該不動産に係る管理業務の一環として地下室の鍵を持参。


オセロコンビの方は恐らく僕達のお目付役とでも逝ったトコロ。

見回す限りでは、どうやら今回は三流モデルはいないようだ。


「おはようごさいま→す」


地下アイドルの楽屋入りかょ?

満面に笑みを浮かべ、元気よく挨拶するのはミユリさんだ。


ミユリさんは、お約束の巫女さんのコスプレ。

アキバらしくミニスカ仕様で、抜群の脚線美を遺憾なく見せつける。


確か去年、御屋敷の巫女さんデーで着たコス(チューム)だと思う。

しかし、まさかバーカウンターの下が、あんなミニスカだったとは!


「御主人様方も御準備はよろしいですか?」

「おぅ!メイドの死体探しに出発だ!」

「えっ?幽霊退治のお祓いですょ?」

「そうだっけ?」


僕とゴシップボーイもミユリさんに合わせて何かコスプレしようという話になる。

色々とアイデアは出たが、結局ゴーストバスターズの合わせ(みんなで同じテーマのコスプレをするコト)に決まる。


僕は当初、自殺したメイドの死体探しだからスタンドバイミー風のアメリカの田舎町の少年コスプレを提案。


しかし、それじゃいつものユニクロン(ユニクロ衣料着用者←)と何処が違うの?と突っ込まれ、あえなく轟沈←


一方、ゴシップボーイの方はハナからエクソシストかゴーストバスターズのどちらかと決めていたらしい。


最後に重々しく「やはり宗教よりも科学だな」と1人で勝手につぶやき、ゴーストバスターズに決めてしまう。


以来、僕は、彼は間違いなくイルミナティ(科学主義の秘密結社)のメンバーだと確信するようになる。


「あら?ミキティさんは一緒に地下室に来ないの?」

「おおっ。現場の鍵は、嬢ちゃんにお預けするわ」

「な→んだ。私、せっかくコスプレしてきたのに」

「いやぁちょっちな。やっぱ嬢ちゃんみたいなメイドの死体が埋まってると聞くと」

「だ→から、お祓いするんじゃない。不動産価値を高めるのよ?」

「やれやれ。嬢ちゃんには叶わねぇな。おっと、御新規さんだ、ゴメンょ」


空々しくLINEを始めるミキティは、意外に臆病なのかもしれない。

もっとも、単につきあいきれないと思ってるだけかもしれないが。


「では、お祓いにお出かけしましょう!」


まるで、ナイトハイクにでも出掛けるような口調のミユリさんが颯爽と地下室へ消える。

続いて僕、ゴシップボーイ、そしてオセロコンビが黒白の順で続く。


「再び問題のカフェに潜入する。おおっ!大気は霊気に満ち…」


ややっ?背後でゴシップボーイの実況が始まる。

実に耳障りでウルサイ。


だから、その大気ってのはヘンでしょ。

地下室なんだから。


「私は戻ってきた。この時空を超えた超常現象の謎を暴くために!」


私「達」だろ?


「では始めましょう!ゴースト(アキ)バスターズのみなさん、お願いいたします!」


ミユリさんが地下カフェの真ん中でそう告げて、目を閉じ両手を合わせて膝まづく。

巫女コスプレのミニスカがふわっと舞い上がり、太腿の美しい曲線がチラ見え☆


ウッカリ見惚れていたらミユリさんが薄眼を開けて睨む。

おおっ!僕の考えてるコトがわかるのか!


ホント、僕等は以心伝心だ←


とにかく!


彼女の合図で幽霊退治のゴーストバスターズをマネてタンクを背負った僕とゴシップボーイが進み出る。


あ、因みに主役のスタンツ博士は僕だから!


「GO!」


僕とゴシップボーイは、お互いに目配せし合い、噴霧器で霧を、ってコレ実はファブリーズなんだけど、派手に撒く。


いや、ホントにコレ、ファブリーズなんだょ。

ネットで調べたら、霊にはファブリーズが効くって出てたんだ。

因みに背中のタンクは単なる飾りなので、噴霧器とは全く繋がっていない。


「おおっ!みるみる大気が浄化されて逝く!魔界の結界は今…」


ゴシップボーイの実況がダラダラ続く。

自分でファブリーズを撒きながら、ひとりで空騒ぎをしている。


まるでタコが自分の足を食べているようだ。


ところが、フト、見回すと地下カフェの片隅では、オセロコンビが驚愕と恐怖に目を見開き震えている。


ヤクザとはいえ(一)般ピー(プル)ってこんなモノなのかな?

まぁウケてるみたいだから、いいか。


もう、どうでもいいや←


「リンピョウカイシャカイチンレツザイゼン、リンピョウカイシャカイチンレツザイゼン、リンピョウカイシャカイチンレツザイゼン…」


いつの間にか、ひざまづいたミユリさんが不思議な呪文を唱えている。

膝を折って祈りを捧げる乙女。


美しい。


コレで、来年の萌え巫女コンテストはいただきだな。

あぁ、あとは彼女が処女なら完璧なんだが。


「テリィ様!」


カッと目を開いたミユリさんが僕を睨む。わ!またも僕と心が通じたのか?


もはや2人は以心伝心…


と思ったらゴシップボーイが床の洗面器を顎で指す。


ソレは僕達が秋葉原で夜遊びをする前によく訪れる外神田の燕湯から借りてきた底にケロヨンのロゴが入ってる黄色い洗面器。


因みに、中は普通の水道水だ。


「早く来て!」


ミユリさんの誘う声に僕のカラダの敏感なアチコチが反応してしまう←

でも、とりあえず今回は打ち合わせどおり、ミユリさんの頭上で洗面器の水を空ける!


「ザパッ!」


ミユリさん、ズブ濡れ。

黒く長い髪先から水が滴り、濡れた巫女服がカラダに張り付く。


コレがアキバ式の滝打ちの業?


「リンピョウカイシャカイチンレツザイゼン、リンピョウカイシャカイチンレツザイゼン、リンピョウカイシャカイチンレツザイゼン…」


呪文を唱えながらミユリさんが立ち上がる。

濡れたミニスカ巫女服の生地が透けて、下着が浮き上がる。


わぁ!真っ赤だ!


アレは去年のクリスマスプレゼントで僕があげた奴じゃないか!

ミユリさんはスゴく喜んで「私の勝負下着にします!」とか逝ってくれた奴だ。


その後、サッパリお目にかかる機会がなくて、一体ドコで勝負してルンだ?とか思ってたトコロだ。


しかし、なんで今夜つけてるのかな?

でも素敵←


なーんて、推し(てる)メイドの濡れた下着姿に見惚れていたら…


「ギュオオッ!」


都内の暴走族全てが地下カフェに結集し、一斉にエンジンをふかしたような地獄の咆哮!ミユリさん以外の全員がなぎ倒されるかのようにうずくまる!


あの絶叫だ!


ゴシップボーイのYouTubeに入ってた自殺した亡霊メイドの絶叫!


「ギュオオッ!」


さらにもう1度、大地を裂いて轟く亡霊メイドの咆哮!

そして断末魔…ん?もう自殺してるから、いまさら断末魔というのはおかしいかな?


とにかく!


あんなにも耳障りだったゴシップボーイの実況もピタリと止んでいる。

YouTubeで聞いた時はバカバカしいと一笑に付した僕だったが。


しかし、いざ現場で、自分自身の耳で聞くと余りの戦慄に声も出ない。

声が出ないどころか、呼吸すら止まってしまう。


ところが、その時…


「秋葉原の裏通り

パーツ通りに朝が来て

お気に入りのカチューシャつけて

私は御主人様に逢いに逝く」


小さな歌声。


ん?ミユリさんが歌っている?なんで歌うの?しかもこの歌は何処かで聞き覚えのある歌なんだが…


あぁ、そうだ!


メイドカフェ最大手の@ポエムカフェのメイド達が地下デビューした当時のアルバムに収録されてる楽曲だ。


恐らく、アキバが萌え始めたミレニアムな頃(2000年頃)に流行った、古いメイドソングに違いない。


しかし、ミユリさんは今、何故こんな歌を歌うのだろう?


「総武線の高架下

ラジ館通りの昼下がり

愛込めしましたカモミールティー

貴方のテーブルへ注ぎに逝く」


おや?


いつの間にか歌声がユニゾン(同じ旋律を何人かで歌うコト)になっている。

誰かがミユリさんと一緒に歌っているようだ。


いったい誰だろう?


しかも歌声は壁の向こうから聞こえてくる?

そ、そんな馬鹿な?

まさか、壁に塗り込まれた自殺メイドの死体が歌っているのか?!


「秋葉原に夜が来て

架道橋の下で待ち合わせ

でも駆け寄る貴方と手は繋げない

だって社員さんが見てるから」


おや?

この曲は、確かアルバムでは2番までしか収録されていないハズだ。


ミユリさんが歌う3番は、当時のメイド達が仲間内で歌っていた非公式の歌詞で、知る者はそうは多くはないハズだ。


と、次の瞬間、地下カフェの壁が動き出す!

てっきり、格納されてる防火扉と思ってた鉄扉が外開きに開き出したのだ!


そして、中からは自殺したメイドの白骨死体がドサリ!

と、転がり出て来なくてホッとしたけど、ナントそこには…


タイル敷きの床、天井には小さいシャンデリアが揺れるバロック&ゴシック風の小部屋?

え?地下カフェの壁の向こうにビクトリア調の隠し部屋だと?


「あわわっ!」


先のYouTube撮影の時と同様に腰を抜かしてアタフタしているゴシップボーイ。

彼がブルブル震えながら指差す先には小さな人影。


ん?頭にカチューシャ?メイドか?

でも、死体ではない。


逆光なので顔が見えない。

しかし、その人影は小さな声で歌っている。


「貴方は、どなた?」


ミユリさんが、やさしく尋ねる。

しかし、小さな人影は答えない。


「…一緒に、歌う?」


ミユリさんが、やさしく誘う。

すると、小さな人影の歌声がピタリと止む。


永遠のように思える数秒が過ぎる。

全員が固唾を呑む中、突如、小さな人影がコチラに向けて駆け出す!


男達は全員(遺憾ながら僕も←)、悲鳴を上げて逃げ惑う!

黒オセロがスマホを抜いて何事かを叫ぶ。


しかし、ミユリさん1人だけが落ち着き払っている。

駆け出した小さな人影を迎え入れるように両手を広げる。


小さな人影が、ミユリさんの胸に飛び込む!

真っ赤なブラが透けて見えるミユリさんの胸の谷間に、スポッと顔が埋まる!


まるで最初からそこにハマるコトになっていたパーツのようだ。

あぁ、ソコは僕の指定席なんだが←


「姉様、お名前を?」.

「御主人様方は、ミユリってお呼びよ」

「@ポエムの御卒業?」

「いいえ」

「では、なぜあの歌を?」

「昔、お友達が歌っていた歌だから」


そこで、ミユリさんが防水パックに入った自分のスマホを取り出す。

誰かに電話するが、相手は予め待っていたのか直ぐに出る。


ミユリさんが話す。


「あ、ヒロミ?ミユリです。お久しぶり」


ええっ?!ヒロミ?!


ソレは秋葉原で最も有名なメイドの名前。

往年のメイドカフェブームの立役者にして、今はアキバの看板娘。


現在はカフェ経営を切り盛りする社長メイド。

つまり秋葉原で働く全ての女性の頂点に立つ存在。


最近では政府からアキバ文化を世界に発信するカワイイ大使にも任命されたと聞く。


「メール、読んでくれた?やっぱり貴女のお屋敷のメイドさんみたい。うん。そうなの。今どこ?悪いけど来れる?」


しかし、ミユリさんもミユリさんだ。

ホントにヒロミと話してるのか?


しかも、どうやらメル友みたいだ。

さすがは、僕の自慢の推し(てるメイド)だな!


なーんて感心してたら、地下カフェの出入り口がヤケに騒がしい。

大きなモノが転がり落ちるハデな音!


「ドタン!バタン!ズッシーン!」


その音と共に出入り口から転がり出たのは…

ヒロミさんにしては、早過ぎる(何処から来るのか知らないが笑)。


ま、まさか?ミキティ?


ジャバ・ザ・ハット並みの巨体で階段落ちしたせいか、半ば意識を失っている。

しかし、そんなミキティの巨体を踏みつけ、腰は曲がってるがヤタラ達者な老人が登場する。


か細い声で歓声をあげる。


「つぼみ!つぼみ!」


ところが、小さな人影がミユリさんの胸の谷間からキッとした視線ビームを発射!

たちまち、老人は射すくめられて黙ってしまう。


よく見ると、紫のチャンチャンコみたいな服を着た小綺麗な爺さんだ。

平成の水戸黄門を思わせる風情だけど、惜しいコトに助さんと格さんがいない…


なーんて思っていたら!


その代わりに風車の弥七みたいなのが登場だ!

おおっ!水戸黄門に続いて現れたのは三流モデルみたいな我らが若頭ではないか!


途端に黒白のオセロコンビが弾かれたように立ち上がる。

直立不動の姿勢で絶叫する!


「ごっつあんです!」


相変わらず、何がごっつあんなのか、よくわからない。

しかし、若頭はそんなコトには構わず、僕に頷いてみせると、なーんとミユリさんに向かって深々と頭を下げる。


「ありがとう。ありがとうょ、嬢ちゃん!借りが出来たな」


相変わらず、僕には何がどうなっているのか、全くわからない。


第4章 行旅死亡人


突然だけど、みんなは官報って知ってるかな?

まぁお役所が出してる広報紙みたいなモノなんだけど。


ただ、ソレに掲載すれば、どんなコトでも広く世に知らせましたってコトになるという、魔法の広報紙なんだ。


まぁ一種の免罪符みたいなものだね。


で、その官報には行旅死亡人(こうりょしぼうにん)というコーナー?がある。

よく身元不明なまま亡くなった人(いわゆる行き倒れ)に関する記事が掲載される。


実は、例のお祓い騒ぎから暫くしたある日、そこに不思議?な記事が掲載される。

その記事は今でもバックナンバーで確認するコトが出来る。


ソレは、身元不明の男の死体が発見されたコトを広く世に知らせる記事だ。

ただし、死体と逝ってもメイドの死体ではないょ!男の死体だからね、念のため。


記事に拠れば、死亡推定場所は例のビルの住所というコトになっている。

しかし、目を引くのは死亡推定日時だ。


なーんと「遺棄から200年は経過していると思われる」とあるのだ。


今から200年前となると…江戸時代ってコトになるんだけど笑。

その死体、かつてはチョンマゲでも結っていたのだろうか?


お役所仕事の常として、公告の末尾に決まり文句で「お心当たりのある方はお知らせください」とある。


でもなー。


江戸時代の死体に「お心当たりのある方」ってのは、そうはイナイと思うんだょ笑。


「結局、あの小さな人影は誰だったワケ?」


話は元に戻るけど、僕はバーカウンターに頬杖してミユリさんに聞く。

今は未だ開店前で、彼女は忙しくグラスを拭きながら教えてくれる。


「だから、元会長のお孫さんだったらしいの」

「元会長?何の会長?PTA会長?」

「まさか。その筋の連合会の会長さんみたい」

「ええっ?!でも、なんでその孫娘があんな地下室にいたワケ?」

「引きこもりって聞きましたけど」

「ええっ?!連合会長の孫娘が引きこもり?!」

「静かにして。テリィ様も埋められちゃいますょ」


これだょ。


どうやら、あの地下室に誰かが埋まっていたコトは確かなようだ。

恐らく、その連合会に絡んで何かがどうかなって死人が出たのだろう。


余り首は突っ込まない方がよさそうだ。


「それで自殺したメイドの死体が埋まってるとか噂を流して誰も寄り付かないようにしていたのか」

「ところが、そこへ誰より可愛い孫娘が引きこもってしまって…」

「そして次にはお祓いを買って出る奇特な連中が…あ!ミユリさんは最初から知ってたの?」

「まさか!とんでもない」


慌ててかぶりを振るミユリさん。


どうやら、お見通しだったというワケでもなさそうだ。

でも途中からは薄々気づいてたんだろうな。


結局、あれから僕達はミユリさんだけを地下に残し地上へ追い出されてしまう。

そこへタクシーを乗りつけ、ひろみん(ヒロミさんのメイドネーム)がやって来る。


彼女は、僕達への挨拶もソコソコにアタフタと地下カフェへと消える…


「そういえば地下カフェの彼女、@ポエムのメイド服だったょね?」

「さすがはテリィ様。彼女は@ポエムの卒業(かつて勤めていたの意)です」

「しかもフリルとか初期の頃のデザインだった気がする」

「あーゆーメイド服がお好きなの?」


にわかにミユリさんの口調がキツくなる。

両目から今にもデス光線がほとばしり出そうだ。


ヤバい!


僕は、間一髪で視線をそらし、ミユリさんは小さくため息をつく。


「ヒロミの店で働いていた頃、過去バレがあったんですって」

「ええっ?実は元風俗嬢だったとか?」

「まさか。キャバ(クラ)って聞いてますけど」

「なんだ。そんなの日常茶飯事でしょ」

「でも箱ライブが流れる騒ぎに…」

「あ。6月クーデターのコト?」


今でこそ、秋葉原のミュージックシーンは地下アイドルが主流だ。

しかし、かつてはメイドカフェのメイド達が歌うポップソング(メイドポップ)が全盛だった時代がある。


当時は、@ポエムも(未だギャルだった笑)ヒロミ達にカフェ店内でメイドポップを歌わせている。

時には、秋葉原に近い外部の(ライブハウス)を借りてライブ(いわゆる「外ライブ」)を企画したりもしている。


本業のカフェ以外でもソコソコの稼ぎが出るようになったのも、ちょうどこの頃だ。


ところが、当時は秋葉原のメイドとは逝え、バイト感覚でやっていた子が大半。

そうした子達の中には、今日からアイドルと逝われ突然アングラっぽいステージに立つコトに違和感を覚える子も多い。


そうした子達の中には、散々悩んだ挙句にライブ当日になってバックレてしまう(姿を消してしまう)子もいたりする。

そんなワケで、当時はライブ当日に会場へ逝ったらライブが流れてた(中止になってた)なんてコトも1度や2度ではナイ。


もちろん、そうなった場合は、ライブを企画したメイドカフェは、経済的に大損害を被るコトになる。

ライブが流れると、単にチケットの払い戻しだけでは済まないからね。


「そりゃ深刻だな。あ、確かひろみん(ヒロミさんの愛称)もパンティーズ…」

「パレッティーズ」

「あ、それそれ。パレッティーズのメンバーだったよね。右から2番目?」

「当時のセンターはアビィさんでした。しかし、さすがはテリィ様。お詳しいのね?」

「家電量販店の店先で冬なのにミニスカートで寒そうに歌ってたな。あの頃は未だひろみんはエラい大根足で…ぎゃ!」


ココで僕はミユリさんの肘鉄をモロに喰って沈黙する。

しかし、話の本筋からは少し離れるが、コレだけは逝っておきたい。


パレッティーズは@ポエムのプロデュースで売り出したメイドグループだ。

それまではメイドがソロで歌っていたのに対し、彼女達はグループ全員で歌うスタイルを提案する。


以後、秋葉原の地下ではグループがユニゾン(全員で同じ旋律を歌うコト)で歌うスタイルが定着する。

そして、あの赤穂浪士並みの人数で歌い踊る国民的人気のアイドルグループの誕生へとつながって逝った…と僕は考えている。


「実は孫娘さんがパレッティーズのメンバー候補だったらしいのです」

「そうだったのか。そう逝えば確かパレッティーズも箱ライブを派手に流したコトがあったょね」

「メイドもたくさん辞めて。当時は@の6月クーデターとか逝われてました」

「そうか。6月暴動で斃れたメイドが地下で生き延びていたというワケだ」

「あの時は@とケンカ別れをして他のお屋敷に流れたメイドもたくさんいました」

「しかしミユリさん、地下カフェにいる子がパレッティーズの元メンバー候補だってよくわかったね」

「ソレはですね…」


ミユリさんは僕に合わせバーカウンターに頬杖しながら、微笑みながら勝負角をキメる。

あ、勝負角というのは、彼女が自分が1番可愛く見せたい時にキメるポーズのコトだょ。


「決め手はゴシップボーイさんの、あのYouTubeなのです」

「ええっ?あの地下カフェ探検の奴?」

「あのテリィ様達の度肝を抜いた絶叫って…」

「あの自殺した亡霊メイドの絶叫?」

「あれってなんだと思います?」

「うーん、江戸時代の死体の魂の叫び?」

「いいえ。アレは実は…」

「実は?」

「ヒロミのデビューアルバムのスクラッチです」

「スクラッチ?」

「レコードを逆回転させるコトです」

「ええっ?!そんなコトがなんでわかるの?」


すると、ミユリさんはフト唇をすぼめ、昔、お皿を回してコトがある(ディスクジョッキーをやってたコトがある)んですぅと逝う。

そう逝えば、ミユリさんはお店のイベントの時とかDJみたいなコトをやっていたような気もする。


しかし!ミユリさんのおちょぼ口、カワイイなぁ!


「ミユリ姉様、そろそろ開店です」


今宵のシフトの子がメイド長であるミユリさんに開店を告げる…

あれ?あれれ?この小さなメイドさんは?!


「テリィ御主人様!開店ですからカウンターのセンターを開けてくださいな」


げげっ?!


あの元ナントカ連合会長の孫娘じゃないか!

確か名前は…


「つぼみです。今宵からミユリ姉様のヘルプをさせていただきます!」

「ええっ?!ダメだょ!だってこのお屋敷はそのスジの関係者は御断り…」

「いよぉ!ゴーストバスターズのあんちゃん!」


ぎゃ!いつの間に来たのか、今宵の1番客は三流モデル顔の若頭だっ!

御丁寧に黒白シャツでしか見分けのつかない2人の子分、オセロコンビも引き連れてる!


「なんか今、スジがどうしたとか…」

「逝ってなひ!一言も逝ってなひ!」

「スジの煮込みがあるなら出してくれ!」

「喜んでッ!煮込み1丁ッ!」


もちろん、ミユリさんはカウンターの中で楽しそうに笑うだけで何も出してくれない。

もっとも煮込みなんてメニューにナイんで出しようもナイんだけど。


「今宵はホトケが成仏した祝いだ!」

「ホトケ?成仏?」

「お嬢の地下室に埋めたホトケがまんまと江戸時代の生まれと認定されたワケよ」

「あ、官報で見ました。アレ、どうやったんですか?」

「おぅ。学者先生に教わってな、コレをホトケに握らせといた」

「え?なんですか、コレ?」


寛永通宝だょ。

こんなモノ、ネットなら¥1000もしない。

ホントにそんなコトで行旅死亡人を大江戸の人に出来るのだろうか?


「しかしょ、そんなコトよりバスターのあんちゃん」

「ハイハイ、なんでしょう?」

「あんた、ホントにヒモやってんだな」

「ヒモ?私が?」

「あんた、ミユリちゃんのヒモなんだろう?」

「虎吉!」


カウンターの中からつぼみん(勝手につぼみさんの愛称←)の一言が飛ぶ。

それはとても小さな声だったんだけど、恐ろしい鋭さを帯びてて我等の若頭は直立不動だ。


つぼみん、すげぇ!


しかし…虎吉?スゴい名前だな。

まさか苗字じゃないょね?


「姉さん、よろしかったら今宵アフターでも…」


幹部が新人メイドに叱られシュンとなってる一方で、熱心にミユリさんをカラオケに誘う2人組もいる。

あぁ、黒白オセロコンビだ。


「今度は兄貴抜きで先日の続きを…」


先日の続き?そうか!というコトはコレはナンパなんだな?

おい!逝っておくが、ミユリさんのその笑顔は営業だぞ!


「よっこらせっと…おお!なかなかいい物件だな!」


続いてノシノシとお屋敷に入って来たのは、でっぷり太った関取、ではなくて聖地アキバの不動産をネットで仕切るミキティだ。


どうやら、勝手に不動産鑑定を始めたようだ。

そして、その後ろから素っ頓狂な声を上げるのは…


「うわぁ!僕のブログで紹介しなくたって、もう満員じゃないか!」


諸悪の根源?ゴシップボーイの登場だ。

早くも愛用のタブレットでtwitterに最初のつぶやきを打ち込んでいる。


やれやれ。


ミユリさんのメイドバーは、今宵も聖地アキバに棲息する有象無象で早くも満杯。

出遅れて御帰宅してくる常連達に、つぼみんの元気な声が飛ぶ。


「おかえりなさいませ、御主人様!」



おしまい

今回は主人公コンビの周囲に引きこもりメイド、伝説のパワーブロガー、アキバを仕切るヤクザ的な人々、流行のネット不動産屋などが登場しました。


このうち、引きこもりメイドとブロガーには今後も頻繁に登場してもらいテリィとミュウを盛り上げてもらおうと思っています。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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