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子供

作者: トースター

 僕は父を何でも出来るヒーローなのだと思っていた。


 運動会の保護者競技では周囲も驚くほどの動き。

 手先もすごく器用で作れないものがない

 頭もよくて皆でクイズ番組を観ていると父には答えられない問題はない。

 僕が望んだことは何でも叶えてくれる。

 周囲から信頼されている。

 何より僕たち家族を愛してくれている。


 それが僕の中の父の姿だ。


 今思えば、父が僕の前で頑張っていたのと僕がまだ幼い子供だったのだと思う。

 けれど今、父の失敗している姿を思い浮かべようとしてもそれも難しい。


 僕の中で父の姿はあの頃のまま途切れているのだ。


 あれは僕が小学校3年、いや2年のときだったろうか。とりあえず低学年のころ。突然、父がいなくなり僕は母に連れられて2つ隣の街に引っ越した。引っ越しの中で母は少し悲しそうな顔をしていた気もするがどうだったろうか。


 僕は僕で大好きだった父が消えて学校の皆とも離ればなれになったことのショックで一杯一杯だった。お父さんは?と尋ねると「お父さんとはね、お別れしちゃったの」と。どうして?と訊くと「お互いの幸せを思ってよ」と母は答えるだけだった。今までは幸せじゃなかったんだろうか。


 その次の年、母は芳朗さんと再婚して、その間に結衣ちゃんを出産した。新しい父親が出来ると言われても、困惑するだけだった。

 離婚してから母は働きだしたが、結衣ちゃんが産まれてからは仕事を止めて家で彼女の世話につきっきりだった。


 お母さんはこの人と結婚するためにお父さんと別れたのだろうか?


 家での1人の時間が多くなってきて、ふと、そんなことを考えることがあった。

 だけど訊いたらいけない話題なんだろうなと子供ながらに僕は思った。父がいなくなってから、これまで父の話題を出すとお母さんがいい顔をしなかったことをわかっていたからだ。


 父は母に捨てられた。そんな疑念を持っていたからだろう。いつからかそれは僕の中で疑念から確固たる事実へと変わっていた。


 なるべくこの家族(ヒト)たちと関わりたくない。そんなことを考えながら日々を過ごした。とはいえ、あからさまに毛嫌いするわけでもなかったが出来るだけ自分の事は自分でするようになっていた。


 我儘を言わず、お金を使うときは一番安く済むようにし、お小遣いは受け取っても手を付けない。親の関係する物事は出来る限り避けて、家に帰ると部屋に引きこもって出来るだけ合わないようにする。


 ちょうど結衣ちゃんが手のかかる時期だったり親に甘える性格だったこともあり、違和感もあっただろうが特別どうと言われることはなかった。


 中学にあがってもそれは変わらず、部活にも入らなかった。中学生になると周りもカラオなどお金のかかる遊び方をし始める。出来るだけあの人たちのお金に手を付けたくなかったためそれを断っていると、友達が小学校の頃より減っていた。中学生ならアルバイトも新聞配達ぐらいなら出来るだろうかと考えたが、調べてみると現実的ではなかった。


 部活には入らず友達と遊ぶこともなかったが、家に帰るのは遅かった。家に居たくないというのもあったが、一番の目的は父を探すことだった。


 ボロボロになった自転車を漕いで2つ隣の町――昔住んでいた町へと向かい、父を探した。

 このころになると父の顔ももともと住んでいた家の場所もぼんやりとしか思い出せなくなってしまって、探しだすのは困難を極めた。


 家に帰るとすぐに部屋に引きこもって勉強をした。こっちは高校は県外にある進学校へ行くためだった。そこに進学すると一人暮らしすることになる。もちろん県内にも進学校はあるのだが、そこよりランクが高いため、不自然に勘繰られないだろうとも思った。

 お金はかかるがアルバイトとそれに父に頼めば喜んで補助してもらえる。そんな甘いことを考えていた。

 事実、実際に父は喜んだ声でお金を出そうと言ったのだから甘いところは遺伝なのではないかとも思ってしまえる。


 父とは離婚してから一度も直接出会えていないが、電話で話を出来るところまでは行きついた。


 本当は昔の家……今も父が住んでいる場所にもこっそり行った。そこで父は既に別の人と再婚して、奥さんと子供と幸せそうにしているのを見ている。

 そのときはもう僕の事なんて覚えてはいないだろうなんてことを思ったりもしたが、毎年僕の誕生日に贈られてくる誰得の謎のプレゼントが父からのものだったこととか色々あって、電話をするところまで行きついたのだった。


 毎日馬鹿みたいに勉強して何キロの自転車を漕いでいたら当然ともいえるが、学業も運動も出来る優等生になっていた。

 理由も知らずにそんな僕を褒める母と芳朗さんを少し馬鹿にする気持ちもなかったとはいえない。


 卒業後、無事に合格通知が来たのは昨日の事だ。家族(あのひとたち)は、自分のことのように喜んでくれた。




 そして実は父が母を捨てたことを知った。




 いや、この言い方は語弊があるだろうか。結果をみればそうなるのだが、父は母よりも好きな人が出来てしまって家族以外の人を好きになってしまったことを悩んでいる父に母が気付いて、母から離婚を提案したらしい。そこから離婚しないとするとで父と母、お互いに考えた結果、離婚したらしい。最後まで父は僕達の事を考えていてくれたらしい。


 高校に上がるのだからと教えてくれた母は笑っていたような気がする。僕は顔を見ることが出来なかった。


 父には離婚の理由も言わないように直接僕と会わないように約束していたようだが、もし僕が望むなら会ってもいいといった。


 僕はそのとき何も言えなかった。


 僕は寝返りを打つ。部屋の中で一人、ベットで横になっている。家族(あのひとたち)は空気を読んでくれたのだろう、3人で出かけていった。

 優しい人たちだ。僕はその優しさに甘えている。


 僕はあの人たちを……軽蔑していた、と思う。彼女たちがそれに気づいていたかは分からない。


 僕は謝っても許してもらえないようなことをしたんだと思う。けど謝れなかった。


 責められるのが怖かったのもあるし、もし気づいていないのならこのまま言わない方が彼女らも傷つかないのではというのもある。


 謝まるのが許して貰おうという甘えの考えなのではとも思った。


 結局は自分本位の身勝手な奴なんだ、僕は。


 机の上には合格通知や父が書いてくれたお金の補助をする旨の手紙が置いてある。

 それをどこか遠くに眺めながら自分に話しかける。


 どれだけ考えても何の答えも出てこない僕は、どこまでいっても子供だった。

何ででしょうね。書くつもりはないのに暗くなってしまう……。

今回は以前書いた短編の主人公の過去を少しだけ掘り下げてみました。元々考えていた設定なので迷わずに書けましたが、どうでしょうか?彼のうじうじした気持ちが伝わってくれれば幸いです。

……あれ、こんなこと考えるから暗くなるのか?

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