第二章フランケンシュタインは青春なラブコメが理解出来ない 8
「灰汁次様」
ミニスカートにタイトなスーツ。社長秘書というのにぴったりな金髪な女性が高級そうなソファーに腰掛ける男、灰原灰汁次に声をかける。
「澄……どうした? 哀しい知らせか?」
男の顔は見えなかった……いや、部屋が暗いとかそんな事では無い。寧ろ電気のついた部屋はかなり明るい。が、男の周囲だけ靄をはったかの様に薄暗く。男の顔が確認出来なかった。
「どうでしょう……灰汁次様が哀しまれるほど哀しい知らせかどうかは、私の卑しい女には分かりかねます」
「あ~良い。その言葉を聞くだけで哀しくなって来た。哀しみを感じる知らせだ。ありがとう」
「は……こんな豚めをお褒めに預かり光栄です。灰汁次様。報告を続けても?」
「ああ、出来るだけ哀しく続けてくれ」
「はい。湯ヶ崎姫子を捕獲に向った目芽女が失敗して。敵の手に堕ちた様です」
「そうか……全く哀しみが籠もってない所が俺は哀しい。続けろ」
「目芽女を倒したのはどうやら佐々凪のフランケンシュタインの様です」
「佐々凪……か」
灰汁次の口元がふっと歪む。
「それなら仕方が無いな。目芽女は我々の中でも一番弱い。哀しいほど弱い。フランケンシュタインが相手では哀しいほど分が悪いだろう」
「ええ、しかしどういう事でしょう? これは鳳凰と佐々凪が組んだと考えれば良いのでしょうか? 低能なメス豚の私には理解出来ないのですが」
「それは有り得ないだろう。佐々凪が誰かと組むなど有り得ない。奴はそういう人間では無いからな……」
灰汁次はソファーに寄りかかる。
「なあ、澄よ。世界には哀しみが足りていないと思わないか?」
「はい……灰汁次様の仰る通りで御座います。この雌犬も哀しんでおります」
「そうだ。だから私は哀しみをもっと世界に広めたい。世界を哀しみの青、一色に染められたならそれほど哀しい事は無いだろう。だから鳳凰の娘を狙ったのだ。鳳凰の娘は恐らく鳳凰のブラックボックスだからな」
「調べた所湯ヶ崎姫子は完全なる一般人の様ですが? 鳳凰の事も湯ヶ崎翁璽は伝えてはいないようです」
「ふふふ、それは哀しいほど調べが足りないな。鳳凰の成り立ちを考えれば直ぐに分かる。だからこそ、娘を奪われた鳳凰は暴走し、シャドウセブンの均衡は崩れるだろう。そうすれば、世界は混沌とし、哀しみが世界を統べる」
「では……次は私に御命令を。必ずや、この澄が湯ヶ崎姫子を捕らえて参りましょう」
「それは駄目だ」
「何故ですか灰汁次様」
納得が出来ないように澄が顔を曇らせる。
「これから昔の友人と会う。お前が居てくれないと困る。何故なら私は哀しいほど戦闘能力が弱いからな……」
「灰汁次様……」
自分を必要とされて澄が感じた様に顔を赤くする。
「それに次に出るなら私だ」
灰汁次は軽い調子でそう言った――。