プロローグ フランケンシュタインは平和的に解決したい。
「もう争いは止めましょう! 皆仲良くすればいいじゃないですか!」
そこは木々が空を覆うようなそんな森だった。覆い茂った木々達は重なりあってまるで木々の海の様、そんな未開の地でそれにそぐわない綺麗な声が響く。
その声の持ち主は高校生くらいの少年だった。ほっそりとした腕に華奢な体、真っ白な綺麗な肌に似合う美しい容姿、そして自然な色の金髪の髪。
だがその綺麗な顔は今、少し歪んでいた。そして更に異様な事にその服には真っ赤な血がこびり付いていた。
「ジャマをスルナ。ワレラはニンゲンをこのチからスベテ排除する」
そんな少年の言葉に応えたのは歪な電子音の様な声だった。
『ヌチャ……ヌチャ……』
そんな音が森中から響き渡った。それと共に聞こえる生命の息遣いは大軍を想像させる。
「ムリ、ムリ~慧君。さっさと全員殺しちゃいなさいよ。私お腹空いちゃった」
動物も寄り付かない緊張感の中、全く緊張感の無い間延びした声が金髪の少年、慧の隣から響く。
「博士! 何て事言うんですか! こ、殺すなんて絶対駄目ですよ! 暴力はいけません。話し合えばきっと分かりあえます!」
「ギィギャアアアアアアアアアアア!」
二人が言い合っていた時だった。森の海から体は人間、顔は魚の異形の者達が雄叫びを上げながら慧に襲い掛かる。
「博士! 危ない!」
それを華奢な男、慧が人間離れしたパワーで瞬時に殴り倒した。地面にバタバタと半漁人たち体が積み重なる。
「い~けないんだ。いけないんだ。慧君暴力ふ~るった。先生~に言ってやろっ」
「い、今のは博士を守る為に仕方無く。というか、僕の先生は博士です! いつもいつもふざけてばかりいて、いい加減にしないと僕、怒っちゃいますからね!」
博士と呼ばれた女性も緊張感が無かったが、慧という少年にも全く緊張感は無かった。それはまるでこの異形の怪物達が問題では無いと宣言している様だった。
「ギギギギ、オマエいったい、ナニモノだ。ニンゲンがこんなにツヨイわけが無い」
戸惑い……だろうか? 半漁人故に表情は分からなかったが、体全体の雰囲気が半漁人の心境を伝えていた。それに慧は一つ頷く。
「あ、はい。僕はフランケンシュタインです。人間ではありません」
あっさりと出身は北海道ですという様なテンションで慧は答えた。それに半漁人達の動きが止まる。
「デハなぜジャマをスル。ニンゲンはこのハハなるチキュウを汚染シテ、オレタチの居場所サエ、ウバオウとしている。オマエも人間じゃないならば、オレタチにキョウリョクしろ」
半漁人の一人がそう言うと、半漁人達は慧の言葉を待った。慧はそれに対して心を込める様に胸に手を当てて話し出す。
「確かに、人間は地球を破壊しているのかも知れません。しかし、人間も地球の仲間じゃないですか。人間を排除して地球が救われたって意味無いです。だから皆で話し合いましょう。そうすれば人間だって共存の道を選んでくれるかも知れません!」
「いや、それは無いでしょ。見た目グロテスクなこいつらと共存なんてちょっと博士的にNGだから、ていうかヌメヌメしてんじゃんこいつら。電車とか乗られたら迷惑だから」
「博士は少し黙ってください!」
二人の遣り取りを聞いていた。半漁人達はその手に槍を持った。
「ヤハリ、ニンゲンはスベテ排除する……」
「ほらぁああああああ! 博士のせいで変な方向に話が進んだ!」
慧は叫ぶ。そしてそれを合図にして半漁人達が一斉に慧達に襲い掛かった。
「ああああああああああああああああああもう!」
慧は涙を流しながら、半漁人の迎撃を開始した――。