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南雲兄弟の秘密。  作者: ゆきうさぎ
◇第1部
6/24

頑張る兄と頑張らない弟。(1)




棗が言ったように、どうやら本当にもうすぐ中間考査らしい。

昨日から部活動が停止になったらしく、4時というまだ日が落ち切っていない時間帯に直巳が寮部屋にいる。

なんかとっても、とーーっても違和感。

だっていつもこの時間って僕しかいないんだもん。

直巳は部活でいつもここに帰ってくるのは8時か9時ころだ。

遅い時なんかは10時すぎにここに帰ってくるくらいだ。

そんな人が4時にいるんだもん。


「なに見てんだよ」

「なんにもないでーす」


ついつい考え事をしていたらじろじろと見てしまっていたらしい。

直巳は普段はあまり見ないラフな私服姿で共同スペースにコーヒーを飲みながら座っていた。

その右手にはシャーペンが握られている。

机には英語の教科書がひろげられている。


「直巳でも勉強ってするんだ」

「お前俺を何だと思ってんだよ」


授業の時くらいにしかつけない黒ぶち眼鏡のレンズ越しに僕を見る直巳は、いつも以上にイケメンっぷりを発揮している。

イケメンってきっと無条件に眼鏡が似合うんじゃないだろうか。

棗だって眼鏡がよく似合う。


「やー、直巳ってなんだかんだで頭もいい気がしたから」

「否定はしないな」

「え。ウソでしょ。そんなチートなことある?」


顔もよくて運動もできて、おまけに勉強までできるとか。

うわ、せこい。

そんな人間、棗だけで十分なんですけど。


「お前の片割れには負けるけどな」

「あっはー、あれは努力の塊だからね」


もともと勉強もスポーツも人並み以上にできるくせに、人並み以上の努力までしちゃうんだもん。

気が付いたらそこら辺の人じゃ追いつけないくらい凄くなってるの。

自分でも気が付いてないくらい。

気が付いて振り返った時にはもう誰も後ろにいなくって、ずっとぶっちぎりの1番。


「‥確かに南雲は努力家だな」


思い当たる節があるのか、直巳はなにかを思い出したようにして言った。

昔はそう言われるのが嬉しかったのに……僕も変わったな。


「部活でもグラウンドに誰よりも早く来て誰よりも遅く帰るし、テストだって首席を誰にも譲ったことはないしな」

「はははー、棗らしい」


小さいころからなにに対しても努力家だった棗は手を抜くなんてことを知らないんじゃないかっていつも思ってた。

どうやら今でもそれは健在らしい。


「でも直巳も頭いいんでしょ?それに今こうやって勉強してるし」

「俺は南雲みたいに苦手教科がないような人間じゃないからな」

「え、棗苦手科目くらいあるよ?」


そういうと、直巳は意外そうな顔をした。

まぁ全教科満点なんて点数出されたら苦手科目なんてないって思うのが普通か。


「ああ見えて棗は歴史は苦手なんだよ。まぁ点数だけ見たらいつだって満点だけど」

「それを苦手にしていいのかよ」

「苦手なものは苦手なんだよ。で、そういう直巳は英語が苦手なんだねー」


くすくすと笑いながら言うと、直巳は珍しく「う、」なんていう詰まった声を出した。

どうやら図星らしい。

まぁさっきから英語しか勉強してないし、問題集で勉強してるけど、ところどころ赤で直してるし、ていうか今解いてるところもちょいちょい間違ってるし。


「グローバル化の現代にはいたいなー」

「うるせ」

「もー、そうやってすぐ手だすんだから。そんなこと女の子にしちゃいけないんだよー?」

「それはお前が女だったらの話だ」


あ、僕今男の子だったんだ。

気を抜いたら忘れちゃうんだからしっかりしないと。


「お前勉強しないの?」

「へ?」

「勉強。南雲からノートもらっただろ」

「もらったけど」


授業中にパラパラと暇つぶしに見てみたけれど、棗のノートはとても見やすかった。

本当に要点だけをきれいにまとめてあって、おまけによくわからないところは捕捉として書かれていて。

あのノート普通に売れるんじゃないの。


「ここ、前後期制だからほかの高校と違って範囲広いぞ」


そう言いながら、直巳は自分の分と僕の分のコーヒーをいれてきてくれた。

どうやら僕にもここで勉強していいということらしい。

どうしたものか。


「みたいだねー、棗のノートにもそんなこと書かれてた」


お小言みたいに箇条書きされてた。

しかも最後に『俺は帰らない!』なんていう私情つき。

それテスト対策ノートに必要ないよねって思わず心の中で突っ込んでしまった。


「でもさー、勉強って面倒じゃん」


そう言うと、直巳は盛大なため息をついた。


「学生の本分は勉学だぞ」

「え、やめてよ、いきなり真面目なこと言うの。コーヒー噴いちゃうじゃん」


危ない危ない。


「学生の本分は青春を謳歌することだよ」

「あほか。その青春になんで勉強が入ってないんだよ」

「勉強したって社会に出て役立つものなんてないよ」


数学の証明とか三角関数とか、物理の公式だって、将来絶対使わないじゃん。


「んな屁理屈言ってんじゃねぇよ」

「でも事実」

「お前むかつく」


そう言って、直巳はそばにあった大きめのクッションを僕に向かって投げつけてきた。

それをよけて直巳を見る。

ていうか今すっごいスピードで飛んできたけど、直巳、手加減とかしてないじゃん。


「つーかお前頭いいだろ」

「は?なにいきなり。どうしたら僕が頭いいなんて結論になるの」


意味不明、と付け加えると、なんとも恐ろしい眼光がとんできた。

本当、イケメンのくせに目つき悪い。

美形って睨むと怖いんだからやめてほしいんだけど。


「南雲が頭いいからな」

「あっは、残念。双子って似てるのは顔だけなんだよ」


ごめんねーと謝ってみると、またおそろしい眼光がとんできた。

そのうち僕殴られるんじゃないの?と思っていると、どんどんと扉をたたく音が聞こえてきた。


「…きた」

「は?」


直巳は小さくそういうと、舌打ちをついたあとに盛大なため息をついた。

開けたくないのか、直巳は座ったまま動こうとしない。

だけど、扉のドンドンが鳴りやむことはなく、むしろさっきよりも大きくなってる。

これって騒音レベルなんですけど。


「…ほんとうざい」


ぽつりとつぶやいた直巳はゆっくり立ち上がると、面倒くさそうに扉の方へと向かった。








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