双子の弟がきたようで(4)
「おいこら。とっとと起きろ」
ゆさゆさと誰かが身体をゆする。
その何とも言えない心地良さが余計に眠気を誘う。
もうちょっと…そうだな、あと1時間くらいは寝ていたい。
なんて、思っていたら。
「起きろって言ってんだろが」
「つっめてぇぇぇぇえ!」
誰が予想するだろうか。
もう少し寝ていたいと布団にくるまっている人に対して、冷水をぶちまけるなんて。
ましてやそれが転校してきた僕のルームメイトだなんて。
「ちょ、もう少し起こし方考えてよ!」
これじゃ風邪ひいちゃうじゃん!
ていうか水!
服!
透けちゃう!
ばっと、ばれないように布団で胸元を隠した僕は、少し前から寝食を共にしている直巳寿人を睨むようにして見上げた。
棗といい勝負なんじゃないかと思うほどのイケメン。
どこか異国を思わせるような緑と茶色を混ぜたような瞳。
180オーバーの馬鹿みたいに高い身長にほどよくついた筋肉(黙認済み)。
聞いた話じゃバスケ部のエースで次期キャプテンらしい(女子の話によると)。
あれに甘い笑みでも携えてりゃあ女もすり寄ってくるものの、いつも見るのは般若も慄く仏頂面。
たまに眉間にしわすら寄ってる。
そんな男が、僕のルームメイトだ。
おまけに、
「起こしてやっただけでもありがたく思え」
という俺様ぶり。
いつか剥げればいいのに。
「‥て、今何時、」
「8時。お前今まで何時に起きて学校行ってたんだよ」
呆れんばかりにそう言った直巳はため息をついて僕を見る。
その目はとっとと用意しろと雄弁に語っている。
「えーっと、準備するから、」
部屋から出ていってほしいなーなんて…。
という僕の思いはどうやら通じたらしく、直巳は舌打ちをつくと部屋から出ていった。
「やりづらいなー‥」
学生には与えすぎだろと思う、2人部屋に備え付けられた個人部屋。
家具は来た時には事足りるくらいには揃えられていた。
共同スペースには簡易キッチンに小さめのテレビまでついているという設備の良さ。
金持ちって恐ろしい。
「あ、準備‥」
ベッドから出て、少し前から着だした新しい制服に着替えなおす。
さらしをきつめに巻いてその上からカッターシャツを着る。
………。
とりあえずこのジャージは洗濯いき。
朝からやってくれたな、あの男。
制服に着替えた僕は共同スペースに向かった。
そこでは、すでに制服に着替えた直巳が優雅に足を組みながらコーヒーを飲んでいた。
くっそ似合うし。
「おーおー、頭くらい拭けよ。制服濡れるぞ」
「誰のせいだよ」
「お前だろ」
「はぁ!?」
「お前が素直に起きりゃあずぶ濡れになることなかったんだから」
「いや起こし方の問題でしょ!」
「お前が優しい起こし方じゃ起きないってことは初日に経験済みだ」
けっと、吐き捨てるようにして言った直巳を睨んでから、僕は洗面所に向かった。
というか言い返す言葉もないのだ。
事実、ここに転校してきた次の日。
つまりこの部屋に住みだして1日目の朝。
僕は大遅刻…というかぐっすり寝すぎて起きたころには太陽は夕日になっていた。
僕には全く記憶はないけれど、直巳は何度も起こしてくれたらしい。
この日以降、直巳は僕を優しく起こすなんてことはしてくれなくなった。
昨日は耳元で大音量の女の人の悲鳴を鳴らして起こされて。
一昨日はベッドからそりゃあもう盛大に蹴落とされた。
……ひどくない?
「おら、洗面所で百面相してねぇで教室行くぞ。お前遅刻したいの?」
「え、ちょ、待ってよ!」
直巳は玄関先で時計を見ながら5秒のカウントを始める。
この数字が0になったら本当に行こうとするんだからひどい。
「いー‥ち、ぜー‥んだよ、間に合ったじゃねぇか」
「直巳、鬼」
「あ?待ってやっただけありがたいと思え」
ああ、出た俺様。
まぁなんだかんだいって、先に出たときはいつもよりゆっくり歩いてくれるし、少しは待ってくれるんだけど。
たださ、こうやって直巳と一緒にいるようになって気が付いたことがある。
たまにさ。
たまーにさ、女の子からすっごく熱烈な視線を受けるんだ。
なんていうか、もう、
「BLキタァァァァァァァ!」
なんて女の子が叫びながらね?
僕どうしたらいいんだろうね?