双子の弟がきたようで(1)
新緑が目立つ、ほんの少し汗ばむ気候となってきた5月中旬。
大型連休が終わった篠宮高等学園はいつもと変わらず賑やかな朝を迎えている。
全寮制、スポーツ校、元々男子校、という肩書をもつここは、男子:女子=8:2の比率であり、基本的にどこを見ても男子高生ばかりだ。
そんな篠宮高等学園を賑やかすひとつの原因 ――――― 転校生がやってくる。
願わくば女子を!
あわよくば可愛い子で!
という懇願にも似た願いは空しく、とある教室に入ってきた生徒は、可愛いという言葉がしっくりくる男の子だった。
「烏丸学園から転校してきました南雲樹です。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げた僕に向かって、いろいろな言葉がかけられる。
「うお、可愛い系男子!」
「どっちにしろイケメンじゃん。くあー、この学校女子少ないのに!」
「下手し、男子にもモテそうだな」
口々にそう言った教室にいる生徒は僕の顔をじっと見る。
そんなに変な顔してるかなー。
「あーっと、まぁ見たらわかると思うが、樹は‥あ、面倒だから名前で呼ぶぞ。南雲棗の双子の弟だそうだ。家の事情でこっちに転校してきたみたいだから」
このクラス、2年2組の担任である春日凌雅先生はそう説明をして、僕の席をどうするか悩み始める。
うーんと唸っている中、ガタリ、という音が聞こえてきた。
いきなり響いた大きな音のしたほうを教室内にいるほとんどの生徒が見つめる。
周りの視線をも気にせずに、椅子から立ち上がったのは目を見張るほどのイケメン。
すらりと180㎝はあるだろう高身長に少し着崩した制服。
それがなんともイケメンな雰囲気を醸し出している。
暗い茶色い髪をツンツンと立たせた彼の目は僕を睨むようにして映している。
すごむようして睨んでいるけれど、その顔は誰が見てもイケメンだと言い切れる。
ただその顔は、僕とほとんど同じだけれど。
「…………い、樹?」
驚愕と言わんばかりの顔をした僕の双子の兄である棗は僕に指をさす。
久しぶりに見た兄はいつになくイケメンだ。
こんなに間抜けな顔をしてるのに。
世の中って本当に理不尽。
あの顔で勉強も運動もできるんだから、チート以外の何物でもない。
「久しぶり、お兄ちゃん」
顔の横で手をヒラヒラをさせると、棗は口をパクパクとさせて、ずっと僕を見ている。
これどっきりだったら大成功だよね。
なんて一人で満足していると、僕のお兄ちゃんはプルプルと肩を震わせている。
久しぶりの再会で感極まった?なんて、そんなことはこの兄に至ってはまずないわけで。
あ、もしかして怒ってる?と思った矢先。
「ふっざけんなぁぁぁぁあ!」
キーンって。
1年に1回見るかどうかも怪しいほどの怒声を、数十人の前で浴びてしまった。
しばらくたってから聞いた話。
この兄の心の叫びともいえる怒声は、学年問わず噂になったらしい。
『南雲兄を怒らせるとやばい』という少し意味の違った噂となって。