8.魔法学園に通うことを決意しました
気持ちがホッコリしたところで切り替えよう。
ちょっと情報整理。
エルフの掟を破って、ダークエルフの俺を産んでくれた母様。
本来なら即牢屋行きのところを、交渉の末、15年間俺が悪さをせず、更にお姉さんに悪者じゃないと判断してもらえれば見逃してもらえることになった。
今まで12年間、森の中で問題なく暮らしてきた。
ここにきて、里の長老さんから、残り3年は森の中じゃなくて、魔法都市で暮らせとの追加指令が発動。
そこには学園があるけど、入学するかどうかは自由。
入学するなら手続きはしてもらえるとのこと。
「うん、なんとなく現状は把握出来たよ。ちょっと質問してもいい?」
「えぇ、いいわよ。」
「ダークエルフってどのくらい知られているの?」
「エルフに限らず、誰もが知ってると思っていいわ。」
「それは、誰もがダークエルフは邪悪なものだと思ってると考えていい?」
「そうね。そもそもエルフの個体数が少ないのもあって、里の一つが滅ぼされた300年前の出来事は、大事件として歴史の資料に掲載されているわ。」
「え?エルフってそんなに数少ないの?」
「一つの里で100人前後かしら?それが10箇所くらいに散らばってるわ。」
「…エルフって長寿なんだよね?もしかして、子供って滅多に生まれない?」
「人族に比べれば長寿ね。大体200年ってところかしら?中には300年とかもいるけどね。子供は確かに滅多に生まれないわね。エレナちゃん、私が里を出てから、どこかで子供が生まれたって話はある?」
「いいえ、ありません。」
「ということは、カル君が最年少ね。次がエレナちゃん。」
oh!なんてこった!
エルフって絶滅危惧種レベルじゃねぇか。
あぁ、掟の意味が分かった気がする。
そりゃそんな掟も作りたくなるわな。
ただでさえ個体数が少ないのに、他種族と交わってたら純粋なエルフの数が更に少なくなる。
ダークエルフがエルフに破滅をもたらす、ねぇ。
なかなか言い得て妙だ。
「伯母さま。伯母さまには申し訳ありませんが、私はまだその者をエルフとして認めていません。なので、エルフの最年少は私です。」
ここでお姉さんから物言いだ。
「あら?でもオリービアちゃんからの手紙には、もしカル君に挑んで負けたら、一人のエルフとして接する約束をした、って書かれてたわよ。」
「私は負けてません!魔法が暴発して、勝敗があいまいになってしまっただけです。」
「それじゃあどうすれば僕の勝ちだったの?あの時、僕はトドメを刺すこともできたよ。それでも負けじゃないって言い張るの?運悪く魔法が暴発しちゃったのかもしれないけど、勝ちは勝ちだと思うよ。」
「くっ!そもそもお前は伯母さまの子か尋ねた時、違いますと答えただろう!?そんな嘘をつく奴など信用できん!」
「あれ?僕あの時、違いませんって言いませんでした?」
「ん?そうだったか?そう言われればそんな気が…。」
「いいえ、カル君は違いますんって言ってたわ。」
おっとー!ここでまさかの身内から告発だー!!
睨んでるー!
お姉さん超睨んでるー!!
俺は訴えるように母様を見た。
「そんな目をしてもダメよ、カル君。最近カル君ってばズルばっかりするんだから。」
「エレナお姉ちゃーん!最近母様が僕に厳しい!」
「おね…!い、いや、穢れし者が私の名を気安く呼ぶな!そんなこと私に言われても知らん!」
「母様ー!エレナお姉ちゃんが僕に冷たい!」
お姉さんの方へ駆けていたのを急旋回して母様方向へ軌道修正。
母様は優しく受け止めて頭を撫でてくれた。
「よしよし。大丈夫よ、カル君。ああ言ってるけど、結構効いてるわ。」
ですよね〜。
今まで最年少扱いされてた子が、いきなりお姉ちゃんと呼ばれれば、悪い気はしないはずだ。
そして、すかさず冷たいなどと言われれば、少なからず動揺するはず。
「カル君、悪い顔してるわよ。」
「ごめんさない。とりあえずこの件は置いといて、魔法学園ってなぁに?」
お姉さんがちょっとオロオロしてたけど、一旦放置だ。
「魔法学園は魔法を中心に、色々なことを学ぶための施設よ。初等部、中等部、高等部ってあって、それぞれ3年制になっているわ。年齢制限はないから、試験に合格さえすればいきなり高等部に入ることもできるそうよ。お母さんとしては、通って素敵なガールフレンドでも連れてきてくれたらいいなぁとは思ってるんだけど、さっきも話した通り、ダークエルフというだけで風当たりも強いだろうから心配でもあるの。だからカル君自身の判断に委ねたいと思ってるわ。」
ふむふむ、魔法を中心にね。
それなら答えは決まっている。
「母様。僕には魔力がないよ。」
魔力がない奴が魔法学園に入って一体どうしろと?
確かに俺は魔法を使えるが、母様でさえあんなに驚いていたのだ。
学園でそんなことしたら目立つってレベルじゃない。
出来るだけ穏便に過ごしたいのだから、それは避けたい。
そもそもの話、魔力がなければ入学できないんじゃないか?
母様を見ると、忘れてたー!って顔してる。
「忘れてたね、母様?」
「だ、だってカル君ったら当たり前のように魔法使うんですもの!でもそうね。それなら選択の余地はないわね。」
少し残念そうだ。
どうやら母様としては通って欲しかったらしい。
お姉さんが「魔力がないのに魔法が使える?」と、呟いていたが、とりあえずまだ放置だ。
「母様は学園に通って欲しかったの?」
「えぇ、正直に言うとそうね。」
ふむ、母様だってダークエルフが学園に通うことの危険性は理解しているはずた。
これはガールフレンド云々の他に何か理由があったのかな?
「何か理由がありそうだね?」
素直に尋ねてみた。
「…えぇ、オリービアちゃんからの助言でね。確かにそうした方がいいかもって思ったのよ。カル君も読んでみる?」
「いいの?」
「カル君は当事者ですもの。当然の権利よ。」
そう言って手紙を渡される。
そこに書かれていたのはこんな内容だ。
今でも里の中には、俺を拘束すべきと訴える者がいる。
学園に入学させるのは確かに危険な賭けだが、その賭けに勝てれば誰も文句を言えなくなるだろう、と。
それとお姉さんについて、老人達に可愛いがられていたが、そのせいでエルフの掟を刷り込まれてしまい、ガチガチの融通の利かない子になってしまったとのこと。
このままだとよろしくないと考えた叔母さんが、お姉さんのことを俺のお目付役に推薦し、里の外に出すように画策。
文字通り掟破りの俺達と過ごせば、少しは凝り固まった頭も柔らかくなるのではと考えたようだ。
出来ればお姉さんも学園に通わせたいとも書かれていた。
俺の付き人という名目であれば、一緒に学園に通うことができ、そうすれば常に俺のことを監視できる。
そう説得し、お姉さんも了承済みとのこと。
ただ、お姉さんはダークエルフは邪悪な者という考えがある。
そのことを懸念した叔母さんは、お姉さんに賭けを持ち掛けた。
俺と勝負してみて、もし俺に負けたら、話で聞いてるダークエルフとして接するのではなく、普通のエルフとして接するようにする、と。
母様とあの人の子であれば、きっと強いに決まっているという妙な信頼の元、賭けを持ち掛けたようだ。
最後に、母様のことを理解しようとしないお祖父さんに、ビンタを喰らわせてやったことと、母様を応援するメッセージで手紙は締めくくられていた。
叔母さんってば、なかなか強かだで油断ならない人みたいだが、少なくとも俺達の味方ではあるようだ。
お姉さんに賭けを持ち掛けた所なんか、お姉さんが勝った時のことを言及していない。
きっとお姉さんを挑発して、そこまで頭を回さないように仕向けたのだろう。
さて、母様が俺を学園に入れたかった理由は分かった。
そしてこの手紙のお陰で解決策も浮かんだ。
読み終わった手紙を母様に返しながら質問する。
「母様、学園って付き人を連れて行くことができるの?」
「えぇ、できるわ。学園には試験さえ通れば誰でも入学できるの。中には貴族の子なんかもいるわ。その辺を考慮して、護衛を兼ねた付き人を連れていくことが許されているわ。」
「付き人も一緒に授業を受けることができるの?」
「普通は待機部屋で待たされるみたいだけど、主人の希望があれば可能だったはずよ。実技なんかは近くで見学するだけで、参加はできないと思うけど。」
付き人は実技に参加できない。
むしろ好都合だ。
「分かった。それじゃ僕、学園に通うことにするよ。」
「え?でもさっき入学できないってなったじゃない?」
「正確に言えば僕は入学しないよ。入学するのはエレナお姉ちゃん。僕はその付き人としてついて行く。」
「え?私が?」
「まぁ!その手があったわね!流石カル君!」
ご褒美タイムだ。
なんだか久しぶりな気がする。
え?え?っと混乱しているお姉さん。
そんなお姉さんに向けて、
「入学試験頑張ってね!エレナお姉ちゃん!」
無責任なエールとサムズアップを贈っておいた。