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I’ll be back!  作者: ブロンズ
9/12

第9話 戦闘

※書き方を少し読みやすいように訂正してみました。



草原を姿勢を低くしたまま駆け抜けていくと視界に丁度空から降り立った怪鳥・クィートの姿を捉えた。

その体毛は黄色く光沢のある鮮やかな色彩を持ち、巨大な(くちばし)は人の頭を丸呑み出来そうなくらい大きい。


翼も両翼を広げると優に五メートルはありそうなくらいで怪鳥と呼ぶに相応しい見てくれをしているのだが。


「……なんか全然怖くないね」


「うん、むしろ可愛い?」


リュー君とカリンちゃんが口々にあたしも感じていた感想を述べてくれた。


そう。目の前を楽しそうにダン虫を転げ回してサッカーボールのようにして遊んでいるクィートには恐怖どころか愛嬌を感じてしまうほど可愛かった。


アヒルのようなつぶらな瞳。くるんっとした赤いトサカ。

時折楽しげに『ギュアッ♪ギュアッ♪』となく鳴き声。


その姿にあたしたちは言い様のない庇護欲に唆られて仕方なかった。

あたし自身もその余りの可愛さに作戦とか関係なしにちょっと突っ込みそうになったけど何とか自重して踏みとどまるが心臓がバクバク波打ってるのが分かる。


え?なにあれめっちゃ可愛いんだけど!

凄い抱きつきたい!あの羽毛に飛びついてグリグリしたい!

しかも動く度に揺れ動くあのトサカなに?

誘ってる……?誘ってるのか?!

あーっ!どうしよう!本当今すぐ飛び出したい!!


「シグさんどうしま……ってシグさん?!」


ジリジリと一度止めていた足を小刻みに動かしていたあたしにリュー君が驚いた様子で声をかけてくれた。


「ハッ……!あ、ありがとうリュー君。思わず飛び出しそうになっちゃったよ」


「だ、大丈夫?目が凄い血走ってるけど」


「むぅ……」


心配してくれるリュー君とカリンちゃんの後ろでシーフが何故か不貞腐れたように頬を膨らませているけど、ごめん。

今あたしの中でどうしようもない葛藤が繰り広げられてるからちょっと構ってられない!ごめんね!


しばらく深呼吸をしてようやく落ち着きを取り戻すと内心で未だ葛藤してる心というか衝動を抑え込んで三人に向き直る。


「ふぅー……もうすぐクィートは罠のある地点に行きそうだからその間にリュー君とカリンちゃんは二人組(ツーマンセル)で十メートル圏内まで近づいて罠にかかるまでは動いちゃダメだよ。

あたしはあの子の背後に回ってダン虫を埋めたとこに入り次第強襲するからシーフは東側から回り込んで別命あるまで待機。OK?」


「「「了解」」」


「じゃあいくら可愛いからって油断しちゃダメだよ。たっぷりいじめたい気持ちは分かるけど、我慢してね。あたしも我慢して急所だけを狙い撃ってくから!」


そう言い残してあたしは颯爽とその場を離れて行くが。


「い、いいのかな?なんか悪い事してる気になってきたよ」


「うん……なんか違う気がする」


「ご主人にいじめられていいのは私だけ」


風のように去っていったシグの背後で戸惑った様子の二人と一人謎の憤りを口にする声は当の本人に届く事なく終わってしまった。





さて、三人に軽く作戦を伝えた所であたしはクィートに回り込むように走り、時折罠の方に向かわせる為にその辺に落ちていた石を投げて誘導していく。


最初はダメージ判定があって気づかれるかと思ったが、どうも急速によって変わるらしくたぶんだけど、クィートからしたら「何かぶつかった?気のせいか」くらいにしか思われていないだろう。


「あー。それにしても可愛いなぁ。ペットにして飼いたいのに倒さなきゃいけないなんて……絶対このゲーム作った奴性格悪いよ!」


この世に唯一絶対の正義があるとしたらそれは間違いなく「可愛い」だ。

ありとあらゆる可愛さは人の心を癒し、恵みを与えて明日を生きる活力となる。

それなのにここの運営ときたらその可愛いを体現した神物を倒せという。さもなくばこれ以上先へ進むことは出来ないとばかりに!


「許さない、絶対に許さないんだから!」


灼熱などが生温く感じる程の憤りを運営に感じながらもあたしは右手に銃を左手にナイフを持って罠にかかるギリギリまで粘る。


倒さなきゃいないならせめて苦しみすらも感じない内に倒してあげよう。

そのかわりもしもこの世界を作った奴にあったら死にたくなるほど嬲り殺してやる。


……ちなみに街中なんかでよく見かけるぶりっ子だったり可愛いを作ってる女の子。アレは違う。

自分が可愛いキャラであることを作って周りに可愛がられることに心血を注いで奉仕させようとする卑しい雌豚だ。

いや、豚というのは存外綺麗好きらしいからゴミに群がるゴキブリといったほうが適切かな?


いかんいかん、思考がちょっとだけデンジャラスな方に行っていたけど少し落ち着こう。

そんでもって気持ちを切り替えてクィートを見つめよう。


「……そろそろ良いかな」


クィートがダン虫が入った穴を不思議そうに見つめて嘴で取れないか穴に頭を突っ込みかけたとき、私はクィートに向かって走り出した。


鳥の身体構造なんて知らないけど、見た限り身体全体に比べて頭部が若干大きい気がする。

ただ全身を覆う羽毛が時折起伏を繰り返すのであまり気にならなかったが、あの様子だと首の付け根か後頭部を集中的に狙えばある程度はダメージが通るかも。


私は右手に現在最も高火力を誇るSAAを右手に撃鉄を起こして気づかれるギリギリの距離まで急接近する。

五メートル付近まで近づくとクィートは異変に気付いたのか穴に突っ込んでいた頭をあげて拳ほどある大きな瞳をキョロッと私の方に向けてきた。


瞬間。クィートの瞳は獲物を発見した猛禽類のように鋭くなり両翼を大きく広げて威嚇のポーズをしてくるが、もう遅い。


私はクィートの股下を潜り抜けるようにスライディングをしながら二発の弾丸をクィートの喉に向けて発砲し直様立ち上がると罠の仕掛けてある場所まで退避する。


突然の奇襲にも関わらずクィートは獰猛な顔のまま私の方に振り返るが、ダメージエフェクト被弾地点を見ると一発は喉のやや右側に被弾しているもののもう一発は嘴に当たったのかダメージはなさそうだ。


「こりゃまずいかなぁ〜」


想定よりも動きが早そう。

けっこー手こずるかもしんないなぁ。


立ち上がると同時に私はM1892に武器を切り替えてSAAはホルスターにしまった。代わりに右手にはコンバットナイフを抜いてシーフスタイルに武器を構える。


「ギュアアァアッ!!」


ーーボカァンッ!!


「ギュアっ?!」


そうこうしている間にもクィートはその巨体に似合わない速度で突進してくるが、私に届く前に足元で爆発が起きてその動きを止めた。


地面に設置しておいたブービートラップが作動したのだ。


今回仕掛けたトラップは主に二種類。

ワイヤーの先にポムを取り付けたタイプと踏んだ瞬間にポムが爆発する地雷タイプ。


今クィートが作動させたのは後者の方だろう。

見ると右足全体にダメージエフェクトが通り、動きを止めてしまっている。


「シーフ!頭部集中!」


「了解!」


掛け声と同時にクィートの左側から飛び出したシーフがクィートに飛びつき左手に持ったナイフで眼孔を突き刺すと暴れるクィートから落ちまいと後頭部と脳天に反対の手に持ったM1892を全弾打ち込んで離れる。


「ギュアアァアッ!!」


おー、怖っ。ありゃ完全にぶちギレてるね。

さっきまであんなに可愛かったのに目が切れ目になってるよ。


怒りの咆哮を上げたクィートは両翼を広げると新たな攻撃を仕掛けてくるつもりなのか、翼を羽ばたかせて空中に飛び立とうとするが、させると思うなよ?


「リュー君!翼狙って!カリンちゃんは頭上に向かってポム投げて!」


突然の号令にも関わらず二人は草むらから立ち上がると指示させた通りに攻撃仕掛けていく。


「ギュアッ?!」


リュー君の弾丸は散弾なので距離が開けば当然広範囲にダメージが広がるが、その分威力は落ちてしまう。

だけどそれで良い。

空を飛ぶ相手には逃げる隙間もないくらいの面攻撃が最適なのだから肩翼さえ封じられれば問題ない。

加えて無防備になってる頭部への爆発物を投擲する事で並みの相手なら落下は免れないはずだ。


「ギュエッ……!」


案の定クィートはそのまま地面へと落下して追加ダメージを与えられた所で起き上がる前に私とシーフが駆け寄り頭部にゼロ距離からの集中放火を浴びせていく。


お、このままいけるかな?


ーーバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッーー


倒れているクィートに無言で銃を乱射し続けるが、そんな淡い期待を抱いた瞬間にクィートは無理矢理後ろに体勢を起こすとバックステップよろしく後方に飛びながら翼から巻き起こる突風で動きを封じてくる。


「あ、やばっ!」


調子に乗り過ぎた!


距離を取られただけなら良かったが、クィートは後方に飛びながらその大きな嘴を広げて口内から火球を生成して放ってきた。


あかん!これ絶対あかんやつや!!


あたしは咄嗟にナイフを捨てるとカリンちゃんから貰っていたポム飛来する火球に投げつけて横で両腕を頭の前に出してガードに入ってるシーフに飛びついて倒れる。


ーーボガァンッ!!


背後から凄まじい爆発音が響き背中にビリビリと痛みに似た振動が響いてくる。

そのまま爆風によってニ、三メートルほど吹き飛んだ。


あーっ!回るまわる!世界が回る!

でもシーフの柔らかい部分がお腹に当たって役得だぁあ!


我ながらアホな事を思いながらも視界の中でリュー君とカリンちゃんが心配そうにこっちを見ているのが分かった。


ダメだぞ、二人とも……心配しなくても後でいっぱい二人にもギュウッてしあげるからさ!


HPバーに目をやるとあたしのライフは危険域のレッドゾーンにまで低下している。

シーフはまだ半分ほど残っているけど、急いで回復させたいのに爆風のダメージで下半身がスタン状態になり動かず、シーフは全身がスタン状態になって身動きすら取れなくてなってる。


「ハハッ……そこまで甘くないかぁ〜」


見ると既にクィートはこちらに向かって突進攻撃を仕掛けて来ていた。


両翼をたたみ流線型になったクィート。

5秒後には私とシーフは中空高くに打ち上げられ爆散してジ・エンド。


流石は討伐平均レベル30のモンスターだね……月姫の話をもっとちゃんと聞いとくべきだったかな。

……まぁこのまま終わるのも癪だし、悪あがきくらいはしようかな。


あたしは空になったM1892を終い、SAAを取り出すとクィートの眉間に狙いを定めて一発一発確実に当てていくが、突進は止まらない。

まぁそりゃそうか、今まで散々撃ち込んだのに豆鉄砲数発くらいじゃ止まらないか。


ーーバァンッ!


「ギュアァッ?!」


「え?」


諦めかけたその刹那。

聞き慣れた特徴的な銃声が響くとクィートがあたし達の右側を通り越すように転げ回って通過していった。


「ははっ。全くどこのヒーローよ。絶対ピンチになるまで待ってたでしょ」


銃声の主を探すまでもない。


あたしは急いでポーチからポーションを取り出すとそれを一気に飲み干してHPを回復させていく。


横で転がっていたシーフも同様に回復させたが、シーフは何があったのかわかっていないようだ。


「ゴウルのやつタイミング良すぎよ……さて、それじゃ後半戦いくよぉ!」


空になったポーションを投げ捨ててスタンから回復した身体を動かすと弾丸を再装填して再びクィートへと駆け出して行く。


「リュー君!背後に回って乱射!狙いは足!

シーフは撹乱しながら攻撃!

カリンちゃんはあたし達が下がる時にポム投げて!タイミングは任せるわ!」


それぞれに指示を飛ばしてあたし達は互いの射線が被らないようにクィートを撹乱しながら攻撃を繰り返す。

時折シーフはクィートを誘導すると仕掛けておいた地雷を踏ませ、身動きが取れない瞬間にリュー君と二人で攻撃していく。


あたし?リロード中です。


途中何度もクィートからの嘴攻撃や翼で薙ぎ払う攻撃がきたが、そのことごとくがゴウルの援護射撃によって攻撃をキャンセルさせたり注意を逸らしてくれた。


そんな事を十分以上繰り返しているとようやくクィートも限界が来たのか、足を引きずって逃げ出そうとし出した。


「皆んな!ラストいくよぉ!」

「「「了解!!」」」


あたし達はそれぞれ手にカリンちゃんから貰っていたポムを手に持つと一切に投げつけた。


「逝っけえぇぇえええ!!」


ーードドドドドオオオォオオォオオオオンッ!!


クラスター爆弾も真っ青な勢いでポムが連続爆発が起きるともくもくと上がる土煙の中で真っ黒になったクィートが口から煙を上げ最後にーーバリィィンーーと煌びやかなエフェクトを残して消えていた。


同時に目の前から『Complete!』と表示された画面が現れ報酬とアイテムが表記された。


「はぁ〜っ終わった〜っ!」


「流石に疲れたね」


カリンちゃんとリュー君が口々に呟いてその場に座り込んみ。

シーフも流石に答えたようで「ご主人……」とかいいながらあたしに抱き付いてくる。


ヨシヨシ。可愛いなぁ〜。このまま抱きしめてたいけど、もうちょっと我慢しようね?


「ようやく終わったな」


「うん、ゴウルもお疲れ様。援護助かったよ」


ノックダウン気味に倒れてる面々と違って緑色のギリースーツに身を包んだゴウルには拳を突き出してやる。

ゴウルも「それが仕事だ」と言って同じ様に拳を突き出しコツンっとグー版ハイタッチをしてくれた。


おぉ、何気なくやっちゃったけど懐かしいなぁ。

サバゲした後とかよくやってたから癖になったのかな?


「さてと!それじゃちゃっちゃと町に戻って新装備を作りに行こう!」


あたしは声を上げてへたり込んでる二人に叱咤して帰路へとついていった。





ラグーンに戻ったあたし達はそのままシーフの案内で銃工房のある店を訪ねるとNPC店主は喜んで開業してくれた。

……んだけどね?


「あーっ!まさか素材集めからしないといけないとかそんなのあり?」


ガブガブと盛大にビールを浴びるように飲んで愚痴をこぼさずにはいられなかった。


だって苦労して倒したクィートはあくまでも銃工房を開業させるだけのクエストでそこから新たに武器が作るには設計図と素材集めをしなければいけないというのだから愚痴をこぼさずにはいられない。


他の四人もせっかくの祝勝ムードを予想してたのにガックリと肩を落として首を垂れている。


いやね?一応予想はしてたよ。

銃工房って名前だからそういう事もあるもんだと予想はしてたんだよ。

だからクィートに関する情報を集めている時に同時に設計図みたいなものもないかと色んなNPCに聞いて回ったりしてたのにそんな情報は一切なかったからてっきりすぐに作れるもんだと思ってたんだよ。


そしたらこれだよ。

しかもこの情報が開示されなかった理由がムカつく。

NPC店主曰く『倒せるものと思っていなかった』ってのが主な理由でこの時ばかりはアレだよ。うん、キレたよ流石にね。


何?この世界はプレイヤーのみならずNPCから運営側の人間に至るまで銃職を馬鹿にしてんの?どんだけ残念職なのさ。


そう思うとまた腹がってきたので再び怒りをビールと一緒に飲み干してやる。


「まさかクィートを討伐完了してから開示される新情報とはな……仕方ない。気を取り直して明日からは設計図を探すとしようかの」


「そうは言いますけど、ゴウルさん。どうやって探すんですか?」


ゴウルのつぶやきにリュー君が反応するが、最もな質問に上手く答えられず唸ってしまう。


「設計図と素材集めって事しか情報がないからねぇ……しょーがない。班を別けて行動しよう!」


あたしはメニューバーから町の全体図を可視化させてみんなが見えるように表示する。


「あんまり急ぎって訳じゃないけど、のんびりしてちゃ他のプレイヤーが来るかもだしね。

とりあえず、シーフとカリンちゃんとリュー君の三人でクエストを発生させてるNPCに手当たり次第に声をかけてクエスト内容を確認したらあたしとゴウルで片付けていこう」


ちなみに普通にマップを開いただけじゃ町の全体図が出てくるだけなんだけど、こう……マップの隅にあるオプションを弄ると……。


「ん?この赤と青の点はなんじゃ?」


「はっはー。ちょっとした裏技?みたいなものかな。最近見つけたんだけど、マップの隅っこにオプションメニューがあってそれを弄るとクエストを発生させてる光点が出現するんだ♪」


「そんな機能があったのか。それでこの赤と青の点は何が違うんだ?」


「さぁ?わかんない。あくまでもクエストを発生させてるNPCを見つけてくれるだけでその説明はどんだけ探しても見つかんなかったんだよねぇ〜」


「え、何?その微妙な仕様……」


カリンちゃんが声を漏らして呟くが、それは言わない約束ってやつだよ!


まぁこれでだいぶ探すのは楽になった筈だから後はちょこちょこっと明日の予定を決めて今日はとことん飲もう!

飲んで呑んで飲まれて呑んで!

酔いつぶれて眠るまで飲み明かそう!


……じゃなきゃやってらんないよ、こんなめんどくさ過ぎるクエスト……。





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