第8話 準備
数日後。
パーティを結成した事によりゴウルが換金してきたアイテムのお金は全てパーティの資源。
金銭管理共有システムによって解りやすくなった。
これはドロップアイテムと倒したモンスターの報酬金が倒した本人に入るのではなく。もう一つのこの金銭管理共有システムへと自動的に入っていくものだ。
ただし例外としてAクラスのドロップアイテムのみ倒した本人へと還元されるようだが、Aクラスアイテムは所謂中ボスクラスの落とすアイテムなので早々手に入るものではない。
さて話を戻すと、リベラムに到着するまでに倒したモンスターのお陰で全員の装備が一新しました。
まずは私。
武器はコルト・M1892。作動方式はダブルアクションのスイングアウト式。これにより、SAAのように撃鉄を手動で起こさず、連続して撃てるようになりました。
そして再装填もソリッドフレームのように一発一発排莢するのではなく、回転弾倉ごと左側に出すことが出来るので一度で全ての薬莢を取り出しスピードローダーを用いれば最速のリロードが可能となりました。
ただ、残念な事にSAAのような早撃ちや威力はありません。
代わりに38口径になったので単純な威力は落ちましたが、精度はかなり上がりました。
なので現在はSAAとM1892の二丁とコンバットナイフ一本が私の武装となります。
防具も一転しました♪
以前までは初期装備のままでしたが、現在は動きやすさを重視したものに一転です。
下からタクティカルブーツに似た『アサシンブーツ』
ショートパンツのような太腿ラインが見える『黒牛皮のパンツ』
上は装備補正としてAGI+2のかかった『アサシン・プレート』とその上から火耐性の付いたコートを装備してる
色は上下黒で統一され背中にはゴウルの考案したシンボルマークが赤く描かれてます。
ちなみに色とシンボルマークは全員共通にして統一感を持たせました。
え?なんでそんなことしたかって?
そんなのカッコいいからに決まってるじゃん。
……嘘です、すいません。ごめんなさい。
確かに各々好きな格好をするのもいいけど、統一感を持たせた方が結果的にメンバーの士気も上がり「自分の居場所がある」って思うことで精神の安定化を図ることが出来るからです。
まぁその方がカッコいいからって理由の方が強いってのも本当だからあながちやっぱ嘘じゃ無いかもです。
それじゃ次、ゴウル君。
ゴウルの武装はウィンチェスター・ライフルに代わり、作動方式がレバー・アクションなのは変わらないけど。
代わりに装填数が14発にまで増え威力も44口径になったのでかなりの高火力となりました!
いや〜、素晴らしいね♪
現代では大型拳銃の弾と変わらないけど、それでも素晴らしい進歩だね♪
んでもって次はシーフ!
私の可愛いペットです!
彼女もSAAからM1892へとシフトチェンジしましたが、予備武装としては大型ナイフのマチェットを装備してます。
一応ナイフと称してるけど、実際はあれ殆ど曲剣とそう大差ないんじゃないかな?
お次はリュー君♪
リュー君はゴウルと同じウィンチェスター社が開発したウィンチェスターM1897に変わったよ♪
水平二連式散弾銃では2発しか入らなかったけど、M1897では内臓マガジンにより装填数が5発にまでグレードアップ!
ただ残念なことにストックはありません……というのもストックをつけているとリュー君の身長的に銃と余り大差がなくなってしまうのでやめました。
大きな銃を引きずる子供のようで見ていて可愛らしいけど、持ってる物が物なので泣く泣く諦めました……。
さぁ最後にお待ちかね!皆んなの小さなアイドル!
爆弾魔のカリンちゃん♪
彼女には私が使っていたSAAをあげることにしました。
本当はM1892の方が良かったんだけど、本人曰く殆ど銃を使わないので別にいらないといわれてしまったからだ。
まぁそりゃそうだよね。
そこそこ離れてるモンスターにはポムを投げつけ、近くに来たらリュー君のショットガンが炸裂してーの。
それで仕留められなくても彼女特製の超極細ワイヤーで動きを封じられてしまう。
ちなみにこの極細ワイヤーは雑貨屋などでは市販されておらず、ポム同様のカリンちゃんお手製のアイテムだ。
リベラムに到着する前にタロットという蜘蛛型モンスターからドロップするアイテム『蜘蛛糸』と金属スライムからドロップする『液体金属』を合成させて作ったその名も『コンスレッド』
耐久値が異常なまでに高いらしく今の所一度も壊れていない。
ちなみにシーフが襲ってきた時には使用したのもこのコンスレッドなんだとか。
んー、カリンちゃんだけなんか少し違う成長の仕方をしている気がするけど……気のせいだよね?
まぁ本人はいたくこのアイテムを気に入ってるらしく、拘束具としてだけじゃなく刃物のように研ぎ澄まされた斬れ味を持たせられないか今現在も試行錯誤で色々なアイテムを試しているらしい。
とりあえず、ざっと説明したけど。
これが今の私たちの現状だ。
Do you understand?Yes or Yes?
勿論Yesだよね♪
そうじゃない人は今すぐ腹切って死ぬか頭蓋を撃ち抜かれるか美少女なら私に身体を差し出すか即刻選択しなさい♪
まぁ冗談はさておき。
今は街のすぐ外でモンスターを倒して各々新調した武器の性能を試しながら手に馴染ませてる。
リュー君はゴウルと共に慣れてないレバーアクションの使い方を一から指南してもらい、カリンちゃんもシーフからSAAの使い方を教えてもらってる最中だ。
え?お前は何してるかって?
はっはっは。そんなの決まってるじゃないですか、四人に邪魔が入らないように出現してるモンスターを狩りまくってます♪
元々スイングアウト方式のリボルバーには手が馴染んでるのもあって私は結構早く慣れることが出来た。
なのでこうやって囮役を引き受けながら自分のスキルを磨くことにしたのだ。
右手にM1892を持ち。左手にはコンバットナイフを逆手に持って再出現する人型モンスター・リザードマンを狩りまくっていた。
リザードマンの武装は皮の胸当てと棍棒だ。
攻撃パターンとしては上段からの振り下ろしと右からの大振りがメインで時々尻尾を振り回す攻撃が来るがモーションが解りやすいので結構簡単に避けれたりする。
ただ問題点が一つ。
リザードマンの表皮は意外と硬い。
鱗がそのまま鎧のような外装になってるので単純なナイフ攻撃だと傷こそ付かない。
銃弾も同じだ。確かにダメージを与えることは出来るけど効果的とは言い難いが、例外もある。
内腿や脇の下。それから顎の下と眼孔などが比較的他の箇所に比べて強度が低かったりする。
なのでピンポイントに狙って攻撃を与えるだけで上手くすればコンバットナイフ一本でリザードマンを撃破できたりもする!
ってなわけで現在二体のリザードマンと奮戦なぅ♪
リザードマンAが最初に上段からの大振りを咬まし、それを左に避けながら背後に回ると膝の裏を斬り裂き地面に両膝を付かせるとそのまま蛇のような顎を上へ向かせて喉にナイフを突き刺す。
リザードマンのHPはみるみる減っていき次の瞬間にはパァンッと結晶が弾け飛んだように消滅する。
だが、戦闘はそれでは終わらない。
もう一体のリザードマンBが突進からの横薙ぎをして来たのだ。
私はそれを横に避けるでも受け身を取るわけでもなく、ただ単純に全力でしゃがむだけでその横薙ぎを避ける。
ギリギリまで引きつけてからのコレは周りから見たら「何してんだあれ?」となるが、実際これをやられた方からすると突然姿が消えるのだから結構ビックリするもんだ。
頭上を掠めるように棍棒が振られていくと銃口を真上に向けて引き金を2回……パァンパァンッ!と銃声が鳴り響き、同時に銃口の先にあったリザードマンの顎下には2発の被弾エフェクトが浮かんだと思ったらリザードマンBは弾けて消えた。
「ふぅ……まぁこんなもんか。お?」
報酬のドロップアイテムとお金をゲットすると見覚えのある項目が一緒に表示されていた。
アクティブスキル『致命撃』
効果:高確率で敵の急所を突き致命傷を負わせる。
消費MP:5
獲得条件:敵の急所を50回突いて倒すこと。
おーっなんか良さそうなのゲットした!
あ、でもこれスキルスロット二つも消費しないといかんのか。
えーっと、今空いてるスロットは。
メニューバーを開いてステータスを確認するとスロットが増えていた。
確か最後に確認した時はゴウルと出会う前で『速戦早撃』を手に入れた時だっけ。
元々スロットは二つ空いてて一つは『乱蹴り』で使って残り二つだったのを『速戦早撃』で埋めちゃったからどれか減らさないといけないと思ってたんだけど、今見てみるとスロットが全部で六つに増えていた。
あ、レベルが上がったからかな?
あんまり気にしてなかったけど、そういえばあれから随分レベルが上がってたことに気づく。
ステータスはゴウルに言われてからちょくちょく振り分けていたけどスロットまで増えると思わず見ていなかった。
まぁ何にしてもこれで新しいスキル『致命撃』を入れることが出来たんだから良しとしよう♪
★
夕暮れ時。
皆んなでこの街についてから毎日お世話になってる酒場で早めの夕食を取りながら明日の作戦会議が始まった。
「それじゃ各人新しい武器の調整は終わったようだし、いよいよ明日狩りに行くよ。怪鳥・クィートを。異論はないね?」
『もちろん!』
四人が声を揃えて肯定し、目を爛々と輝かせている。
そんなに楽しみだったのか……まぁそれは私も一緒か♪
「んじゃ、これまで集めたクィートに関する情報をまとめるね。
まずクィートは日中の草原にしか現れないみたい。
そこで好物の甲虫・ダン虫を食い漁るらしいんだけど、どうもこのダン虫が銃工房を廃止に追いやった原因の一つみたいなの」
「というと?」
「店主に聞いて見たらダン虫の甲殻は特殊な金属で出来てるみたいでそれを加工することで様々なパーツを作ってみたいなんだけど、クィートが巣を張ったことでダン虫は激減。
生態系のバランスを考えて店主は店を閉めたらしいわ。
まぁ元々銃士がいなかったってのもあるみたいなんだけどね」
「なるほどな、そりゃ廃業せざる得ない話だ」
ゴウルが顎髭を弄りながら納得する。
……たまに見る光景だけど、クセなのかな?なんか微妙に様になってるから今まで何も言わなかったけど……。
突っ込んだ方がいい?
まぁどちらにせよ、今話すことではないので後で追求するとしよう。
「続けるね。クィートは全長約5メートルの怪鳥で人の頭ほどある大きな嘴は鉄と同じくらい硬いらしいわ。
全身を覆う甲殻も同様で剣や槍で切りかかっても強度が弱いと武器がダメになるみたい。
それで最後にこれは未確認な上NPCの証言も一人しか取れなかったから微妙なんだけど、どうも『火』を吹くらしいわ」
「……マジですか?」
「たぶんね」
リュー君が若干嫌な表情を浮かべているが、他の皆んなも同様だ。
私だってそうだ。
だっていくら防具の耐久値が以前より上がったとはいえ火炎ブレスを食らって「こんがり焼けました〜」なんてオチにはなりたくない。
「まぁブレスを撃ってくるとしても何かしらの前動作があるはずだからしっかり見極めるためにも最初は間合いを取りながらやってこう!」
『おーっ!』
その後は回復時の援護や自分の持ち場確認などの細々とした打ち合わせを決めてその日は解散となった。
部屋に戻ると私は早速日課となりつつある簡易分解をして銃の手入れを始め、シーフは先にお風呂に入っていった。
ちなみに部屋割りはあたしとシーフが同室でゴウル・リュー君・カリンちゃんは隣の部屋で三人一緒に休んでる。
別に男女で別れても良かったんだけど、何故かリュー君とカリンちゃんから猛反対されてこのような形になったのだ。
そんな気を使わなくてもいいのにね?
しばらく作業に没頭して二丁とも新品同様に磨き上げた所でシーフがお風呂から出てきた。
「ご主人。お風呂空きましたよ」
と、知らせてくれるシーフは昼間のような防具姿ではなく猫の刺繍がはいった紺色の寝巻き姿で現れた。
むぅ……その格好もなかなかに可愛いなぁ〜♪
「あいよ〜。こっちもちょうど終わったし、ゆっくり入るかな。シーフもちゃんと手入れしてあげなよ?」
「もちろんですご主人。でも、その……早く戻って来てくださいね?」
「もちろんっ!!」
ーーかわいいぃぃぃいいっっっ!!
まだお風呂にも入ってないのに頭に血が上り鼻血を吹き出しかけたが、この後の楽しみの事を考えてなんとか衝動的な欲望を押さえ込んであたしは浴室へと入っていった。
いやぁ〜、なんなんだろね。あの可愛さは!
いくら妹成分が不足してるからって自分の最近の節操のなさを自覚し始めていたけど、あの破壊力は半端ない!
だって可愛いんだもん!しょうがないじゃん!
……そういえば月姫は今何してるんだろ?
妹成分で思い出したけど、最近連絡を取ってなかったのを思い出してメッセージ欄を開いてみる。
時々連絡のやり取りをしていたけど、最近はあまり向こうから送ってくる事がなく。あたしからも送ることがなかったので久しぶりな感じがする。
『ヤッホー!元気してる?愛しのお姉ちゃんだよ!
今同じガンマン同士でパーティ組んでてはじまりの街から北に行ったリベラムっていうとこにいるんだけど狐ちゃんはなにしてるのかな〜??
早く返事くれないとウサギは狼になって襲っちゃうから早くしてね!』
「ほい、送信っと」
色々とツッコミどころのある内容だろうけど、気にしない。
何でかわからないけど、こんな感じでメッセージを送ると本当に早く帰ってくるから面白いもんだよねぇ。
湯船に浸かって返信をのんびり待ってようと思ったら割と早く帰っきた。
『久しぶりお姉ちゃん!私もちょうど送ろうとしてたからビックリだよ!』
こういうの見ると流石姉妹だなぁ〜って思える。
『お姉ちゃんもパーティ組めたんだね。良かったぁ〜、あれからそれなりに日も立ってたから心配してたんだけど必要なかったね♪
私の方ははじまりの街から南にあるココロット町にいるよ!
そこでパーティメンバーと一緒にレベリングをしながらお店を開いてます♪』
ココロット……聞く人が聞くと色々訴えられそうな名前の町だね。
あれかな、戦闘民族が作り上げた町なのかな?
今度ゴウル達に聞いてみよっと。
それにしてもお店か。そういうのも開けるんだなぁ……何の店かは聞かない方が良いかな。
月姫のパーティメンバー見ると何となく分かるし。
そういえば月姫ってそれなりにゲーム好きだったからもしかしたらクィートについてなんか知ってるかも、ちょっと聞いて見るかな。
『明日怪鳥・クィートの討伐をするんだけど何か知ってる?』
『怪鳥?!お姉ちゃん怪鳥クラスに挑むの?!』
思ったより早く返信が来たらかなり慌てた様子だ。
そんなに危険な相手なのかな?
『そんなに危険なの?』
『危険なんてもんじゃないよ!怪鳥クラスはパーティメンバーのレベルが平均30は欲しいし、こっちに出た怪鳥クラスのモンスターは五人組パーティ二つで何とか討伐出来たくらいなんだよ?!』
……あれ?あたしらって結構ヤバイ相手に喧嘩売ろうとしてた?
んー。まぁいっか、退却案もいくつか用意したしメンバー全員がお亡くなりになるような無茶な戦闘は毛頭ないしね。
『大丈夫だいじょうぶ。お姉ちゃん達何だかんだ個々の戦闘力は割と高い方だし、安全マージンは十二分取ってるからヤバくなったら逃げるよ』
『本当に?とにかく無茶はダメだからね、お姉ちゃん!』
案外心配性な妹に思わず微笑んでしまう。
本当なーんでウチの妹はこうも可愛いのかなぁ〜ってそういえば今って弟?になるんだっけか。
まぁどっちにしても可愛いから良いんだけどね♪
最後におやすみメールだけ送るとあたしはお風呂から上がって待っててくれてるシーフの元へと飛びついていった。
さて今日は何のプレイをしよっかな〜、猫プレイは最近定番化してきたからワンちゃんプレイにしよっかな?
あ、でもシーフのイメージ的にはやっぱ猫だし……よし、涙目になるくらい焦らして愛でてやろうっと!!
☆
翌日。
まだ陽が昇りきる前の薄明るい景色の中で目が覚めた。
隣にはまだ気持ち良さそうに眠るシーフが横たわり、あたしは何となくその頬を突いて遊ぶとくすぐったそうにする仕草がなんとも愛らしく感じる。
まだもう少しお布団の中で埋もれていたい気持ちを持ちつつも日課の射撃練習をしようと立ち上がると手早く着替えを済ませて町の外へと足を運ぶ。
移動しながら昨晩に月姫から教えてもらった情報を元に皆んなのレベルを確認する。
パーティを組んだことでメニューにはパーティ項目が追加されてタップするとレベル・名前・種族・武装などが開かれるが流石にステータスまでは見れないようだ。
そこは完全にプライバシーに関する問題だから運営側も設定しなかったんだろうな。
ただプレイヤーがステータス画面を可視化してくれると見られるので今のところは特に問題はないけどね。
さてまずはゴウルから見るとレベルはあたしと同じ28レベル。次にシーフが27レベルでリュー君が25レベルのカリンちゃんが24レベルとなった。
まぁこの辺は予想してた通りの結果だ。
基本的に戦闘を熟す上であたしは前に出て戦う事が多いのでレベルは自然と上がり、ゴウルもあたしに比べたら後方に位置するがそれでも攻撃回数を考えるとアタッカーに位置するので高レベルになるのは当然だ。
逆に近接戦向きの散弾銃を持つリュー君のレベルが低いのは常に後方でかりんちゃんの護衛兼援護役を担ってるからに違いない。
そう考えると今シーフのレベルが少し低い気もしたが、今まで一人でこの世界を生き抜いてきたことを考えると妥当なのかもしれない。
パーティの平均レベルは26くらいかぁ……月姫が言うには怪鳥クラスは平均レベルが30は欲しいと言ってたけど、頭数が揃ってたらの場合だろうからあたし達は最低でも平均レベルが35前後は欲しい事によね。
やっぱり少し無謀かな……。
うーん、でも武器との相性ってのもあるから一概にはいえないしやっぱしここは玉砕覚悟で挑んで見るのが一番かな!
そんな脳筋丸出しの考えをしながらあたしは皆んなが起きる時間まで射撃訓練を繰り返し行った。
ーー数時間後。
あたし達はクィートの出現するという北海道牧場を彷彿させる高原に来ていた。
そこには牛や馬の代わりに子羊ほどの大きさがある緑色のダンゴムシがそこら中で日向ぼっこをしている。
事前の調べではあのダンゴムシ。正式には甲虫というカテゴリーのダン虫というらしく武具の素材として重宝されるモンスターだが、討伐するにしても意外と苦労するモンスターのようでまず、あの甲殻は非常に硬い。
試しに五メートルほど離れた位置から発砲したところ被弾エフェクトはあるもののダメージが殆ど入らなかった。
リュー君の持つショットガンでも三メートル圏内で撃ってようやく三分の一のダメージしか入らないから相当なものだ。
そのかわり地面とほぼ密着している腹部の強度は非常に弱い。
SAAを一発打ち込むだけでHPは全損して消滅してしまうくらいなので腹部の強度は豆腐並みと言っていいだろう。その上入ってくる経験値がわりと良い。
ぶっちゃけしばらくここを狩場にして全員のレベル上げをしようかと思ったが、ひっくり返すのに結構な時間を割かれるので割りに合うかと聞かれたら微妙なところだった。
「さてと。警戒エリアに入ったと言う事でクィートが来る前に準備を済ませるよ!
まずはゴウルはあの木に登って周辺警戒をしてクィートが来たら一発撃って知らせてね。シーフは周囲のダン虫を集めてきて。
リュー君はカリンちゃんと罠の設置をお願い。
ただしトラップで使うロープはいつもみたいなダミーを被せた小細工はなくて良いから後でトラップのあるゾーンには赤の杭を打っといてね。
あたしはここで穴でも掘ってるからシーフは集めたダン虫をそこに入れて、リュー君とカリンちゃんはその周りに罠を仕掛けてね。以上、解散!」
『了解!』
ってなわけであたしは早速アイテムストレージからシャベルを取り出して見渡しの良い場所に穴を掘り始め、シーフは掘った穴へと丸まったダン虫を入れたり時折穴を掘ったりしてその周りにリュー君とカリンちゃんがポムを使った地雷トラップをスムーズに設置していった。
それにしても、普通こういう討伐クエストとかってモンスターが待ち構えてたりするもんじゃないのかな?
出現場所がわかるだけまだ良いけど、出現時間すらランダムだなんてリアリティに凝りすぎではないかい?
そんなことを思いつつも一通りの作業を終えたのはそれから一時間ほど経ってからだった。
ーーギュァーー
遠くから鳥でも絞め殺したような鳴き声が聞こえ、同時にゴウルのいる方からパァンッと発砲音が聴こえてきた。
「さて、ようやくお出ましかな。皆んな準備は良い?!」
「もちろんです!」
「待ちくたびれて寝るとこだったわよ」
「ご主人。命令を」
リュー君・カリンちゃん・シーフの順にそれぞれ反応が返ってくる事を確認して武器を手にとっていく。
「よしっ!んじゃババっと片付けて帰ったらお祝いするよ!」
号令と共にあたし達は罠を張り巡らせた広場へと駆け出していった。