第4話 キャラ崩壊?
「はぁ?!まだ振り分けしてない?!」
すっとんきょうの声をあげて横を歩くゴウルが周辺警戒も忘れて怒鳴ってきた。
あたしは小さく「うん」といって答えるとゴウルは呆れたように頭を抱えだす。
「お前さん、よくそんなんでここまでたどり着けたなぁ」
「だって何に振ったら良いのか全然解んなかったんだもん、仕方ないじゃん!」
「んなもん自分のプレイスタイルに合わせてけば良いんだよ!」
酒場でゴウルと組んだ翌日。
あたし達はフィールドの下見と一緒に互いの能力を確かめようと話し合い、フィールドに来ていたのだが、その道中に「何型なんだ?やっぱりAGI特化型なのか?」と聞かれあたしが「何それ」と言ってしまったばかりに盛大なお説教をされてしまっている。
「良いか?ステータスってのはお前さんが考えてる以上に重要なパラメーターなんだ。特に見たところお前さんは人間だから万能タイプに思えるが、STAを定期的に上げていかないと銃が重くて撃つ以前に持つことすら出来なくなるぞ」
「いえ、人間じゃなくて妖です」
「あぁ、妖か。それなら……はぁ?!」
え、なに?なんでそんなビックリするの?
「おまっ!ウソいえ!そのアバターで妖はないだろう?!」
「本当ですよ、ホラ」
あたしはメニューバーから自身のステータス表を可視化してゴウルに見せると「……ホンマや」と信じられないものでも見るような目で凝視する。
「なんかラーミアって種族みたいなんですけど、殆ど人間みたいですよね」
「はぁ〜、変わった種族もいるもんだ。まぁ、妖ならSTAはしばらくは大丈夫だろうがそれでもここらで上げておいた方が良いぞ。その様子じゃ気づいてないようだが、銃のSTA要求はかなり高い方だからな」
「そうなの?」
「武器のステータスを見てみろ。そこに装備するのに必要なステータスとその数値が書かれてるはずだ」
あたしは言われた通りに今装備してる武器。コルト・SAAをタップする。
コルト・シングル・アクション・アーミー。
口径:.45口径
使用弾薬:.45ロング・コルト弾
装弾数:6発
作動方式:シングルアクション
要求STA:15
あ、本当だ。使い方は知ってるからこんなの読むこと自体初めてだったけど、知らなかった。
でもコレって要求値が高いほうなのかな?気になって聞いてみると、だいたい片手直剣の要求値が10前後でナイフみたいな短剣が5くらい。大剣クラスは15〜20が定番らしい。
それを考えたら短剣ほどの大きさしかないこの銃はかなり要求値が高いとみていいだろう。
「たぶん、銃の重さよりも撃ったときの反動が関係してるとわしは思っとる」
「あー、なるほど。確かにそれなら納得できるね」
当たり前過ぎてて忘れていたが、銃は撃つ度に反動ーーリコイルが生まれる。
その衝撃は使用する弾薬によって異なるが、基本的に口径の大きなものほどその反動は強く命中率などに関係してくるのだが、現実では日々鍛錬する事によってその反動を制御できるようになる。
でもここはゲームの世界だ。銃に関しては色々と拘りを見せている運営もこればかりはどうしようもなくSTA要求を高めることによって反動の問題を解決したのだろう。
「でもこれだとあたし達みたいなガンスリンガーは基本的にSTA……でしたっけ?それだげ上げてれば良いってことになりますよね」
「うーん……否定は出来んが他にもいくつか上げておいた方が良いぞ?わしは人間だしどちらかというと狙撃タイプだ。だからSTAよりもHIT・命中率を優先的に上げて次にSTAを上げてる」
「へぇー。(それ以前に人間だったんだぁ、てっきり熊の妖かドワーフかと思ってた)」
「ん?なんか言ったか?」
「いえ、なんでもナイデス。でもそれ聞いたらあたしは前に出て戦うのが好きだからやっぱりSTAとAGIを上げた方が良いんですかね」
「いや、それよりもせっかく妖なんだから種族特性を活かしたらどうだ?」
「っていうと?」
「お前さん本当に何も知らないんだな……妖の特徴としちゃ魔法はからっきしだが、身体能力。特にSTAとVITが他種族に比べて圧倒的に高いんだ。不思議なことにAGIは標準だがな。VITって解るか?」
「(ぶんぶんぶんっ)」
「バイタリティってのは防御力とHPのことだ。前に出るってんならこっちのが良いだろう。AGIを上げて敵の攻撃を全て回避するってんなら話は別だがな」
「VITにします!」
確かに相手の攻撃を全て回避するのは映画の主人公みたいでカッコいいが、流石に初見モンスター相手には辛いものがあるし、何より弾切れになったときの絶望感を考えたら対応出来ない節が多いだろう。
あたしはそれらの意見を組んでVIT−STA型になるよう溜まりに溜まったスキルポイントを振り分ける。
「よし。それじゃ振り分けも済んだ所で狩りでも始めるか」
「はい♪ あ、丁度いいとこにモンスター来ましたよ。どっちから殺ります?」
視線の先。目測で20メートルほど先に蝶の羽を生やしたカエルがポップするのが見えた。
今日は互いの能力値を見るために来たからこの辺りでは比較的に弱いバタガエルというモンスターだ。
羽を生やしてる割には飛ぶことができないが、一回の跳躍力が半端なく高いし、攻撃方法が下を伸ばして来るから気持ち悪くて仕方ない。
「わしから行こう。此処に来る途中で面白いスキルも手に入れたから試してみたかったんだ」
「じゃあ、お手並み拝見ってことで」
そう言ってゴウルは一歩前に出ると肩にかけていたスペンサー銃を下ろし片膝をついてバタガエルに狙いを定める。
「スキル『必中速射』」
何かスキルを発動したと思ったらーーガンッガンッ!とレバーアクションライフルではほぼ絶対にあり得ない速度で.56-56スペンサー弾が銃口から放たれバタガエルの急所である眼球に全く同じ場所に弾が着弾しバタガエルはそのまま弾き飛んでしまう。
ーーはい?
あっけに取られたあたしは口をあんぐりと開けて呆然としてしまう。
「ふむ。まぁ使えるなこのスキル」
感触を確かめたようにゴウルが呟くのを見てようやく我に帰った。
「え?何今の??」
「『必中速射』っていうアクティブスキルだ。排莢無しで2発。全く同じ軌道に弾丸を打ち込められるが、射程が25メートル以内で撃ち終えると3秒間の硬直があるしMPも半分以上持ってかれるから使いどころが難しいんだ」
「はぁ〜、それでも便利なスキルだねぇ。出現条件は?」
「30秒以内に同じ場所に3発。それを20回繰り返すらしい」
「………絶対に無理だ」
ここに来る途中で手に入れたスキルと言ってたから恐らくスプリングフィールドM1873でそれを成し遂げたということだ。装弾数が1発しかないのにそれを30秒で同じ箇所に3発撃ち、それを20回も繰り返す?絶対に無理だ。少なくともあたしには出来ない。
そう思っていいるとゴウルは「慣れだよ」と一言で済ませてきた。ーーゴウルさんマジパネェっす。
「そ、それじゃ次はあたしだね」
気を取り直すと同じ場所にバタガエルが二体いるのを見つけた。
「手伝おうか?」
「ううん、大丈夫。そこで見ててね」
数が多かったので気を利かしてくれたのだろうが、今までこんな状況しかなかったのでまだまだ余裕だ。
バタガエルに近づいていくと5メートル付近でようやくバタガエルが攻撃を仕掛けてきた。
あたしは最初の攻撃を避けると新たに手に入れたアクティブスキルを発動させる。
「スキル『速戦早撃』」
刹那。
ガガガガガガンッ!ーガガガガガガンッ!
6発と6発。計12発の銃声が鳴り終わると同時に二体のバタガエルの全身に赤い被弾エフェクトが写り、ガラス細工のように弾き飛んだ。
「ふぅ〜、上手くいった」
安堵の息を漏らしつつあたしは空になったら薬莢を出して新たに弾を込めながらゴウルの元に戻っていくとゴウルは「(ポカーン)」と口を開け目を見開いて驚いていた。
先ほどの仕返しではないがあたしは渾身のドヤ顔を見せる。
「な、なんだ今の?」
「ふっふっふー♪ 『速戦早撃』っていうあたしの切り札です」
「なんというか、凄まじいな。一瞬マシンガンでも撃ったのかと思ったぞ。一体どんな出現条件だったんだ
?」
「えーっと、確かリボルバーを二丁所持して一丁を3秒間に6発。それを50回繰り返すのが条件ですが、発動条件として敵の攻撃を一度受けるか回避しないと発動出来ないんです」
「……お前さんリアルじゃガンマンだったのか?」
「さぁー、どうでしょ?」
本当はただのサバゲーマニアですとはとてもじゃないがいえないし、リアル情報の開示はここではマナー違反になるから伏せておこう。
でも一時期本気でリボルバーには惚れ込みサバゲーでハンドガン戦があった時はよくリボルバー一丁で無双したものだったなぁ、敵を見つけた瞬間に撃ってたらいつの間にか早撃の名手的な扱いをされてたっけ。
そんな懐かしの事を思い出しているとモンスターが新たに出現し、あたし達はドンドン狩りを続けていく事にした。
☆
夕方になると狩りを終えて狩りの成功と自分たちへの労いの為に酒場へと足を運んでいった。
店内は相変わらずNPCの店主と客だけでプレイヤーはあたし達だけだったが、それでも話はハズんだ。内容は今まで狩りをした中で一番最悪だと思ったモンスターの話だ。
「南側にオーグルっていう人と豚が混ざったようなモンスターがいるんだが、間違いなくありゃ運営が仕掛けた嫌がらせだと思っとる」
「どうして?」
「奴らは自分たちのHPがギリギリになると体を自ら膨張させ弾け飛ぶんだ」
「え。それって自爆するってこと?」
「あぁ、だが普通の自爆と違って例えゼロ距離で爆発されてもHPは1ミリも減らん」
「なら下手にダメージくらうよりかよっぽど良いじゃないですか」
「あぁ。何もなければな。でも南側のプレイヤーはオーグルを絶対に嫌う。例え最強の装備で身を固めてても絶対に挑みたがらないんだ。どうしてだと思う?」
「?」
HPギリギリで自爆するけどダメージは負わない。それでも誰も挑みたがらない?なんで?
ひょっとして自爆されたらドロップアイテムも報酬金額も貰えないからかな……うん、たぶんそういうことだなきっと!
「ドロッ……」
「残念外れだ。ドロップアイテムも報酬金もしっかり貰える」
……先に言われた。まだドロッしか言ってないのに……。
「じゃあ何でですか?」
「正解はな、臭いんだ」
「臭い?それだけですか?」
「あぁそれだけだ。でもなお前さんが考えてるもの以上に酷いぞ。
シュールストレミングって知ってるか?あの世界一臭い食物で有名なやつ」
「そりゃ……名前だけなら」
「奴らは自爆すると同時にそのシュールストレミングを約6,000倍濃縮させた原液を霧状に散布させ、プレイヤーの衣服や髪に武器。もっといえばプレイヤーの体内にまで侵入し悪臭を撒き散らすんだ」
「………うぁ」
以前、テレビのバラエティ番組でお笑い芸能人が罰ゲームでそのシュールストレミングを食べるというのを見ていたが、その人はカメラが回っているにも関わらず盛大にゲロを吐き出して相方やカメラマンさんまでもが余りの臭さに失神すらしていた。
そんな生物兵器とも言えるものを6,000倍に濃縮?しかも霧状に?ーー考えただけで寒気しかして来ない。
「オマケにコイツの最も最悪な所は臭いが取れず、そして伝染することだ」
「……………Oh」
「臭いの付いたプレイヤーが街へ入れば他のプレイヤーは疎かNPCにまで伝染しちまって街は一時大混乱になった。でもすぐに解決方法が見つかった」
「おぉ!」
やったじゃん!バイオハザードは回避されたじゃん!
あたしは声を上げて喜びそうになったが、そう思ったのも束の間だった。
「オーグルの……その、睾丸を食べることで臭いを消すことが分かったんだ。でも睾丸は散布される前の……つまり核融合炉みたいなもんでその臭いの濃縮率は倍以上って話だったんだ……」
「…………………………………」
「…………………………………」
「……………………食べたの?」
「……………………………おう」
「どうだった?」
「……………死んだ方が良かった」
「そっか…………」
「おう……………」
もう何も言えない……誰か、助けて下さい。
楽しい会話から一転してお葬式も良い雰囲気になってしまった。
ーーーどうしよ。
「すんませーん、やってます?」
「は?」
お葬式の雰囲気から更に一転して入り口からまるで近所の居酒屋にでも顔を出すような声が聞こえ、思わず声にだしながら振り返ってしまった。
入って来た子は黒い外套を頭からすっぽりと被っていたが、その奥であたしと眼が合うと小さく「ひぃっ!」と一瞬怯えたような声を出して後退するが、すぐにその後ろからもう一人の来客に背中を押され転びながら入店する。
「うわっ、ちょっと大丈夫?」
ハデに顔面からベチャっていう効果音でも鳴りそうな勢いで転けたので流石に心配して転んだ子に近づく。
転んだ子は「だ、大丈夫です」といって起き上がると被っていた外套を下ろし中から……男……いや、男の娘が現れた。
パッチリとした二重の大きな瞳は妖艶な紫色をして、髪は白と黒が交互に入り混じったゼブラカラーをしている。
小柄な体格はひょっとしたらあたしよりも小さく、まるで中学校上がりたてのようなオドオドしささえ感じる。
ーーヤヴァイ、何この可愛い生物。持ち帰って良いかな?
良いよね、良いですよね??
あたし、シグこと小夜鳴時雨は実はシスコンであると同時に無類のショタコンでもある。
というかぶっちゃけ可愛いけりゃ例えそれが男であろうな女であろうが関係ない。何故なら『可愛い』とはこの世で唯一絶対の『正義』!
この世のありとあらゆる欲求と欲望は全て『可愛い』で満たされ、超常現象すら乗り越えて万物の法則をも揺るがす物だと確信している!
つまり、たった今出会って10秒も立っていないのに目の前の少年を抱きしめ頭を撫でていてもなんら問題もなく。
むしろそれはベンチで昼寝をしている猫を愛でるように自然な触れ合いであることに相違ないであろう。
「ってそんなわけないじゃない!離れなさいよ!」
「あっ何すんのよこのッーー!」
それ以上言葉が出なかったのは先ほど、この健気な少年を突き飛ばした子が天使ーーいや、一周回って小悪魔のような真紅の赤い髪と瞳がとても似合う正に美少女だったからだ。
ーースクッ……スタスターーガシィッ!!
「は、はぁ?!?!ちょっ、突然何よ?!いやっそこ触らないで!!」
「はあぁぁあっ!可愛い!!なに?!なにこの可愛い子達?!うわっホッペぷにぷに〜っ♪ ねぇねぇ、もっと触らせて!っていうか愛でさせて!」
「ちょっ!だから変なとこ触らないでってたらっ!い、ちょっとリューッ!助けなさいよ!!」
「えっあ、う、うん!」
ーーガシィッ!
「うわぁっ!?」
「そかそかー、リュー君って言うのかぁー♪ リュー君も可愛いよ〜!あ、お姉さんはシグっていうの。気軽にシグ姉ちゃんって言ってね♪」
この時、暴走するシグを止めれる者など誰もいなかった。
「…………」
ただ一人その様子をただただ呆然と見つめることしかできなかったゴウルが介入したのはその後しばらく後のことだった。
☆
「えーっと……改めまして銃士のシグです。その……さっきはゴメンね?ちょっとお姉さん暴走しちゃいました」
ゴウルから特大のゲンコツ(村の中は基本的に安全エリアでダメージはありません)を貰い、落ち着いたあたしはようやく正気を取り戻して深々と二人に謝罪する。
ーーいや、本当はあそこまでするつもりじゃなかったんだよ?
でもね、最近妹成分が足りなくてちょっと暴走しちゃって……悪気があったわけじゃないんだよ。だからその……怯えた顔で見ないで下さいお願いします。
二人はすっかり怯えきった様子で肩を寄せ合っている。
今はゴウルが気を効かせて間に入っているが、目を合わせてるとゴウルを盾にする始末だ。
「はぁ……すまんな。わしも昨日からコイツと組みだしたんだが、あんな姿を見るのは初めてで止めるのが遅くなった」
「ぅう……」
「いえ……止めて頂いただけでも十分です」
「わしはゴウルってもんだ。コイツと同じ銃士だ」
あぁ、完全にあたし置いてけぼりだ……でも怯えるリュー君。可愛いよ〜♪
「やめんか。しばらくあっち行ってろ」
「そんなっ!」
「行ってろ」
「………はい」
ということであたしはトボトボ一番奥のカウンター席で一人寂しく酒を飲んでいることとなった。
ーーあれ〜?おかしいなぁ。一応この物語の主人公だよね?あたし……。
「それでお前さんたちは……?」
「えっと、僕はリューって言います。種族は妖で堕天使です。銃士をやってます」
「私はカリンって言います。リューと同じく銃士で種族はダークエルフです」
うむうむ、堕天使にダークエルフか。
ん?ダークエルフ??
はて、そんな種族あったっけ??
聞き耳をばっちり立てているとそんな疑問が頭に浮かんできた。
そしてこれにはゴウルの旦那も気づいたようで同じように首を傾げている。
「ダークエルフ?」
「はい、ダークエルフです。何故か解らないんですが種族名にそう書いてあったんです」
「?。すまんがちょっとステータス見させてもらっても良いか?」
「はい、もちろんです」
カリンはそういってステータスを可視化させゴウルに見せる。あたしもこっそ〜り覗かせてもらうと……なんだこりゃ、DEXってのとAGIが極端に高いぞ?
AGIは今朝ゴウルに教えてもらったから解るけど、DEXってなんだろ?首を傾げる首を更に傾げているとそれに気づいたゴウルが教えてくれた。
「DEXってのはデクステリティっていって器用さのことを言うんだ。エルフは元々DEXとHITが高いから弓を装備する奴が多いんだが……こいつはHITじゃなくてAGIが高いな。そういう風にしたのか?」
ゴウルはカリンがHITよりもAGIを上げたのかと思い訪ねてみたが、答えはノーだった。カリンもあたし同様に余りゲームはやったことがないらしく、元々高かったものをそのまま上げていったというのだ。
つまりエルフとダークエルフは同じ種族でありながら別の異なる存在ということになる……のかな?よく解らないけど手が込んでるということは言えるね。
「本当はエルフになって中遠距離からの狙撃をしたかったんだけど、このステータスだったから諦めてトラップ仕掛けを専門にしてます」
「「トラップ??」」
「はい♪」
カリンは笑顔のまま答える。
「武器はデリンジャーを使ってますけど、これはあくまで護身用で殆どはコレを使ってます」
コトっとカウンターにカリンが載せたのはなんというか、学校の理科の実験で使うフラスコのミニバージョンのような物で中に無色透明の液体が入っておりそれをワインのコルクのような物で栓をした物だった。
あたしとゴウルは初めて見るアイテムに興味津々といった様子で観入ってしまう。
「これは?」
「私が調合した爆弾です♪アイテム名はポム。そんなに小さくても直撃したらモーンくらいなら一撃で倒せちゃうくらい凄いんですよ♪」
「「なぁっ?!?!」」
あたしとゴウルは手の上でコロコロ転がしたり投げる素振りをして遊んでいたが、それを聞いた瞬間落としそうになったのを慌ててキャッチして全身に冷や汗が吹き出た。
それもその筈だ。カリンが言ったモーンという牛型モンスターは高い突進力に加え見た目以上に素早くHPが「これもう中ボスじゃね?」ってくらい高い初見殺しで有名なモンスターだ。
それを一撃で倒せる破壊力をこの小さなフラスコが秘めているというのだからこれを慌てるなという方が無理な話だ。
小さくて可愛いネーミングとは裏腹に恐ろしいアイテムだ……。
「し、しかしどこでそんな強力なアイテムを手に入れたんだ?雑貨屋に行っても見たことがないぞ」
震えるゴウルの言葉に同意する。
あたしだって雑貨屋に行き、欲しいアイテムやどんな物があるのかを一つ一つアイテム名からその用途まで読んで購入しているし、その全てを覚えてる。
でもポムなんて名前のアイテムは見たことも聞いたこともない。
あたし達の疑念にカリンはまた自信に満ち溢れた笑顔ので答える。
「雑貨屋には売ってません。これはあたしが作った物なんですから♪」
「「はぁあ?!作った?!」」
再び店内にあたし達の絶叫が鳴り響いた。
聞けばDEXを上げている内に『アイテム作成スキル』なるものを習得し、以来時々その辺の草をむしり取るとそれがオブジェクト化してアイテム名と共にストレージに入るのだという。
そしてストレージに入ったアイテムをタップするとそのアイテムと別のアイテムを調合し新たなアイテムが誕生するようになったというのだ。
新アイテムにはアイテム名だけが載っていて使用方法や効果などの説明は一切なく最初は何なのか解らなかったが、街を出てアイテムをオブジェクト化した時に手が滑って落としてしまった時に爆発し瀕死の重傷を負ってからそれが何なのかを知ったらしい。
「………災難だったねカリンちゃん」
「大変だったなぁ……ちなみに合成したアイテムはなんだったんだ?」
「確かニトリング草とセロ石を混ぜ合わせました」
ニトリング草?セロ石?
どれも聞いたことないアイテムだけど……凄く聞き覚えがあるのは何でだろ?
うーんっと頭を捻っているが結局解らずあたしは考えるのもそこでやめる事にした。
ついでにいうとゴウルも同じように引っかかっているようで未だに頭を捻っている。
「けっこうその辺で採れるんで武器は銃よりもこのポムを使うことが多いんです」
「ヘェ〜、それじゃカリンちゃんはボマーだねボマー!」
「まぁそんな感じですかね。個人的には罠師とかトラップマスターって感じだったんですけど……」
「でもメインはその子なんでしょ?だったら爆弾使いとか爆弾魔の方がしっくりくるでしょ」
「爆弾魔……イイかも」
うん、爆弾魔はギャグのつもりで言ったんだけど……まぁ気に入ってくれたならいっか!
小声だけど小さく「ボマー♪ボマー♪」って呟くカリンちゃん可愛いしちょっと中二ちっくなのも逆にプラスポイントだから結果オーライってやつだよね♪
さて、次はいよいよ本命のリュー君だぁ!
「そ・れ・でっ!リュー君は何使ってるのかな?♪」
ずいっと光の速さで奥のカウンター席から移動してリュー君の隣に移動するが、つい今しがたまでルンルンだったカリンちゃんの目がギラリと狩人よろしく睨みを効かせあたしとリュー君の間にポムをコロコロっと転がしてきた。
……むぅ、流石にガードが堅いなぁ。やっぱり最初の印象が悪かったからかな?
あーっセーブポイントからやり直したぁーい!!
「カリン……これって僕にも被害及ぶよね?」
「ふんっそれくらいなんとかなさい」
「酷いなぁ……ごほん、えっと僕はこいつを使ってます」
「……リュー君ってエグイの使うんだね。お姉ちゃんちょっと引いちゃうなぁ〜」
さっきまでなら無条件でリュー君に抱きつきたい、飛びつきたいの一心だったが出された武器を目の前に表情の笑みが引きつってしまう。
「水平二連式散弾銃。それも銃身と銃床を切り落としたソードオフモデルか、引金は……両引きか。どこで手に入れたの?始まりの街にこんなゲテモノは無かったはずだけど……」
「僕たちは始まりの街から西へ行ったゴーンという村からここに来たんです。こいつはその村の武器屋に売ってたんですけどその時は通常の鳥撃ち用で使い回しが悪かったから鍛冶屋で切り落としてもらったんです」
「なるほどねぇ〜、だから鳥撃ち用のショットガンを対人用にモデルチェンジしたんだ。でも何で?」
散弾銃ーーつまりショットガンは他の銃火器とは全く違う。
通常、拳銃にしろ自動小銃にしろ銃口からは一発の銃弾しか出ないが、散弾銃はその名の通り弾薬である一発のカートリッジ内にパチンコ玉サイズの鉛玉やそれよりもう一回り小さなBB弾サイズの粒が数十〜数百個も詰められている。
それが発砲と同時に銃口から一斉に飛び散り、拡散して獲物を捉える武器だ。
リュー君が使う水平二連式散弾銃はその昔、貴族たちのスポーツとして作られた鳥撃ち銃で長めのバレルは撃った直後に弾がすぐに拡散せずある程度纏まった状態で獲物を仕留める為の物。
ストックがあるのは銃を安定させ撃ちやすくする為だ。それなのにリュー君は自らその二つを邪魔だと判断し鍛冶屋で切り落としてもらったと言うのだから不思議に思うのは当然だろう。
「ゴーン周辺の村にはラッドというウサギくらいのモンスターが一度にたくさん出るんです。ラッド単体では攻撃力は低いしHPも少ないので大した脅威にはならないんですけど、それが一度に十体近く出現しますし動きが見た目通り素早いので離れて一体を倒すよりも近ずいて一度に複数のモンスターにダメージを与えて倒す方が効率良かったんです」
そこまでの説明を聞いてあたしは「あぁ、なるほどね」と納得する。
あたしが使うコルトSAAが点攻撃とするならショットガン。特にソードオフモデルは弾の拡散性が高く避けようのない面攻撃が特徴だ。その分有効射程距離は短くなってしまうが、半径数メートル圏内の敵は一瞬にしてミンチか肉塊間違いなしの代物だ。
くぅ、可愛い顔して本当エゲツないの使うなぁ〜、これが堕天使の力ってやつなのかな、かな?
「じゃあ、ステータスはSTR−VIT型なのかな?」
「最初はそうしてたんですけど今はAGIをメインに上げていますからどちらかというとAGI−STR型ですかね」
「ほぉ!そりゃまた何で?」
「んー、何でって言われるとちょっと困っちゃうんですが……強いて言うなら僕のプレイスタイルがヒット&アウェイスタイルですからかね。それにこの銃は見た通り二発しか撃てませんから自然とこっちのがしっくりくるようになっちゃたんです」
リューは「えへへ」っと照れ臭そうに笑い頭に手を乗せる。
あー、やっぱり可愛いなぁ〜。本当持って帰れないかな?もちろんカリンちゃんとセットで!
……まぁ冗談はさておき、一通り二人の武装や戦闘スタイルにステータスタイプも聞いてみたけど、なんと言うかいい感じで欲しかった役割の子達が揃ったな。
FPSゲームみたいに割り振るとしたらあたしとリュー君は突撃兵。カリンちゃんは工作兵。ゴウルは狙撃兵といった所だろう。これで汎用重機関銃か軽機関銃を持った援護兵なんかが現れてくれたら尚良いんだけどなぁ〜、流石にそこまでラッキーは続かないよね。
(まっいざとなったらあたしがなれば良いだけの話か♪ それに実際の戦闘も見てからじゃないと何とも言えないけど、このメンバーならアレを倒すことも出来るかな)
「あの……」
「ん?どったのリュー君♪」
「シグ……さん達はどんなの使ってるんですか?」
「あ、忘れてた。ごめんね、二人にだけ話させちゃって!あたしはーー」
その後、あたし達も二人に自己紹介を済ませ簡単な食事をしてからだいぶ時間も過ぎていたようですぐに宿屋に戻って休むことにした。明日から二人にはこの村と出現づるモンスターとか色々説明しなくちゃいけないからちょっと大変だけど、やっぱり一人でいるよりずっと楽しいから良しとしよう♪
投稿が大変遅れてしまい申し訳ありませんでしたorz
最近リアルで色々と忙しくなってしまった上にショッキングな出来事との遭遇の連発で……まぁ言い訳なんですけどね笑
とにかく出来るだけ投稿できるよう頑張っていきます!