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I’ll be back!  作者: ブロンズ
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第2話 Cold earth

あたしは今何をしているのだろうか……?

いや、初めてのVRMMORPGに参加し妹の月姫。この仮想世界ではフォックスと名乗り男性アバターを使用している。そんな彼女(かれ)にネットで知り合った仲間と共にオフ会……いや、一応ログイン中だからオン会になるのか?

ううん、そんなことはどうでも良い。重要なのは集まってるプレイヤーだ。


「ねぇ、アキさん遅くない?」

「人が多くて困ってんだろ」

「道に迷ったとか?」

「マップ表示出来るじゃんwww」


一見、楽しそうに男女が目の前で話してるどこにでも見られる普通の光景のはずなのに……はずなのに!!

全員リアルじゃ男女性別逆ってどうなのさ?!

そう、あたしは今ネット用語で言うところのネカマプレイヤーの集団と共にお茶を飲んでいた。

ログインしてから僅か15分足らずでまさかこんな濃いプレイヤー集団と行動を共にするとは夢にも思わなかった。

もう既にショックと衝撃を乗り越えて「まぁゲームの楽しみ方なんて人それぞれだしなぁ」と諦めの境地に達しているくらいだ。

そんな事を考えていると再びーーカランッと聴き心地のベルが店内に鳴り響きまた一人、御仲間(ネカマ)が来店した。


「おまた〜♪」

「あ、やっと来た〜!」

「アキ姐さんが最後ですよ♪」

「あらやだ。アバター作るのに手間取っちゃってたいへんだったのよねぇ〜」


完全なオネエ言葉で登場したのはーーなんというか、想像していたもの以上に凄まじい人物だった。

身体(ボディ)は完全に人間の男性アバターなのだが、どこで手に入れたのかその顔はフルメイクが既に完了しており、オカッパ頭の髪は真っピンクに染め上げ、指先のマニキュアは赤紫色をした派手な感じに仕上がっている。

あたしは初めて見る珍獣を目の当りにしたかのような反応をしていると、そのオカマことアキ姐さんと呼ばれた人と目が合うや、ズンズンと近ずいてきてはじぃ〜っとガン見してきた。

(え?!なに、なに?あたし何かした??)


「えっと……な、何でしょうか?」

「ふむ。貴女なかなか良い素体ね、磨けば光る素晴らしい素材だわ♪」

「は、はぁ……ありがとう、ございます?」



え?結局この人は何が言いたいの?頭に『?』を浮かべ隣にいる月姫に助けを求めるが、月姫からはこれまたどうしてか、グッジョブ!と親指を向けられるだけで他のメンバーの方も見渡すが、皆んな何故かニコニコと聖母のように微笑んでいる。

ーーもぉなんなのさ!?宗教?宗教なのかこれ?!


困惑する中ようやく月姫が口を開いた。


「さて、じゃあアキ姐さんも来たことだしそろそろ行きますか♪」

「えぇそうね、早くしないと良い狩場はすぐに埋まっちゃうしね」


月姫の言葉に賛同するようにアキ姐さん?が率先して行動する。他の人達も席を立つとスタスタと先行するアキ姐さんについて行った。

あたしはよく解らないまま、場の流れに身をまかせるようにして他メンバーの後ろについていくと、隣に月姫が近寄ってきた。


「どう?お姉ちゃん。これが私の仲間だよ♪」

「いきなりどうって言われても……正直反応に困る一方だわ。あたしはてっきり最初からつ……フォックスと二人でプレイするのかと思ってたのに」

「ははは。ごめんね?本当はそうしたかったんだけど、どうしても彼らと一緒にやりたかったんだ」

「ふーん……彼らとはどこで?」

「『トランス』で知り合ったの」


ーートランス。

それはダイジェストが一般にも普及し出した頃にオルトロ社が販売したコミュニケーションゲームのことで、主に月姫のような障害者向けに普及したゲームだ。

ストーリー性は全くと言って良いほど無くプレイヤーが仮想世界に作られた街の中で数人〜十数人のグループを作り街中を探索したり、ゲームをしたりして遊ぶ他者とのコミュニケーションのみを目的としたゲームだ。

しかし身体の不自由な障害者からしたら正に奇跡のようなアイテムでその上ダイジェストは別料金だが、トランスは障害者の人だけほぼ無料で販売していた為に文字通り飛ぶように売れていった。

ダイジェスト・トランスをプレイした人からは日夜感謝の言葉が送られテレビニュースでも連日報道されるなどしてダイジェストの知名度は非常に高くなっていった。

これにより各医療機関がダイジェストに注目し医療分野にもっと役立てるのではないかと今最も注目されオルトロ社と共同して新たな医療分野を確立しようとしいている。


あたしはその一言を聞くとそれ以上は何も言わず納得する他なかった。

トランスは障害者にのみ販売されたゲーム。一般プレイヤーができるのは『トラベル』という内容は全く一緒だが、別のゲームだ。

つまりここにいるメンバーは少なくとも月姫の痛みを解り、共有できる仲間達だ。

そのことを理解すると自分の居心地の悪さと共にそれ以上の安心感が得られた。


「そっか。じゃあ、あたしはしばらくソロ狩りでもしてるよ♪」

「えっ……そんなこと言わないで一緒に行こうよ!」

「まぁそのうちね、今日の所はみんなといなさい。なんたってゲーム開始初日なんだからさ♪」

「うぅ……ありがとう、おねぇっ痛ッ?!」

「こーら、ここじゃあたしはシ・グ!でしょ?」


さっきの仕返しとばかりにデコピンして注意してやると「人のこと言えないじゃん〜」と恨めしそうに睨んできたが、知らんぷりを決め込む。


「あ〜ら?二人してなーに楽しそうにしてるのよ、私も混ぜて♪」


とまるでタイミングを見計らってたかのようにアキさんが割って入ってきた。


「いえ、なんでもないですよ♪ それよりアキさん。あたし別件がありますからそろそろ行きますね」

「あら?一緒に行くんじゃないの?」

「いえ、あたしはそこのフォックスに誘われて紹介されただけですから」

「ふむ……?あぁ〜そういうことねぇ。ふふ、じゃあ気が向いたらいつでも私たちのところに来なさい♪ 貴女ならいつでも歓迎よ♪ あ、そうそう。ついでにフレンド登録もしちゃいましょう」

「はい♪」


そういうや否やアキさんからフレンド申請が届き、あたしはそれを承認する。これで相手にも承認通知と申請伝達ができたはずだ。


「それじゃ、また今度!」

「はぁ〜い、またねん♪」

「ばいみ〜」

「またね〜」


別れ際にまだ殆ど話していない人からも別れの挨拶をされてびっくりしたが、すぐに笑顔でそれに応える。



月姫たちと別れ最初に向かったのは道具屋。所謂アイテムショップだ。ここで回復アイテムやなんかを買っていくことにした。


「すみませーん」

「はい!いらっしゃい!何をお求めで?」


NPCの店主に話しかけるとメニューウィンドウが開き色々なアイテム名が表示されその横には値段と所持数も表示された。購入するアイテムをタップしていきながらアイテムの効果説明も読んでいくと、気になるアイテムがウィンドウに表示されていることに気がついた。

それは41short弾と書かれた銃の弾薬だ。当然の事ながら、弾薬は使う銃によって異なる。

この41short弾はちょうどあたしが今装備しているデリンジャーの口径なので買わないといけないのだが……1つ500Nr(Nr=ニル・円のこと)って高くないかな?

今日が初めてのログインなため当たり前なのだが、1500Nrとバリバリ初期金額だ。

回復アイテムが平均50Nrとまぁまぁ妥当な数字に対して弾薬の値段は明らかに高い気がする。

(でもこれ買わないと何も出来ないしなぁ〜……しょうがない、節約しながら使うしかないか)

ため息混じりにあたしは購入ボタンを押すとNPC店主から「毎度あり!またきてくれよな!」とお決まりの一言を貰いその場を去っていく。

今回購入したのはHPポーション×5個 MPポーション×5個 41short弾×1箱で締めて1000Nr。残高残り500Nr……めちゃめちゃギリギリだなぁ。弾薬は1箱に100発入ってるけど、これがどれだけ保つものかな。


「はぁ……でも元取れるだけモンスター倒せば問題ないよね、うん!がんばろ!」


そう思ってあたしは再び街の外へと通じるフィールドへと駆け出していった。


外に出るとそこは草原が広がる場所で多くのプレイヤー達がパーティを組んだりしてモンスターと戦っていたが、他の人に見られるのは嫌だったので街から少し離れた場所まで移動することにした。


「んー、ここでいいかな?」


草原と森の中間くらいまで来ると右足のレッグホルスターにそれまで収まっていた銃を抜く。

デリンジャーは上下二連銃身中折れ式拳銃と呼ばれる装弾数2発の銃だ。

有名な話しだとリンカーン大統領暗殺事件に使われた銃として知られているが、この銃には色々と不便な所が多い……一つは装弾数の少なさ、二つ目は安全装置セーフティが無いためトリガー・プル(引き金を引く力)が10kgもあること、三つ目は零距離射撃をしなければならないことだ。

装弾数が少ないのは銃の設計上仕方がないし、この世界でなら重いトリガー・プルもあまり関係ないと思うが零距離射撃をしないといけないのは流石に厳しいかもしれない。

本来『銃』とは自身から遠く離れた位置にいる標的を殺す為の道具だ。だから装弾数が例え1発だけであっても剣で挑んで来る相手に距離さえとっていれば負ける事などあり得ない。

それならデリンジャーでも距離をとって挑めば良いじゃないかという話になるが、残念ながらデリンジャーに関してはそうはならない。なぜならデリンジャー自体が非常に小型の拳銃なためそれに合った口径の銃弾を作ると威力も弱くなってしまうからだ。

デカイ銃にデカイ銃弾がくっつけば例え1km先の分厚いコンクリートの壁も装甲も撃ち抜き破壊できるが逆を言えば小さい銃に小さい銃弾が合わさっても5m先のレンガ一つ撃ち抜けずヒビが入る程度にしかならない。唯一レンガを撃ち抜く方法があるとしたら零距離しかないのだ。


だから今回はボクシングでいうヒット&アウェイ戦法で行こうと思う。

つまり接近→発砲→再装填→接近→発砲→再装填の繰り返しだ。

まだモンスターが出現ポップしていないのを確認するとメニューバーからアイテム欄にある41short弾を選択しそれを具現化すると赤色の箱が現れ、箱を開けると弾薬がビッシリ詰まっていたのでとりあえず2〜30発ほど抜いて右ポケットに入れる。これですぐに再装填が出来る。


そのまましばらく待っているとようやく一体のモンスターが出現ポップした。

それは子供くらいの大きさをした緑のゴブリンで手には棍棒を持ってこちらを睨み付けている。


「うぁ、リアル〜……なんか気持ち悪いなぁ。まぁいいや♪」


あたしは銃を両手で構えると試しに1発だけーーパァンッーー発砲した。

しかし、いくら小口径の銃でも初めて撃つ銃の反動リコイルで手ぶれをしたせいでゴブリンには当たらずに終わってしまう。


「あ〜、やっぱダメか。練習しないとな」


そんなことを言っている内に攻撃をされたゴブリンが怒って突進してきた。

見た目は子供サイズのゴブリンだが、動きが俊敏であっという間に接近されてしまう。

でも、元々接近する予定だったから手間が省けたというものだ。


「ギィイッ!」


あたしはゴブリンがジャンプして頭上から振り下ろしてきた棍棒を右に避ける。そして滞空状態のゴブリンの頭部。こめかみの部分にデリンジャーの銃身をゴリッと押し付けパァンッと残弾の1発を撃ち込む。

乾いた音が鳴り響く中、撃たれたゴブリンはHPを半分まで一気に削られて左へと吹き飛んでいく。

撃ち尽くしたデリンジャーから銃身を内側に折り曲げ空薬莢を排出しポケットから2発、新しい弾薬を再装填リロードしようとするが、撃たれたゴブリンが体勢を立て直す方が早く再び突撃してきた。


「っくぅ、のぉお!」

「ギギィイッ?!」


あたしはリロードを途中で止めると突撃してくるゴブリンのタイミングに合わせ、右脚を軸に左脚で回し蹴りをゴブリンの胴体部に食らわした!

これでもダメージ判定はあるようで、ゴブリンのHPが若干ながらも減少するのが見えた。

吹き飛ばされたゴブリンは二、三度地面を転げ回るとビクビクッと震えて動かない。どうやらスタン状態になったらしい。

あたしは再び弾を装填すると地面にうつぶせのまま倒れるゴブリンの後頭部に銃身を押し付けて撃ち込む。

再び乾いた一発の銃声が鳴り響くとゴブリンのHPバーはゼロになり割れたガラスの様に弾けて消えた。


「ふぅ〜、焦ったぁ……ん?お?これは……」


視界にドロップしたアイテと報酬金額が表示されてその報酬金額に目がいく。


ドロップアイテム:小鬼の牙×2

報酬金額:100Nr


銃弾2発で倒せるのに100Nrってことは残弾はあと97発……約48体倒せば5000Nr近く稼げるのか!!

良いね!イイね!赤字どころか黒字だよ、黒字♪

よーっし、やる気出てきたぁ!!

その後は今と同じ調子でゴブリン狩りを続けることにした。




ゴブリン狩りを始めてかなりの時間が過ぎ、気がついたら残りの弾薬も残すところ後僅かになってしまっていた。

レベルもゴブリンを2〜3体倒す度に上がっていくものだからあっという間にレベル13になった。

でも未だに振り分けポイントはそのままで溜まったままだった。

理由は今現在のパラメーターでも十分に闘えるからというのと、正直何に振ったら良いのか解らなかったからだ。

いや、解らないというのは正確ではない。迷っているのだ。

今あたしが使っている銃はデリンジャーで相手に近づき零距離で発砲しなければならないという銃の中でもかなり変わった代物だ。

素早く相手に近ずかなければならない事を考えるとAGIアジリティ=敏捷性・素早さを強化していけば良いのだろうが、後に……例えば狙撃銃スナイパーライフルを使うことになった場合はAGIよりもSTRストレングス=筋力かHITヒット=命中率を上げた方が得策だ。

そういう事を考えていたらどうしても振り分けるに振り分けられず、現在に至るというわけだ。

(自分の戦闘スタイルさえ決まっていればこんなに迷うことはなかったんだけどなぁ)


サバイバルゲームをしているときでもそうだ。

人によっては慎重に周囲を警戒しながら進み敵を発見したら撃ち、味方を援護する人もいれば。走り続け敵を発見したら即座に撃つ見敵必殺スタイル。遠くから銃を乱射しまくり威嚇する乱射魔トリガーハッピー

様々だ。その中であたしは状況に応じて行動し、銃を変え、スタイルを変える万能タイプとして戦ってきた。

故にこのゲームでもステータスをそれぞれ平均的に上げていこうとしたのだが、恐らくそれが通用するのは最初の間だけだろうと直感的にそう感じた。

(今までフリーでやっていたせいでここに来てこんな落とし穴にハマるなんてなぁ……夢にも思わなかったな。)


そんなことを思いながらまたゴブリンを倒すとドロップアイテムと報酬金額以外に別のものが表示されていることに気がついた。


『ドロップアイテム:小鬼の牙×1

報酬金額:100Nr


獲得アクティブスキル:乱蹴り

効果:素早く3連蹴りを行う。

消費MP:20

獲得条件:モンスターを35体以上蹴り飛ばす。またはモンスターを15体以上蹴り倒す』


アクティブスキル……?あ、横に説明書きがあった。何なに……。

『アクティブスキル』

・空いているスキルスロットにスキルをセットする事によりそのスキルを使用する事が出来る。

・熟練度を上げていくとスキルは進化しより強力なものになっていく。

・使用方法は技名を発声する事により技を発動したい脚に意識を集中させることにより発動する。


どうやら偶然にもゴブリンを蹴り飛ばし続けていたせいで特殊なスキルを獲得したらしい。

あたしはさっそくメニューバーーからスキル欄を選択し空いているスキルスロットに『乱蹴り』を入れる。

その場で繰り広げても良かったのだが、ちょうど良いタイミングでモンスターがポップしあたしはそのモンスター・ゴブリンにデリンジャーを向け発砲。

ゴブリンは多少HPを削られ激怒しながら突進してきた。そしてジャンプしてあたしの頭上目掛けて棍棒を振り下ろそうとするタイミングを見計らい「乱蹴り」と短く発生し、意識を右足に集中させると。

右足が僅かに発光。そしてーーズガガガンッ!!

カンフー映画よろしくゴブリンの下半身・腹部・頭部に流れるような速度で打ち込みゴブリンのHPを半分以上削って後方へと吹き飛ばしてしまう。


「お、おぉ……!凄い!凄いよこのスキル!!」


一応戦闘中にも関わらず感動の声を上げているとさらに怒ったゴブリンが性懲りもなくさっきと同じ動きで突撃してきたので再びスキル「乱蹴り」を発動し倒すとパリィンッと綺麗な音を鳴らして弾けて飛んだ。

ーーイイね良いねこのスキル♪ 気に入った!

調子に乗ってモンスターもいないのにもう一度「乱蹴り」を発動しようとしたが……あれ、出来ない?

さっきと同じように蹴りを繰り出そうとするが、なぜか発動せず不思議に思っていると、自身のHPバーの下にあるブルーのMPバーが無くなっていることに気がついた。

ーーしまった、MP切れか!


「むぅ……どうしよ。一応MPポーション買ってあるけど、そんなに急いでないし、確か徐々に回復してくからほっといても良いかな……んー、まぁちょうど良いタイミングだし一旦街に戻ろ」


キリが良いのを理由に弾の補給も兼ねてあたしは一旦街に戻ることを決め、マップを見ながら来た道を通って帰ることにした。



街へと続く街道の途中、暇つぶし程度に歩きながらドロップしたアイテム整理をしていた。

落としたアイテムは基本的にゴブリンが落としていったもので『小鬼の牙』が24個『棍棒』が10個『緑の液体』が5個だけだったがーーなんだろ緑の液体って……いや、深く考えないようにしよう。

ついでに残弾も確認すると100発あった弾薬も残り18になっていた。街までの距離を考えると結構ギリギリかもしれない。

というのも途中で単体のモンスターだけなら良いのだが、群れや集団と遭遇した場合はかなり絶望的状況になるかもしれないからだ。いくらMPがすでに回復しているからといっても連続して発動出来るわけでもないから気をつけないとエライ目にあってしまう。


「〜ッ!〜〜〜ッ!!」


「ん?」


途中どこかからか叫び声?に似た声が聞こえ周囲を見渡すと数人のプレイヤーがモンスターと闘っているのが見えた。距離があるせいでよく見えないが、どうやらモンスターに押されているようでかなり焦っているようにみえた。


「街までの距離は……あと少しか。まぁこれなら良いかな」


街までの距離をマップで確認するとあと僅かだったのであたしは押されているプレイヤー達の元に助太刀をしに平原を駆け抜けていった。


「助太刀いりますかー?」

「すまん、助かる!」


すぐに到着するとどうやら4人組のパーティだったらしく皆んなかなりギリギリの戦いをしていたらしくHPバーが危険域のレッドに変わっている。その中のリーダーらしき大剣を持った男が応えあたしはさっそく戦闘に加わる。

モンスターは通常のゴブリンとは違い、武器は剣で口元には黒い布を巻き、格好も原始人のような通常のゴブリンと違い、まるで忍者のような格好をしている。


「気をつけろ!あいつ普通のゴブリンなんかよりずっと強いし速いぞ!」

「了解!」


あたしは返事をするのと同時に忍者ゴブリンに向かい駆け出した。

忍者ゴブリンもそれに合わせたように駆け出すが、やっぱり見た目が通常と異なるわけだけあって動きもだいぶ違う。

バカ正直に突っ込んでくるのではなく横に向かって駆け出し、まるでこちらの出方を伺うように見えた。

あたしもそれに合わせて横へ移動するが、突如忍者ゴブリンは軌道を変えて此方に突っ込んできた。

急な軌道の変更に戸惑い、足を止めようとしたが、それを敢えて突っ込み横薙ぎに剣を振ってくる忍者ゴブリンの攻撃を両膝を曲げ仰向け状態でスライディングして交わす。

忍者ゴブリンもその行動は予想外だったらしくあたしの頭上を飛び越えていくが、真下に潜り込む事に成功したあたしはすかさず忍者ゴブリンの腹部にーーパァンパァンッ!と2発撃ち込む。


「グギギィィッ!」


撃たれた忍者ゴブリンは着地に失敗し転げまわるが直ぐに起き上がり、激怒した状態で先ほどのように動きを撹乱させる事なく突っ込んできた。

あたしもスライディングから立ち直るが再装填リロードする時間はなく、仕方なく左足を前へ右足を後ろに構える。


「ギャギィイッ!!」

「乱蹴りっ!!」


タイミングを合わせアビリティスキル『乱蹴り』を発動すると忍者ゴブリンは剣を振り下ろす前に腹部に3連蹴りを喰らい後方へ飛びながら弾け飛んでいく。


「ハァ、ハァ……危なかったぁ」


忍者ゴブリンを倒すとレベルアップのファンファーレがどこからともなく聞こえ、レベルが13から15へ一気に上がった。振り分けポイントもいつの間にか36ポイントも溜まった。


ドロップアイテム:暗殺者の頭巾×1 古びた剣×1

報酬金額:500Nr


あんなに強くても報酬金額500Nrかぁ……割に合うのか合わないのか……。

若干落胆していると、背後から「おーい!」という掛け声と共に先ほどのパーティメンバーが駆け寄ってきた。


「凄いなぁアンタ!」

「助かったよ、強いんだな」

「あんな闘い初めてみたよ!」

「助けてくれてありがとう!」

「え、えーっと……」


突然駆けつけられて口々にお礼を言ってくるが、その中に気になる発言があった。


「あんた銃使いか?凄いな、そんな不便な武器使いこなすなんて」

「不便?」


リーダー格らしき男の言葉に食いつくと男は気に障ったのかと勘違いして弁解しながら答える。


「だ、だってそうだろ?撃てる回数にも制限があるし弾も高い上に射程も短いし、威力も弱い……ゲーム開始直後は面白がってそいつを使おうとした奴らが大勢いたんだが、余りの使いズラさのせいで付いたアダ名が『ガラクタ職』または『ネタ職』って言われてんだぜ。それを選んだ奴らは諦めて初期設定からやり直してるって話しだ」

「……」


酷い言われようだなぁ……。

確かにデリンジャーは使いズラい銃だけど、そこまで言われる謂れはないはずだ……。

サバイバルゲームーーううん、銃が好きなあたしからしたらショックどころか怒りすら感じてきたよ。


「す、すまん……気に触ったんなら謝る。あんたにも何か思い入れがあったんだろ」

「いえ、確かにデリンジャー(この子)にも何かと癖というか扱いズラい部分があるのは確かですから。それより、あたしシグって言います。皆さんは?」


このままこの話題を続けたら空気が重くなる一方なのであたしは自己紹介して話題を変えると皆んなそれに便乗してくれた。先ほどから話している人間の大剣使いがギル。思った通り、このパーティのリーダーをしているらしい。

次がエルフの男の子で片手剣と盾を装備したのがフォン。同じくエルフで弓を装備した女の子がアイシャ。最後の斧を装備した妖の男がブルというらしい。見た目は完全に牛だ。きっとミノタウルスとかそんな感じだろう。

どうやら4人は現実リアルでも知り合いらしく同じ部活メンバーらしい。


「へぇ〜、4人とも一緒なんて凄いね。よく手に入れられたもんだよ!」

「ははっ本当。運が良かったとしか言いようがありません」


フォンが照れた様子で答え周りも「まったくだ」と感心している。


「それで君たちはこれからまだ狩りを続けるの?」

「いえ、そろそろ街に戻ってログアウトしようかなって思ってたところです」

「そうなの?じゃあ、あたしと一緒だね。良かったら付いていっても良いかな?」

『本当ですか?!』


4人が同時にハモる。


「う、うん。あたしも弾薬がそろそろ尽きそうだったから一旦街へ戻ってログアウトしようとしてたから」

「助かります!恥ずかしい話し、ここまで来るのは良かったんですけどさっきのゴブリンに手間取って回復アイテムの殆どがなくなっちゃったんです」

「そりゃ大変だ。じゃあ、街まで護衛するね♪」

『ありがとうございます!』


こうして短い距離ではあるが、街まで一緒に行くことになった。

その途中で銃を選んだ理由だとか色々と聞かれたが、隠す必要もないし話のタネになればと話していった。


「じゃあ銃が使えないっていうのは銃が悪いんじゃなくて使うプレイヤーにその知識がなかったからなんですね」

「まぁ全部がそうとは言い切れないけど、あたしはそう思ってるよ。普通『銃』ってには離れた敵を撃つ為の武器だからデリンジャーのように零距離で撃つなんて発想にはならないからね」

「ヘェ〜、でもじゃあ何で運営側は零距離で撃たなくちゃいけないデリンジャーを初期装備に選んだんですかね?」


アイシャが首を傾げて訪ねてきたがあたしはそれに「たぶん運営側の趣味とか嫌がらせなんじゃない?」とてきとうに応えた。

もちろん嘘だ。本当はずっとゴブリン狩りをしている最中も何故デリンジャーを運営側は選んだのかを考え続け、一つの答えを見出していた。

その答えとは一つとして『現実世界に戻った際のモラルの崩壊ではないか』というのがある。

銃は詰まるところ人殺しの為だけに作られた兵器だ。それを何の知識もない普通の人が手にし誰でも簡単に使えてしまうものだと気がついたとき、人は何をするのか解ったものじゃない。

それを危惧した運営側はデリンジャーという特殊な武器を使いプレイヤーに『銃は使いズラい最悪の武器だ』と認識させることにより、銃を使うプレイヤーを激減させることを目的にしたのではないのか、とあたしは思っている。

でもそうするとまた一つの疑問にぶつからなくちゃいけない……。

それは『だったらどうしてこのゲームに銃を登場させる必要があったのか』だ。

危惧するのなら初めからなかった事にすれば良いのに一体どうしてーーあたしは未だにその答えに辿りつけないでいた。

きっとその答えを見つけるのが銃職を選んだあたしガンマニアの課題なのだろう。


「そういえば、シグさん」

「んにゃ?」


不意に背後にいたミノタウルス……じゃない、ブル君から声をかけられ思わず猫語になってしまう。

あたしは特に気にすることはなかったが、何故かギル君やらフォン君が顔を赤らめたようにそっぽを向く。ーーどうかしたのかな?


「最後にあのゴブリンを倒した蹴り技。アレはいったいなんですか?」


ブルの質問に他の3人も同様の疑問を持っていたらしく皆んな思い出したように声を上げてきた。


「あー、アレね。ゴブリン狩りをしてる時に偶然手に入れたアクティブスキルで技の名前は『乱蹴り』っていうの」


『えぇ?!』


質問に答えただけなのに、またしてもすっとんきょうな声を上げて4人に驚かれるが、あたしさっきからそんな驚かれるようなこと言ってるかなぁ……。


ア「……ねぇギル。このゲームが始まってからまだ三時間くらいしか経ってないよね?」

ギ「あ、あぁ。その筈だ……」

フ「オンラインサービス始まって三時間足らずでアクティブスキルを習得って……それに通常のゴブリンでも平均討伐レベルは5以上必要じゃなかったっけ?」

ブ「それは四人組のパーティで最低限必要な討伐レベルだ。ソロでの討伐レベルは……まだ未知数のはずだ」


何だろ、四人との距離が若干あるせいで上手く会話が聞きとれないが何故か化け物でも見ているような視線を感じるぞ。これはアレかな、一応弁解というか何か話しておいた方が良い感じなのかな?

そんな事を思っていると先にアイシャの方から話しかけてきた。


「あの、シグさんってソロプレイヤーなんですよね?」

「うん。まぁそんな感じだね」

「良かったら私達とパーティを組みませんか?パーティメンバーは最大で七人は入れますし、シグさんが居てくれたら安心出来ますから……どうです?」


ありゃ。てっきり怖がられてるかと思ったのにまさかスカウトしてくれるなんて……ちょっとびっくりだ。でも


「はは。ありがとう。でもごめんね?あたしは自分のパーティを作ろうと思ってるからさ」

「そう、ですか……残念です」


アイシャは本当に残念そうにしょぼくれるけど、ここで折れる訳にはいかない。

だってあたしは銃士で彼女たちは普通の剣士であり弓士だ。今はまだ良くても現在最悪の職業とされる銃士を連れていたら後々非難の眼を浴びるとしたらきっと彼女たちの方だ。

そんな眼には合わさられない。


「だけど今回みたいに助けが必要なときはいつでも頼ってね♪」

「……!はい、ありがとうございます♪」


あたしはアイシャにフレンド申請を送ると彼女はそれを快く承認してくれた。

その後は無事に街へとたどり着き、彼女達と別れるとあたしはアイテムを買った繁華街へと赴いていった。

NPCの店主から弾薬を三つ購入し再びフィールドへ戻ろうとしたが、その前に現実世界での時刻を確認しようとメニュバーを開く。

この仮想世界では現実世界との時刻を同期させている。

日差しの傾き方から見て恐らく16時くらいじゃないかなぁ〜っと思いつつ見ると……ビンゴ!

16時ジャストだ。オンラインサービスが始まってから約4時間は立つことになるから昼食を摂って水分補給をしてからまたログインすることにしよう。

マップを広げて近くにある安宿を探すと街の中心から少し離れた場所にそれを見つけスタスタと宿まで歩いていった。


この街の名前は『ラグーン』。ログインして最初の街ということもあって規模はかなり広い。

歩いて回ったらそれだけで半日以上はかかりそうな場所だ。

見つけ出した宿は都心から北に向かった先にある農場が広がる場所で他のプレイヤーは誰もいないのどかで良い場所だ。

この辺りでサンドイッチの入ったバケットを持ってピクニックでもしたら気持ちが良いんだろーなぁ、と思いながら20分程歩くとようやく宿屋にたどり着いた。

そこはログハウス式の宿屋でかなり大きな建物だ。

中に入ると早速NPCの店主が話しかけてくれた。


「いらっしゃい。今日は何泊のご予定かな?」

「とりあえず2日ほど部屋を借りたいんですけど」

「はい。それでは80Nrになりますね……ありがとうございます。お部屋は二階の奥の部屋となっております。ごゆっくりお休み下さい」

「ありがとう」


店主にお礼を言って言われた通りに階段を上がり奥の部屋へと入ると……ハ◯ジだ。ハイ◯の部屋があるっ!

藁で敷き詰められたベッドに白いシーツを被せ、窓は丸型。キッチンにはマキが積まれてその上に金具で吊るされた鍋がある。

奥の部屋には部屋の外観を崩さないように木造りのお風呂まで完備されている。

あたしは早速メニュバーを操作して着ている服を脱ぎ、下着姿になって藁の式詰まったベッドにダイブするーーバフッ!


(わーっ!何これ何これ!!すっごい気持ちぃいい!)


もさもさとした藁の感触を全身で味わい、余りの気持ち良さにゴロゴロと何度もなんども寝返りをうって遊ぶ。


(あーーっ!このゲーム手に入れてヨカッタァあ!)


たぶん誰かが今のあたしの姿を見ていたら「え、何この人。大丈夫?」と言われても仕方がないほどテンションが上がり一人ベッドで遊びまくっていた。

正直このまま寝てもいい気がするけど、途中で我に返ったお陰で一度ログアウトしないと現実の自分の身体が危なくなることに気がついた。

水分補給とか大事だからね。


「……….あれ?」


メニュバーを操作して一度ログアウトしようとするが、どこをどう探してもログアウトボタンがないことに気がつく。

(あれ?確かこの下にあったはずだよね?運営側のシステムミス……?いや、そんな筈ない。もしそうなら運営側はプレイヤーを全強制ログアウトさせる筈だし、なんらかの警告をしてくるはずだ……)


嫌な予感が頭をよぎり、すぐさま月姫にメッセージを送るが返ってこない。

それが更に不安を募らせるが「ひょっとしたら気がついてないだけかも」と言い聞かせ次にアキさんとアイシャにもメッセージを飛ばすがいつまで待っても返ってこない……。


「なんで……一体何が?」


先ほどまでのテンションはどこかへ行ってしまい今はイラだちと不安だけが募っていく。

(落ち着け……今焦った所でどうしようもない。下手に考えても不安しか呼び込まない。とにかく今は落ち着こう)

震える手を反対の左手で抑えつけ、どうにか落ち着かせようとしたとき。


急に周囲が薄暗くなった。


思わずベッドから立ち上がると突如目の前に映像モニターが出現しピエロのマスクだけが映し出された。

ニヤリと見る人を嘲笑うかのようなそのマスクは何の前ぶりもなく語り始める。


『ようこそCold earthへ。私は現在この世界を管理・操作出来る唯一無二の存在、名はマスク。


プレイヤー諸君の中には既に気づいた者もいるだろうが、メニューからログアウトボタンが消えたのはバグでもなければ運営のミスでもない』


「は?」


『それはこの私が設定したこのゲーム本来の使用だ。

ログインすることは出来てもログアウトは出来ない。

そして、外部からの強制ログアウトがされることはないという事を知っておいてほしい。


何故ならもし外部からの強制ログアウトが試みられた場合。

そのときはダイジェストに組み込まれた自壊ユニットにより、諸君らの脳に直接特殊な電磁波を送り死ぬ事はないが……一生涯眼を覚ます事はなくなるからだ』


「なっ……!」


『悲しい事に先にメディアへ連絡したにも関わらず、強制的にダイジェストを外されこの世界からも、現実世界からでも一生涯眼を覚ますことのなくなったプレイヤーが三万人中八百三十二名のプレイヤーが存在する』


映像モニターの横にテレビでの報道が映し出され、そこにはダイジェストを被った人が担架で病院へ搬送される姿が映し出されていた。


そしてマスクは尚も語り続ける。


『だが安心した前。この世界にいる限り、ダイジェストを外されない限り、君たちの安全は保障しよう。

例え何度もモンスターに殺されようとも、例え何度も高い塔から飛び降りようとも君たちが死ぬ事はなく。

蘇生ポイントからやり直す事が出来る。


ただし、例外としてプレイヤー同士で殺し合う以外はね。


万が一そうなったら……くっふふ。いや、今それを応えるのはよそう。余興はまだ始まったばかりだ』


マスクはその面通り嘲笑うように笑う。


『君たちがこの世界から。現実世界へと生還……いや、ログアウト出来る方法はただ一つ。

それはこのゲームをクリアすることだけだ。


さぁ、プレイヤー諸君。

ゲームのストーリー通り。

この世界のどこかにあるたった一つの塔を制覇し、その頂きへと上り詰め、私の元へと駆け上がって来ると良い。


それでは幸運を祈るよ、くっふははは』


そこで映像モニターは消え、薄暗かった周囲も先ほどとなんら変わらない様子で明るくなった。


でも、景色がいくら戻っても今のこの気持ちが収まることはなかった。


そこはかとない不安に押し潰され、奈落へと落ちていく感覚。

なのに膝をつくわけでも、腰を下ろすでもなく、ただただ呆然と立ち尽くすほかなかった。


そう。

あたし達は今この瞬間を持ってゲームのタイトル通りーーCold earthーー冷たい大地に舞い降りたのだ。









何とか一週間以内の投稿が出来ました(ーー;)


次回もこの調子で投稿出来るよう頑張って行きます!

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