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冬の終わりに気づくことは無かったけれど、いつの間にか薄い桃色した桜は街に彩りを添えていた。
朝から慌ただしい雰囲気の母親に頼まれたのは家の掃除だった。
なんで、私が…
やっと高校受験から解放されて、しばらくはのんびりしたい!と思っていたのだ。
「とにかく、頼んだわよ!」
あぁ、母は強し。
アグレッシブで仕事大好き人間である母親の後ろ姿を無言で見送った後、怠け者である私は深いため息をついた。
母と二人きりの生活にしては、この一軒家は立派すぎた。私が産まれてすぐに離婚した父親の慰謝料だったらしい。
詳しいことは知らないけど、養育費は免除してやったのだと深酒した母から聞いたことがある。
そんなわけで無駄に広い我が家を高校入学を控えた春休みに掃除する。
はあぁぁ。
ため息の嵐の中、木下七花は養育費を稼ぐ母 華子を助けるのは当然の事だと認識はしていた。
けれど、それがのんびり生活崩壊の一歩とは気づいていなかった。