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短編No.41-60

No.58 曖昧だけれど伊達じゃないの。~百谷文音の初〇〇~

作者: 藤夜 要

 ――(もも)谷さんの気持ちはすごく嬉しいけれど、ごめんなさい。それが僕の返事です。


 それが、私の告白メールに送り返して来た伊達先生の答え。返事が怖くて一学期の終業式直後に送ったメール。二日後に届いた返信は、私を崩壊させるのに充分な威力を持っていた。

「ダメだ、もうおしまいだ……ッ。もう一生学校になんか行きたくない!」

 そう駄々をこねてベッドでのた打ち回る私に遥香がとどめを刺す。

「だから言ったじゃん。伊達っちが、三次元を相手になんかするわけない、って」

「今さらそれ言う? “当たって砕けろ”って言ったのは遥香じゃんっ」

 私は枕を抱いたまま涙目を隠しもせず、遥香を思い切り睨みつけた。

「だって文音(あやねが本当にコクるなんて思わな――お? なに、続きがあるじゃん」

「ちょ、なに勝手に人のケータイ触ってるのよっ」

 って、え? 続き?

 私は慌ててベッドから這い下り、遥香の傍らへにじり寄った。

「なになに? 学校ではまだオフレコにしていることですが――」


 ――学校ではまだオフレコにしていることですが、近々結婚するつもりでいます。

 相手の方は、現国の保田先生です。

 思い返せば、百谷さんはいつも一生懸命に僕の授業を聴いてくれ、実験準備の手伝いなども率先してやってくれる生徒でしたね。

 生徒のみんなが僕のことを「解体フェチの変態教師」と言っているのを知っています。そんな中で僕を助けてくれる君は本当にありがたい存在でした。

 保田先生からも百谷さんの話はよく伺っています。とても勉強熱心で、解らないことはどんどん質問して来る自発的な子で将来が楽しみだ、と言っていました。

 将来の夢が確立されているのだろう、と、君の話はよく出ます。君には出会った早々、みっともないところを見られていた僕だったので、つい保田先生との話題にのぼりがちでです。

 もしも僕に何かと協力してくれた理由が今回送ってくれた気持ちからだとしたら、ずっと気づかなくてごめんなさい。

 僕に関わると、生徒の中ではあまりいいことを言われないらしいから、どうか二学期からは無理をしないで欲しい、と伝えたくて長々と返信してしまいました。

 また、君の真摯な気持ちときちんと向き合って返事をしていることを解って欲しくて保田先生のことをお話しました。

 僕は、君が思うほど立派な先生ではないです。もっと君の年齢に見合うステキな人を見つけてください。

 伊達龍真――


「保田! 男の趣味、ゲキわるっ!」

 私の心の暴風域圏内にいるにも関わらず、遥香が場違いなテンションで感想を漏らす。

「うっさい、黙れデリカシーゼロ女っ!」

 言うが早いか平手スタンバイ完了済みの右手が、思い切り遥香の頬を鈍い音を放ちながらばしりと打った。

「いったぁ~、ちょっと」

 なにすんのよ、と言いたかったんだろうけど。遥香の声は、途中で止まった。

「あんた……。てっきりミーハーなだけかと思ってた」

 遥香の眉尻がひゅんと下がる。代わりに口角が上がっていく。彼女の泣きボクロが私の涙を余計に誘った。

「う……わぁ~んッ! 遥香ァ――ッッッ!!」

 思い切り引っ叩いた親友の胸に飛び込んでしまう勝手な私。

「ああもう、しょうがないなあ」

 幼稚園のころから私を知ってる遥香は私のあやし方を心得ていた。

「モノは考えようだよ。仮に巧いこと行っても来年は受験じゃん。伊達っちの立場だってあるしさあ。これでよかったんだよ、先生と生徒なんて、面倒くさいだけだよ」

 ひと回りも違うでしょ、とか、あんたが三十路を迎えるころには、あっちなんかもう人生の半分以上が過ぎてる年なんだよ、とか、男のほうが早死にするのに置いて逝かれたいのか、とか、老後の話まで持ち出して。そして気づけば私は、遥香と一緒に泣きながら笑ってた。

「だいたいさ、いつも白衣だから、それが文音の目には二割増しに見えてただけだよ」

「あと、アレね。銀縁眼鏡も、二次元スキーの必須アイテムだしね」

「そうだよ。文音、伊達っちの前に好きだったのは誰、って話」

「絶望先生」

「でしょー? これを機会に、三次元に目覚めなさい。伊達っちみたいな解体フェチなんて忘れちゃいなっ」

「……それは、嘘だよ」

「嘘?」

「先生、みんなが教室から出たあとで、いっつも独りで泣いてたもの」

 お腹が、キュンとする。思い出すだけで、せっかく閉まった涙腺がまた緩み出す。

「いつもね、準備室でカエルやヘビを小さな箱に入れるとき“ごめんね”って言いながら、泣くの」

 初めて出会ったときも、泣いていた。実はあれが、一目惚れのきっかけだったのだ。

 ほかの誰にも話したことのない先生のことを、私は初めて遥香に語った。


 高校合格が決まってから数日後、私は登校の所要時間を確認しようと思って、雨の日を選んで出掛けたの。雨の日が一番時間がかかるだろうと思ったから。

 時間を計り終えたあとは、学校周辺を探検した。学校が始まってからあれこれ探すのは面倒だと思ったから。そのとき初めて、伊達先生と会った。

 住宅街の一角、濡れそぼつ背高のっぽのひょろい影。雨足が強くて視界はぼやけてた。そんな中で見えたのは、電信柱の足許に置かれた段ボール箱。そして、雨音に負けない「にー」と縋るような仔猫の声。

『ごめんなさい。拾ってあげられないんだ』

 その人影は、通じるはずもない人間の言葉で、仔猫に謝っていた。自分はほとんどびしょ濡れで、傘の半分以上を段ボール箱の上に翳していた。

『俺、アパートだし。でも、おまえも好きで捨てられたわけじゃないんだよな』

 どうしよう、と呟く声は、仔猫に負けないくらい切なかった。びしょ濡れの頬に、雨以外のものが伝う。どうしてそれが私に涙と思わせたのかは解らない。けれど。

『あの、私がこの子をもらいます。だから』

 泣かないで、と勝手に口が滑っていた。銀縁眼鏡の向こうで切れ長の目が大きく見開かれた。消えそうな火が再びともったみたいな明るい色に、私はやられちゃったんだと思うの。

『ありがとう。っていうか、ごめんなさい。みっともないところを君みたいな若い子に晒しちゃった』

 彼はそう言って眼鏡を外し、ぐいと袖で顔を拭った。だけど袖もぐしょぐしょだから、結局ずぶ濡れのまま。

『これ、あげます。タオルハンカチならいっぱい持ってるし』

 私はそう言って、自分のハンカチを差し出した。自分の傘をその人の頭上に被るよう掲げ直しながら。

『ありがとう。でも、いただくわけにはいかないよ。住所を聞くと不審者丸出しだよね。俺、来月からあの学校へ赴任するんだ。新学期が始まったら、職員室へ“伊達龍真”宛に訪ねてもらえるかな』

 先生はたった今私が行って来たばかりの高校を指差しながらそう言った。ウンメイって、思った。

『私、来月からその学校の生徒です。百谷文音。ふみのおとって書いて、あやねです。先生だったんだ』

 あのときの、顔を赤くしていいのか青くしていいのか解らなくなってパニクった先生を忘れられない。


「だからね、本当は伊達先生って、すっごく優しい先生なんだよ」

 結局私の涙腺はまた決壊してしまい、しゃくりあげながら、遥香にそう訴えていた。

「生物教師を、ひく、目指したのだって、ひっく、ホントは、もっと生き物の、形態を知って、ひぃっく、大事に、出来ないかなあ、ってっく」

「わーかったから、泣くかしゃべるかのどっちかにしなって」

「中学生、ンときには、もう、ひくっ、決めちゃった進路、で、だからもう、あともどりぃーっく」

「解ったよ。解体フェチなんてもう二度と言わないから、泣くのに専念しな」

「……ぇっく、う……わぁーンッ!!」

 私は遥香に抱っこされて泣きじゃくった。汗や涙と一緒に、壊れちゃった恋も洗い流した。




 遥香は口も悪いし、慰めの言葉なんかはバカにしてるとしか思えないような物言いばかりなんだけど。

 親友と言いながらも腹を割って話せないその辺の女子より、私はかなり幸せだ。嫌われるかも、なんて恐れることなくなんでも言い合える遥香がいる。

 夏休みのお盆を迎えるころまで、遥香はずっと私と一緒にいてくれた。毎日あちこちに私を連れ回しては、笑ったり喧嘩をしたり叫んだり。そうそう、この間の花火のときなんか、こっちに花火を向けられてスカートに穴を空けられた。すっごいムカついて喧嘩して。その瞬間、失恋の痛みを忘れてた。


 今日はそんな遥香と映画。なんと、第二次世界大戦当時の物語だという。

「こんなときばっかり、って斜めにモノを見て言う人も多いけどさ。こんなときだけでもいいから、関心を持つこと自体が大事だと思うんだよね」

 真剣なまなざしでそう語る遥香は、小さいころから、ひいおばあちゃんの語る戦争の話を聞いて育っている。一見いまどきの女子高生で、この手の話は「たりぃ」って言いそうな子なんだけど、実は本音の部分で、すごく真面目だ。なにごとにも一生懸命な子なんだ。だから私、遥香が好き。

「私って、こういうギャップに弱いのかも」

「はあ?」

 遥香から見たら唐突過ぎる私のリアクションが、よほど不思議だったみたい。素っ頓狂な声をあげてしげしげと私を見た。

「いいの、こっちの話。それより、早く中に入ろう」

 私はそう言って遥香を映画館の中へと促した。


 人ごみの多い地下通路よりも、一度上がったほうが早く映画館に着くから。そう思ったんだけど、やたら蒸し暑い。私たちは今にも降りそうな灰色の空を同時に見上げたが、先に視線を落とした遥香が、ある光景に気づいて私を肘でつついた。

「あれ、伊達っちじゃない?」

 目的地のビルの一階に入っているガラス張りの喫茶店。その窓際に座っているのは、確かに伊達先生だった。

「ホントだ。遥香、全力で逃げよう」

「待ちなよ。向かいの席、あれって保田だよね? じゃ、その隣のおっさんは、誰?」

 その存在には気づいてなかった。私は一瞥で伊達先生だと確信すると同時に目を逸らして逃走準備に入っていたから。

「保田、泣いてるし」

「あ。ふたりで頭下げた」

 ふたり、保田先生と見知らぬ誰かが、伊達先生に、だ。

「ねえ、アレ、ヤバい雰囲気っぽくない?」

 やばいなんてもんじゃない。先生が、笑ってる。笑いながら手を左右に振って、まるで「いいよ、いいよ、気にしないで」とでも言っているみたいに、眉根を寄せて笑ってる。判りやすい嘘笑い。形式的に手伝いを申し出るクラスの子に見せる、相手を傷つけまいとして出す作り笑い。

「あ。伊達っちが逃げた」

 遥香がそんな解説をした直後、私は遥香の手を握って走り出した。伊達先生から逃げるんじゃなく、追い掛けるために。

「待ってー!」

「伊達ーッ!」

 敢えて呼称を省略する。遥香が先生を呼び止める。私たちは、人前で先生の素性を晒すほどバカじゃないつもりだから。

「あ」

 潤んだ瞳をごまかすように、伊達先生が微笑を浮かべた。

「百谷さん。偶然だね。映画?」

 先生はぴたりと足を止め、私たちが追いつくのを待ってくれた。

「うん。今から見ようと思って」

「そう。俺は今見終わって帰るところ。雰囲気が違うから、誰かと思った」

 メールのことなんて忘れてしまったかのように、いつもどおりに振舞う伊達先生。

「ちゃんと宿題もするんだよ。じゃ、さようなら」

 作り笑いを見せつける彼を見て、私の中で何かが切れた。

「ちょ」

「文音、待ちな」

 立ち去る先生を追うつもりでいた私の腕が遥香に引っ張られた。

「なに? 邪魔しないで。あのカッコつけな顔つき、ぶっ潰してやるんだからっ」

「だから、これ、はい。あげる」

 遥香がそう言って私に映画のチケットを握らせた。

「伊達っちってば、私には気づかなかったのに、文音のことはすぐ判ったじゃん。それに免じて優しくしてやりな」

 そう言って魅惑のウィンクを投げる。彼女が何を言いたいのかが解った途端、私の憤りがほかのものに変わった。

「ありがと、遥香、大好きっ」

「きもい。早く連れ戻しな」

 遥香はそれだけ言うと、私の返事も待たずにくるりと背中を向けた。

 私も反対に向き直り、むせ返る空気の中、思い切りダッシュして先生を追い掛けた。




 ええと。あれから更に半月が経ちました。そして私は今現在、遥香に詰め寄られてます。

「で? 明日から二学期なわけですが。なぜに一切の報告がないのか、と。スーパーらぶえんじぇぉな私としては、納得がいかないわけですよ」

 バシン、と思い切りデコを叩かれました。言い返す言葉もありません。

「ええと、ですね」

 私はしどろもどろと語り出す。この曖昧な状態をどう説明していいのかわからないまま、遥香にこの半月の出来事を話した。


 無理やり先生をしょっ引いて映画館に入った。お涙頂戴モノの戦争映画は、先生に泣く場を提供してくれた。

 真っ暗な中、スクリーンの映像が仄かに映し出す先生の横顔。俯いて眼鏡を外し、肩を震わせて泣いていた。

 そのあと、先生をアパートまで送った。

『これじゃどっちが生徒で先生なのか、わかんないね』

 と言ったら、

『まったく。面目ない』

 と言って先生も笑った。それは私の大嫌いな作り笑顔じゃなかったからほっとした。

『どうして映画に誘ってくれたの?』

 と訊かれたから、

『ここで泣いたら、ずっと思い出しちゃうでしょう。先生に私と同じ思いをさせたくなかったの』

 と答え、夏休みの間ずっと、先生に振られて泣きまくった自分の部屋へ帰れなくて、遥香の家に転がり込んでいることを包み隠さずに話した。

『振られたのが悲しくて泣いたんじゃないの。あの返信を打ちながら、きっと先生も泣いてただろうな、って』

 捨てられた仔猫を見ただけでも泣いちゃって、どうしていいのか解らないくらい優しい人だから。先生に告白したのは、ちょっと自惚れ過ぎて勘違いしたから、ということも話した。

『だって先生、私しかいないときは、自分のこと、“俺”って言うんだもの』

 みんなの前ではカッコつけて、いかにも先生です、っていう態度して。だけど私の前では、素の言葉で話してくれてたから。ちょっとだけ、期待しちゃってたの。そんな話をしたら、先生はびっくりした顔をして、細い目を何倍にも見開いた。

『全然、気がついてなかった、です』

 だから、なんでそこでいきなり敬語?! と思ったけど。

『どうして君は……不思議な子だね』

 そう言って、ぽすんと私の肩に、先生の頭が乗った。ビックリしちゃって、ドキドキしちゃって、私、なんにも言えなくなっちゃった。


 保田先生は、大学時代から付き合っていた人、なんだって。同じ学校に赴任されたから、学校や生徒や保護者たちにあれこれ言われるのもお互いのためによくないし。そう言ってプロポーズしたのが、赴任が決まったとき、なんだって。なかなか返事をしない保田先生が、ようやく返事をしたい、と呼び出されたのがあの日だったそうだ。そして、先生、玉砕。

『彼女の心変わりに気づかないほど、俺が彼女をほったらかし過ぎてたんだ』

 生徒との関わり方で悩んだり、命の尊厳をどう教えて行こうかと授業内容からいろいろ考えたり。気がついたら保田先生とは、教師同士の関わりになっていた、とかで。難しいことはよく解らなかったけれど、とにかく保田先生はそんな伊達先生を男性として見ることが出来なくなっちゃったんだって。

『そんなの、おかしいよ。だって、全部ひっくるめて伊達先生じゃん』

 私なら、全部ひっくるめてホールドする。だって先生が笑ってくれるんでしょ? 好きならそういうモノじゃないの? 私、先生が泣きながら「ごめんなさい」の返信を打ったんだろうな、と思ったとき、そうさせた自分がすごく憎らしかったもの。

 そんなようなことをまくし立てた気がする。今思うと恥ずかしくって、思い出すことを脳が全力で拒否しているけど。

 先生がそれをどう受け取ったのかは解らない。ただ、ぽつりと呟いた。

『俺は、百谷さんが思っているほど立派な人でもいい人でも、ないよ』

 平気で生徒を家に入れている。自分が傷つけた子に、こうして慰められている。いい年してそれに甘えて、愚痴を零している。

 伊達先生は、自分のことを蔑むだけ蔑むと、バカにしたように鼻で笑った。それは私をバカにしたんじゃなくて……そう思ったら、勝手に体が動いてた。

『いい人だから好きになったんじゃないもん』

 子どもみたいに肩をすくめた先生を、立ち膝の恰好になって、きゅっと思い切り抱きしめた。

『好きに理由なんかあるわけないじゃん。好きだから、好きなんだもん』

 身を硬くした先生が、私の抱きしめる力に抗い、くぐもった声で警告を発した。

『迂闊にそんなことを言うと、オオカミさんに襲われちゃうよ?』

『別に、いいもん。でも、先生がそんなオオカミさんなら、あんな返信は送って来ないよ、最初から』

 それきり、先生からの言葉はなかった。その代わり、抵抗する力もなくなった。

 誰に向けた言葉か解らないけれど、ずっとずっと、泣き眠るまで、「ごめんなさい」と「ありがとう」を繰り返していた。


「うーん。確かに、曖昧なオチだね、それ。んで、その後は?」

 と尋ねた遥香に、やっぱり言葉を探しあぐねながら、私はどうにか現状を話した。

「友達に私だってバレないように、バリメイクして、毎日先生ンとこにご飯作りに行ってた」

「はぁ? 飯炊き女ァ?!」

「だって、出歩いたら学校の近くだし、ほかの先生や生徒とかにバレる確率が高くなるじゃん」

「そりゃそうだけど」

 と口ごもる遥香につい苦笑いが浮かんだ。

「でも、先生、名前で呼んでくれるようになったんだよ」

「は?」

「文音ちゃん、って。えへっ」

「えへ、じゃねぃよ」

 だから、明日からためらうことなく、学校にも行ける。先生の気持ちは解らないけど、夏休みの間に笑顔が戻ってくれたから、それだけで私は幸せなのダ。

 と、思い切りのろけてみたら、

「バッカみたい」

 と遥香には呆れられた。


 諦めないんだもん。

 あと一年半で、先生と生徒の関係も終わる。そしたら改めて、またコクるのだ。今度こそよい返事をもらえるように。それまではいい子で過ごし、大学にも一発で合格してやる。

 遥香にそう宣言したら、

「あんたのおっさんスキーには呆れるわ」

 ってデコピンされた。でも、笑ってくれた。「頑張りな」って言ってくれた。それともうひとつ。

「伊達っちって、相当自分の感情にも鈍そうだから、そこら辺の覚悟もしておきな」

 だって。その言葉はエールとなって、私の耳に心地よく響いた。

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