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第06話 あだ名と歓迎会

美冬と2人で商店街を案内し、最後に行った場所である提案をする。その提案とは――



ゲームセンターからしばらく歩くと威勢の良い声と聞き覚えのある女の子の声が聞こえてきた。


「よ、頑張ってるみたいだな」

可愛らしい声の主に話しかける。


「あ~和真君ほんとに来たんだぁ~」


「俺だけじゃないぞ」


「智子、頑張ってるね」


「智子さんの実家本当に八百屋なんですね」


「みぃちゃん! 梨乃ちゃん! 来てくれたんだ!」

その時智子が河上さんをロックオンしたのを俺は見逃さなかった。


「何処行くんだ?」

智子が俺の横を通り過ぎようとしたときに左腕を掴む。


「う……」


「むやみに抱きつくな、って言ったよな?」


「うぅ~そうだけどぉ~」

涙で潤んだ目で上目遣いをしてくる。


「そんな目で見ても無駄だぞ」


「えぇ~! なんでっ!?」


「いや、なんでと言われても……」


「私の目を見て動じないなんて!」


「お前どんだけ自意識過剰なんだ? というかなんでそんなに自信あるんだ?」


「えっと大分前だけど私がリレーでこけた時に手貸してくれ事あったよね?」


「あぁ、そんなこともあったな」


「そのとき今と同じような目をした時和真君目を逸らしたよね?」


「そりゃあ、なぁ」

その時はまだ美冬の友達って感じだったからな。知らないとまではいかないが、クラスメートの女子にそんな目をされたらなぁ~。


「あの時はまだ友達の友達って感じだっただろ?」


「それは……そうだけど。ってそれって私が可愛くなくなったって事!?」


「自分で自分の事可愛いとか言うなよ……ただ見慣れただけだ」


「そ、そっか……」

智子がほっと胸を撫で下ろす。


「えーと、2人とも私達が居る事忘れてない……よね?」

後ろを振り向くと呆れた様子の美冬とニコニコしながらこっちを見ている河上さんが居た。


「あ、あぁ。忘れるわけ……ないだろ?」

やべぇ、すっかり忘れてた。


「荒木さんと智子さん、仲いいですね」


「でしょ、でしょ! でもね、みぃちゃんとはもっと仲いいんだよ」

俺の腕を掴んで興奮した様子で話す。

胸当たってるんだけどなぁ……。

というか智子のお父さんの視線が痛い。後ろに振り返らなくてもわかるぐらいの強烈な殺気を背中に感じ少し冷や汗が出る。


「智子」


「ぅん? なぁに和真君?」

(胸当たってるぞ)

俺は小声で智子にそう伝えた。


「っ!?」

智子が顔をトマトのように真っ赤にして俺から急いで離れる。


「ど、どうしたの智子? 顔真っ赤だよ?」

顔を真っ赤にした智子を心配そうに見つめる美冬。


「な、なんでもないよ!」


「本当に?」


「う、うん」

2人を見ていると美冬がこっちを見てきた。その目は「智子に何したの?」と言っていた。

「……後で話すよ」俺はそう返した、言いたいことが伝わったのか俺から視線をはずした。

今日の夜は美冬の説教だな……。


「っと悪い、河上さん置いてけぼりだったな」


「い、いえ」


「まぁ見てすぐわかったと思うけどここが智子の家で俺がよくお世話になっている八百屋だ。スーパーより安くと品質がいいんだ」


「お、和真君嬉しいこと言ってくれるねぇ~」

おじさんが本当に嬉しそうな顔をする。


「いえ、というかいつもサービスしてもらって申し訳ないぐらいですよ」


「そりゃあ和真君はうちのお得意様で智子の友達だからな。それくらいしねぇと俺の気がおさまらねぇ」


「あ、ありがとうございます……」

面と向かって言われると結構恥かしいな。


「今日は何買って行くんだい?」


「っと、そうだった。えっとトマト2個、ナス2個、キャベツを1個……は多いなよな。キャベツ半分で」


「おうよ!」

店の中にあるビニール袋に野菜を入れていくおじさん。頼んでないものまで入れているのはいつもの事だ。


「あいよ」

俺は詰め終わった袋を受け取り、お金を渡す。


「さて、これで俺と美冬のオススメを全部周った訳だがどうだった?」


「色んな便利なお店を教えてもらって、すごく楽しかったです!」

満面の笑みを浮かべる河上さん。


「そっか。楽しんでもらえてよかった」


「そうね。今度は智子と健吾君と一緒に回ろうね」


「はい♪」


「うぅ~~~~」

正面を見ると複雑そうな、怒ったような顔で智子がこっちを見ていた。


「そう怒るなよ。別に今日で最後って訳じゃないだろ?」


「そうだけど、案内は今日だけだもん……」


「ん? 何処か案内したい所があったのか?」


「そういう訳じゃないけど、二人共すっごい仲良くなってて羨ましいというか……」


「なんだ、そんな事か。智子だって十分仲いいだろ?」


「う、うん……」

何か納得いかないのか歯切れが悪い智子。

ん? そういえばなんか違和感感じるな……なんだろう?


「梨乃ちゃんは智子の事好きだよね?」


「はい、すごく優しいですし」


「うわぁあああん、ありがとう梨乃ちゃぁああん」

智子が泣きながら河上さんに抱きつく。

あれ? 梨乃ちゃん……?

そこで俺はようやくある違和感に気が付いた。


「なぁ智子、俺を呼ぶ時ってどう呼んでる?」


「え? 急にどうしたの?」


「いいから」


「和真君……だよ?」


「じゃあ健吾は?」


「健吾君」


「去年一緒のクラスでお前と仲良かった安藤さんは?」


「あーちゃん」


「美冬は?」


「ねぇ和真君、何でそんな事聞くの?」


「そのうちわかる」


「……?」

意味がわからない、という表情をする智子。


「で、美冬は?」


「みぃちゃん」


「じゃあ河上さんは?」


「梨乃ちゃん」


「だよな」


「もう、和真君何なの? 意味わかんないよぉ」


「いや、ちょっと気になってな。智子って仲の良い女の子はあだ名で呼ぶだろ? なのに『なんで河上さんだけ名前なのかなぁ~』て思ってな」


「う~ん、やっぱりいきなりあだ名って失礼だと思ったから……」


「智子、お前…………そんな事考えれる奴だったんだな」


「和真君ひどい! 普段どんな目で私を見てるの!?」


「『どんな』と言われても、なぁ?」

とりあえずこのままだと面倒臭い事になりそうなので美冬に振ってみる。


「私に振らないでよ……というか今のはカズくんが悪いよ。カズくんだって智子が気が利く子ってわかってるでしょ?」


「あ、あぁ、わりぃ……」

美冬に本気で怒られてしまった。


「私にじゃないでしょ?」


「あぁ、そうだな。智子、ひどい事言って悪かった」


「じゃあクレープ」

智子が俺に手を差し出す。


「……? なんだその手は?」


「だからクレープ」


「俺に奢れと?」


「うん、それで許してあげる」


「……わかった。今度奢ってやる」


「奢って『やる』?」

智子がわざと『やる』という部分だけ強調して言ってきた。

お前の方がひどいくないか……? そう思うが口には出さない。


「はぁ……、奢らせていただきます……」


「やったぁ! みぃちゃん、梨乃ちゃん、和真君が今度クレープ奢ってくれるって!」

嬉しそうにはしゃぐ智子。

何がそんなに嬉しいんだか……って、ちょっと待て!


「おい、智子! 全員に奢るなんて言ってないぞ!?」


「えぇ~? 奢ってくれないのぉ~?」


「当たり前だ!」


「え……カズくん奢ってくれないの……?」

美冬が残念そうな顔で見つめてくれる。

そんな目で見ないでくれ……。というか美冬の奴ノリノリじゃねーか。


「あ、あの、私はいいです。荒木さんに悪いので……」

あぁ、河上さんの後ろに後光が見える……。

今まで悪乗りしてくる奴ばっかりだったから新鮮だ。


「ったく、今度奢るよ……日頃の感謝って意味でな」


「やったぁー!」


「ありがとう、カズくん」


「あの、本当に私もいいんですか?」


「うん、河上さんは歓迎の意を込めるって意味でね」


「ありがとうございます」

満面の笑みで微笑んできた。


「おう。さて、ここに居ても邪魔になるだけだしそろそろ解散するか」


「そうね。おじさん、長居しちゃってごめね」


「別に気にしなくていいよ。智子のお友達ならいつでも大歓迎だよ」


「ありがとうございます。じゃあ智子また明日ね」


「うん、みぃちゃんとりっちゃんと和真君、また明日」


「あ……」

河上さんが驚いた顔をする。


「えぇと、和真君に言われたからあだ名つけてみたんだけど、どうかな? あ! い、嫌なら普通に呼ぶからね!」


「い、いえ、嫌じゃないです。それでお願いします」


「うん!」

智子が満足そうに頷く。


「っと、そうだ。一個言い忘れてた」


「3人共明後日、日曜日って予定1日空いてるかな?」


「明後日? 空いてるけど……」


「私も空いてるよ~」


「はい、空いてます」


「よかった……」


「カズくん、それがどうかしたの?」


「あぁ、ちょっと河上さんの歓迎会でもやろうかと思ってな」


「わぁ~それいいね! さすが和真君! 面白そう!」


「さすがカズくんだね」


「お前ら褒めても何も出ないぞ?」

まぁ内心ちょっと喜んでみたり。


「っと、まぁそういう事なんだけど、どうかな? 河上さん」


「あ、ありがとうございます! すごく嬉しいです」

今にも泣き出しそう――というかちょっと目を潤ませて本当に嬉しそうにしていた。


「おう、場所は……俺の家でいいかな?」


「そうだね、カズくんのお家大きいし」


「うん、わかったぁ~」


「それはいいんですけど、私荒木さんのお家の場所が……」


「じゃあ私が案内するよぉ~」


「あ、ありがとうございます、智子さん。お願いします」


「智子、念のため言っとくけど抱きつくなよ?」


「うぅ~善処します……」


「お前絶対やるだろ……」

善処するっていうのはやらない奴の言葉だと思うんだ。


「ところで時間はどうするの?」


「そうだな、昼頃……1時でいいか? 昼食も一緒って事で」


「うん、わかった。ところでカズくん、さっきから誰にメール打ってるの?」


「ん? あぁ、健吾だよ。あいつも呼んでやらないとな、送信っと」

それから数分後。


「お、健吾から返事きた。何々……『朝は部活があるけどその時間ならなんとか行けそうだ』か、よかった」


「そっかぁ~健吾君これるんだぁ~」


「全員予定が合ってよかったね」


「そうだな。じゃあ明後日13時に俺の家って事で」


「うん!」


「わかった」


「はい」


皆と別れた後、美冬に説教されたのは言うまでもない。




---- 4月4日 ----




歓迎会をやるという事で休みの日はいつも昼頃まで寝ている俺は普段と同じくらいに起きて久々に家全体の掃除を始める。

普段中々隅まで掃除する事がないからな、たまには掃除しないと。

とりあえずリビングの掃除機掛けから始める。その後モップで床を拭き。

窓も雑巾で拭いておく、その後自分の部屋に行き、片付け(よく美冬が入ってくるからある程度は片付けてあるが)をする。

万が一のために俺の秘蔵コレクションは別の隠し場所に隠しておこう。一度も見つかったことがないからといって今後も見つからない可能性はないからな。


「大体こんなもんか」

掃除を終えた自分の部屋を見渡す。大分綺麗になったと思う。


「今何時だ?」

時刻を確認するとちょうど12時を回ったところだった。

後1時間か、ケーキは昨日買ってきたし料理は美冬が用意しているから後他にやる事は……一応皿とか用意しておくか。

ちょうど皿ととコップの用意をし終わったときに玄関のチャイムがなった。


「ん? まだ時間まで20分近くあるけど誰だ?」


「はい、どちら様ですか?」


「あ、カズくん、私~」


「美冬か、今空けるからちょっと待ってろ」

玄関に向かい、ロックをはずす。


「どうした美冬? まだ約束の時間まで20分ぐらいあるが」


「あ、うん、ちょっと料理を運ぶの大変そうだから下ごしらえだけしてこっちで作ろうかなっと思って、台所借りていいかな?」


「おう、というか今から作って間に合うのか?」


「それはカズくんの家の台所は広いから大丈夫」


「そっか、じゃあ俺も手伝うよ」


「ありがとう、カズくん」


「で、何を作るんだ?」


「ええと、じゃあサラダの盛り付けをお願いしていいかな?」


「おう! まかせとけ! ってなぜにサラダ……普段自炊してるんだから人並み程度には出来るぞ?」


「ごめんね、時間がないし一気に作るから一人の方がやり易いの」


「そっか、そういう事ならしょうがないな。見てろよ、芸術的な盛り付けをしてやる」


「うん、期待してるね」

勢いで言ってしまったがどう盛り付けようか。

ふと、隣を見ると美冬が楽しそうに何かを炒めていた。

ほんと、楽しそうに料理作るよな。

さて、俺もさっさと盛り付けするか、まぁキャベツの山にキュウリとキュウイとトマトを乗せるだけだが……。

とりあえず見た目が綺麗に見えるように盛り付ける。


「美冬、終わったぞ。一応冷蔵庫に入れとくな」


「あ、うん、ありがとう。カズくん、ちょっとお願いがあるんだけどいいかな」


「ん? 俺に出来ることなら何でも言ってくれ」


「じゃあこれちょっとかき混ぜてもらえないかな? ちょっと家に忘れ物しちゃって……」


「わかった」

美冬からヘラを受け取り、ミートソースをかき混ぜる。


「ミートソースって事はたぶんスパゲティ、だよな。パスタは放っておいていいのか……?」

そんな事を考えているとタイマーが鳴った。


「このタイマーは……パスタか? それとも唐揚げ? 春巻き? 駄目だ、わからん」

そんな事を考えていると美冬が慌てて戻ってきた。


「カズくん、タイマー鳴った? あ、鳴ったみたいだね」

そう言いながらいそいそと揚げ物をあげていく、ちょうどそれが終わった頃に別のタイマーが鳴る、今度はパスタを湯上げして、湯きりを始める。

一気に出来るように時間を合わせたのか……すごいな。


「美冬、他にやることあるか?」


「ううん、もうほとんど終わったから」


「そっか」

一応時間までは後5分といったところか、そろそろ誰かくるかな。

そう考えていると玄関のチャイムが鳴った。


「お、智子と河上さんかな?」

俺は確認もせず玄関に向かう。

玄関を開けるとそこに居たのは予想通り智子と河上さんだった。


「和真君、約束通り、りっちゃんをちゃーんと連れて来たよぉ~」

智子が満足げに胸を張る。


「おう、ご苦労さん。河上さん、いらっしゃい」


「ええと、きょ、今日は、そのお招きいただき、あ、ありがとうございます」

ご丁寧に頭を深々と下げる河上さん。


「いや、そこまで緊張しなくても……」


「そ、そうですね。す、すみません……」


「まぁいいや、とりあえず中に入って」


「は、はい! お邪魔します!」


「お邪魔しまぁ~す。うわぁ~、和真君の家に来るの久しぶりだよぉ~」


「久しぶり、って2月に試験勉強するために家に来ただろ……」


「えぇと、そうじゃなくて遊びで、って意味だよ!」


「試験勉強してた時ほとんど遊んでなかったか……?」


「えぇと、それはぁ~……あはは~」


「笑って誤魔化すなよ、ったく。今度の試験教えてやらんぞ?」


「うわぁああ~、ま、待って! それだけはぁ~~~」


「はぁ~……河上さん、こんなの見てて楽しい?」

さっきからニコニコしながら見ている河上さんに声を掛ける。


「え!? えと、えと、その、楽しい、です……よ」


「そ、そっか。まぁいいや」

やっぱ周りから見たら楽しそうに見えるのか、まぁ、悪くないとは思うけど。

2人をリビングに案内する。


「美冬~、智子と河上さんが来たぞ」


「あ、いらっしゃい、っていうのはちょっと変かな?」


「みぃちゃんおはよぉ~」


「こんにちはです」


「こんにちは、梨乃ちゃん。智子、もうおはようじゃないと思うんだけど……」


「大丈夫! 私さっき起きた所だから!」


「おいおい……まさかそれで河上さんとの待ち合せ遅れたんじゃないだろうな?」


「エー、オクレルワケナイヨー?」


「じゃあなんで目を逸らして片言なんだ?」


「えぇっと……あはは~」


「はぁ~……まぁこっちの時間には間に合ったからいいか」


「ごめんね、りっちゃん」


「い、いえ、私がちょっと早く来過ぎただけですから、気にしないでください」


「ありがとう! りっちゃん大好き!」


「わわ……」


「「はぁ~……」」

美冬と一緒にため息をつく。


「ん?」

ポケットに入れてある携帯が震える。どうやらメールのようだ。


「お、健吾か」


「健吾君なんだって?」

美冬が俺の携帯を覗きながら聞いてくる。


「後5分ぐらいでこっちに来れるってさ。先に始めてていいって言ってるけど5分ぐらいなら待っててもいいよな?」


「うん、そうだね。梨乃ちゃん、健吾君後5分ぐらいで来れるみたいだからちょっと待って貰っていいかな?」


「はい」


「あ、健吾君来れるんだぁ~」


「そうみたい。で、智子はいつまで梨乃ちゃんに抱き付いてるの?」


「んぅーもう少しだけぇ~」

智子が気持ち良さそうに目を細める。


「梨乃ちゃん、前にも言ったけど嫌なら嫌って言っていいんだよ?」


「大丈夫です」

河上さんは笑顔でそう言った。


「そっか」

そう言った美冬が少し寂しげに見えたのは気のせいだろうか? 試しに俺はちょっとしたイジワルをしてみる。


「本当は美冬も抱き付きたいんじゃないか?」


「え? そうなんですか?」


「え? え? な、何言ってるのカズくん!? そ、そんな訳……」

うん、この反応、どうやら図星だったみたいだ。よし、ここで止めの一言。


「嫌なのか?」


「えと、その嫌とか嫌じゃないとかそういう問題じゃなくて……」


「みぃちゃんも抱き付きたいなら言えばいいのに~。ねぇ~梨乃ちゃん?」


「こんな私でよければ……」


「え? いいの? ……じゃなくて! 私抱き付きたいなんて一言も――」


ピーンポーン。


ちょうど美冬が弁明している時に玄関のチャイムが鳴る。

というか今本音出たよな。


「ん? 健吾か? 何が5分だ、2分も経ってないじゃないか」

俺が玄関に向かおうとした所で美冬の叫び声か聞こえて来る。


「ま、待って! カズくん、助けて~!」


「じゃあ、みぃちゃんこっちきて~ほら、梨乃ちゃんの抱き心地最高だよぉ~」


「ちょ、ちょっと智子! 私抱きたいなんて一言も……て梨乃ちゃんに迷惑でしょ!?」


「え~? 大丈夫だよね? 梨乃ちゃん」


「はい、私なら全然大丈夫です。むしろ、美冬さんに抱きついて貰いたいです」


「えぇ!? ちょ、ちょっとカズくん、2人がおかしいの! 助けてぇえええ~~~」

まぁそんな言葉は無視する訳で、というか河上さんどんどん智子に似てきてないか? まぁいいか、今日は珍しい美冬が見れたしこれでよしとしよう。


ピーンポーン。


「はいはい、今出ますよっと」

玄関を開ける、案の定そこには健吾が立っていた。


「っよ、お待たせ」


「おう、というか5分って言ったくせにかなり早いじゃねーか」


「クールダウンを兼ねてちょっと走ってきたからな」


「なるほど、とにかく上がれよ」

それにしては早すぎるような気がするんだが……まぁいいか。


「あぁ、お邪魔しまーす」


「あ~そうそう、今なら面白いのが見れるかもしれないぞ?」


「面白いの? なんだそれは?」


「見ればわかるさ」


「???」

健吾をリビングに通すと思った通りまだやっていた。さっきとは状況が違って智子と見冬が河上さんにくっ付いている構図だが。


「なに、してるんだ……?」

健吾が『ポカーン』とした表情でその三人を見る。


「け、健吾君!? ち、違うの、これは!」

美冬が必死に弁明しようとする。


「あーなんだ……、そういう世界があるっていうのは知ってはいたが、実際に、しかもこんな近くにあるなんてな……」

おーいい感じに勘違いしてるな。


「け、健吾君!? ち、違うの! これは智子が無理やり!」


「えぇ~なんで私のせいなの~? みぃちゃんも気持ち良さそうにしてたよね~?」


「そ、それは……その、そうだけど……で、でも!」


「智子ならともかく、まさか美冬までとは……な」


「だ、だから違うんだってばぁー! うぅ……」

……なんか美冬か突き刺さるような視線を感じるんだが気のせいか?


「カズくん、後で話があるから逃げないでね」

透き通った声でそう呟いた。

こ、こぇええええええ……、これは歓迎会終わった後に遺書を書いたほうが良さそうだな、うん。


「まぁ冗談はこれくらいにして歓迎会始めようぜ」


「あっー! そういえば今日ってそのために集まったんだっけ!」

智子が『思い出した!』と言わんばかりに驚く。


「おいおい……」


「じゃあ私、ちょっと料理温めなおすね」

そう言って美冬がキッチンに向かった。


「あ、みぃちゃん、私も手伝うよ~」

智子が美冬について行く。


「植野さん、こんにちは」


「おう、ところでさ、毎日智子の相手して疲れないの?」


「いえ、もう慣れました」

太陽のような笑顔で河上さんが健吾にそう答えた。


「そっか」

健吾が苦笑を浮かべる。

慣れた……ねぇ、慣れないとやってられない物なんだな。ちょっと……いや、かなり同情してしまう。

まぁ本人も嬉しそうにしてるしいいか。……たまに迷惑そうな顔してるけど。

そんなこんなで3人で駄弁っていると美冬と智子が料理を運んできた。


「3人共お待たせ~」


「持ってきたよ~」


「ありがとう二人共、河上さんここ座って」

3人掛けのソファーの真ん中案内する。


「はい」

三人掛けのソファーには左側に美冬、右側に智子、その反対側のソファーに俺と健吾が座る。


「それじゃあ河上さんの歓迎祝いということで…………乾杯!」


「「かんぱーい!」」

乾杯と同時に健吾がオレンジジュースを一気に流し込む。


「んっ……んっ…………ぷはぁ~」


「わ~健吾君すごい飲みっぷりだねぇ~」


「お前どんだけ喉渇いてたんだよ……」


「いやー、今日部活にドリンクもって行くの忘れちゃってさ~しかもお金もなくてな」


「お前よく朝から部活やれたな……」

まだ4月とはいえ水分補給は必要だろ……。


「うーん、まぁそんな事はいいじゃん! 折角の料理が冷めるし」


「お前がいいならそれでいいが……そうだな、食べるか」


「河上さん、何か食べたいのがあれば取るよ?」


「あ、ありがとうございます。唐揚げとスパゲティとサラダを少しお願いします」


「わかった」

言われた物を皿に乗せ渡す。


「ありがとうございます。いただきます」

河上さんが唐揚げを口にしようとするがその手が止まり、目を少し左に向ける

その視線の先には緊張の表情を浮かべる美冬がいた。


「あ、あの美冬さん、そんなに見られると恥かしいです……」


「あ! ご、ごめんなさい! その、口に合わなかったらどうしようかと思って……」


「美冬がそんな事思うなんて珍しいな」


「だって、カズくんや智子や健吾くんに聞いても同じ事しか言わないから不安で……」


「同じ事しかと言われても美味しい物は美味しいとしか言えないだろ?」


「そうだけど、やっぱり不安だよ……」

その様子を見ていた河上さんが唐揚げを口にする。


「あ……ど、どうかな? その、まずかったら無理に食べなくていいから……」


「…………すごい」

河上さんの口からそんな言葉が漏れる。


「これすごく美味しいです! 噛めば噛むほど美味さが滲み出てきて……後この柚子こしょう、ですか? とすごく合ってて……こんな美味しいの食べた事ないです!」

河上さんが興奮した表情で口早に喋る。

思ったんだけど河上さんグルメリポーターになれるんじゃないか?


「ほ、ほんと!? よかったぁ~」

美冬が安堵の表情を浮かべる。


「本当に、すごいです。あの、よかったら今度作り方教えてください!」


「うん、いいよ」

2人はその後料理の話で花を咲かせた。その2人を見ていると智子が珍しく真剣な表情で俺の所に来た。


「ねぇ和真君」


「ん? どうした智子?」


「あのね、りっちゃんが好きな料理教えて!」


「…………は?」

河上さんの好きな料理? なんでそんな事を?


「なんでそんな事俺に聞くんだ?」


「だって、和真君りっちゃんと仲良いしそれくらい知ってるかなぁ~と思って」


「まぁ1つだけ知ってるけどさ……」


「ほ、ほんと!? 教えて!」

智子が今にも掴みかかりそうな勢いで迫ってくる。


「ま、待て落ち着け! というかお前料理出来ないだろ!? それになんでいきなりそんな事聞くんだよ!」


「だ、だって! みぃちゃんとりっちゃんすごく仲がいいんだもん……」

智子が涙目で見つめてくる。


「いや、お前だって仲いいだろうが」


「ほんとにそう思う? 私りっちゃんに嫌われてないかな?」


「……どうしたんだ? 今日のお前やけに弱気だな」


「りっちゃん優しいから、私不安で……」


「そっか、まぁ大丈夫なんじゃないか? 河上さん性格的に嘘つけないだろうし。それよりそんな心配してるぐらいなら自分から近づいていけよ、いつもみたいにさ」


「うん、わかった。じゃあ行ってくる! りっちゃぁああああん!」


「きゃっ!? と、智子さん!?」


「うぅ~私もまぜてぇ~」


「わ、わかりました。えと、だからその……」


「智子、梨乃ちゃん苦しそうにしてるよ!」


「あ、ご、ごめん!」


「い、いえ……」

そんな三人を見ていると自然に笑みがこぼれる。


「何笑ってるんだ? 気持ち悪い」

そんな俺をみて健吾がそう言ってきた。


「いや、なんでもないさ。ただ、やっぱりいいなって思っただけ、お前は?」


「……よくわかんねぇ。けど……」


「悪くはないと思う」

健吾がそう答える。


「そっか、まぁこんな時にこんな話もあれだな、食べるか」


「おう」


ほんと、いつまでもこんな関係が続けばいいよな。新たに河上さんが加わったこの関係が続くのを願わずにはいられなかった。




……………………と綺麗に終わりたかったが、歓迎会の後美冬にボロ雑巾(もちろん精神的な意味で)のようにされたのは言うまでもない。

ということではい、第6話になります。

最近は暖かくなり、なにかと眠くなるトペルカですが(台風で雨ばっかりでしたけど……)ちゃんと執筆は頑張ってます(自分で言うなw


8月13日追記

一部誤字を修正しました。


一応もうちょっとだけ物語はスローペースで進んでいきます。

ハイスピード展開が好きな人には申し訳ない。

展開は遅いですが、ところどころに重要な話があるのでお付き合いください。特に5話の最……いえ、なんでもないです。


とまぁ本編についてはそれくらいにしておいて、またちょっとした裏話を……


実はこの6話、元々5話と二つで一つだったんです。

さすがに長いという事で分けたんです。

と、まぁそんな裏話でした!


今日はこの辺で、これからも「ガクモノ!!」をよろしくお願いします。

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