第04話 ファンクラブと仔犬の鳴き声
体育祭実行委員会議の後、河上さんを昼食に誘おうとしたとき2人の前にある男たちがやってきた。その男たちはなんと智子のファンクラブ会員だという!
妙なのに目をつけられる羽目に……。
トペルカ初のオリジナル小説、第4話の幕が開く。
会議の後色々あったがとりあえず帰るために正面玄関に向かう俺達。
「思ったより遅くなったな~」
「そうですね」
時刻は午後1時を過ぎた所。さすがに始業日にここまで残っている生徒はほとんど居ないか。
というか腹減った……こんなに掛かると思わなくって何も食べてないからな。このまま帰って作るのも面倒だし学食行くか。
そんなわけで俺は河上さんを誘おうと声を掛けたのだが――
「あのさ、河上さ――」
「やっと見つけたぞ! 荒木和真!」
そう言うとした瞬間に後ろの方から俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ん?」
振り返るとそこには小太りした男と痩せた男が立っていて、なぜかその二人は「宮沢 LOVE」という言葉がプリントされたTシャツを着ていた。
おいおい。まさかこいつら……。
「??? 荒木さんのお知り合いですか?」
「いや、全然。まったくもって知らん」
一番知り合いたくなかった奴らだよ……。
「お前が宮沢様を泣かせたのは周知の事実! 素直にお縄につけぇ!」
「つけぇ~」
小太りした男がそう宣言し、痩せた男がそれに続く。
やっぱりファンクラブの人間か……ここは無視するに限るな。
「誰だお前ら?」
俺はその言葉を無視する。
「き、貴様! 大輔様の言葉を無視するとはどうゆう了見だ!」
痩せ型の男がそう叫ぶ。
いや、だってねぇ。巻き込まれの嫌だし。
「このお方は『宮沢智子ファンクラブ』の創設者、内藤康介様! の弟だぞ!」
その言葉で大輔と呼ばれる男が胸を張る。
弟かよ!? 俺は思わず心の中で突っ込みを入れる。
「さすが会長! 今日も決まっています!」
「はは、そんなに褒めるな」
「「はははははは」」
何が面白いのか2人して笑い出す。
「え、え~と……」
河上さんがどうしていいかわからないのか困った顔をする。
「行こうか、河上さん」
そう言って俺は河上さんの手首を掴み早足でその場を離れる。
付き合ってられねぇ。
「え? い、いいんですか?」
俺に手首を引かれながら聞いてくる。
河上さん、本当に純粋だなぁ。
「いいの、変に絡まれるの嫌だし」
「河上さんもあんな奴らに絡まれるの嫌でしょ?」
「は、はい」
「じゃあ大人しく立ち去る」
俺はさらにスピードをあげ、走り出す。
「あ! ま、待てぇ! 荒木和真ぁぁぁ!」
速攻でその場から立ち去り、しばらくすると遠くの方でそんな声が聞こえて来た。
待てって言われて待つ奴なんかいるか!
「覚えてろよぉおおおおおおおおおおおお!!」
その声をバックに正面玄関に辿り着く。
「はぁ~。なんか変に疲れた……」
「河上さん大丈夫?」
「あ、はい。大丈夫です」
そういう河上さんの顔が少し赤い、どうしたんだろうか?
「河上さん、なんか顔赤いけどどうかした? あ、もしかして急に走ったから?」
さすがにいきなり走り出すのはまずかったか。
「い、いえ……それは大丈夫なんですけど……その、手……」
河上さんが恥ずかしそうに顔を伏せる。その視線の先には俺が河上さんの手を握っているのが見えた。手首を掴んだつもりだったが、いつの間にか手を握っていたらしい。
「あ! わ、わりぃ!」
俺は慌てて手を離す。
「い、いえ」
「えーと……」
こういう時どうすればいいんだ……。
俺は恥ずかしくなり、下を向く。
誰かこの空気を破ってくれないかな。俺はそんな淡い期待をする。
その時――
「あれ? カズくんと梨乃ちゃんまだ学校に居たの?」
階段、少し上の方から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「美冬?」
俺は声がした方に振り返る。
その声で内心ほっとする。
「うん、そうだよ~」
階段から降りてきた美冬が俺の前まで来て立ち止まる。
「あれ、どうしたの? なんか2人とも顔赤いよ?」
「あ、いやこれは……なんでもない」
「ん~。本当に?」
美冬が覗き込むように顔を近づけ聞いてくる。
「あ、あぁ」
河上さんといい、美冬といい何で顔を近づける……。
「そっか」
そう言って今度は河上さんの方をみる。
「梨乃ちゃん、カズくんに何かされた?」
「ふぇ? い、いえ何もされてません……よ?」
なぜに疑問系……。
「ふ~ん、まぁ梨乃ちゃんがそう言うならいい、かな」
そう言ってようやく一歩下がる。
「で、なんで美冬がまだここにいるんだ?」
「えぇと、ちょっと職員室と保健室に、ね」
「あぁ、検査結果の書類か」
「うん、それもあるけどクラス委員長としての最初の仕事、かな?」
「なるほど」
実は各委員を決めた後、最後にクラス委員長を決めることになったのだが、当たり前のように誰1人手が挙がらなかった。そこで見かねた美冬が立候補し、クラス委員長になった。
ちなみにどうでもいい事だが、うちの学校は基本的にクラスの事は学生内で決め、担任は気づいた所を指摘するだけで基本的に口を出さない、というスタンスになっている。
そんな訳で各委員の中でもクラス委員長は断トツで人気が無い。まぁ進学、就職では有利なんだけどな、うちの学校がそうゆうスタンスになってるのを知っている人も多いし。
「あの、一ついいですか?」
そこで、置いてけぼりにされていた河上さんが声をあげた。
「うん? 何かしら?」
「えと、話し難い事ならいいんですけど……その、検査ってなんですか?」
「えぇと……」
珍しく美冬が難しそうな表情を浮かべる。
「あ、話し難い事ならいいです! 変な事聞いてごめんなさい!」
そう言って深く頭を下げる河上さん。
「え? あ、違う違う、そうゆう訳じゃないの」
突然の謝罪に驚いたのか美冬が手をパタパタさせながら否定する。
「え?」
河上さんがキョトンとする。
「えぇとね、どう話していいからわからなくて……」
美冬が困った表情を浮かべる。
何を難しく考えてるんだか、別に1から10まで説明しなくてもいだろうに。
フォローしてやるか。
「あー簡単に言うとだな、美冬の奴昔からちょっと体が弱くて貧血をよく起こすんだ」
「貧血、ですか?」
「うん、それで今でもたまに倒れるもんだから定期的に検査して書類を学校側に見せてるんだ。で、ついでに何かあったときのために保健室に貧血の薬も置いてる。だよな? 美冬」
俺はそうやって美冬に振る。
「う、うん。そうなの、ごめんなさいね、誤解を招くような言い方をして……」
そう言いながら俺に視線を送る。
ありがとう、か。俺にはその視線がそう言っている様に見えた。ほんと、こういう時はアイコンタクトって便利だよな。
「い、いえ。私の方こそ急に聞いてしまって……」
「その話はもういいだろ。河上さん、もし美冬が一緒にいる時に倒れたらお願いね」
「あ、はい。わかりました」
そう言って笑顔で答える。
くぅーん。
その時、俺の隣から子犬の鳴き声のような音が聞こえてきた。その音が気になり隣を見ると河上さんが顔を赤くして俯いていた。
「えと、今の音……」
俺はつい聞いてしまう。
「えと……私の、お腹の音、です……」
耳まで真っ赤にして恥かしそうに顔を伏せる。
「ま、まぁまだ昼飯食べてないしな、しょうがないよ。俺も、腹減ったし」
「そういえば私もまだ食べてないわ」
「じゃ、3人で学食行くか?」
「そうね」
「えぇと……」
河上さんが困った表情を浮かべる。
「あ、もしかして何か問題ある? 家で用意してあるとか」
「い、いえ。そういう訳じゃないんですが、その、持ち合わせが……」
「あーそうなのか」
さすがにそれは無理に誘えないな……。でも、このまま帰るのもなぁ~、せっかくこうして一緒にいるんだし……よし。
「河上さん、奢ろうか?」
「え! で、でも……」
「俺が無理やり体育祭実行委員にしちゃったもんだからさ、それのお詫びに」
「い、いえそんな、無理やりなんかじゃないですよ」
「えぇと、じゃあ知り合った……違うな。友達になった記念って事でどう?」
「記念、ですか……?」
「そ、記念」
「で、でもやっぱり悪いですよ」
一歩も譲ろうとしない河上さん。
結構手ごわいな。うん?
俺は自分のポケットを探っていると紙切れのようなものが指に当たった気がした。俺はそれを取り出す。
学食1食無料券、なんでこんなものが? そこで俺はもう一枚の紙が重なっている事に気がついた。その紙を見ると「取材協力感謝する by洋介」と書かれていた。洋介……俺は心の中で感謝する。
「実はこんなものがあるんだよ」
そう言って俺は先程の無料券を見せる。
「学食1食無料券……ですか?」
「そそ、この券今日までだからさ、使わないともったいないじゃん」
「それなら荒木さんが使えば……」
「ん? 俺? 無理だよ、これ単品のみだけだから。俺定食食べるつもりだからさ。あ、もしかして定食がよかった?」
「い、いえそういう訳では……。でも、本当に私が使っていいんですか?」
お、ここまでくれば決まりだな。
「うん、いいよ。どうせ使わないし」
「……わかりました。使わせていただきます」
そう言って河上さんが笑顔を見せてくれる。
「じゃあ行きましょうか」
タイミングを見計らったのか考えがまとまった所でそう言う美冬。
「おう」
「はい」
---- 学生食堂 ----
さすがに始業日、しかもほとんどの生徒が帰宅している時間だったのですぐに食券を買う事が出来た。
俺が頼んだのはボリュームがあり、油物中心のA定食言うまでもなく男子に人気だ。
美冬が頼んだのはボリュームは普通ぐらいで野菜メインのヘルシーなB定食なぜかこれだけにはデザートがついている。
河上さんはこの学食で2番目に安いきしめんだ。
「河上さんそんなんでよかったの?」
「はい、実は私きしめんが好きなんです」
「へぇ~」
「えと、おかしい……ですか?」
不安そうな顔で聞いてくる。
「あ! いや、別にそういう訳じゃ。ただ、珍しいなって思っただけ」
「あぅ……やっぱりおかしいですか……」
美冬が俺を少し睨んでいるのが見えた。
俺は「違う」と返した。
「い、いや違う! 別におかしくはないよ! ただ、俺の周りが結構たくさん食べる奴が多いからさ、それだけで足りるのかなと……」
俺は慌てて否定する。
「そ、そうですか……よかったです」
ほっと胸を撫で下ろす河上さん。
「よかった? なんで?」
「その……おかしな子だ、て嫌われたらどうしようと思って……」
「ほんと、別におかしくないよ。それにそんな事で嫌ったりしないよ」
「はい!」
河上さんが満面の笑みを浮かべる。
「2人ともいつの間にそんなに仲良くなったの? まだ出会って初日でしょ?」
不意に美冬がそんな事を聞いてくる。
「言われてみれば……」
「そういえばそうですね……」
2人して顔を見合わせる。
「何でだろう?」
「私に聞かれても知らないよ。2人とも何かあったんじゃないの?」
「何かって言われてもなぁ~」
あるにはあるが……。
「自然に、かな。すごく親しみやすいっていうか。河上さんはどう思う?」
「えと、私も荒木さんと同じ、です。すごく私に優しくしてくれて……」
恥かしそうに俯く。
「そっか。最初に知り合えた男の子がカズくんでよかったね。カズくんすごい優しいから」
「はい!」
そうはっきり言われると恥かしい……。
「どうしたの? カズくん、顔赤いよ?」
「……いや、なんでもない」
そんなこんなで駄弁りながら食べ終わる。
「「ごちそうさまでした」」
三人して手を合わせる。
「じゃあ帰るかな」
「そうですね」
「はい」
荷物を持ち、俺たちは正面玄関に向かう。
「あ、カズくん。今日ってバイト?」
「ん? あぁ、そうだけど」
「そっか、じゃあ明日は?」
「明日はないけど……」
「じゃあ明日空けといてもらっていいかな?」
「いいけど、なんで?」
「ちょっと待ってね。梨乃ちゃんって明日放課後空いてるかな?」
「明日ですか? 大丈夫です」
「じゃあさ明日、一緒に商店街回らない? 梨乃ちゃんを案内しようかなっと思って」
なるほど、それでか。
「え? いいんですか?」
「良いも何も誘ってるのはこっちなんだから遠慮しないで。ね? カズくん」
美冬が俺にいきなり振ってくる。
「あ、あぁ」
「ありがとうございます」
そう言って頭を下げる。
う~ん。別にそんな頭下げなくてもいいのに。
「あのさ、河上さん」
「はい? なんですか?」
「その、そんなに頭下げたりしなくていいよ。俺達もう友達だろ?」
自分で言っておきながら思った、俺は今、無茶苦茶恥かしい事言っている、と。
「そうだよ。友達なんだからそんな緊張せずにもっとフレンドリーに、ね」
「は、はい! わかりました。えぇとじゃあこれが最後で、荒木さん、美冬さん、これからお願いします」
今度は頭を下げるのではなく、右手を差し出してきた。
美冬がその手を握る。すると美冬が空いている方の手で俺を手招きする。
俺はその意図を読み取り、河上さんの右手の甲を握る。
「よろしくね」
「よろしく」
「はい!」
河上さんが満面の笑みを浮かべる。
学校を後にするが、途中までは河上さんも同じ方向のようで、駄弁りながら歩いていると10分ぐらいでいつも健吾と智子と別れるT字路まで辿り着く。
「あ、荒木さんと美冬さんはそっちなんですね」
そこで河上さんが立ち止まる。
「うん、そうだけど。あ、河上さんはそっちなのか」
「はい」
「へぇ~、じゃあ智子と健吾君と同じ方向なんだ」
「え? そうなんですか?」
「そうだよ。この先にあるマンションに健吾君が住んでるの。智子はその手前を左に曲がった先にある商店街の八百屋さんね」
「そうなんですか~」
「梨乃ちゃんはどの辺なの?」
「えと、私はそのマンションを超えて5分ぐらい歩いた所にある一軒家です」
「あ、それなら毎朝一緒に登校できるね」
美冬が嬉しそうに言う。
「あ、はい。そうですね。皆さんは何時くらいにここに集まってるんですか?」
「ん~そうだなぁ。9時に出ればぎりぎり予鈴に間に合う時間だけど結構駄弁りながら歩くから40分くらいには家を出てるな。家からここまで大体10分ぐらい掛かるから8時50分ぐらいにこの辺に居れば一緒に登校出来ると思うよ」
「わかりました。では、また明日~」
「また明日ー」
「じゃあな~」
河上さんと別れて、美冬と一緒に歩き出す。
「ねぇカズくん、梨乃ちゃんの事どう思ってる?」
不意に美冬がそんな事を聞いてくる。
「??? どうしたんだ? 急に」
「ただ、なんとなく気になっただけ」
「う~ん、そうだなぁ。いい子だとは思うよ」
「そっか、確かにすごくいい子だよね。でも……」
そこで美冬が急に真剣な顔になる。
「なんとなくだけど、梨乃ちゃん何か抱えてる様な気がするの」
「何か抱えてる? そりゃあ悩みの一つや二つはあるだろ」
「ううん、そうじゃないの。その、なんて言えばいいかわからないんだけど……」
美冬の声が段々小さくなっていく。
「……もしそうだとしてもさ、あまり深入りしないほうがいいんじゃないか? 本人が何も言わないって事はあまり触れられたくないってことだろ?」
「それもそうなんだけど……」
納得いかない様子の美冬。
「大丈夫、何かあったらきっと教えてくれるさ。いや、悩みを打ち明けられるぐらいに仲良くなればいいんだよ」
「そう、だね。そうだよね。うん」
美冬が少し明るくなる。
「急に変な事聞いてごめんね」
「別にいいさ。それだけ河上さんの事気に入ったって事だろ」
「うん、そうかも。智子じゃないけど抱き心地は良さそうかな」
そう言ってクスクス笑い出す。
「じゃあ頼んでみたら? たぶん良いって言ってくれると思うぞ?」
「確かに言いそうだけど……やめとこうかな、智子に示しがつかないから」
「ふ、お姉さんは大変だな」
俺は思わず笑ってしまう。
「そうだね~。別に嫌いじゃないけどね」
「っと、着いたな」
美冬の話している間に家に着く。
「じゃあな」
「うん、じゃあね」
別れの挨拶を言い、俺は家へ入る。
「ただいま」
誰もいない家に向かって言い、着替えるために自分の部屋へ向かう。
「時間はっと……」
時計を見ると時刻は14時ちょっと過ぎ、今日のバイトは4時からだから1時間ちょっとある。
ちなみに俺は商店街にあるファミレスでバイトしている。このファミレス、実は結構味が良い。そこでアルバイトをしてるから多少の贔屓は入っているかもしれないが、それを抜きにしても美味いと思う。何でもそこの店長がある有名ホテルの元コック長だとかなんとか、なんでファミレスの店長に転職したのかはわからないが。
そんな訳で平日でも結構人が入って忙しい。まぁその代わり時給は1000円とかなり高い訳だが。
「さて、どうやって時間を潰そうか……」
あれこれ考えても仕方ないので結局商店街で時間を潰す事にした。
商店街をぶらついて時間を潰した後バイトに行った。今日は珍しく人が少なくそれ程忙しくはなかった。
定時(22時)で帰宅し、夕食を軽く済ませて風呂に入る。
風呂から出た頃には23時になっていた。
「まだ早いような気がするがなんか今日は疲れたから早めに寝るか」
俺はそのまま眠りの世界に落ちていった。
----4月2日----
「――くん」
……何か、声が聞こえる。
「――くんってば!」
体が左右に揺れる。
誰か知らないけど俺は眠いんだ。もう少し寝かせてくれ……。
俺は再び眠りに落ちようとする。
「もう……こうなったらアレしかないかな」
アレ? あれってなんだ?
俺は気になる少し目を開ける。と、そこには――
勢い良く寝ている俺に飛び込んでくる美冬の姿があった。
「ちょ!?」
俺は一気に覚醒し、それをなんとか回避しようとするが間に合わない。
「ぐはっ!?」
い、息が……。
「あ、カズくん目、覚めた?」
美冬が笑顔で聞いてくる。
「あぁ覚めたよ……最高の目覚めだよ……」
俺はお腹を擦りながら上半身を起こす。
「えっと、ごめん! 痛かったよね……?」
心配そうに少し涙目になっている目で上目遣いをしながら聞いてくる。
残念ながら俺はそんな姿を見せられて正直に答えられるほどの人間じゃない。
「いや、大丈夫。ちょっと痛かったけど」
「ごめんね?」
「あぁ。それよりもなんでそんな起こし方したんだ?」
少し前まで普通に起こしてくれたのに。あ、別に毎日起こしてもらってる訳じゃないからな? 俺が寝坊したときだけだからな、そこを勘違いするなよ?
「えぇと、昨日の夜やったドラマでこうやって起こすシーンがあって……」
ドラマの影響かよ!? というかなんだそのドラマ逆に気になる。
「そ、そうか……まぁいいや」
俺はベットから降り、クローゼットに着替えを取りに行く。
「朝ごはん、もう出来てるから早く降りてきてね」
「あぁ、悪いな二日連続で明日は俺がやるよ」
「別に私が好きでやってるからいいのに」
「いや、さすがにそれは俺の気が済まない」
「やっぱりカズくん優しいね」
そんな事を笑顔で言ってくる。
「別にそんな事ない。普通だ」
俺は恥かしくなりそっぽを向く。
「そっか、じゃあ私先に下で待ってるから早く来てね」
「あぁ」
俺は早々に着替えリビングに向かうとすでに美冬が椅子に座って待っていた。
「お待たせ」
俺は自分のお気に入りの場所に座る。
目の前にはトースト、サラダ、目玉焼き、紅茶が用意されていた。
今日の俺は紅茶の気分だったがまさか紅茶が既に用意されてるとは……。
昨日といい今日といい、実は超能力者なんじゃないのか?
「……なぁ、美冬」
「うん? 何?」
「お前は超能力者か……? 確かに今日は紅茶の気分だがそんな事一言も言ってないよな?」
「うん、でもなんとなくわかるよ」
「わかるのか……」
「ええと、カズくんの寝起き顔でなんとなくわかるんだよ」
寝顔でわかるって……。
「たとえば?」
「ええと、たとえば起きたときにすごく眠そうだとコーヒーで眠そうだけど清々しく起きれた感じなら紅茶、かな」
「なるほど」
確かにそうかもしれない。
「ってちょっと待て! 今日の寝起きは明らかに清々しくないよな!?」
「あ~ええと、そこは……女の子の勘、かな?」
「勘なのか……」
「うん」
そんなこんなでいつもより会話が弾む朝食を終え、家を出た俺たちはいつものT字路に辿り着く。
「さて、そろそろあいつらが来るかな」
俺は時計を見る。
「智子が寝坊してなければ、だけどね」
「そうだな、始業式に遅刻しなかったしな。今日は気が抜けて寝過ごしてるかもな」
「う~ん智子ならありそうだから心配ね……」
心配そうに智子たちが来る方を見つめる。
「あっ」
美冬何かに気づいたように声をあげる。
「2人ともちゃんと来たみたいだよ」
その視線の先には健吾と智子がいた。
「智子は寝坊しなかったか」
「みぃちゃん、和真君、おはよ~」
智子が元気よく挨拶してきた。
「うぃ~す」
「おう、おはよ」
「おはよ~」
「智子、よく寝坊せずにこれたな。偉いぞ」
俺は智子の頭を撫でてやる。
「そ、そう? えへへ、ありがと~」
智子が嬉しそうに目を細める。
「これが毎日だといいんだがな」
「あぅ~……努力します……」
智子がしょんぼりとする。
「お? 終わった? じゃあ行こうぜ」
ずっと傍観していた健吾が歩き始める。
「待て、まだ1人来てないぞ」
「ん? 俺に智子に和真に美冬だろ? 全員いるだろ」
「お前は昨日知り合った子の事も忘れたのか?」
「え? 河上来るの?」
「あぁ、昨日俺と美冬で誘っといた。ちなみにそっちと同じ方向だからな?」
「なに、そうなのか。そういう事は早く言ってくれよ」
「悪いな、お前たちを驚かせようと思ってな」
「え? え? 梨乃ちゃんが来るって本当!?」
ものすごい勢いで俺に聞いてくる。
「あ、あぁ」
俺は智子の迫力に飲まれる。
「やったぁ~みぃちゃん、みぃちゃん!」
智子が大はしゃぎしながら美冬に抱きつく。
「ちょ、ちょっと智子落ち着きなさい」
美冬が何とか智子を抑えようとするが止まらない。すると自分じゃ無理だと悟ったのか俺に助けを求めてくる。
「おい、智子少しは落ち着け」
俺は無理やり智子を美冬から引き離す。
「あ、あの~」
智子を抑えていると後ろから声が聞こえてきた。俺はそのまま振り返る、とそこには――
「おはよう、ございます」
河上さんが立っていた。
「おう、おはよ~」
「うぃ~す」
「おはよ~」
「梨乃ちゃんおはよ~~~~!」
そう言った矢先俺の束縛から抜け出し河上さんに抱きつく。
「あ、あのええと、あの……」
「んぅ~気持ちいい~。ペタペタ~、ペタペタ~」
「ちょっと智子! 梨乃ちゃん困ってるでしょ」
美冬が引き離そうとする。
「ん~もうちょっとだけ~。ほっぺぷにぷに~」
智子が今度は頬をつつきだす。
「もう……」
美冬が俺に助けを求めてきた。
「ったく……おい、智子! 河上さん嫌がってるだろ、離れろ!」
俺は懸命に引き離そうとする。
「え~嫌がってないよぉ~。そうだよね? ね?」
「え、ええと……その……」
「ほら、嫌じゃないって」
「いや、言ってないだろ……」
「べ、別に嫌じゃ……ないです。ただ――」
「ほら! 和真くん、今の聞いた? 嫌じゃないって言ってるよ!」
「人の話は最後まで聞け! まだ続きがあっただろ。ごめん、河上さん続きを言ってあげて」
「は、はい……えと、嫌でないんですけどその……は、恥ずかしいです」
顔を俯ける河上さん。
なんかもう河上さんの恥ずかしがる姿見慣れたな……。
「ん~~~~もう駄目! 和真君! お持ち帰りしていい? いいよね!」
「いいわけあるか!」
俺は智子の額にデコピンを喰らわせる。
「あぅ~いった~い! 何するの!」
自分のデコを擦りながら怒ってくる。
「お前が言ってもやめないからだ」
「智子、さすがにやりすぎだと思うぜ?」
「もう、智子はもうちょっと落ち着きなさい」
「あぅ~……」
俺以外の二人に怒られてシュンとする智子。
なぜ俺の時だけ、反論するんだ……。内心ちょっと泣きたくなってくる。
「ごめんなさいね。梨乃ちゃん」
美冬が智子の代わりに謝る。
「い、いえ。そんな大丈夫です。それにもう慣れましたから」
そう言って誰もが微笑んでしまう笑顔で返してくる。
たった2日で慣れたのか!? 河上さん、もしかしてすごい奴なんじゃ……。俺でも智子の行動に慣れるのに1週間以上掛かったのに……。
「えと、ごめんね? 私ちょっとはしゃぎ過ぎちゃった……」
智子が申し訳なさそうに俯く。
「いえ、大丈夫です。あ、でも出来ればいきなり抱きつくのはやめていただけると……」
「わかった! じゃあ今度からちゃんと聞くよ! 今抱きついていい? いいよね!」
そう聞いた途端智子の元気メーターがマックスになり、ものすごい勢いで河上さんに迫る。
「はいはい、そういう冗談はいいから早く行かないと遅刻するよ~」
美冬が智子の襟を掴んで引き摺って行く。
すげぇー。さすが美冬。スポーツテストで女子の中で一桁代なだけはある。
あーそういえばもうすぐスポーツテストあったっけ……。
俺はなんとなくそんな事を思い出す。
まぁ、どうでもいいか。
「え、えーと……」
引き摺っている美冬と引き摺られている智子を見つめながら戸惑いの表所を浮かべる河上さん。
「あーまぁ、そのなんだ、これが俺達の日常だ。うん」
「は、はぁ……」
「その、なんだ。面白い奴らって思ってれば楽しいからさ。大丈夫、本当に悪い奴らじゃないからさ」
「あ、いえ! そういう事じゃなくて今までああいう人達と友達になった事がないので、ちょっとどう接していいかわからなくて……」
「あーなるほどね。そういう訳か。大丈夫俺も最初智子の扱いに悩んだから」
俺は少し昔の事を思い出し、顔をニヤつかせる。
「そうなんですか?」
「あぁ、そりゃ――」
「二人とも~早く来ないと置いてくよ~」
智子達と出会った頃の話をしようとしたが、美冬の声でかき消される。
「あ~わりぃ。今行く~」
「ん~ごめん。その話はまた今度。それより、早く行こうか」
「はい、わかりました」
俺達は二人して美冬たちの所に向かって走る。
「もう二人とも遅いよぉ~」
智子が不服そうに顔を膨らませる。
「誰のせいだ! 誰の!」
「はいはい、その話はいいから早く行きましょ。このままだと予鈴ギリギリよ」
「はぁーい」
「……わかった」
「おう」
「はい」
そうして俺達4人は学校へ向かった。
はい、というわけで4話です。
書くことがない……。いや、本当に……すみません。
とりあえず新キャラが出てきましたが、登場は今回のみというわけではないのですが、ほとんど出てきません。あくまで先のフラグだと考えておいてください。
今は特に何も起きないのですが、運命の歯車は着々と少しずつ、進んでいます。
ほんと、よくわからない後書きですが(オイw
これからも『ガクモノ!!』をよろしくお願いします。