第03話 体育祭実行委員と生徒会長
「河上さん、お願い出来ませんか?」
俺は横を向き、河上さんを見る。
「え! わ、私……ですか?」
いきなりの指名に驚く河上さん。
まぁ、予想通りの反応か。
「はい」
「え、えぇとえぇとその、あの……」
ん~やっぱり駄目かな。河上さんの事もっと知りたいと思って思わず指名しちゃったけど。
「ふむ。荒木、お前は知っていると思うが河上は転校生だぞ? なぜ彼女にやらせようとする?」
先生が俺の反応を窺う様な目で見つめてくる。
転校生、という言葉にクラスの一部がざわめく。
「お~い。お前ら静かにしろ~」
教卓を叩いて静かにさせる。
「で、荒木。なんで河上なんだ?」
まぁそうくるわな。でもこれにはちゃんとした理由がある。それは――。
「確かに河上さんは転校してきたばかりでまだ全然この学校の事をわからないかもしれません。でも、この学校の事はわからなくても前の学校でも体育祭はありますよね?」
そう言って俺は河上さんの方を見る。
「え? は、はい」
突然振られて驚いたのか少し詰まる。
「河上さんの『前の学校の体育祭』というのを僕達は知りません。だから河上さんに手伝ってもらうことで『新しい視点』を入れることが出来ます。そうすればより良い体育祭になるのではないか? と思い、河上さんを指名しました」
「そうか」
郷田先生が「ふっ」と口元を緩ませる。
反応はいいかな。
「お前の意見はわかった。河上はどうだ? 荒木が言った事は筋が通ってていいと思うが、やはりまだ転校してきたばかりで右も左もわからない状態でいきなり副実行委員長はきついだろう。もし嫌なら断ればいいし、もしそれで断っても誰も責めはしない。そうだろ? 荒木」
「当たり前ですよ。頼んでるのはこっちなんですから」
「だ、そうだ。どうする? 河上」
「わ、私は……っ」
「や、やります。やらせてください!」
小さな握り拳を握り締め大きな声で宣言する。
「おぉ~」と周りから歓声が上がる。
「よし、わかった。じゃあ体育祭実行委員は荒木と河上だ。何か反論があるやつはいるか?」
先生が周りを見渡すが反論の声はあがらない。
「うむ、なさそうだな。じゃあ二人とも頼んだぞ。もしなにかあったら遠慮なく俺に言ってくれ」
「はい」
「わかりました」
「で、他の委員なんだが――」
----放課後----
「あの、荒木さん」
実行委員の顔合わせのために会議をする教室、3-Aに向かっていると河上さんが話しかけてきた。
「ん? どうした?」
「私つい、やりますって答えちゃったんですけど大丈夫でしょうか……?」
不安そうな表情を浮かべる。
うーん。悪い事しちゃったかな。皆に頼まれると断れないタイプっぽいし、人の事言えないけどさ。
ちょっと緊張を解すか。
「大丈夫さ、そんな悪い奴はいないし。あーでも河上さん可愛いから皆に少しイジられるかな?」
俺は笑いながら言う。
「あぅ……。そ、そんな……可愛い、なんて……」
恥ずかしそうに俯いてその場で立ち竦む。
思った以上の反応でこっちが戸惑う。
「あ、いや。ごめん! 別に変な意味じゃなくてだな……その、純粋にそう思っただけで……」
って、俺何言ってるんだ!?
自分の言葉に自分で驚く。
「え? ほ、本当……ですか?」
上目遣いで恥ずかしそうに俺を見つめてくる。
「あ、あぁ」
や、やばい可愛い……。俺は思わず見惚れてしまう。
少しの間見惚れていると――
「あ、あの、私の顔に何かついてますか?」
恥ずかしそうに俺の顔を見つめてくる。
「い、いやなんでも、ない」
俺は恥ずかしくなりそっぽを向く。
……なんか調子狂うな。
「そうですか」
その後無言になりそのまま歩き始める。
「あ、あの!」
しばらく歩くと河上さんが突然声をあげた。
「!? な、何?」
び、びっくりした……。
ついさっきの事を考えている時に突然声を掛けられて俺は驚く。
「えと、その、2つ質問いいですか?」
「あ、あぁ。なに?」
「その、1つ目は実行委員を決めるときにした質問の答えを……」
おお、そういえば後で教えるって言っておきながらすっかり忘れてた。
「えっと、なんで体育祭が5月にあるかって事、だよね?」
「はい」
「そうだなぁ~なんて説明しようか……」
う~ん。あんまり難しく説明してもしょうがないし簡単に説明するかぁ。
「えっとそうだな。今じゃこの学校スポーツで有名だよね?」
「はい、学校のパンフレットのほうにそう載っていました。でもそれとどんな関係が?」
まぁその疑問が普通だよな。
「実は昔は普通の進学校だったんだ」
「え? そうなんですか?」
今ではスポーツと言ったら「綾藤」と言われるぐらいの名門校と言われているが、つい数十年前までは極々普通の進学校だった。
それがなぜスポーツ名門校となったかと言うと――
「あぁ、何でも前の校長だったか理事長だったか忘れたけどスポーツが大好きでこの学校をスポーツで有名にしたいって考えたらしい」
「へぇ~、そうなんですか~」
「そう考えるまではよかったんだが、当時、運動系の部活はほとんど弱小だったんだ」
「え? そうなんですか?」
「あぁ、この事聞くと皆びっくりするね」
実際俺も洋介に言われて驚いた記憶がある。あの時は相当あいつの事疑ってたなぁ~今では良い思い出だ……今でも若干……かなり疑ってるけど。
「まぁそんなわけでまずは部員を強くしなければいけない。そのときに考えたのが『5月に体育祭』だったんだ」
「???」
理解出来ないという表情を浮かべる。
まぁ普通の反応だな。これだけで理解したら逆にすごいと思う。俺も実際河上さんと似たような反応したし。
さて、ここからうまく説明しないとな。
「まず4月に新入生が入ってくるだろ? で部活動をやりたい人はまぁ部活を探す。けれど中には運動神経があるのに部活に入らない人っているだろ?」
「そう……ですね。前の学校でも運動部に所属してないのに運動出来る人結構いました」
「うん、で学校側としてはそういう人を運動部に勧誘したい。けれど中々そうゆうのは見つけられない。だったら運動神経を発揮できる場を用意すればいい。そう考えたんだ」
「あ……」
お、気づいたみたいだな。案外頭の回転は速いのかもしれない。
……いや、俺の周りの奴が遅いだけか? 智子とか健吾とか……。
「そう、たぶん河上さんの想像通り。5月に体育祭をやることで運動神経がいい人を見つけて勧誘する。もちろんいい成績を残せたら推薦が貰えるとか家庭の経済事情とかでやりたくても出来ない人に補助金を出すとかそうゆうのを付けてね」
「綾藤の体育祭は云わば、ダイヤの原石を見つけるためのイベント!」
「まぁこのセリフは洋介の受け入りだけどね」
洋介に言われたとおりに言ってみたけどこれかなり恥かしいな……。
「なるほど~。だから5月に体育祭があるんですね。……あれ?」
何か疑問があるのか小首を傾げる。
「ん? なんかおかしい所あった?」
うーん。ほとんど洋介の受け入りだから間違いは無いと思うんだが……。
って、あ! そこで俺は自分が洋介に質問した事があったのを思い出す。
そういえばあの事説明してなかったな。
「えっと、運動神経がいい人を見つけるって別にスポーツテストでいいような気がしたんですけど……」
ほとんど俺が洋介に質問した事と同じか。
俺はなぜかその事がすごく嬉しかった。
「うん、そっちでも一応勧誘はしているみたいだけど体育祭の方が効果は大きいみたい。詳しくは知らないけどな」
本当、なんでだろう? まぁたいした意味はないだろうけど。あえて言うなら楽しさの違いか?
「そうなんですか~」
河上さんが何度も頷く。
「ごめんね。説明が下手で。とりあえず最初の質問の答えはこんな感じでいいか?」
「い、いえそんな。教えて貰えただけ嬉しいです。ありがとうございます」
「いや、別に大したこと話してないよ。ほとんど洋介から聞いた話だし」
「それでも嬉しかったんです」
そう言って満面の笑みを浮かべる。
「そ、そっか」
俺は恥ずかしくなりそっぽを向く。
「? どうかしたんですか?」
河上さんが俺の顔を覗き込んでくる。
「あ、いや、なんでもないよ。そ、それよりもう1つの質問は?」
慌てて話題を戻す。俺何焦ってんだ……。
「あ、す、すみません。もう1つの質問なんですけど」
「えぇとその、なんで私を選んだんですか……?」
途中で恥ずかしくなったのか段々声が小さくなる。
「? なんでって指名したときに言った筈だけど?」
うーん。その質問きたか。
まぁでも大丈夫だろう。ちゃんとあの時間に説明したし。
とそんな感じで軽くみていた俺だったが向こうには何か思うことがあるらしい。
別の意図がバレたかな……。まぁ別に言ってもいいんだけど面と向かって言うのは恥かしいし……。
「はい、確かに聞きました。でも、なんだがそれだけじゃないような気がして……。あの、もし違ってたらごめんなさい」
「う~ん。どうしたものか……」
俺は思わず小声で呟く。
「え? 何か言いましたか?」
「あ、いや。別になんでもない」
嘘付いても河上さんは納得してくれるだろう。だけど……。
河上さん相手に嘘を付くのが辛いと思うのはなぜだろうか? 本人の性格のせいなのかそれとも別の要因なのか、俺にはわからなかった。
恥かしいけど正直に話すか……。
「そうだな。ちょっと恥ずかしいんだけどその、折角知り合えたんだからもっと河上さんの事知りたいなぁ~と思ってだな……」
今の俺たぶん顔赤いだろうなぁ~。すっげぇ恥ずかしい。
「そ、そうなんですか……」
顔を赤くする河上さん。
「あ、も、もちろんそれだけじゃないぞ? あの時言った事も本当だからな?」
俺は慌てて言い訳をする。
くそ、むちゃくちゃ恥ずかしい……。何言ってるんだろう俺……。
「そ、そうですよね」
お互い顔を赤くしながら無言になる。
そうして歩いているうちに3-Aに着いた。
「えぇと、ここですか?」
まだ恥ずかしいのか少し赤い顔で聞いてくる。
「あぁ、今回だけだけどな。次回からはうちのクラスでやることになるけど」
俺はなんとか平然さを取り戻し、これまで通り接する事が出来るようになった。
「わかりました。覚えておきます」
笑顔で答える。
その言葉を聞き、俺は扉を開けるとその時――。
「おっそ~~~~い!」
女の子の声と共に俺の鳩尾に激痛が走る。
「かはっ!?」
い、息が……!。
「ゲホッ、ゲホッ」
あまりの苦しさにむせる。
「きゃ!?」
隣にいた河上さんが驚く。
「くっ……」
あまりの苦しさに俺は膝をつく。
「あ、ごめん鳩尾入った?」
俺の鳩尾にクリーンヒットをかました女の子が覗き込む。その女の子は俺がよく知っている先輩だった。
「えぇ! 思いっきり入りましたよ……!」
俺はその先輩を思いっきり睨み付ける。
「あーごめんごめん」
謝る気ゼロの顔で笑いながら謝る。
「先輩、絶対悪いって思ってませんよね……!」
この人は中学の頃からの先輩で名前は一ノ瀬陽菜。
性格は説明するまでも無いと思うがまさに唯我独尊という言葉がよく似合う人で、いつも自分勝手でやりたい放題、他人を巻き込むのが大好きな人だ。
ちなみに余談だが実は先輩、去年の体育祭実行委員長で現・生徒会長でもある。
本当、こんな人が生徒会長なんてこの学校はとことん変わってると思う。
まぁそんな訳で俺が苦手な人だったりもする訳だが、黙ってれば綺麗だし頭もいいから人気が出るんだろうな。とは思う。
そんな事口が裂けても言えないけど。
「え~そんなことないよ~?」
そう言いながらも目を逸らす。
「じゃあなんで目を逸らすんですか?」
「ん~。あ、あそこに宇宙人が!」
窓を指差す先輩。当然そんなもの居るわけないわけで。
「誤魔化さないでください! くっ」
俺は何とか立ち上がろうとするが、うまく立てない。
「あ、あの大丈夫ですか?」
河上さんが心配そうに俺を見つめ、手を差し伸べてくれる。
「あ、あぁ……なんとか」
俺は差し出された手を取り、なんとか立ち上がる。
手、温かいな。なんとなくそんな感想が出た。
「あれ? 和真、この子誰? 新しい彼女?」
「ふぇえええええええええ!?」
河上さんが顔を真っ赤にして驚く。
なんていうかさっきからずっと驚いてばかりだな。見てて面白いけど。
「え、えとえとあの、そそ、そんな。あ、荒木さんのか、彼女、なんて……」
「先輩、河上さんはそうゆう冗談が通じないからやめてください。後、新しいも何も俺に彼女なんていませんよ」
「ふ~ん。美冬は違うの?」
「美冬はただの幼馴染ですよ」
「そっか、和真がそう言うならそうゆう事にしておこうかな」
「??? どうゆう意味ですか?」
「それくらい自分で考えなさい」
「は、はぁ……」
自分で考えろと言われてもなぁ……わからん。
まぁ先輩の事だからいつもの冗談だろう。
ってそんなことより河上さん!
「え~と河上さん大丈夫?」
「は、はい。ちょっとびっくりしただけですから」
「そっか」
まだちょっと顔が赤いみたいだけど。まぁいいか。
「あの、それよりこの人は?」
「あ、そういえば紹介してなかったな。この人は――」
「私の名前は一ノ瀬陽菜、和真の婚約者よ」
俺が自己紹介をしようとしたところで先輩が一歩前に出てとんでもないことを口にする。
いや、だからそうゆう冗談通用しないんだって!
「ふぇ? こん……やく……しゃ……?」
ゆっくりと復唱する。
ほら、すごい驚いてるよ。
「ふぇえええええええええええええ!?」
はい、本日…………えー何回目だ? まぁいいやとにかくたくさんの叫び声を頂きました!
にしてもあんなに何度も大声あげて疲れないのかな?
「え? え? こ、婚約者ってあの、その、あの婚約者、ですか?」
あの婚約者って他にどんなのがあるんだ……?
どうやらかなり混乱しているらしい。
「そうよ」
「そ、そうなんですか……そ、そういう人って世の中にいるんですね……」
河上さんが静かに感心する。
「いや、いないから! まぁもしかしたらいるかもしれないけど少なくとも俺は違うから!」
俺は思わず突っ込む。
どんな反応だ……いや、まぁ河上さんらしいけどさ。
「え? そうなんですか?」
「ごめんね~。それ、嘘だから」
先輩が「てへっ」と舌を出して笑う。
「そ、そうですか。嘘、だったんですか……」
少し残念そうな顔を浮かべる。
なんで残念そうなんだ? もしかしてそういうのに興味あるとか……?まぁ、女の子なんだし興味ぐらいはあるか。
「先輩、オオカミ少年になっても知りませんよ? 後そんな女の子みたいに舌を出して笑っても可愛くないですよ」
「大丈夫、私女の子だから。後和真、あんた後で覚えておきなさいよ」
先輩が胸を張――たと思ったらドスの聞いた声で俺を睨みつけてきた。
「いや、そうゆう意味じゃなくて……後すみません……許してください……」
すごく……怖いです……。
「わかればよろしい」
先輩が「えっへん」と胸を張る。
「とりあえずそんな所で突っ立ってないで早く席に着きなさいよね」
「先輩がいきなり殴るからじゃないですか!」
「だから謝ったじゃない」
「はぁ~……」
やめとこう。この人と口論で勝てる訳が無い。
「で、何処に座ればいいんですか?」
「んー。後で紹介もするから前の方なら何処でもいいわ」
「わかりました」
さて、何処に座ろうか。まぁ窓側以外選択肢にないわけで。窓際は……前の方だけ空いてるなちょうど前の方だしあそこにするか。
「河上さん、あそこに座ろうと思うんだけどいいかな?」
俺はそう言って窓側一番前の席を指差す。
「あ、はい。大丈夫、です」
「ん、わかった」
なんか元気ないな。どうしたんだろう?
疑問に思うが、とりあえず前の窓側の方に座る。河上さんはその隣の席に着いた。
「……………」
「河上さん?」
やっぱ元気ないな。なんか体も震えてるみたいだし。
「は、はい! な、なんですか?」
俺の言葉に驚いたのか体をビクつかせる。その行動で俺は納得する。
あぁ、やっぱり緊張してるのか。たぶんさっき先輩が言った『紹介』て言葉のせいかな。俺はそんな憶測を立てる。上がり症……というか恥かしがり屋の河上さんにとっては自己紹介するだけで一苦労なんだろうな。ここは一つフォローしておくか。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。前に出て今年の実行委員長と副委員長だって会長に紹介されるだけだから」
たぶん……先輩の事だから絶対といえないのがまた怖い。
「はい」
河上さんが無理やりな笑顔を浮かべる。
まだ駄目なのか表情がすごく硬い。
「ほら、自己紹介のときみたいに深呼吸してリラックス」
俺は今日の朝と同じように優しく話しかける。
「はい……スゥ~、ハァ~。スゥ~、ハァ~」
「どう? 少しは落ち着いた?」
「は、はい。少しだけ、落ち着いた気がします」
「ん、俺がいるからさ、そんなに心配しないで、なんかあったらフォローするからさ」
「はい」
そこでようやく笑顔になる。
なんとなくその笑顔に癒された気がした。
----数分後----
「うーんこれで全員かな?」
そう言って先輩がぐるりと見渡す。
「和真~これで全員?」
なぜか俺に聞いてくる。
「いや、知りませんよ! そもそも今年の実行委員何人か知りませんし」
「あんた実行委員長になったんだからそれくらい把握しておきなさい!」
「今日決まったばっかりでまだ名簿見てないから無理ですよ!」
「まったく使えないわねぇ~。まぁいいわ出欠確認するわよ~」
そう言って名簿を取り出す。
「名簿持ってるじゃないですか!」
「はい、そこうるさ~い」
軽くあしらわれる。
「くっ……」
まったくこの人は……!
「じゃ名前呼ぶから返事してね~」
「安藤ー」
「はい」
「岩沢ー」
「は~い」
その後淡々と出欠確認が進み俺たちの番になる。
「さて残り二人ね」
そう言って俺たちを見る先輩。
「前に出るよ。河上さん」
「はい……」
「はいちゅうも~く。この二人が今年の体育祭実行委員長と副委員長ね~」
皆の視線が俺達に向けて一斉に集まる。
「和真、自己紹介」
「あ、はい」
「2年B組の荒木和真です。今年の体育祭の実行委員長をやることになりました。初めての実行委員という事で至らない点が多々あると思いますが、皆さんとより良い体育祭を作りたいと思うのでよろしくお願いします」
パチパチパチパチパチ。
うん、つかみはオッケーかな。
「じゃあ次、河上さんお願いね」
優しく微笑む先輩。
俺の時と対応違いすぎるだろ……。
少し理不尽さを感じる俺。
「は、はい!」
「えと、その…………」
それを言った後りすぐに黙り込む河上さん。
ざわざわざわ。
中々喋り出さないからか周りが少しずつざわめき始める。
ちょっと先輩に助けてもらうか。
『先輩』
俺は先輩にアイコンタクトを取る。
すると先輩が『まかせなさい』と目で俺にそう返してきた。
なぜか先輩にも通じるんだよなこれ。
「あんた達、静かにしなさい」
ドスの聞いた声で笑顔で言う。
目が笑ってねぇ……。
その言葉で周りが一瞬で静かになる。
「大丈夫、落ち着いて」
そう言って先輩が河上さんの手を軽く握る。
「あ……」
手を握った瞬間、緊張していた顔が少し解けたように見えた。
先輩ってこうゆう所はうまいよな。普段はアレだけど。
「まず自分のクラスと名前を言いなさい。ゆっくりでいいから、ね?」
「は、はい。ええっと……」
「に、2年B組……か、河上梨乃、です。よ、よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げる河上さん。
やべぇ……恥かしそうに挨拶する河上さんがけなげで可愛い……。
思わずその姿に見惚れてしまう。
男達「「か、かわいい~~~」」
女達「「きゃ~かわいい~~~」」
周りから太い歓声と黄色い歓声が上がる。
「ふぇえ!? え、えとえとその……」
それと同時に河上さんの顔が真っ赤になる。
「こ~ら、このロリコン共~あんた達が変な事言うから河上さん顔が真っ赤じゃない。どうするのよ」
男達「「別に変な事は言ってません!」」
お~こいつらほとんど初対面のクセに団結力あるな。
今回の体育祭かなり良い出来になりそうだな。
だけどその返し方はどうかと思うんだが……。
「あ、あの荒木さん」
さっきまで顔を赤くして俯いていた河上さんが話しかけてくる。
まだちょっと顔が赤い、か。
「ん? どうした?」
「あの、『ロリコン』てなんですか?」
そう言って小首を傾げる。
あーやっぱ河上さんそういう事知らないか。なんとなくそんな気はしてたけど。
そしてちょっとした仕草に少し可愛いと思ってしまった俺はロリコンなんだろうか? ……違うと信じたい。
「あ~え~とそれはだなぁ~……」
どうしよう、正直に答えるべきか……。う~ん。
と俺が悩んでいると横から来て欲しくないフォロー……もとい、状況を悪いほうへ持っていく先輩のありがたいお言葉がくる。
その言葉は俺の今後の学校生活に支障が出る可能性が極めて高いものだった。
「それはねぇ~荒木みたいに小さい女の子が好きな変態男子の事を言うのよ~」
「ちょ?!」
先輩また余計な事を……! というか俺ロリコンじゃねぇ!
「え……?」
そう言って少し後退り俺から離れる。
あぁ……ほら、引いちゃったよ……だから冗談が通じないと……。
「い、いやいやそんなわけ無いから!」
冗談じゃない! そんなことあるわけが無い! ない、よな? たぶん……。
ここにきてなぜか不安になる俺。
「で、ですよね。あ、荒木さんがそんな、人な訳ない、ですよね……?」
不安げな表情で俺に聞いてくる。
「あ、当たり前だろ」
「ふ~ん。じゃあ和真は河上さんが可愛くない、そう言いたい訳ね」
ニヤニヤしながら俺の逃げ道をどんどん塞いでくる先輩。
「い、いや。それは……」
可愛いか可愛くないかって聞かれればもちろん可愛いけど……。
そんな事本人の目の前で言えるわけないわけで……。
「…………」
結局俺は何も言えずに黙り込む。
「ちょっと、そこで黙り込まないでよ」
俺の肩を「ポンポン」と叩いてくる。
「黙らせるような質問をしたのは誰ですか!」
「そう? 別に普通の質問だと思うけど?」
「い、いやそれは……そうですけど」
確かに好きにも色んな意味があるわけで……この場合の好きは友達として……でいいのだろうか?
先輩も真剣そうだし……。
「で、実際どうなの? 河上さんの事可愛いと思う? 思わない?」
「…………」
河上さんが少し期待に満ちた眼で黙って俺を見つめてくる。
本人の前で言うのか。かなり恥ずかしいな。いやもう一度言ってるけどさ。でも今回はさっきと状況が違うわけで。
「えっと、その可愛いと……思います……」
俺は素直にそう答える。
今の俺の顔は絶対に赤いだろう。
「あ、ありがとうございます」
そう言って恥ずかしそうに俯くが、俺には少し嬉しそうに見えた。
「和真あんたやっぱりロリ――」
「違います!」
先輩が言い終わる前に否定する。
結局そうくるのか! ちょっとでも先輩を信用した俺が間違いだった!
「ちぇ~」
「先輩、さすがに怒りますよ?」
「あ~わかったわかった。私が悪かったから、そんなに怒らないでよ~」
「で、 え~と……次なんだっけ?」
先輩が本気で悩む。
この人は……!
「俺達の自己紹介が終わったところです!」
「おぉ、そうだったそうだった」
「まったく……」
「ん~どうしようか? 全員の出欠確認したし~。実行委員長の紹介も終わったし~。ぶっちゃけ今からやる事なんてないのよね」
「じゃあ今日はこれで解散、て事ですか?」
「そうね……あ、そういえば1個忘れてたわ。皆次の会議がいつなのかは知ってるわよね?」
その言葉でほとんどの人が頷く。
「む、知らない人も居るみたいだし言っておくけど次の会議は4月21日で教室はここじゃなくて2-Bだからね。忘れないように~。う~んとりあえずこれだけかな? まぁもし何かあったら担任の方から連絡があるでしょう。ということで今日はこれにて解散! 皆帰っていいわよ~」
その言葉を合図に皆散り散りに教室から出て行く。
「じゃ、河上さん。帰ろうか」
「はい」
そうして俺達は教室からでようとするが―
「あ~和真ちょっと待って」
先輩に止められる。
「なんですか?」
「あ~。いや、ごめん。やっぱりなんでもない」
先輩が慌てて目の前で手を振る。
「? どうかしたんですか?」
「ううん、ほんとに何でもないの。ごめんね、呼び止めちゃって」
「は、はぁ……」
納得行かないけど先輩がそういうならいいか。
俺は静かに教室を後にした。
「あ、荒木さん、もう終わったんですか?」
「ん? あぁ、なんかよくわからん。やっぱいいって言われた」
「そうなんですか~。なんだったんでしょうね?」
「さぁ……まぁなんかあったらまた言ってくるだろう。ただ、先輩結構溜め込む癖があるから心配っちゃあ心配だけど」
「荒木さんはやっぱり優しいですね」
河上さんが唐突にそんな事を言い出す。
「皆から言われるけどどうなんだろう……。自分じゃよくわかんね」
「自覚ないんですか?」
「うん、別に当たり前の事をしてるだけだしお世話になった人の心配するのって普通だろ?」
「それはそうですけど……でも優しいものは優しいです!」
「そ、そっか」
どうやら河上さんは俺を優しいと決め付けたいらしい。こんな事でムキになるなんてなちょっと可愛いと思って見たり。それにしても俺ってそんなに優しいのかなぁ……。
本気で悩んでみる。
「荒木さん、どうかしたんですか?」
そんな事で悩んでいると河上さんが俺の顔を背伸びしながら覗き込んできた。
「いや、なんでもない」
顔近い……。なんか俺のときだけやけに無防備な気がする。まぁいいけどさ、かなり恥ずかしいけど。
「? 本当ですか?」
「あぁ、というか顔近い」
「あっ……」
そう言った瞬間、河上さんの顔が耳まで真っ赤になる。
「す、すみません!」
ものすごい勢いで俺から離れる。
「別にいいんだけどさ。俺以外の男にやると確実に勘違いされるよ?」
いや、まぁちょっといいかもって思ったけどさ……。
「あぅ……気をつけます」
恥ずかしそうに俯く。
(――――ですよ)
その時河上さんが何か呟いたように見えたが俺にはその声は届かなかった。
おまたせしました。3話になります(序章は含めずに)
今回は一応この小説のメインイベントの前段階のようなものになります。
しばらくは日常イベントが続くのですが、体育祭が近くなると荒木和真、河上梨乃、一ノ瀬陽菜の3人がメインになっていきます。
上とは関係ないのですが2つ程お願いがあります。気付いた人はかなりいると思いますが、この話では少し文章の体裁を変更してあります。
具体的に言いますと会話→会話に繋がる部分の改行をなくしてあります。
そこで、これまでの1・2話と今回の文章どちらの方が読みやすいかを教えてもらいたいのです。個人的には1・2話の方が読みやすいと思うのですが、人によってまちまちなので……。
よければよろしくお願いします。
それともう一つなのですが、初のオリジナル小説という事で未だに緊張しており、二次創作より誤字脱字が多いと感じております。(一応修正しています)
投稿する前に確認して誤字脱字がないように確認はしているのですが、もしありましたら報告していただければ幸いです。
それと文章を書く上でのアドバイス、『ここをこうしたほうが良い』や『ここはこういう表現を使うと良い』など、どんな些細なことでも良いので教えていただければと思います。
お願いだらけの小説ですがこれからもよろしくお願いします。
8月16日追記
一部誤字脱字を修正しました。