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第02話 新しい教室と転校生

それから20分程掛けて歩いて学園に到着する。まだ本鈴まで40分近くもあるのにも関わらず、かなりの生徒が登校していた。

どうやら皆考えることは同じらしい。


「意外と生徒がいるんだな」


「やっぱり皆気になるんだよぉ~」


「ふふ、そうかもしれないね」

美冬が笑顔で智子の言葉に同意する。


「どいつもこいつも暇なんだな」


「まぁその中に俺らも含まれるんだけどな」

まぁ、久々に友達に会える、って意味では浮足立ってもしょうがないか。


「むっ」

健吾が少し顔をしかめるが俺の言ったことが正論のせいか反論できない様だ。


「ほらほら2人ともクラス見に行きましょ。来ないと先に見に行っちゃうよ」

美冬が先に歩き出す。


この学園のクラスは毎年変わる、まぁ変わると言っても大体クラスの半分ぐらいだが。

クラスの発表は正面玄関に入った奥にある掲示板に張り出される。そしてこの掲示板、実はやたらと長い。学園祭、体育祭になるとかなりの数のチラシが張り出される。まぁそんな長い掲示板がある理由としてはさっき言ったとおりチラシをたくさん貼れる様に、とクラス発表のためである。綾藤学園は1学年AからDクラスまでの3・4クラスあり、一斉に張り出される。

ちなみに俺達2年生は3クラスだ。


「う~ん、またみぃちゃんと同じクラスだといいなぁ~」


「ふふ、そうね、そうなるといいね」


「そういえば和真君」

突然、智子が立ち止まり、振り返ってきた。


「ん? なんだ?」


「えぇっと確か……」

智子が人差し指を顎に当てて考え込む。

なんなんだ?


「あっ!」

お、どうやら考えがまとまったみたいだ。


「もし、みぃちゃんと和真君が同じクラスだったら今年で10年連続で同じクラスじゃない!」

智子が「すごい!」とでも言いたげにはしゃぐ。


「馬鹿、11年連続だ。お前は俺たちが小学校或いは中学校を飛び級したとでも思っているのか?」

まったく、単純計算もできねぇのか……。いつもの事だけどさ。


「ふ、ふぇええええええええん」

智子が突然泣きだし、美冬に抱きつく。

あー今までの経験からして嫌な予感しかしねぇ……。


「和真君が馬鹿って言った゛ぁ~。ただ、ちょっと計算まち゛ぃがえただけなのにぃ~。か~ずまぁ~くんがぁ~」

大声で俺の名前を連呼しながら泣き喚く。

やっぱりか。まぁいつも通りだな……ってここじゃまずい!


「おい、智子! 俺の名前連呼するのやめろ!後、嘘泣きはやめろ!」

冗談じゃない! もし誰かに聞かれでもしたら……。そこで俺はその考えが無駄だと悟った。なぜなら今、この場所にたくさんの学生がいるからな……!

くそ、智子の事をよく知っている奴なら嘘泣きだってわかるが、智子の事を知らないと……間違いなく騙される。

智子は勉強も運動もまったく出来ないが、唯一誰にでも勝てるものがある。それが今実際にやっている「嘘泣き」だ。智子の嘘泣きは本泣きとまったく区別がつかず、出会った当初は幾度と無くその嘘無き騙されてきた。それほどまでに智子の嘘無きは完璧だった。主に自分が不利になったときに発動する物でなぜかよく俺が突っ込むとやられることが多い。

って暢気に解説している場合じゃねぇ!

そう考えた時、周りからヒソヒソと声が聞こえてきた。俺はその声が気になり、耳を澄ませる。


「ねぇ、なにあれ……」


「うわぁ~女の子泣かしてるよ~」


「あいつ、あの男がきっと泣かしたんだよ」


「おい、あそこにいるの和真じゃないか?」


「あ、ほんとだ。女、泣かせたのか」


「男の敵だな」

周りから注目を浴びる俺達(主に俺)。

うむ、恐ろしいほど俺の立場が危ういな。

余りのひどさに逆に冷静になるが、長くは続かない。

とりあえずこの場をなんとか凌がなければ……!


「と、智子悪かった、俺が悪かったからやめてくれ……計算ミスするくらい誰にでもある。だからごめん、俺が悪かった」

とりあえず俺はこの場を落ち着かせるために頭を下げ、謝る。

プライド? 何それ? おいしいの?


「ほんとう……に?」

涙で少し潤む目で上目遣いをしてくる。


「あ、あぁ」

そんな目で見るな……。

俺はどうやら女性の上目遣いに弱いらしい。まぁ男ならほとんどがそうだろうけど。


「わかった……ぐすん……」

智子がハンカチで涙を拭き取り、鼻をすする。


「はぁ~……」

やはり智子を相手にするのは疲れる……。


「まったく、お前智子を泣かすとか何考えてやがる!」

健吾がすごい牽制で迫ってきた。

あぁ、お前本当に智子と1年一緒にいたのか……?


「いや、今の智子の特技『嘘泣き』だからな? いい加減慣れろ」


「お前、そうゆうやつだったのか……信じてたのに……」

健吾が落胆し、敵意に満ちた目で俺を見てくる。

おいおい、まさか本当に気づいてないのか?


「いや、ホントだぞ! なぁ美冬!」

俺は美冬に助けを求める事にした。美冬ならなんとかしてくれるはず!


「えっ! えぇっと……それは……」

なんでそこで答えに詰まる!?


「ど、どうかなぁ~」

美冬が俺に視線で「ごめんね」と言ってそっぽを向く。


「ちょっ!?」

そこは助けてくれよ!


「おい、和真。ちょっと男同士で語り合おうぜ、拳で」

健吾が笑顔で拳を握り締めて俺の目の前に。

う~ん どうしたもんか……。

スポーツ特待生で入った男と拳で語り合うとか無理だからな。というか確実に死ぬ。


「お、落ち着け。まずは話し合おう」


「そんなもんはぁ必要ねぇ!」

そう言って健吾が俺に向かって拳を振り上げる。

まじか! まじで殴る気か!?


「ま、待って!」

そこで智子が突然大声を上げる。


「えぇっと……その、ね? あの……ごめんなさい! 健吾君、私の事を思って言ってくれるのは嬉しいんだけど。その、あれ、嘘泣きなの……」

智子が耐え切れなくなったのか、事実を伝える。

その言葉に俺は安堵する。ふぅ……助かった……。


「本当にごめんなさい」

智子が頭を下げる。


「そ、そうなのか……」

健吾が真実を知って冷静さを取り戻したのか振り上げた拳を下ろす。

前から思ってたが健吾の奴智子の事になるとムキになるな。

もしかして健吾の奴……。


「和真、その……すまん!」

そんな事を考えていると健吾が手を合わせ、謝ってきた。

健吾はすぐキレる奴だけどこういう所はちゃんとしてるよな。

まぁそんな健吾だからこそ俺はこいつの事を親友だと思っているんだが。

そしてすごくイジりたくもなる。たとえばこんな風に……。


「いや、別に気にしてない。というかお前にそうやって謝れる方が戸惑う」

「俺は普段どうゆう目で見られてるんだ……?」


「ん~良き友達?」

俺は笑いながら答える。


「お前今笑っただろ!?」


「さぁな」

俺はそう言い残し歩き始める。


「あ、おい、待てよ!」


「ほ~ら、二人ともその辺で、智子も誤解されるような事しないようにっていつも言ってるでしょ。まったくもう……」

美冬が「しょうがないなぁ~」と呆れる。


「うぅ、ごめんね? みぃちゃん」

智子がすまなさそうに謝る。


こうやってみるとほんと姉妹に見えるよな。もちろん美冬がお姉さんで智子が妹。

見ててすげー和む。


「違うでしょ、私に謝ってどうするのよ。カズ君に謝るの」

そう言って美冬が智子の肩に手を乗せ、前に押す。


「ええと、ご、ごめんね! 和真君」

智子が頭を下げ、謝る。

智子に謝れるとこっちが罪悪感を感じるのはなぜだろうか?。


「あ、あぁ別に、いつもの事だしいいよ」

ほんと、いつもの事だからな……。さすがに慣れた。


「はぁ~」

急に美冬がため息をつく。

どうしたんだろう? 俺は美冬の視線が学園の時計に向いているのに気がつき、そっちに目をやる。

あ……。そこには時計の針が9時10分を指しているのが見えた。


「3人で漫才やってるうちにいつもとほとんど変わらない時間よ……」


「大丈夫だ、いつもより5分早い」


「それってあんまり変わらないような……」


「気にすんなって、それより早くクラス見に行こうぜ」


「そうね」


「うんうん、クラス気になるよぉ~」


「だな」


俺たちは正面玄関に向かい、前の学年の下駄箱に靴をしまった後クラス表が張り出されている掲示板に向かう。

さすがにこの時間帯は人が多い。


「えぇっと、何処から見るの~?」

智子が俺に聞いてくる。


「んー普通にAから見て行けばいいんじゃないか? まぁ、俺はAクラスじゃないみたいだけどな」

俺は張り出されたクラス表を指差す。

あ行ってのはすぐわかるから楽だけど楽しみが無いよな。


「ホントだ、ないわね」


「あ行から始まるやつは楽でいいよなぁ~」

健吾が呟く。


「おまえなぁ~見つけやすいって事はそれだけ楽しみがないって事だぞ?」


「あ~それは嫌かもぉ~」

智子が俺の言葉に同意する。


「う〜ん皆Aクラスではないみたいね」

美冬が俺たちが喋っている間に確認をしたようだ。

本当、こういうときは仕事が速い。


「そっかぁ〜」

安堵する智子。


「じゃあBクラスはっと」

Bクラスの方に目をやる。


「お、あった」


出席番号1 荒木和真

また1番か、式のときに一番前だから嫌なんだよなぁ~。愚痴ってもしょうがないけど。


「なに、俺は……」

健吾が自分の名前を探す。


「お、あったぜ」


出席番号3 植野健吾 


「またお前と同じクラスか……」


「なんだその反応は! 嫌なのか?」


「いや、また、1年うるs……楽しくなるなと思っただけだ」


「お前今『うるさくなる』て言おうとしただろ!?」


「気のせいだ」

はは、相変わらず健吾は面白い奴だな。イジりがいがある。

俺って結構Sだよな。


「あ、あったぁああぁああああああああああああああああああああああ!」

そこに智子が俺の耳元で玄関中に響く程の声で叫ぶ。


「うるせぇ!」

っ……耳が……。


「こんのぉ馬鹿!」

俺は智子の額にデコピンを食らわせてやる。


「いったぁ〜い。和真君なにするのぉ〜」

智子が痛そうにデコをさする。

何って自業自得だろうが……。


「お前がいきなり耳元で叫ぶからだ!」


「あぅ、ご、ごめんね。和真君?」

智子が申し訳なさそうに謝る。

なぜに疑問系……?


「でも、みてみて」

智子がクラス表を指差す。


出席番号20 森下美冬


「「お前じゃないのかよ!」」

俺と健吾の声が重なる。


「ご、ごめん、つい……」


「「はぁ〜」」

今度は同時にため息をつく。

うを、気持ち悪いぐらいに息ぴったり。そう思い、健吾の方を見るとちょうど健吾と目が合った。健吾がすぐに目を逸らす。


「まぁいいや、これで後は智子だけか」

「う~緊張するよぉ~」

智子が緊張した面持ちでクラス表をみる。


出席番号21 森田雅樹


この辺、だよな。俺もつい緊張してしまう。


出席番号22 宮城勇治


「ドキドキ……」


出席番号23 宮沢智子


「あ……」

智子が大声を出そうとする。

やばい……。させるか! 俺は電光石火のごとく智子の口を塞ごうとする。


「あっムグムグ、んぅ〜んぅ~」

なんとか智子の口を塞ぐのに成功する。すると俺の手の上には美冬の手もあった。

美冬も俺と同じこと考えてたのか。


「んぅ〜んぅ〜んぅ~」

智子が苦しそうにもがく。

そろそろ離してやるか。俺は美冬に視線を送る。

すると美冬は軽く頷き、一緒に手を離す。


「ぷはぁ〜」

智子が苦しそうに息を吐き出す。


「なんで2人して口を塞ぐの!?」

智子が珍しく怒る。


「お前(智子)が叫ぶ(からよ)からだ!」

美冬が俺と同時に突っ込みを入れる。


「あぅ……だって嬉しかったんだもん……」

智子が少し目を潤ませてこっちを見てくる。


「「はぁ〜」」

俺は美冬と同時にため息をついた。


「嬉しいのは分かるけどほどほどに、ね?」

そう言って美冬が智子の頭を撫でる。


「う、うん」

智子が気持ち良さそうに目を細める。


「じゃ、新しい教室に行こうぜ」

健吾が先に歩きだす。


「そうだな、ここに居ても邪魔だし」

そろそろいい時間になり、人が増えてきたので俺たちはそこから離れ、正面玄関すぐ東側にある階段に向かって歩き出す。

綾藤学園は3階建てで北の1階には食堂や体育館、2階には職員室や生徒会室、会議室などがある。ちなみに教室は西と東に分かれていて、東にA・Bクラス、西にC・Dクラスという感じだ。1階から順番に3年、2年、1年の教室となっている。


「ここだな」

2階に上り、すぐ右側にある教室の前で立ち止まる。俺は教室のドアの上に「2-B」という札があるところで一度立ち止まる。

うし、入るか。俺は教室に入り真っ先に黒板を確認する。そこには座席表が貼られている。

まぁ見なくても大抵番号順だからあんまり意味無いんだけど。

そう思いつつも俺は確認する。


「あーやっぱ出席番号順かぁ~」

予想通り番号順だった。


「となると俺は、お前の二つ後ろか」

まぁそうなるわな。


「えぇと私たちは……」

美冬が座席表を確認する。


「う~んやっぱり遠いわね……」

美冬の席は窓側から2列目前から3番目の席だった。


「私の席はぁ~」

智子が座席表を確認する。


「いや、確認しなくてもわかるだろ、番号順なんだし……」


「あっ! そういえばそうだった!」

智子が驚く。


「じゃあ私の席はみぃちゃんの3つ後ろだ!」


「お前は何処に座る気だ? 床か?」

智子は相変わらずだな。


智子が言った場所には席はなかった。


「あ、あれぇ~?」


「1列に5席だからお前は次の列だ!」


「あぅ!? 一番前!?」

智子が「いやいや」と首を振る。


「よかったな、先生の話がよく聞けるじゃないか」

俺はついニヤニヤしてしまう。


「うぅ~」

智子が俺に助けを求めるように見つめてくる。

いや、俺に助けを求められてもな……。


「智子、頑張って。わからないことがあったらちゃんと教えてあげるから、ね?」


「う、うん。頑張る!」

一体何を頑張るんだ?


そのとき俺はふと背中に嫌な視線を感じた。振り返るとそこには悪友の浅井洋介(あさいようすけ)が手招きしていた。


「わりぃ、ちょっと……」

ん? なんだ? とりあえず俺は洋介の方へ向かう。


「なんだ洋介」


「なんだ、とはつれないじゃないか和真君♪」


「……………………」

俺はその反応にどう返せばいいかわからず黙り込む。

とりあえずこいつの説明をしておこう嫌だけど。

先程言ったようにこいつの名前は浅井洋介。1年の時のクラスメートだ。

綾藤新聞部に所属しており、学園内で起こる様々な事を聞いて回る取材リポーターみたいな物(自分で記事も書いているらしいが)で何かと面白い事があると俺に情報を提供してくれる。誰々が告白して失恋したーとか本当にどうでもいい事もあれば、持ち物検査がいつあるか、など役に立つ事も教えてくれる。

そんな事を話すのはどうやら俺だけらしく、なんで俺かと聞いた事があるのだが『君の行動を監視していれば何かと面白い事になる』というよくわからない回答をされた。

とまぁこんな感じで性格以外は結構いい奴だ。ほんと、性格だけは……な。


「無言で返されると僕が怪しい人みたいじゃないか」

洋介がつまらなそうに呟く。

自分が変人と自覚が無いほどうざいものはないな。


「なんだ、自覚はないのか」


「自覚も何も僕は至って普通の綾藤新聞部部員だよ?」


「そうやって言い切れるお前はすごいよ……」

ある意味尊敬するわ。こうはなりたくないけど。


「なんだよ、照れるじゃないか。そんなに褒めても何もでないよ?」

洋介が嬉しそうに笑う。

褒めてねぇよ! ったく。


「いつ、誰が、お前を褒めたんだ?」


「ついさっき、君が、僕を褒めたよ?」


「はぁ~~~」

大きな俺はため息をつく。

やめよう、時間の無駄だ。


「そんながっかりしないでよ。今日はちょっと聞きたいことがあるんだから」


「聞きたいこと? 変な事だったら殴るぞ?」

俺は拳を握り締める。


「いやいや、至って普通の質問だよ」

そう言って浅井が真顔になる。

普段はふざけた奴だが、取材の事になるとこうやってリポーターモード(略称、RM)に突入する。

一度RMに入れば恐らく学園一のリポーターだろう。

そんなに真剣になるのはかなり重要な時だけ、つまり今回の質問はかなり重要なんだろう。

俺は一言も聞き逃さぬよう耳を立てる。


「ズバリ、今朝校内で『宮沢智子』を泣かせたのは和真、君で間違いないね?」


「っ!」

くっ……。そうきたか。それはそうだよなあんだけ注目されてればなぁ~。


「何をそんなに驚いてるんだい? あんな所でやってたら注目浴びるのは当たり前じゃないか」


「それもそうだな。で、それがどうかしたのか?」

なんでそんな事が重要なんだ? だがこいつがRM入っている事を考えるとかなりやばいのかもしれない。

俺はそんな予想をつけたが、洋介の答えはまったく俺の予想と外れていた。


「いやねぇ~これを今回の記事にしようと思って『新学期早々女子を泣かせた2年生!』てね」


「洋介! 歯を食いしばれ!」

瞬間、俺は握り締めた拳を顔面に向けて打ち込む。だが……。


「おっと~暴力はんた~い」

洋介はそれをヒラリとかわしてみせた。

っち、相変わらず運動神経は運動部並か。


「くっ……」


「甘い甘い。で、言い訳があれば聞くけど?」


「はぁ~……」

しゃあねぇ……この質問答えるとするか。


「あのなぁ、あれは智子の嘘泣きだぞ?」


「あぁもちろんそれはわかってるよ。でもそれで納得出来ない人がいるんだ」

さすが洋介、その辺の事はとっくに知っているか。それよりも後に言った事の方が気になるな。


「納得できない人……?」


「宮沢智子ファンクラブさ」


「……なんだそれ?」

は? ファンクラブ……? そんなものがあったのか。


「その名の通り宮沢智子のファンクラブさ」


「なんでそんな物が?」

意味がわからん。なんであの智子のファンクラブが……。いや、まぁ顔は可愛いけどさ。


「そりゃあ人気があるからさ。ちなみにうちのクラスにもいるよ?」

うちのクラスにもいるのか、俺は思わず周りを見渡す。

……わからん。まぁいいか。


「意外と物好きもいるもんだな。あの智子の、ねぇ……」


「そうでもないさ。あの天然に惹かれている人が結構多いみたいだし何より可愛いしね」


「まぁ、確かに可愛いほうだとは思うが……」


「で、本題に戻るけどその宮沢を和真が泣かせたって情報を奴らが掴まないわけがないんだ」

あ、それは確定なのか。


「ふむ……それで? その情報がどう問題あるんだ?」

いや、まぁ俺の悪い噂が流れるだろうけどそれだけだろ?


「ここまで言ってわからないのか? 和真ってたまに抜けてるよね」


「余計なお世話だ!」


「それはいいとして、そのファンクラブの人達が和真、君に鉄槌をくだそうとしているらしい」

鉄槌って……どこの宗教団体だよ。

俺はあまりの馬鹿馬鹿さに呆れる。


「冗談じゃない。なんで嘘泣きされただけで鉄槌を食らわなきゃいけないんだ」

いくらなんでも理不尽すぎるだろ。


「そうだね。理不尽だと思うよ。でも向こうは本当に泣かせた、と思っているからね」


「で、お前はそのファンクラブに加担して俺に鉄槌をくだそう、そうゆうことだな?」

ったく、ろくでもないこと考えやがって……!


「あーそれは違うよ、最初に書くって言った事は嘘だよ」


「嘘? なんでそんな嘘を?」


「そのほうが面白いからさ」

浅井が爽やかな笑顔で言う。俺はその爽やかな笑顔に……。


ヒュン!

拳をぶち込む。


「おっと」

それをまたヒラリと避ける。


「避けるな!」


「まぁまぁ落ち着いて」

洋介が俺を落ち着かせようとする。


「ッチ。最初のが嘘なのはわかった。で、次の問題だが俺を助ける記事を書いてくれる。そうゆう事だな?」


「いや、何も書かないよ」


「……は? 今なんて?」

何も書かない……? どうゆうことだ?


「いや、だから何も書かないんだって」


「なんで? 俺とお前の仲だろ?」

俺は心にも思ってない(少しは思っているが)事を言う。


「そう思ってくれてる事は個人的には嬉しいけど、なにぶんうちにもファンクラブ会員がいるからね、大々的には記事に出来ないだよ。あ、でも一応間接的には書くからね。まぁそんなわけで質問は今朝あった事が事実かどうかの確認がしたかっただけさ。君を少しでも助けるために、ね」


「回りくどい事しやがって……!」


「ごめんごめん、でもお詫びにいい情報を上げるから」

そう言ってまた洋介がRMに入る。

もうこいつのRMが信用できないが、一応聞くだけ聞いてみるか。


「なんだ?」


「今日このクラスに転校生がくるらしいよ。しかも、女子」


「転校生?」

さすが洋介、その辺の情報は早い。

にしても転校生か、どんな子だろう?

俺は少し気になるがでもなんでわざわざそんな事を俺に?

というか俺にいい情報か? それ。


「それがなんで俺にとっていい情報なんだ?」


「それは……」


「え! 転校生がくるってほんと~!」

洋介が話そうとした瞬間、智子が割って入ってきた。


「私も興味あるわ」


「まぁ話だけ聞くか」

そうしていつの間にか3人共集まってきた。


「お前ら……」

そんなに興味あるのかよ。まぁ俺もあるけどさ。


「和真君だけ独り占めなんてずるいよぉ~」


「独り占めって……本人が来ればわかるだろ?」


「事前情報っていうのが大事なのよ、ね? 智子」


「うんうん」

智子が笑顔で頷く。


「はぁ~……」

まったく、こいつらは……。


「和真、諦めろ」

健吾が俺の肩に手を置いた後、そのまま俺の隣の席に座る。


「お前もその口だろうが!」


「お、やっぱりわかる?」

健吾がニヤニヤする。


「で、その転校生って?」

俺は諦め、とりあえず洋介に聞くことにした。


「よくぞ聞いてくれました! その子とは――」

洋介がオーバーリアクションで説明しようとする。

その時。


「あ、あの!」

後ろから可愛い声が聴こえてきた。


「うん?」

俺はその声に反応し、振り返る。

そこには幼い顔立ちをした背の低い女の子が立っていた。


「えとえと、あの、その、すみません。そこ……」

そう言って女の子が健吾が座っている席を指差す。


「あ! わ、わりぃ!」

健吾が素早く席を離れる。


「い、いえ、大丈夫です」

そう言って恥ずかしそうに席に着く。


「なぁ洋介もしかして……」

この子が例の転校生か?


「あぁそうだ、彼女が例の転校生だ」


「へぇ~」

俺達4人の視線が女の子に集まる。


「え、えぇとその……わ、私何かしましたか……?」

少し目を潤ませ、怯えるように聞いてきた。


「あ、いやごめん! 怖がらせるつもりじゃなかったんだ。ただ君が例の転校生なのかなぁ~って」

初対面なのにいきなり4人に見つめられたらそりゃあびっくりするわな……。


「え……? どうしてわかったんですか?」

驚いた表情で聞いてくる。


「あぁ、それは……」

俺は洋介に目をやる。


「僕がこの4人に君の情報を伝えたのさ」


「情報です……か?」

女の子が小さな首をかしげる。

まぁそれが普通の反応だよな……。


「あぁ、綾藤新聞部って知ってるかい?」


「綾藤新聞部……」

心当たりがあるのか考え始める。


「……あっ!」

何かを思い出したように声を上げる。


「もしかして藤岡高校の新聞部と提携して新聞を出した……」


「そう、それだよ。綾藤新聞の情報網を侮らないで欲しいね」


「そうですか、それなら納得です」

笑顔で答える。


へぇ~そんな事やってたのか……学園の中だけだと思ってたが外の方にも出てたんだな。というかそれで納得するって綾藤新聞部ってどんだけすごいんだ?

ちなみに藤岡高校とはここ、綾藤町から電車で40分ぐらいの所にある都市、伊豆味(いずみ)市にある姉妹校の事だ。


「そうかい、それはよかった。綾藤新聞部の知名度があがるのは喜ばしいことだ」

満足げに頷く。


「ところで皆さんは……」


「そうだ、自己紹介してなかったな。俺は荒木和真だ。君の隣の席だ、よろしく。あ、君の名前は?」


「あっ! す、すみません自己紹介がまだでしたね。私の名前は河上梨乃(かわかみ りの)て言います。こちらこそよろしくお願いします」

河上梨乃さんという子が丁寧に頭を下げる。


「あ、いえこちらこそ。どうもご丁寧に……」

俺はそれに釣られて頭を下げる。


「えっと僕の名前は浅井洋介、さっき言ったように綾藤新聞部に所属している。これからよろしく」


「は、はい。よろしくお願いします」

そしてまた丁寧に頭を下げる。

その時――。


「うぅ~~~~~~」

智子が唸りながら河上さんを見つめる。

な、なんだ? どうしたんだ? 嫌の予感がする……。


「あ、あの。わ、私何かしましたか……?」

河上さんが怯えた表情で後ずさる。


瞬間。


「可愛いーーーーーーーーーーーーーーー!」

智子がいきなり河上さんに抱きついた。


「ふぇええええええ?!」

河上さんが突然の事で驚く。

あんの馬鹿! 初対面なのにいきなりなにやってるんだ!


「ん~可愛いよぉ~うわぁ~ほっぺやわらか~い。ぷにぷに~」

智子が何度もほっぺをつつきだす。


「え、えぇとえぇと……」

河上さんの顔が薄い赤色に染まっていく。


「えと、私の名前はぁ~宮沢智子だよ~。智子で智ちゃんでも好きに呼んでね~。う~ん、抱き心地も最高だよ~」

中々離れようとしない智子。


「はいはい、智子やめなさい。河上さん困ってるでしょ」

美冬が智子を引き離す。


「うぅ~もう少しだけぇ~」

もの惜しげに見つめる。


「駄目です」

美冬が智子を小突く。


「うぅ~」

智子が悲しそうな顔をする。

そこまでなのか……。

俺は少し呆れる。


「ごめんなさいね」

美冬が智子の代わりに謝る。


「い、いえ大丈夫です。ちょっと驚いただけですから」

ちょっと恥ずかしそうに言う。


「そっか、ありがとう。私の名前は森下美冬、皆からは……えっと苗字で呼ばれるほうが多い、かな? ここにいる人達は名前で呼んでくれるけどね。出来れば河上さんとは仲良くしたいと思っているから名前で呼んでもらいたいんだけど。あ、もちろん私も河上さんの事名前で呼ばせてもらうから。その、河上さんがよければだけど」

優しく笑顔で接する美冬。


「えーみぃちゃんはみぃちゃんだよぉ~」


「お前は黙ってろ」

俺は智子を小突く。


「うぅ~2回目ぇ~」


「えぇっとじゃあ……その、美冬、さんで……」

恥ずかしそうに俯く。


「ん、ありがとう。梨乃ちゃん」

美冬が笑顔で答える。


「次は俺だな。えとさっきはごめんな勝手に席つかっちまって」


「い、いえ」

そう答えるも、なぜか落ち着きが無い様子。

んー健吾の顔が怖いのかな? 見た目不良だし。


「おい、健吾お前顔なんとかしろ。河上さんが怯えてる」


「顔って……俺、そんなに怖い顔してるのか……?」

健吾が軽くショックを受けたようだ。

意外とこういうことで傷つくよな健吾の奴。


「い、いえ、そんな! すごくカッコいいですよ!」


「そ、そうか。よかった」

健吾が安堵する。


「それ、お世辞だからな?」


「っ! うるせぇ! そんな事わかってる!」


「あ、いえ、本当にその、お世辞とかじゃなくてカッコいいと思います……」

途中で恥ずかしくなったのか少しずつ俯き気味に喋る。


「そ、そうか。あ、ありがとう」

健吾がその切り替えしに慣れてないのか少し詰まる。


「と、そうだ。俺の名前は植野健吾、陸上部に所属している。よろしく」


「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」

また頭を下げる。

河上さん礼儀正しいな……。ちょっと可愛いと思ってみたり。


「ふふ、本当に可愛いわね」


「ふぇえ!? そ、そんな、可愛いなんて……」

小さい体をもっと小さくして恥ずかしそうに俯く。


「うんうん、すっごーく可愛いよぉ~抱き心地も最高だし~」


「あ、ありがとうございます」

耳まで真っ赤にしてお礼を言う。

結構恥ずかしがりやなんだな。


「和真君もそう思うよね?」

美冬が急に話を振ってきた。


「あ、あぁ」

なんでいきなり俺に振るんだ。


「えと、その、あの……あ、ありがとう、ございます……」


「それは当然だよ」

突然洋介がしゃべりだす。


「彼女は前の学校では『クラスの妹』て言われてたぐらいだからね」


「クラスの妹……か。確かにそんな感じかもな」


「あ~なんかわかるかも~」


「あ、あの……私、そんなに子供っぽい……ですか?」

恥ずかしそうに聞いてくる。


「まぁ小さくて小動物みたいな感じがするから……かな。あ、いい意味でだからな?」


「うんうん、見た目すっごーく可愛いもん」


「そうね」


「俺もそう思うぜ」


「そう、ですか。ありがとうございます」

笑顔で答えてくれる。


「まぁ転校生って事で色々わからないことがあると思うからもしわからない事があったら言ってくれ。もし、俺に聞きにくい事なら美冬や智k……いや、美冬に聞けばいいからさ」


「え~和真君ひど~い。どうして私じゃ駄目なの?」


「じゃあ抱きつくのをやめろといったら?」


「そ、そんなの無理だよぉ~」


「無理なのか……」


「とまぁ、顔が悪い奴とおかしな奴がいるけど基本いい奴だからさ遠慮なく頼ってくれ」


「誰が顔が悪いだ!」


「誰がおかしいのよぉ~」

二人が抗議の声が上げる。


「反論している時点でお前らだ!」


「くっ……」


「うぅ……」


「じゃあ改めてよろしく」

そんな二人を無視して俺は思わず河上さんに手を差し伸べた。


「あ、はい、こちらこそ」

少し戸惑うも、しっかりとその手を握ってくれた。


ちょうどその時予鈴がなる。


「お、予鈴だ。一応席についておくか。郷田の奴、五月蝿いだろうし」

健吾が席に着く。


「私たちも戻りましょ」

そう言って智子を引きずる。


「うぅ~もう少し~~~」


「はぁ~まったく……」

俺が呆れていると河上さんが声を掛けてきた。


「えっと、面白い人達ですね」


「まぁ、はたからみたら面白いかもな。でも、一緒にいると大変さがわかるさ」


「は、はぁ……。えっと荒木さんはえとその、皆さんとは……幼馴染、なんですか?」


「ん? いや、美冬は幼馴染だけど智子と後ろの洋介と健吾はこの学校からの付き合いだ」


「あ、そうなんですか。すごく仲がいいのでてっきり……」


「はは、よく言われるよ」

幼馴染……か、そんなに俺たちがそういう風に見えるのかな?


「もっとも僕は和真君の前世を知っているけどね」

洋介が突然冗談を言う。

なんだそれ、意味わからん。そんなの信じる奴がいる訳――


「えっ! そうなんですか!?」

河上さんが目をキラキラさせて見つめくる。

いたよ、俺のすぐ隣にさ……。


「いや、そんな事ないから。洋介の情報網はすごいけどこうやってたまに嘘つくから気をつけたほうがいいぞ」


「は、はぁ……。嘘、なんですか……」

少し残念そうにする河上さん。

なぜにそんな顔を……?


「なんだよ、連れないな~。僕がいつ嘘をついたって言うんだい?」


「今さっきだ!」


「はは、とそろそろくるかな」

そう言って急に喋るのをやめ、前を見る。


そこにちょうど担任が入ってきた。


「おら~お前ら席に着け~ってもう着いてるか」

大柄な男が入ってきて教卓のところに立つ。


「ん~まぁ初めての奴もいるだろうからまずは自己紹介からか」

先生と思しき人物が黒板に自分の名前を書き始める。


「俺の名前は郷田剛史(ごうだつよし)だ。1年間お前らの担任をやる。1年間頼んだぞ。俺がこのクラスを担当する事になったからには――――」


「あの、荒木さん」


「ん?」


「その、郷田先生ってどんな先生なんですか?」


「う~ん。一言で言うと鬼教師?」


「鬼教師、ですか?」


「そ、普段はすごい優しいんだけど、曲がったことが嫌いな人で規律とか結構厳しい先生だ」


「なるほど……確かに厳しそうですね」


「まぁ普通にしている分には面倒見がいい先生だから大丈夫だよ」


「は、はい、わかりました」

そうやって河上さんと話しているといつの間にか郷田先生の自己紹介が終わっていた。



「とまぁ紹介はこれくらいにして全員今から体育館に行くぞ」




----体育館----




校長「でぇ~あるからしてこれからは――」


「まったく始業式って一体何のためにあるんだろうね。校長の長話にはうんざりだよ」

突然後ろにいる洋介が愚痴る。


「さぁ? まぁ長話がうんざりなのはわかるけど。うちの校長お喋り好きだから」


「こんなの聴く位なら新聞部の過去記事の整理をしたいね」


「過去記事の整理、ねえ~。その記事にファンクラブがどんな鉄槌下したか、とか載っていないのか?」


「あぁ載ってるよ。というか僕自身知ってるけどね」


「じゃああの時教えろよ!」


「こらこらあんまり声を大きくすると……」


「あっ」

郷田先生がこっち見てる。


「後で教えてくれよ」

今は追及するのはやめておくか。マークされるのも嫌だしな。


「あぁ、いいとも」


校長「なので今後は――」


新学期早々校長先生のありがたいお言葉は30分にも及んだ。

始業式も無事終わり教室に戻り、休み時間になる。


「で、洋介始業式での話なんだが」


「どんな鉄槌か、だったね。最初は靴隠しだね」


「…………は?」

靴、隠……し?


「悪い、俺の聞き間違えか確認してくれ。今靴隠しって言ったか?」


「そうだよ」


「…………」

どこの小学生だよ……。


「で、他には?」


「靴箱に毛虫をいれる」


「それ、ただのいじめじゃねぇか!」

俺は思わず叫ぶ。

なんだよそれ! 意味わからん。


「そうだね。地味で幼稚なイタズラだ。でもかなり効果的だと思うよ」


「まぁ、確かに……」

人によっては不登校になるんじゃないか?


「まぁ最初はイタズラ程度で徐々にエスカレートって感じだね」


「今までの最高は?」


「個人情報バラ撒き・隠しカメラ」


「それ犯罪じゃ……」

最初はかなり幼稚なくせにやけに高度になるなぁおい!


「本人たちは正義の鉄槌だって言ってるけどね」


「…………もしかしなくてもファンクラブって結構やばい存在?」

さすがに最後のはやりすぎだろ……。


「うん」

まじかぁ~。


「で、俺はどうすればいいんだ?」


「んーまぁ起きてしまった事はどうしようもないからそれ以上拡大しないようにするのが得策かな」


「わかった。そうする。ありがとな」


「いや、これくらいどうってこと無いよ。まぁ気をつけておくんだね」


「あぁ」

まさかファンクラブがここまでの存在だったなんて……ファンクラブ、恐るべし。

ちょうどその時、休憩時間終了のチャイムが鳴る。


「お前ら~席につけ~」

チャイムと同時に郷田先生が入ってきた。


「この時間はまぁ委員とか決めようと思うが、その前に一人ひとり自己紹介をしてもらおう。とりあえず名前となにか一言が最低限な」


「「えぇ~~~~」」

教室中からブーイングが起きる。


「ほぉ、お前らは相当俺の補習を受けたいらしいな」


シーーーーン。

そのセリフを聞き静まり返る。

さすがに鬼の補習を出されると皆黙るか。


「よし、素直な子を好きだぞ。じゃあさっそく出席番号順に行くぞ。荒木、まずはお前からだ」


「はい」

俺は返事をして席を立つ。


「荒木和真です。見た感じ顔見知りの人が多いみたいですが、これから1年間お願いします」

まぁ定番のセリフだがこんなもんでいいだろう。


パチパチパチ。

周りから拍手が鳴る。


俺が自己紹介を終え、座ると同時に洋介が立つ。


「僕の名前は浅井洋介、新聞部に所属している。もしなにか面白いネタがあれば是非、僕の所に持ってきて欲しいね。あ、そうそう後――」

洋介の自己紹介今回も長そうだな。去年は5分ぐらい語ってたっけ。


「うぅ~……」

洋介の自己紹介を聞いていると隣からそんな声が聞こえてきた。その声が気になり、俺は河上さんをみる。

そこには俯きながら震えてる河上さんの姿があった。

緊張、してるのかな?

俺はその様子が気になり、声を掛けた。


「河上さん、大丈夫?」


「っ!」

突然声を掛けられびっくりしたのか一瞬体をビクつかせる。

っと、驚かせちゃったかな。


「な、なんですか?」

河上さんが少し震えた声で答える。


「あ、いやなんか震えてるみたいだから具合でも悪いのかなっと思って」


「あぅ……すみません余計な心配を掛けてしまって……」


「いや、それはいいんだけど大丈夫?」


「はい、大丈夫……です。少し緊張してるだけなんで」


「そっか」

全然大丈夫そうに見えないよなぁ。

ここまで緊張するって事はかなりのあがり症なのかな? でも俺の時はここまでじゃなかったような……なんで俺は大丈夫だったんだろう。

そうだな、ちょっとフォロー入れてみるか。


「その気持ちわかるよ。俺も人前は緊張する」


「え? そうなんですか?」

不思議そうに聞いてくる。


「うん」


「そうなんですか~。意外ですね」


「意外? なんで?」


「荒木さんそういうの場慣れしてそうな感じがして……。すごく話しやすいですし」

俺はそんな風に見えるのか。知らなかった。

俺は意外な事実に驚く。


「そっか」


「でも、違ったんですね。すみません勝手な想像をして」


「いいよ、気にしないで」


「――まぁそうゆう事だけど今後のうちの活動としては――」

ちょうどその時洋介の視線を感じ、振り返ると洋介が一瞬ウィンクしたように見えた。

洋介の奴……。後でお礼を言っておくか。


「河上さん、洋介が時間を稼いでくれてる。どう? 少しは落ち着いた?」


「あ……」

自己紹介待ちという事を思い出したのかまた、少し俯く。


「とまぁこんな感じで。一年間よろしく」

そこでまるで図った様に自己紹介を終える。

俺は座り際の洋介に目でお礼を言う。

俺の目をみて洋介が笑みを浮かべた。


「俺の名前は植野健吾。陸上部に所属している。1年間よろしく」

健吾がささっと自己紹介を終える。


「私の名前は岡崎理恵(おかざき りえ)です。私は――」


「あぅあぅ」

河上さんがまたオドオドしだす。


「大丈夫だって。落ち着いて深呼吸してみて」

俺はなるべく優しく話しかける。


「は、はい。スゥー、ハァー。スゥー、ハァー」


「どう? 少しは落ち着いた?」


「は、はい。少し、落ち着きました……」


「僕の名前は甲斐谷直斗(かいたに なおと)です。よろしくお願いします。」

その後すぐ一列目、最後の1人の自己紹介が終わる。


「ほら、頑張って」


「は、はい」

そう言って立ち上がる。


「あ、あの……その、あの……」

なかなか言い出せない河上さん。


「河上さん、落ち着いて」

俺の声を聞き、勇気が出たのか小さな拳を握り締める。


「えとその、河上……梨乃です。よ、よろしくお願いします!」

顔を真っ赤にして自己紹介をする。

よく最後まで言い切った。俺はついそんな事を思ってしまった。


「うぅ~~~可愛い~~~~~。ねぇ、みぃちゃん! お持ち帰りしたいよぉ~」

突然智子が大声を上げる。

あんの馬鹿! いきなり何言ってるんだ!?


「プッ」

その声を聞き誰かが吹き出す。


「ハハ」

それに一人が釣られて笑い出す。


「フフ」

また一人。


「アハハハハハハハハハハハハハ」

教室が笑いで包まれた。


「宮沢~。そういう事は休憩時間中にしろよ~」

そう言いながら郷田先生が苦笑する。


「だってぇ~すっごぉおおおおおおおく可愛いからぁ~」

そう言って突然俺の方を向き笑顔を見せる。


智子の奴、わざと……。

そこでようやく俺は智子が何をしたかったのか気づく。とりあえず目でお礼を言っておくか。俺は智子の方を見る。

すると智子はそれを見て笑顔で返してきた。

よく俺のアイコンタクトわかったな。まさか通じるとは……美冬にでも教えてもらったのかな?

美冬の方を見ると呆れながらも笑っていた。

美冬が今思っていることが目に浮かぶ。『もう、智子いきなり何言ってるのよ。いくら梨乃ちゃんのためとはいえ……まぁいいわ。今回だけは多めに見てあげる』とこんな感じだろうか?

と、そうだ。そんな事より河上さんは……。


「えと、えとあの……」

智子の発言に戸惑っていた。


「どう? 少しは落ち着いたんじゃない?」


「あ……」

その言葉で自分があまり緊張していないことに気がついたようだ。


「はい、少し緊張が解けたみたいです」


「そっか、もう自己紹介終わったし座ったら?」


「は、はい。そうですね」

そう言って席につく。


「とりあえず後で智子にお礼を言っておくといいよ。最初は突発的な行動に驚く事ばかりかもしれないけど良い奴だからすぐに仲良くなれるよ。もっとも本人はもう友達だと思ってるだろうけど」


「はい!」

河上さんが笑顔で答える。


「おら~お前ら静かにしろ~」


「じゃあ自己紹介の続きだ。次、鈴木~――」


その後淡々と自己紹介が進み――。


「…………です。よろしくお願いします」

パチパチパチパチ。

最後の自己紹介が終わる。


「さて、これで全員だな。まぁ好きな奴、嫌いな奴がいるかもしれないがそれも人間関係だ、うまくやるんだぞ」

そう言って郷田先生が締めくくる。


「じゃあ次に5月にある体育祭の実行委員長を決めたいと思う」

担任のその言葉にクラス中がざわめく。


「え? 荒木さん体育祭って5月にあるんですか?」

河上さんが不思議そうに聞く。


「あぁ、うちの学校ちょっと変わっててね。説明は後で」


「そうなんですか~。ありがとうございます」

まぁ普通5月に体育祭なんてないよな。


「おーい、少し静かにしろ。お前らが気になってることはわかっている」


「今年の体育祭はうちから実行委員長を出すことになった。で、その実行委員長とその補佐……まぁ、副委員長として1名、決めたいと思う」


「で、誰か立候補する奴は……いるわけないか。さて、どうしたものか……」

担任の予想通り手を挙げる者は一人もいなかった。


「あの、荒木さん」


「ん?」


「うちから実行委員長を決めるってどうゆう事ですか?」

ようやくそこで河上さんがその言葉に気づいたのか聞いてくる。


「あーうちの学校の体育祭・学園祭は実行委員長を校長がくじ引きで決めるんだ」


「ふぇ? くじ引き……ですか?」

それが普通の反応だよな。こんな事やってる学校なんて他にないだろうし。


「そ、うちの学校は毎年2年生が実行委員長をやるんだけど校長が面白半分でくじを作ったんだが、それがそのまま続いてね」


「へぇ~そうなんですかぁ~。私この学校来て驚く事ばかりです」

クスクスと笑う河上さん。


「まぁこの学校かなり特殊だからね」

俺も釣られて笑う。


「ふむ。そうだな……じゃあこいつがいいって奴はいるか?」

担任がそういった瞬間ほとんどの視線が俺に集まる。


「……え? 俺?」

おいおい、まじか……。

クラス全体が頷く。


「和真、クラスは満場一致で期待しているがやってくれるか? もちろん強制はしないぞ」


「そう、ですね……」

さすがにこの状況で断るのもなぁ~。しょうがない、やるか……。


「わかりました。やります」

おぉ~~!と周りから歓心の声が上がる。


「悪いな、和真。なにか困ったことがあったら遠慮無く俺に言ってくれ」


「はい」


「じゃあ副委員長だが――」


「あの、先生」

俺は先生のその言葉を遮る。


「なんだ?」


「その副委員長なんですけど、俺が決めてもいいですか?」


「ふむ、そうだな……。そっちのほうがお前がやりやすい……か。いいだろう」


「ありがとうございます」


「で、誰を副委員長にするんだ?」


「えっとですね、それは――」

はい、約1週間ぶりの更新です。

今回はちょっと長いです。中々切れる所がなくて……。

そして新たに新登場人物が2人という事で一応これでストーリーの軸となるキャラは全部です。

ですが、登場人物はまだまだ増えます。殆ど出ないキャラばかりですが(ボソ


ということでこれからも「ガクモノ!!」をよろしくお願いします。


7月30日追記

一部文書の修正しました。

そして読み直して気づいたのですが、主人公が出席番号1番っておかしいですよね……すみません。脳内変換でお願いします(オイw


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