エピローグ
黄金色に輝く夕陽。
どこからともなく冷たくて気持ち良い風が泣がれていく。
辺りはとても静かで、少しだけ寂しげな雰囲気を醸し出していた。
「おーい。こっちの片付け手伝ってくれー」
「ちょっと待ってくれ! こっちが終わったらすぐに行く!」
そんな中、グランドでは生徒達が互いに声を掛け合い、いそいそと片付けに励んでいた。
「ねぇこの衣装ってどうするの?」
「えっとメイド服と執事服は喫茶店研究会。プ○キュアの衣装はアニメ研究会。それ以外は呉服部に持って行けばいいよー」
「了解。ねぇ手が空いている人いたら手伝ってー」
「ねぇ梨乃ちゃん。これってどうすればいいの?」
「あっえと、それはそこの机にまとめて置いて貰えれば後でもって、いきます」
「ん。了解。結構量あるけど大丈夫?」
「はい。えと、かず……あ、荒木さんがいるので……」
「そっか。それじゃあよろしくね」
「はい!」
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「ふぅ~結構重いなぁ……」
何度も荷物を持ち直しながら校舎の廊下を歩いて行く。
その横には和真より小さな鞄を持つ梨乃がいた。
「すみません。和真くん……」
申し訳なさそうに顔を伏せる梨乃。
「いやまぁ良いんだけどさ。この量ならもう1人ぐらい呼んだ方が良かったんじゃないか?」
「いくら忙しいからって1人ぐらいはついて来てくれただろうに」
「あぅ……こ、これには事情が……」
「ん?」
「えとあの、今日はその、忙しくって、な、中々和真くんと2人っきりで、居られなかったのでっ……!」
立ち止まり恥ずかしそうに顔を伏せる。
和真からその表情は見えないが、顔を真っ赤にしているのは容易に想像出来た。
「そ、そっか。うん。そうだな……」
困ったとでも言うように頬を書きながらそっぽを向く。
和真も同じように恥ずかしいようだ。
「ホント、ごめんなさい……。わたし、我が儘で……」
「……うん。でも嬉しいよ。俺もその、梨乃と2人っきりになりたかったから……」
そう言いながら優しく梨乃の頭を撫でる。
「んっ……」
気持ちよさそうに、まるで猫の様に目を細める。
その顔はとても幸せそうだ。
「あの、和真くん」
細めていた目を開き、和真の顔を見上げた。
「ん?」
「えとあの、わたし、ちゃんと変われてますか……?」
「……? ……あっ」
一瞬疑問の表情を浮かべるも、すぐに気が付き真顔になる。
「うん。変われてるよ。凄い。見違えるくらいに」
はっきりと、嘘偽りのない言葉を返す。
「……本当ですか? わたし、ちゃんと、変われてますか?」
「わたし、凄く我が儘に、なっちゃい、ました。和真、くんといると、甘え、ちゃうん、です……」
不安そうな顔に潤んだ瞳。それだけで和真には彼女が何を求めているのかすぐに分かった。
きっと昔の、梨乃と付き合い始める前の和真には気付くことすら出来なかっただろう。
「……別に、良いんじゃないかな。俺も梨乃に甘えたくなるときあるから」
「それに、いつまでも気を張ってたら身体が保たないよ」
「それと……そうやって我が儘言って、甘えてくれるって事はそれだけ梨乃が成長したってことじゃないかな」
「あっ……」
ハッとなにかに気が付いたように指を口元へ持って行く。
「初めて会ったときの梨乃は人と話すのが苦手で、何をするにも臆病だったから……」
「だから、自分の意見をはっきり言えるようになったのは大きな成長だと俺は思う」
「ってなんだが格好良い事言ってるけどめちゃくちゃ恥ずかしいな……はは」
和真が照れくさそうに笑う。
「……っ和真くん!!」
「わっと!! り、梨乃!?」
梨乃に突然抱きつかれて困惑する。
「ありがとう、ございます……っ」
身体をぎゅっと抱きしめる梨乃の顔は見れないが、声の震えで泣いているのが和真には分かった。
「……うん。好きだよ。梨乃」
ゆっくりと抱きしめるように頭を撫でる。
その感触はとても柔らかで、いつも以上に愛おしく感じた。
――お礼を言うのは俺の方だよ。梨乃おかげで人と関わる事が好きになれた。一歩踏み込んだ関係を作るのが怖くなくなった。本当に、ありがとう。
和真はそう、心の中で呟いた。
――Fin
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
長期間放置していたにも関わらず、未だに読んで頂けている方がいらっしゃって嬉しい限りです。
今回のお話はこれで最後となります。
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
※美冬編を考えてはいたんですが……すみません。話がまとまらず、やむなくカットさせて頂く形となりました……。
予告というわけではございませんが、現在短編のファンタジー物を考えています。まだプロットの作成も出来ておらず、完全に頭にある物のため、投稿出来るのかはまだ分かりませんが……。
それでは皆さん、良いお年を