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第17話 生徒会とコスプレ

「はぁっ……はっ……はぁ……」

和真は廊下を走っていた。


「くっそっなんでこんなことにッ!」

恐怖と焦燥感、そしてこんな状況に追い込まれた理不尽さにその表情は歪んでいた。


「はぁっこのまま逃げてても埒があかないないよな……」

危険を感じて逃げ出したのはいいが、体力的に限界が来ていた。


「コラァ−! 和真逃げるな−!」

和真より二クラス分離れた所から怒声が聞こえてくる。

その声だけでその人物が誰だか想像が付いていた。

炎の様に真っ赤に染まった髪を後ろで一本に束ねたツインテールの女の子。

現生徒会長で和真の先輩に当たる一ノ瀬陽菜だ。


「観念しなさぁああああい!」

少しずつ和真との距離を詰めていく陽菜。

その表情はまるで鬼の形相で真っ赤な髪は燃え盛る炎の様だ。


(逃げるなって言われて止まる奴がいるかよ! というか先輩足が速い……!)


「こうなったら……」

和真はそう呟きながら廊下の角を曲がり、プレートに『備品室』と書かれた部屋へ飛び込む。

幸いな事にこの時間帯は教師や演劇部員が頻繁に利用するため鍵が開いている。

それを知っている和真にとって今出来る最大の手だった。

だが、和真は焦るあまり見誤っていた。なぜならそこは——


バンッ——


「なっ……!?」


「さぁ観念しなさい。和真……」

扉を勢いよく開け、ゆっくりと中へ入っていく陽菜。

一歩歩く毎に舞い散る粉じん。もちろんそれはただの錯覚だが、

今の和真にとってはそんな幻覚さえ現実の物に思えた。


「な、なんでここって……」

少しでも時間を稼いで逃げ道を探ろうと必死に声を出す和真。

自分から出たとは思えない金切り声で、唇が酷く震えていた。


「なんでって言われても、あの角を曲がって隠れられる場所と言ったらこの備品室か美術室、2年の教室に……後空き教室ぐらいかしら」


「美術部は今日は活動していないはずだし、和真の事だから他クラスに逃げ込むことはないでしょ」


「空き教室は常に鍵が掛かってるし、後隠れられる場所と言ったら……ねぇ」

意地の悪い笑みを浮かべ和真に近づき、肩を掴む。


「くそっ……」

唇を少し噛みしめ顔を歪める和真。

もう逃げ切れないと悟ったのか完全に戦意喪失していた。


----1時間程前-----


「さて、今日は体育祭のネタ競技……じゃなくて、メインディッシュ競技について細かく決めてくわよ」

夕暮れに照らされた生徒会会議室。

ロの字型机の議長席に座っていた陽菜がゆっくり口を開く。


「ネタ競技って……」

思わず和真がツッコミを入れる。

ただ周りの人は慣れているのか、突っ込んだのは和真一人だった。


「はい、そこうるさい。細かいことは気にしないの」

陽菜が片手を振りながら面倒くさそうに答える。


「それじゃあ梨乃ちゃん。皆に説明してあげて」

そう言うと陽菜が席につき、変わるようにして梨乃が席を立つ。

彼女の名前は河上梨乃。黒髪でセミショートヘアーの女の子だ。

額の右側にフラワーヘアピンをしており、小柄の彼女をより可愛く見せていた。


「は、はいっ。あのえと……」

席を立ち、周りをぐるりと見渡すと皆が梨乃を見つめいた。

これから自分が考えた案をまとめた物を説明をするので視線が集まるのは当たり前の事だが、

恥ずかしがり屋の彼女にとってはそれだけで人の倍以上に緊張してしまう。


「梨乃。大丈夫。落ち着いて」

和真がゆっくりと梨乃の手を握る。

ただそれだけで梨乃中にある不安と恐怖がほんの少しだけ和らいだ気がした。


「えっと……お配りした資料の通り、特別競技として『借り物障害物競争』を提案致します……」

梨乃がゆっくりと口を開き、実行委員で決めた内容をの説明を始める。

所々説明に詰まったり、焦って手に持っている資料を落としてしまうなどのトラブルがあったが、

それでも懸命に想いを伝えていく。


――――――――――――

――――――――

―――――


「……以上、『借り物障害物競走』の説明を終わり……ます」

梨乃がすべてを出し切って安堵した表情を浮かべて席に付く。


「お疲れ。梨乃」

和真が優しく声を掛ける。


「はい、ありがとうございます」

恥ずかしそうに俯きながら指を弄る。

表情はよく見えないが、きっと笑みを浮かべてるんだろうと和真は思った。


「あの会長ー。中身を決める前に……本当にこれ許可するんですか?」

三つ編みでメガネを掛けた少女が声を上げる。

その声には諦めとも呆れとも取れる微妙な声だった。


「そりゃあもちろん。許可するわ。だって面白そうじゃない」


「確かに案としては面白いと思いますが、ボーナス点を加算というものがある以上クラスで強要したり、最悪暴力沙汰が起きる可能性が……」


「大丈夫よ。この学園の生徒はお祭り騒ぎが好きなんだから」


「多少ぶっ飛んだ企画の方が食いつきが良いのよ。それはあなたも良く分かってるでしょ」


「まぁ……そう……ですね」

納得行かない顔を見せながらも静かに頷く。


「そ・れ・に、実際にコスプレを見ればきっと考えが変わるわよ。ねぇ和真?」

悪戯な笑みを浮かべた陽菜がゆっくりと和真の方へ向く。


「なんでそこで俺が振られるんですか……。まぁどのコスプレがセーフか、アウトかを見極める必要もあるので、実際に見るという事には賛成ですが……」


「よしっ、和真の同意も得られたからさっそくしてみましょうか?」


「はい……? なにをですか?」

和真は何となく嫌な予感を感じた。


「なにってコスプレに決まってるでしょう。今自分で賛成って言ったじゃない。あ、例の服よろしくね」


「は、はい……」

肩まであるツインテールの女の子が申し訳なさそうに奥の部屋へ入っていく。


「いやいやいや! 確かに言いましたけど! 誰も着るなんて言ってませんよ!?」


「はい、グダグダ言わない。男だったら腹くくりなさい」


「あ、あの……持って、来ました……」

先ほど奥の部屋に入っていった女の子が服を手に戻ってくる。

その服は白と黒を基調とした長袖のワンピースタイプで

アンダースカートには可愛らしいフリルがついていた。

清楚なメイド服というよりは喫茶店などでよく見かけるコスプレ用のメイド服だ。


「ん。ありがとう。それじゃあ和真まずはこれを来ましょうか」

陽菜がメイド服を受け取り、和真の元へ向かう。


「そ、それメイド服じゃないですか!!」

勢いよく立ち上がり、悲鳴に近い声を上げる和真。


「えぇ。だってコスプレの基本と言ったらやっぱりメイドじゃない♪ ほら、もう勘弁しなさい」


「絶対着ませんから!!!!」

机を大きく叩き脱兎の如く生徒会室を飛び出す。


「あっこら待ちなさい!!」


……以上がことの顛末である。


「これは……意外と似合うわね……。まぁ喜びなさい」


「喜べる訳ないじゃないでしょ!?」

男物のコスプレであれば、問題なかったが、メイド服である。

男である和真にとっては屈辱以外の何者でもなかった。


「なんでよー。梨乃ちゃんも似合ってると思うわよね?」


「あっえっと……その……」

梨乃は視線を頭から徐々に下へおろしていく。


「可愛い……と、思います……」


「り、梨乃…………」

和真はガクっと項垂れる。


「あっち、違います! 服が! メイド服が可愛いって意味です!!」

梨乃が慌てて顔の前で手を何度も振る。


「そ、そうだよな。うん。先輩やっぱりこういうのは女の子が着た方がいいですよ。ということで――」


「そんなことないわよ。ねぇ西牧さん?」

和真の言葉を遮り、先ほどメイド服を持ってきた女の子に声を掛ける。


「はい! やっぱり予想通りでした!! 和真先輩は絶対女装が似合うと思っていたんです!!」

女の子が先ほどと打って変わってうっとりとした表情で和真を見つめる。

その目は宝物を見つけた様に輝いていた。


「…………は? えっ?」

和真が突然、目の前の女の子が豹変した事に戸惑う。


「ふふ。彼女、実は女装男子好きなのよ。彼女のお眼鏡に掛かるなんてやるじゃない♪」


「笑い事じゃないですよ!!!」


「はぁはぁ……。先輩、宜しければ私にメイクさせてください! 完璧な女の子にしてあげます!」

涎でも垂らしそうな顔でジリジリと和真に近づいていく。

和真にはその姿はまるでゾンビよりもタチの悪い何かに見えた。


「嫌だッ!!!!! というか手の動きが気持ち悪いッ!!!」

迫ってくる女の子から少しでも遠ざかろうとするが、

感じたことのない恐怖に体が上手く動かなかった。


一歩離れると一歩詰められ、

また一歩離れると一歩詰められる。


「大丈夫です! 最初は嫌かもしれませんが、一度ちゃんとしちゃえばクセになっちゃいますから!」


「なんだったら下着も替えちゃいましょう! 私のを貸してあげます! もしサイズが合わなければ一緒に買いに行きましょう!! ふひ。ふひひひひ……」


「そんな事出来るか!! というか誰かこの子を止めてくれぇえええええええええええ!!!!」

和真の声が教室中に、廊下にまで響き渡った。


――――――――――――

――――――――

―――――


「はぁ……疲れた……」

和真が日が傾いて暗くなった廊下を傷心した様子で歩いて行く。


「あはは……。和真くん、お疲れ様です」


「それにしても……俺がメイド服着たとき、梨乃も楽しんでなかったか?」


「えっ? そ、そんな事ない……ですよ?」

梨乃がわずかに目を逸らす。


「本当は?」


「……うっ。ちょっと……楽し……かったです……」

申し訳なさそうに顔を俯く。

その表情は暗がりで和真には分からなかった。


「……そっか。でも、あれはあれで良かったのかなって思うよ。二度とあんな事はやりたくないけどね」

和真が苦笑を浮かべる。


「良かった……ですか?」

梨乃が不思議そうに首を傾げる。

その仕草は見慣れた物だが、何度見ても可愛い物だと和真は思った。


「不本意だけど、アレのおかげで生徒会の人達と仲良くなれたから。実行委員としては、

体育祭の成功には生徒会との連携が必要不可欠だと思うんだ」


「そう……ですね」

(やっぱり和真くんは私なんかと違って凄いなぁ。)

梨乃が誰に向かってでもなく、ポツリとそう呟く。


「ん? なにか言った?」


「いえ、何でもないです。えへへ」

少し恥ずかしげな表情で笑みを浮かべる。


「? ……まぁいいか」

和真が不思議そうな顔で梨乃を見つめるが、

可愛らしい笑顔を見た途端どうでも良くなった。


「っと、教室に到着。梨乃の鞄も持ってくるよ」


「はい。ありがとうございます」

教室の電気を付けて二人分の鞄を手に持ち、

梨乃の元へ駆け寄る。


「ありがとうございます。それにしても暗いですね……」

梨乃が少しだけ和真に近づく。


「まぁとっくに下校時間は過ぎてるからな」

夜の学校は驚くほど静かで、和真にはまるでこの世界で二人っきりになった様に感じられた。


「そう……ですね。早く帰りましょう。和真くん」

梨乃が早口でそう言うと和真の腕を引いて歩き出す。


「あっおい。そんな引っ張らなくても……」

戸惑う和真をよそに歩き続ける梨乃。

和真はその理由について気付いていたが、あえて口には出さなかった。

口に出してしまうと梨乃が泣き顔で怒るのが目に見えて分かっていたからだ。


「はぁ……腕を掴んでたら歩きづらいだろ? ほら」

足を止めて梨乃手を優しく握る。

その手はとても小さくて……だけど和真が知っている優しい手だった。


「あっ……。ありがとう……ございます」

梨乃が少し恥ずかしそう呟いた。


そんな梨乃と一緒に校門を出て、街頭に照らされた道を二人で歩いて行く。

周りには人通りはなく、猫の鳴き声が静夜に響いていた。


「あぁ。そうだ。明日は皆に企画が通った事を報告して、他の競技についても決めていこう」


「あっはい。そうですね。企画を認めて貰って終わり、じゃないんですよね」


「あぁ。でも、それが終わる頃には体育祭の準備期間に入るから一番大事な時期であり、そこからが実行委員としての本番だな」


「はい。頑張りましょう。和真くん」

可愛らしく気合いを入れる梨乃。


「おう。なんなら美冬達も巻き込んでみよう。洋介なんて特に食いつきそうだし」



「あはは……。そうですね。とっても、とっても楽しみです♪」

楽しそうに笑う梨乃に釣られて和真も笑顔になった。

梨乃と実行委員の皆、そして美冬達がいれば、きっと今までで一番楽しい体育祭に出来る。

和真にはそんな気がした。

今回から、書き方ががらりと変わっているので、かなり違和感を感じたかと思います。


この話を書き始めた時期がちょうど三人称視点での地の文を練習していたので、そのせいとなります。読みにくかったらすみません。


残り2話(予定)となりますので、宜しければ、最後までお付き合い願います。

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