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第14話 帰ってきた両親と未来の花嫁

---- 5月6日 ----





「温泉旅行?」

翌朝さっそく美冬達に昨晩の温泉旅行の話を伝えた。


「あぁ、なんか金曜日に母さんと親父が帰ってくるらしくて土日に温泉旅行でも行かないかって言われて、もしよかったら美冬たちも一緒にどうだって親父がな」


「予定は空いてるけど……こんな大人数大丈夫なの? 行くのもそうだけどお金も……」

美冬がもっともな質問をする。


「んーなんか券をもらったらしくてさ、無料らしい」


「う~ん、でも迷惑じゃないかな?」


「それについては大丈夫だろ。親父が誘ってるんだし。母さんも乗る気だしな。それでどうだ?」


「私はいいけど……智子は?」


「んぅ~? わたしもいいよぉ~」


「健吾と洋介は?」


「俺も大丈夫だぜ」


「そういう事なら僕も参加させてもらおう」


まぁここまでは予想通り。問題は――


「梨乃は大丈夫そうか?」


「はい、でも本当に大丈夫なんでしょうか……? その、この中でわたしだけ和真くんのご両親に会ってませんし……」


「別に大丈夫だろ。たぶんすぐに仲良くなるさ」


「そうね、カズくんのお父さん面白い人だし。お母さんはすごく優しい人だもんね」


「いや美冬、あれは面白いと言わないと思うんだが……。母さんはまぁ、そのまんまだな。で、どうかな? 梨乃」


「はい、それじゃあお言葉に甘えて……」


「んじゃ全員参加って事でいいな。っとそうだ、梨乃ちょっといいか?」


「あ、はい」

梨乃を連れて廊下へ出る。


「梨乃、ごめんな。デートに連れて行くって言っといてこんな風になちゃって……」


「あ、いえ! 気にしないでください。それに……その、和真くんと旅行って思ったらすごく楽しみになっちゃいましたし……」


「そっか。うん、ありがとう。それでその……親父たちにさ、梨乃と付き合ってる事言おうと思ってるんだけどいいかな?」


「あ……はい。ちょっと心配……ですけど」


「そんな心配する必要ないよ。絶対認めてもらえるからさ」


「……はい」




――――――――

――――

――





「ただいま」


「あ、お帰り、二人で何の話してたの?」


「ん? デートの約束」


「カズくん、堂々と言うのはどうかと思うんだけど……」


「いや、美冬が聞いてきたんだろ?」


「それはそうだけど……まぁそれは置いといて」


「聞いておいて置いておくのかよ!?」


「具体的にどこに行くのかって聞いてないの?」


「……なんか今日の美冬冷たくないか? 思いっきりツッコミ無視かよ……。とりあえずどこに行くかとかはまったく聞いてない。ただ、桜が見れる所って言ってたから時期的に北の方じゃないか? もしかしたら少し厚めの服を持って行った方がいいかもしれないな」


「桜か~もしかしたら桜が見れる温泉かもしれないわね。ちょっと楽しみになってきたかも」


「たまにはそういうのもいいかもしれないな」


「ふむ、もしかしたら良い記事が出来るかもしれない」


「ふふ、楽しみですね、和真くん」


「あぁ、そうだなっと、一つ言い忘れてた。なんか親父が水着をもってこいって言ってたな」


「水着……? プールでもあるのかな?」


「あぁ、なんか温水プールがある旅館らしい。今時珍しいよな。で、健吾、今水着って言葉に反応しただろ」


「……してねぇ」

いや露骨に目を背けられたらバレバレなんだが……まぁいいか。


「はぁ~水着かぁ~、ねぇみぃちゃん、りっちゃん今日一緒に買いに行かない?」


「そうね……たぶん去年のだとこの辺りがきついだろうし……」

そう言ってお腹の少ししたをさする美冬。


「そっかぁ~実は私も去年のだとこの辺りが……」

そう言って胸を指指す智子…………胸? 確かに去年より少し成長したような……って何を考えているんだ俺!?


「……智子ちょっといいかしら?」


「な、何……みぃちゃん…顔がすごい怖いよ……?」


「ふふ、良いからこっちに来なさい」


「ま、待ってみぃちゃん! 引っ張らないで~!」


「「…………」」

その場を黙って見届ける俺と健吾。


「和真くん、鼻の下伸びてます……うぅ……」


「あ、いやこれはその……」


「健吾も鼻の下伸びてるよ」


「……るせぇ」

あっちはあっちでなんかやってるし。


「その、なんだ……すみません……」

『男なんだからしょうがないだろ!?』とは言えないので大人しく謝る。


「……ぷいっ!」


「いや、そんな擬音つけてまですねなくても良いだろ?」

梨乃って思ったより嫉妬深いよなぁ……。


「梨乃……」

背中から優しく抱きしめ耳元に顔を近づける。


「俺が好きなの梨乃だけだよ」


「っ!?」

瞬間梨乃の体ビクッと震える。

効果は抜群のようだ。まぁ自分にもダメージがあるわけだが……やばい、今更だが恥ずかしいな……。


「で、カズくんは放課後の教室でなにやってるのかな?」

そこへ丁度項垂れた智子を引き摺りながら美冬がやってきた。


「見ての通り背中から抱きしめてる」


ピクッ。

あー、美冬のコメカミが震えてる……。


「そんなのは見ればわかるよ。問題はなんでそんな事やってるかだよ」

はぁ~、美冬のこの笑顔も慣れたな。どんな言い訳をしても絶対に助からない笑顔だからな。

ここはあえて開き直るという選択はどうだろうか? もしかしたらうまく逃げれるかもしれない。


「なんでって抱きしめたくなったからに決まってるだろ? 別に恋人同士なんだしいいだろ」


「はぁ~……」

突然、美冬がため息をつく。


「カズくんはいいかもしれないけど梨乃ちゃんが恥ずかしさで倒れそうだよ」


「え……? 」


「あぅあぅあぅ……」

顔を真っ赤にして震える梨乃。


「だ、大丈夫か?」

もしかしてやり過ぎたか?


「だ、大丈夫じゃないです……は、恥ずかし過ぎて死んじゃいます……っ!」


「あー、ごめん……」

素直に謝り離れる。ちょっと寂しい気がするが梨乃を泣かせるより何倍も良い。


「えとその……こ、こういう事はふ、2人だけの時にしてください……っ」


「ご、ごめん……」

やり過ぎだったな……反省。


「カズくん、これに懲りたらもうやめなよ?」


「善処します……」





----- 放課後 ----





「じゃあみぃちゃん、りっちゃん、買いに行こー」

ホームルームが終わると同時に智子が2人を誘う。


「えぇ」


「あ、はい!」


「あれ? 梨乃も行くのか?」


「はい、えとその……――なので……」


「ん? ごめん、ちょっと最後の方聞き取れなかった」


「い、いえ! な、なんでもないです!」

慌てる梨乃に好奇心が疼くが本人が嫌がってるしまぁいいか。


「そっか。そうだな……じゃあ俺も――」


「カズくんは来ちゃだめだよ」

俺が言い終わる前に心を読まれてしまった。


「そうそう、和真くんはだめぇ~だよ!」


「…………わかった」

ここで無理についていくとせがむ程馬鹿じゃない。

……梨乃の水着には興味あるけどさ。


「和真くん、ごめんなさい……」


「いや、別にいいよ。まぁその、なんだ……智子に悪戯されないように気を付けろよ」


「はい」


「ちょっと和真くん! なにそれ! というかなんでりっちゃんも返事してるの!?」


「あ……えとそのこれは……つ、つい……ご、ごめんなさい!」


「みぃちゃん……私もうだめだよぉ……」

今にも倒れるんじゃないかと思うほど落ち込む智子。


「はいはい、元気出す。後でクレープ食べにいこ? ね?」


「クレープ!? うん! 行く行く!」

立ち直り早いなぁおい!? さっきまでの落ち込みは何処へ行ったんだ。


「それじゃあ、カズくん、健吾くん、洋介くん、また明日」


「あぁ」


「じゃあ」


「また会おう!」

いや、洋介それは明日会う挨拶じゃないような……わかってて言ってるだろうしいいか。


「それじゃ帰るか」


「あ、わりぃ俺今日部活だ」


「じゃあ1人か……なんか久々な気がするな」


「お~い、和真~僕がいる事を忘れてないかい?」


「なんだ洋介居たのか」


「ひどい言われようだね……」


「なんだ? 珍しく一緒に帰るのか?」


「いや、淋しそうな背中に声を掛けただけさ」


「あっそ……」

俺は軽く流し教室を出た。





---- 5月7日 -----





「和真くん、これ、ここでいいですか?」

スーパーのレジ袋を持った梨乃がそう聞いてくる。


「あぁ、そこでいいよ。ありがとう」


「あの……それで、本当にいいんですか……?」


「なにが?」


「なにがって、今日和真くんのお父さんとお母さんが帰ってくるんですよね? わたしが居たら久しぶりの家族水入らずの邪魔になるんじゃ……」

梨乃が不安そうにそう呟く。


「そんな事ないよ。梨乃が居なかったら質問攻めになりそうだし」

この場合の攻められるのは俺、梨乃が居ることで質問を分散させるのが目的。


「それに梨乃と少しでも長く一緒に居たいしな」


「……っ! か、和真くんはまたそうやって……っ!」


「でも嬉しいだろ?」


「そ、それは……か、和真くんにそんな事言われて……う、嬉しくないわけないじゃないですか……」

うんうん、恥ずかしそうに俯く梨乃はやっぱり可愛いなぁ……。こう、なんかいじめたくなっちゃうんだよね。うん。


「梨乃、キスしよっか」


「あっ……」

互いに顔を近づけ――




「今帰ったぞー和真ー!」

突然、玄関から大声が聞こえてきた。


「うわぁああっ!?」

「きゃぁああっ!?」


「び、びっくりした……」


「は、はい……」

急いで顔を離す。いや、だからさ、そんな残念そうな顔されると困るんだが……。


「和真ー! いないのかぁ~?」


「こらこら、お父さん。下をよく見てください。女の子の靴があるでしょ? きっと電話で言ってた女の子とお楽しみ中なのよ」


「なにぃ!? か、和真! 父さんはそんなの許さんぞ! い、いや、年齢的にはそういうのもしょうがないかもしれないが……いやいや! だがやはりここは父親としての威厳を!」


「はぁ~……。何言ってるんだか」


「あはは……。面白い人ですね」


「まぁ根は良いと……思う。とりあえず行こうか」


「はい」





「親父、玄関で何意味不明な事叫んでるんだよ」

玄関に行くと一ヶ月前とほぼ変わらない姿の両親が居た。まぁ一ヶ月程度で大きく変わってたら逆に驚くけど。


「和真! 父さんは認めん! 認めんぞ!」


「なにがだよ……」


「何がって和真が女の子とあ~んなことや×××な事をしてたことに決まってるだろ!」


「……母さん、親父病院に連れて行こう。精神科か脳外科に」


「ふふ、お父さんは久々に和真に会えて嬉しいのよ。それと脳外科は頭部外傷や脳の血管障害の治療をする科だから違うわよ」


「そこに突っ込むんだ……」

あぁ、なんかこういうやり取り久々だな……。


「ふふ、それより和真、後ろにいる子紹介してくれるのよね?」


「あぁ、ほら梨乃」

梨乃の手を引いて母さんの前に連れて行く。


「あ、えとその……は、初めまして……か、河上梨乃……といい、ます。えとその、か、和真くんと……その……せ、先月からお、お付き合いさせてもらってます……っ!」

梨乃が顔を赤らめながらもしっかりとした声でそう挨拶する。


「あらあら、和真も隅に置けないわね。こんな可愛い子と付き合ってたなんて。ふふ」


「なにぃ!? 和真の彼女だと!? お前いつの間に……!」


「母さん、なんか知ってたような口ぶりに聞こえるんだけど……」


「そうねぇ。だって和真、河上さんの話したときすっごく嬉しそうに、話していたんだもの、すぐに気付くわよ。それにくるとき手を繋いでたでしょ?」


「そっか」

さすが母さん、普段はおっとりした感じだけどなんていうか観察眼って言うのか? とにかくそれがすごいだよな。後、勘も鋭いし。


「……和真、そろそろ父さんの相手をしてくれてもいいんじゃないか……?」


「なんだ親父、まだ居たのか」


「母さん、和真がすごく冷たいよ……およよ……」

そう言って母さんに泣きつく親父。


「はいはい、お父さん泣かないの、きっと和真の照れ隠しよ」


「え、えーと……」

梨乃が戸惑い気味の俺を見る。

まぁ普通の反応だよなぁ……。


「その、なんだいつもこんな感じだ」


「そうなんですかぁ~。その、すごく仲が良いんですね」


「ははは、それ程でもないよ。えーっと梨乃ちゃんだっけ?」


「はい、えーっと…………」

梨乃が戸惑うように俺を見る。

あ~そういえば名前教えてなかったなぁ。


「あらあら、そういえば自己紹介がまだだったわね。改めまして、和真の母、彩子(さえこといいます。いつも和真がお世話になってます」

そう言って丁寧に頭を下げる母さん。


「あっ! い、いえ! こちらこそっ! い、いつも和真くんにお世話になりっぱなしで……」

梨乃も慌てて頭を下げる。


「梨乃、緊張しすぎ」


「だ、だって……」


「はは、なかなか良い子じゃないか。和真」


「あ、あぁ……」

不覚にも親父に自分の彼女が褒められたのが嬉しく思ってしまった。


「ありがとうございます。その……」


「あぁ、私の名前は幸宏(ゆきひろ)だ。これからよろしく、梨乃ちゃん」


「は、はい! よ、宜しくお願いします!」


「挨拶済んだなら早く中は入らない? 長旅で疲れただろ? 母さん」

母さんの荷物を手に取る。


「ふふ、ありがとう和真」


「あの~、和真? お父さんを労ってくれたりは……」


「それくらい自分でやってくれ」


「はぁ~……息子も冷たくなったものだな……ふっ」


「いや、そんな所で感傷に浸るなよ……。ただ単にもう荷物が持てないだけだ!」


「あはは、あ、あのよかったらお持ちしましょうか?」


「え? 本当!? いやぁ~、梨乃ちゃんは優しいなぁ~。良い子良い子~」

突然梨乃の頭を撫で出す親父。


「きゃっ!? あ、あの……」


「あ、あぁ。ごめん、ついクセでね。嫌だったかい?」


「い、いえ……嫌、じゃないですけど……」


「む……。親父、人の彼女に気安く触るな」

ったく、油断も隙もないな。

それにしても俺がよく頭を撫でたくなるのは親父からの遺伝という事は考えたくないな……。


「なんだ、和真嫉妬か? ぅん?」


「……母さん、親父が人の彼女に手出してきてるんだけど。どうすればいい?」


「あらあら、駄目ですよ、お父さん。2人の邪魔をしちゃ」


「ははは、何を言っている母さん。ただのスキンシップじゃないか」


「そうですか。でも、あんまり過剰なスキンシップをするようならお父さんの部屋の机の左側一番下の棚の二重底の中に新聞紙で包まれた本とビデオ捨てちゃいますよ?」

それってエr…………まぁいいか。なんか自分の奴もばれていそうで怖いんだが……。

まぁ大丈夫だろう。…………たぶん。


「……? 和真くん、どうかしたんですか? なんだか冷や汗かいてますけど……」

梨乃が心配そうに俺を見つめる。


「い、いやなんでもないぞ」


「か、母さんなんでそれを……! 」


「ふふ、幸宏さんの事ならなんでもお見通しですよ」

なんか母さんの笑顔が怖いのは気のせいだろうか……?


「和真よ……。母さんの観察眼には気を付けろ……!」


「いや、そんな事言われても俺は――」


「和真はクロゼット下の引き出しの保存剤の中にUSBメモリって言うんだったかしら? とにかく画像を保存する物があるのよね?」


「なっ!?」

な、なぜだ!? 絶対に気づかれないようにデータ化したというのに! 機械が苦手な母さんが中を見たというのか!? あ、ありえない……き、きっとこれは揺さぶり……!


「なに言ってるんだ母さん、そんな所にUSBメモリなんてあるわけないだろ?」

大丈夫だ、問題ない。動揺は隠しきれたはず……だ。


「あら? そうなの? じゃあ中に入ってた巨乳シリーズってなんだったのかしら? うふふ」

完全にばれてる……だと!? そんな馬鹿な! あ、ありえない…………っ!?

突如後ろから負のオーラを感じた。

ふ、振り返るな……この感じはやばい!


「……和真くん?」

後ろかまるで別人と思えるぐらい低い梨乃の声が聞こえる。

なんだこの感じ、本当に梨乃なのか?


「和真くん? どうかしたんですか? こっち向いてください!」


「は、はい……」

耐え切れなくなり、素直に振り向くと目に涙を浮かべた梨乃の姿があった。


「和真くん……やっぱり大きい方がいいんですね……。うぅ……大きさなんて関係ないって言ってくれたのに……っ」


「あ、いや、これはそのあれだ、あーえーとほら! か、母さんが言ってるのはあくまで昔の事であってだな、その今は違うというか……その、なんだ……。と、とにかく違うから!」

必死で梨乃をなだめる。なぜだ、なぜこんなことになった……!


「ぅ……本当……ですか?」


「あ、当たり前だろ? 梨乃と付き合ってからデータも消したし」

いや、まぁバックアップを別に取ってあるんだけどね。そうでも言わないと慰めれなさそうだし。


「よかった……。和真くん本当は嫌なんじゃないかと思って……っ」


「いや、大丈夫だから。俺は梨乃の胸好きだから」


「和真くん……」


「梨乃……」


「…………おほん!」

俺の後ろからあからさまな咳が聞こえてきた。

……って今親の前じゃねぇえええか!?


「まぁなんだ。仲が良いのは結構だが人前であんまりしないようにな、和真」


「ふふ、まぁいいじゃありませんか。わたしたちも和真くらいの時はこんな感じでしたよ?」


「む……記憶にないな」

ソッポを向く親父。

俺が親父と同じだというのか……? そんな馬鹿な……!


「和真、そのなんだ。そういう風に『俺が親父と同じだというのか……?』みたいに落ち込むのはやめてくれ……。父さん本当に悲しいんだが……」


「ふふ、やっぱり似ていますね。二人とも」


「母さん、冗談でもやめてくれ……。気が狂いそうになる」


「それはさすがにひどくないか!?」


「梨乃はどう思う?」

とりあえず親父の叫びはスルーだ。


「えっ!? わ、わたし……ですか? えと……に、似てると思います……っ」


「………………」

似てる……親父に……こんな、親父に……。


「か、和真くん!? 目が死んでますよ!?」


「梨乃、もうだめだ……。俺、生きていけない……」


「な、なんでそうなるんですか! わ、わたしは和真くんもお父さんも素敵だと……ってあっ!?」

そこまで言って何かに気が付いたのか急に口を閉ざす梨乃。

……今『お父さん』って言わなかったか?


「梨乃、今親父の事……」


「……っ!、わ、忘れてください! 忘れてください! 忘れてくださぁあああああい!」

梨乃が弱パンチ……いや、最弱パンチでポカポカ俺の胸を叩く。


「あぁ……『お父さん』か……。なんて素晴らしい響きなんだ……」

こっちはこっちでなんか余韻に浸ってる!?


「あらあら、うふふ」

母さんはニコニコ笑ってるし……。

これ、どうやったら収集つくんだ……?


「まぁ、なんだ、いいんじゃないか? 別にさ。俺は気にしないし。親父も鬱陶しいぐらい喜んでるみたいだし」


「和真、鬱陶しいは余計だぞ♪」

笑顔で答える親父。

う、うぜぇ……。


「ふふ、お父さんったら相当嬉しいんですね。ならわたしも『お母さん』って呼んでもらおうかしら?」


「えっ!? あ、あのでも……」


「ほらほら、遠慮しない」


「い、いえ遠慮している訳じゃなくてその……」


「ほ~らぁ」


「わかりました……」

何度も母さんに押され諦める梨乃。

母さん相変わらず変なところで頑固だよなぁ。


「えと、じゃあ…………お母さん……っ!」

ゆっくり、恥ずかしそうにそう呼ぶ梨乃。

相当恥ずかしいんだろうなぁ。なんせ人の家、しかも彼氏の両親を『お父さん』、『お母さん』って言うんだからなぁ。もう完全に嫁……………………いいかも。

毎朝『和真くん、朝ですよ。起きてください』と俺を優しく起こしてくれたりして………………はっ!?

俺は何を考えているんだ!? い、いやでも、付き合ってるわけだしゆくゆくは……だ、ダメだ! なんか妙に恥ずかしくなってきたぞ……。

短時間でそこまで思考を巡らせ、妄想する。今の俺の思考能力は誰にも負けないだろう。まさに高速思考!

『あ……和真くん、そんな朝から……』

『梨乃が優しく起こすから元気になちゃったんだ。静まりそうにない』

『……わ、わかりました。で、でも少しだけ、ですからね……?』

『あぁ』

ってうぉおおおおおおおおおおおおおおお!? なぜかエッチな方面に妄想が行ってる!?

お、男だから仕方ないよな! そうだ、仕方ないんだ!


「か、和真くん? どうかしたんですか? 顔、真っ赤ですよ?」

脳内でそんなことを考えていると梨乃が覗き込むように俺の顔を見つめてきた。


「っ!?」

俺は急いでソッポを向く。

や、やばい……。変な事考えたから顔を直視できない……。


「ど、どうかしたんですか……?」

顔を見ていないからわからないが心配そうな声が聞こえてくる。


「だ、大丈夫だぞ! べ、別に変な事考えてないからな!」


「む……変な事考えていたんですか?」

梨乃が疑わしそうな目で真っ直ぐ俺を見る。


「そ、そんな事ないぞ! 至って健全な、健全な! 想像だぞ!」


「はは、和真、健全の前に『男として』が抜けてるぞ?」


「親父は黙ってろ!」


「あらあら、ふふ……」


「母さん! そこ笑う所じゃないからね!?」


「…………和真くんのエッチ……」

梨乃が恥ずかしそうに俯く。


「ちょっと待て! 俺はエッチな想像してたなんて一言も言ってないぞ!?」


「え、えと……お、男の子ならし、仕方ないんですよ……ね? で、でも人前でそういうのは……」


「だから俺はそんな事一言も言ってないんだが……」

まぁ言ってないだけで思ったけどさ。


「だからその……か、和真くんがそういう想像しててもわたしは……その、大丈夫……ですからっ」

勘違いのオンパレード……。

いや、まぁ想像したから勘違いというわけでもないが。


「はは、和真、良い彼女じゃないか。所で結婚式はいつあげるんだ?」


「け、けけけ結婚式っ!? あ、あの! そ、そんな結婚だなんて……!」

梨乃の顔が耳まで紅くなる。


「お、親父! いきなり何言い出すんだ!」


「ん? 和真は遊びなのか?」


「そ、そんなわけ無いだろ! そりゃあいつかはそうなりたいと思ってるけど……。いくらなんでも気が早すぎるだろ!」


「か、和真くん……。嬉しいです……」

梨乃が嬉恥ずかしそうに俯く。


「梨乃……」


「和真くん……」



「……母さん、このバカップルをどうにかできないか?」


「いいじゃありませんか。若くて、羨ましいぐらいですよ」

端からそんな声が聞こえてきた。

ダメだ、梨乃といるとどこでもイチャイチャしてしまう……。


「はぁ~。2人とも、仲が良いのはわかったからそろそろ休みたいんだが……」


「そ、そうですよね! ご、ごめんなさい! お、お父さん!」

梨乃が慌てて俺から離れる。


「はは、気にしないでくれ。それよりも『お父さん』か……。やっぱり良い響きだ……」


「あらあら、ふふ……」

感傷に浸る親父、それを見て微笑む母さん。なんとなく良いなぁ~と思ってしまう。

なんだかんだ言って両親が好きなんだな、俺。


「…………」


「……? どうかしたんですか? 和真くん?」

そんな事を考えていると梨乃が顔を覗き込むように聞いてきた。


「あぁ、いや……たいしたことじゃないよ」

なんとなく、今思ったことを梨乃に言うのが恥ずかしいと思った。

梨乃なら笑わずに聞いてくれるのは目に見えているのだが、それでも恥ずかしかった。


「そうですか。……その、良いご両親さんですね」


「え? あ、うん」


「その、ちょっと羨ましいって思っちゃいました」


「そっか」

もしかして梨乃は俺の気持ちに気づいてそう話しているんだろうか?


「えと、だから……その……わたし……」

梨乃が恥ずかしそうに、そして――


「いつか本当に『お父さん』、『お母さん』っていえる様に、和真くんに見合うような素敵な女性になりますね♪」


「っ!?」

や、やばい……!

鼓動が早鐘のように鳴り響く。


「ふふ、和真くん、お顔真っ赤ですよ?」

くっ……! 梨乃にこうしてからかわれる日がくるとは……!


「り、梨乃がいきなり変な事言うからだろ!? あ、いや、別に変な事じゃないか……ってそんなことはどうでもよくて……!」


「ふふ……。ほら、和真くん行きますよ。お父さんたち待たせちゃってます」


「……あぁ、そうだな」

リビングに向かって歩く梨乃を見て思う。やっぱり本当に梨乃が好きで好きで堪らないんだなっと。

たまにはさっきみたいにからかわれるのもいいかもしれない。実際ちょっと嬉しかったんだよなぁ。

とにかく! 『和真くんに見合うような素敵な女性になりますね♪』か……。そんな健気な彼女を俺なんかがちゃんと支えてあげられるのか不安だけど、それでも……。

……ダメだ、なんかうまく考えがまとまらない。さっきの言葉がよほど効いたらしい。


「はぁ~……」

誰も居なくなった玄関で1人、ため息をつく。


「未来の嫁、かぁ……」

正直実感はないけどゆくゆくは……。


「か~ず~ま~く~ん!」

そんな俺の考えを遮る様に梨乃の声が聞こえてくる。


「あぁ! 今行くよ!」

ったく、なに考えているんだか。そんな未来のこと今はどうでもいいだろう。

親父のせいで感傷に浸りすぎたな。


「……よし!」

両手で軽く頬を叩く。

これで、よし。今は今この時を楽しめばいいさ!



お久しぶりです!!!

えっと、何ヶ月ぶりになるんでしょうか……。

すごい長い間更新してなかった気が……はっ!?

最終更新日が11月……半年以上も更新してなかったんですね……。

ある意味すごい……。

ずっと更新を止めていましたが、ちょっと余裕が出てきたので今回更新しました。(注:14話は書き溜め物で、去年の12月ごろに書き終えたものになります)

修正箇所も大量にあると思いますが、あえてこのまま行きたいと思います。

とにかく! これからまたちょくちょく書いていくつもりなので、よろしくお願いします!(またすぐ余裕なくなりそうですが……)

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