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第13話 新しいバイトと明かされた事実

---- 5月1日 -----




今日から新しいバイト、気合を入れて行こう!

そう思ったのはもう何日前の話だ? あ……今朝の話だよな……。


「あの葵さん」


「うん? 何? どうかしたの?」


「俺今日何しに来たんですか……?」


「何ってアルバイトしに来たんじゃないの?」


「それはそうですけど……」

確かにあってるけどあってるけど……!


「じゃあ解決したじゃない。はい、じゃあそこ持って」


「は、はい……」

何かが違う……何かが……。



遡る事1時間――



「今日から始まるんだよな……。正直ゴールデンウィークからってどうなんだ? 平日でも客入りいいのに……まぁやるしかないから愚痴ってもしょうがないか……よし!」

気合を入れて喫茶葵の前に立つ。すると入り口の所に1枚の張り紙が張ってあった。その内容は――


『ゴールデンウィークに合わせ準備のため5月1日はお休みとさせていただきます』


と一言…………は? 休み……? おかしい……今日からだと聞いてたんだけど……もしかして聴き間違えたのか? というか1日って企業によっては休み、だよな。これから稼げる、そんな時に休み……?


「これどうすればいいんだ? ……とりあえず中に入るか……準備で休みって事は少なくても葵さんはいるだろう」

扉を開け、辺りを見渡すが誰もいない。

厨房の方か……?

そのままホールをスルーして厨房に入る。


「おはようございま~す」

大声で挨拶するが返事がない。


「あ、和真君こっち、こっち~」

しばらくして店の奥の方から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

奥に行くと葵さんが倉庫で何かをしていた。


「えーっと……何やってるかわかりませんけど手伝いましょうか?」


「お、ありがとーでもいいよ。和真くんには他の事やってもらうから」


「なんですか?」


「入って来た時に何も置いてないテーブルあったでしょ?」


「…………」

そ、そんな所見てない……。


「あら? もしかして見なかった?」


「は、はい……すみません」


「別に謝る必要はないよ。とりあえずそういうテーブルがあるからそのテーブルとイスをここに運んできて」


「わかり…………は……?」

テーブルとイスを運ぶ……?


「ん? どうかした?」


「あ、いえ……なんでゴールデンウィークなのに客席数を減らすのかな~と思って……」


「あぁ、うちって席はそこそこあるけど通路がちょっと狭いでしょ? 普段はいいんだけどさすがにゴールデンウィークとなると急がしてくアルバイトの子達が慌てちゃうから通路を広くしておくの。せっかくの料理溢しちゃったら駄目だしね」


「なるほど……でもそれって単純に利益が減ってしまうんじゃ……」


「普通はそうなんだけどね。旦那が『利益はお客様あっての物だから』って言っててね、わたしもそう思うよ」

利益よりお客様、か……確かにその通りだ。自分の安直な考えがバカに思えてくる。


「というわけでよろしくね~」

とまぁ、これが1時間前の話だ。


「ふぅ~……葵さん、全部運び終わりましたよ……」

意外とテーブルって重たいんだな……。

地味に腕がダルい……。


「ふふ、ご苦労様。じゃあ次はどかしたテーブルこの倉庫の中に入れるのお願いするわね」


「はい」

にしても初バイトがこんな仕事か……やっぱり想像と違う……。



その後片づけが終わった後30分程休憩を貰い、その後は物の場所、接客、皿の洗い方、しまう場所など基本的な事を教え込まれ1日が終了した。




---- 5月5日 -----




ゴールデンウィーク最終日、さすがにここまで忙しいと嫌でも色々と覚えるわけで、今ではそれなりの動きが出来るようになっていた。

やれることも増えてきて忙しくも楽しくやっていた。そう、『いた』だ、こいつがくるまでは……。


「あ、和真く~ん。アイスコーヒーとオレンジジュース一杯お願~い」

智子が大声で俺にオーダーを通す。


「おまえなぁ……なんでわざわざ俺にオーダー通すんだよ! 他にも居るだろ!? あと、なんで直接なんだよ! まずは呼べよ!」


「え? さっき和真く~んって呼んだけど……?」


「なんで俺指名なんだ! 後返事もしてないのにオーダー通すな!」

くそっ!友達じゃなかったら絶対殴ってる……。男だったらだけど。


「和真くん、智子さんも悪気があったわけじゃ……その、だから許してあげてください」


「……わかった、梨乃がそういうなら。とりあえず忙しいから無闇に呼ぶなよ。じゃあな」

はぁ~、慣れてきたといえど結構きついな、もうひと頑張りと行きますか!




――――――

――――

――





「お、お疲れさま……でした……」

し、死ぬ……さすがゴールデン最終日……夕飯時のラッシュがハンパなかった……。

「お疲れ様です、和真くん」

店を出るとすぐ目の前に梨乃が立っていた。


「あ、えと、お疲れ……」

な、なんでここにいる? 帰ったんじゃないのか?


「和真くんが終わるの待ってたんです」

俺の心を見透かしたかのように答える梨乃。


「なんでわざわざ……」


「えと、それは……その、さ、寂しかったから……ですっ……」

梨乃が恥かしそうに俯く。


「あ……ごめん! その、そうだよな、折角の連休だったのに……ごめん」

そう……だよな、自分の彼氏が自分を放っておいてずっとバイトしてたんだよな……。


「い、いえ、謝らないでください。新しいアルバイトですしいきなり休む訳には行かないでしょうし……」

口ではそう言うものの俺には我慢しているように見えた。


「……今度の日曜日さ、1日空いてる?」


「? 空いてますけど……」


「今日までの埋め合わせって訳じゃないけどデートしよう」


「あ……本当……ですか?」


「あぁ」


「和真くんとデート……えへへ……」

嬉しそうに満面の笑みを浮かべる梨乃。

冗談抜きで可愛い……。


「とにかく待たせて悪かった。送って行くよ」


「はい♪」




――――――

――――

――






「ほら、あんたも飲みいや!」

いきなりテーブルの上に一升ビンが置かれる。


「いや、俺未成年なんですけど……」


「かー! 最近の若いのはすぐこれや! うちの若い頃は皆ふつぅ~に飲んでたっつーのに! それでもあんたうちの梨乃の彼氏か!」


「それは全然関係ないと思うんですけど……」

なんでこんなことになってるんだ……? 一度状況を整理しよう、うん。



遡る事1時間――

さっきからそればっかりだな……



「それじゃあこれで」

梨乃と軽く唇が触れる程度のキスをして離れる。


「…………」


「梨乃?」

いつもならここで『また明日です』と言ってくれるのだが返事がない。


「あ、あの!」

すると突然梨乃が大声をあげる。


「ん?」


「よ、良かったら、お、お茶しませんかっ!」

梨乃が俺の服の裾を掴みながら目を瞑っている。

……本当に積極的になったな、これが自分の影響だとしたら嬉しい。


「いいのか? 時間も時間だけど……」


「あ、はい。今家に誰もいないので、その……ちょっと寂しいので……駄目ですか……?」

いや、だからさ、梨乃はもうちょっとその攻撃の威力に気が付くべきだと思うんだ。そんな風に言われたら一発OKに決まってるだろ!


「わかった。じゃあお言葉に甘えて……」

はしゃぎそうな自分を抑えてなんとかそれだけ口にする。


「はい♪」

嬉しそうな梨乃の後ろについて行き家に入る。


「お邪魔します」


「くすくす、和真くん、家には誰もいませんよ?」


「まぁな。一応礼儀みたいなもんだ」

玄関に入りリビングに案内される。


「お茶を用意するんで適当に座っててください」

そう言って嬉しそうに台所に向かう梨乃。

よっぽど嬉しいんだろうな。


リビングは何処にでもある家とさほど変わりはない、あるとすれば少し物が少ないと言った所か。良い意味で余計なものがない、悪い意味で殺風景。

梨乃の部屋ってどんな感じなんだろうな。ふいにそんな考えが浮かぶ。


「どうかしたんですか? 和真くん」


「いや、梨乃の部屋ってどんな風になってるのかなぁ~とおも……って梨乃!?」

しまった。つい本音が……


「あ、えと、その、あの……見たい……ですか?」


「もちろん!」

って『もちろん!』じゃねーよ俺!?

やばいな……緊張しているせいか本音が漏れる。


「あぅ~……いい……ですよ。は、恥ずかしい……ですけど……和真くんがどうしてもって言うな――」


「たっだいまぁ~! あれ? 梨乃、誰か友達でもおる――」

梨乃の言葉を遮り入ってきたのは30代ぐらいのスーツをきた優しそうな女性だった。


「あーえーっと……」

突然の事で思考が追いつかない。


「あんた誰や?」

先程の優しそうな雰囲気は何処へいったのか、その目はとても鋭かった。


「あ、えとおれは……」

その圧倒的な威圧感に思わずたじろいでしまう。


「あ、あの、皐月姉さん、和真くんは――」


「梨乃には聞いてへん、この男に聞いてるんや」

その声は威嚇というよりも梨乃を心配しての声に聞こえた。

なるほど、そういう事か。この皐月さん? は梨乃の事を心配してるのか。

まぁ普通に考えてどこの馬の骨ともわからない俺が妹の家でしかも二人きりで居たんだからそれも当然か。


「俺は梨乃と同じクラスの荒木和真って言います。えと、梨乃のお姉さん……ですか?」


「『梨乃』だぁ~? なにうちの梨乃を勝手に名前でしかも呼び捨てにしてるんや! あんた何様のつもりや!」


「あ、いや、それは……」

どうやら地雷を踏んでしまったらしい。その形相は今すぐにでも掴み掛ってきそうな顔だった。

さて、どうしたものか……


「さ、皐月姉さん落ち着いて! か、和真くんは……わ、わた、わたしの彼氏さんです!」


「はぁ~!? 梨乃の彼氏ぃ~? あんた最低な奴やなぁ! 一体うちの梨乃になにしたんや! そんな嘘に騙されへんで! 許さん……そんなのあたしが許さへん! そこになおれぇえええええええええええ!」


「え、ちょっ!?」

思いっきり襟を掴まれる。


「さ、皐月姉さん! わたしは別に何もされてないし騙されてもいないから! お願いだから落ち着いて!」

梨乃が一生懸命皐月さんの服を掴みながら抑えようとする。


「………………梨乃、本当なんやな? 脅されてないんか? 嘘つかれてへんのか?」


「う、うん……だからさっきからそう言ってるのに……」


「キッ!」

すごい顔で思いっきり睨まれる。


「本当なんやな?」


「は、はい」

こええ……もう何がって全部が……


「…………うちが悪かったわ」

そう言って襟を掴んでた手の力が弱まる。


「まったく……梨乃ももっと早く言わんからこういう事になるんや」


「あぅ……ごめんなさい……ってわたしのせいなの!?」


「せや、少なくても知ってればこないな事にならんかったやろ」


「それはそうだけど……そ、そもそも皐月姉さんが早とちり過ぎるの!」


「ほっほ~言うようになったじゃない。私に逆らうのね……ふふっ」

な、なんか喋り方変わったぞ!? なんだ!? 背筋が凍るような感じが……!


「あ、えと、その……」

梨乃が一歩、ニ歩下がる。


「覚悟しいやぁあああ!」

お姉さんが梨乃に襲い掛かる。


「き、きゃああああああああっ!」


「ほらほら、ここがいいんやろ? うん?」

いきなり皐月さんが梨乃をくすぐり始める。


「あ、ははははは、ま、待って! さ、皐月ねぇ、姉さん! そこだめぇだってばぁ! あはははは、く、くすぐったいっ! あ、あひぃ……ほ、ほんとに横腹はだめなのぉ!」

……なるほど、梨乃は横腹をくすぐられるのが苦手なのか、なるほど……って何言ってるんだ俺!?


「は、はひぃ……も、もう許してぇ……」

なんだろう……やけに声が色っぽく聞こえる……これはこれでいいかも……。


「はぅ……はぁ……はぁ……か、和真くぅん……た、助け――」


「まだや、まだ終わらへんで!」


「あはははははは、だ、ダメ……さ、皐月……ねえ……さん……こ、これ以上は……はぁ……はぁ、はひぃ……」

俺はただ、その光景を見ていることしか出来なかった。




――――――

――――

――





「はぁ……はぁ……はぁ……」

梨乃が苦しそうに息を荒げる。


「梨乃、大丈夫か?」

さすがにここまでだと心配になる。


「は、はい……まだ、ちょっと……苦しい……ですけど……」


「まったく、うちを怒らせるからそうなるんや」

そう言って先ほど取りに行った一升ビンを片手にコップに注ぐ皐月さん。

そしてなぜかコップは二つ。


まぁここまでが回想というわけだ。




「で、あんたほんとーに飲まへんのか? せっかく二つ用意してやったちゅーのに」

……確かに、梨乃にもっと近づくためにここで皐月さんとの距離を縮めるのもいいかもしれない。

別に飲めないわけじゃないしな。


「わかりました。一杯だけ貰います」


「せやせや、やっぱり男はこうじゃないと! さっすが梨乃が認めただけの事をあるやっちゃ。ほら、コップ持ちいや」


「あ、はい。すみません」

お酒がコップに注がれる。


「って和真くん! 何普通にお酒飲もうとしてるんですか!?」

息が整ったのかなんともまぁ予想通りのツッコミが入る。


「え? いや、だってせっかくだし……」


「だってもせっかくもないです! 和真くんまだ未成年でしかも高校生じゃないですか!」


「まぁそれはそうなんだけど……なんというか社交辞令というか……」

なんかいつもの梨乃と違うな、自宅だからかな? なんていうか……元気がある、というか……壁がない? それもなんか違う気がする……とにかくいつもより元気で明るいよな。

これはこれで新鮮だ。たぶんこっちが素なんだろう。


「それでもダメです! もう! 皐月姉さんも和真くんにお酒を勧めないで!」


「はぁ~、まったく梨乃は冗談が通じんやっちゃなぁ~、冗談に決まってるやろ?」

俺のコップを受け取る皐月さん。

いや、絶対本気だったでしょ……。


「本気にしか見えなかったよ!」


「あーもう、そんな細かい事一々気にすんなや! 彼氏に振られてもしらへんで」


「えっ……」

なんか梨乃が一気に寂しそうな顔になったぞ!?


「か、和真くん……」

瞳を潤ませながら梨乃が見てくる。


「なんだ?」


「わ、わた、わたしの事……き、嫌いにならないで……ください……」


「うぐっ!?」

やばいやばいやばい……! か、可愛すぎる……! そんな風にして言われたら……!


「あ、当たり前だろ! そんなことで嫌いになるわけないだろ?」


「和真くん……」


「梨乃……」

互いに見つめ合――


「あんたら、保護者の前でよーやるわ。あーお熱いことで」

その言葉でほぼ同時に目を逸らす。

そういえばそうだった……。


「まぁ、ええわ。ところで梨乃、もしかして今日この男うちに泊める気なん?」


「えっ!? ち、違うよ! えと……もうちょっとお話したかったから……うちに……」

梨乃に全力否定される。それはそれでなにか悲しいものが……


「ふ~ん、まぁええわ。よかったらうちで晩御飯食べていくか?」

皐月さんが意外な提案をしてきた。


「え? いいんですか?」


「っといってもまぁ、作るのは梨乃やけど」

梨乃の手料理……料理の腕は弁当で確認済みだ、むちゃくちゃ食べてみたい……。


「全力でいただきます!」


「か、和真くん、はしゃぎ過ぎです」


「いや、だって梨乃の手料理だし。これではしゃがない男なんていないだろ」


「もう……それは大げさです……よ」

そういいながらも顔はとても嬉しそうだった。


「ほんな梨乃が料理作ってる間に二人で酒盛――」


「皐月姉さん! お酒はダメって言ってるでしょ!」


「ッチ、ただの冗談や」

いやいやいや! 今露骨に舌打ちしましたよね!?


「ふぅ……さて、梨乃が台所に行った所でちょっと真面目な話をしようかぁ。ちょっとこっちに来いや」

梨乃が台所に行った瞬間皐月さんの雰囲気が変わり、隣の部屋に連れて行かれた。


「和真……言うたっけ? 家の事どれくらい知ってるんや?」


「えっと……何も……ただ去年大好きな友達が亡くなった事は聞きました」


「梨乃の両親の事は聞いてないんやな?」


「はい……それにしても両親ってなんだか他人みたいな言い方ですね。梨乃のお姉さんなんですよね?」


「まぁ、姉と言っても義理の姉やからな」

やっぱりそうか……全然似てないからそうかと思ってたけど。


「なるほど……」

ここは一応話をスムーズに進めるためにそう返しておく。


「そうやな……とりあえず梨乃の友達の事知ってるちゅー事はこっちに引っ越してきた理由の一つは知ってるわけやな」


「あーえっと……そういう事に……なるんですかね? って1つ? 親の都合だって聞いてましたけど他に理由があるんですか?」


「なるほどなぁ、梨乃はそういう風に話しんやな。せやな……あの子に聞いても答えんやろうし特別に教えてあげたるわ。梨乃両親、まぁあたしから見たらおじさんとおばさんって事になるんやけど……実はな、両親ともに交通事故で亡くなってるんや」


「…………え?」

い、今、亡くなってる……って言ったか? なんで……


「梨乃の友達が交通事故で亡くなったのは知ってるんやろ?」


「は、はい……」


「その事故に遭った車にはな、梨乃の両親と梨乃が乗ってたんや」


「そん……な……それじゃあ梨乃は目の前で……?」

目の前で……両親と千堂さんが亡くなるところを見たって言うのか?


「そうや……正面衝突やったみたい。運転席にいたおじさんと助手席に居た両親は即死、後ろに乗っていた梨乃は……友達が庇ってくれたんや。梨乃はその眼でその光景を見てたそうや……ほんとに辛かった……いや、今でも辛いんやろうな」


「そん……な……、なんで……なんでだよ! そんなのってねぇよ! なんで梨乃ばっかり……っ! ずっと辛い思いしてきたんだろ! なのになんで……梨乃にばっかり辛い思いさせるんだよっ! くそぉっ…………」

もう訳がわからない。気が付くと目には涙が浮かび、声を荒げていた。


「せやな……でも、これが真実や。これで引っ越してきた意味、わかったやろ?」


「……っ、はい……身寄りが……いなかった……んですね。俺……情けないです……たった一か月だけど梨乃とずっと一緒に居たのに……全然気が付かなくて……梨乃が……そんな辛い思いしてたなんて……馬鹿だ……俺、千堂さんの話は聞いてました……最近梨乃が積極的になって明るくなった気がしたから……きっと千堂さんみたいになれたんだと勝手に……思い込んで……っいました。……でも、全然、そんな事……なかった……っ、梨乃の事何一つ……わかってなかった……ほんと、情けない……です……」


「自分を責めるのはお門違いや、あんたが悪い訳やない。そういう風に心配させないために梨乃はずっと黙ってたんや、たった1人の大好きな男の子を心配させないためにや。それがわからへん奴やないやろ?」


「はい……梨乃は……すごく優しいですから。俺が不安になるくらいに」


「せやな、それについてはあたしも同意見や、これはあの子自身の問題や、和真が自分を責める必要あらへん。それよりこの話を聞いてあんた自身がどうするかや」


「俺自身が……?」


「せや、ずっと黙ってた梨乃を責めるか? それとも今聞いたことを本人に話すか? はたまた今まで通りにしてるか、こればかりはあたしからは何も言えへん。どれがいいかなんて本人にしかわからへんからな。和真、あんたが好きに選び」


「俺は…………選びません」


「選ばへんやと?」


「はい、梨乃が話してくれるまで黙っています。でも、今まで通りになんかしません」


「……どういう意味や」


「今まで以上に梨乃を楽しませてあげます、笑顔にします。そして絶対にその不幸を上回るぐらい幸せにしてみせます。それが俺の……答えです」


「せやな……あんたの言う通りや。あの子、普段はあーやって明るくしてるんやけど、たぶん……いや、絶対自分の心を折らないようにするためにわざとそうしてるんや。だからっていうわけやないけど、あの子の事、大事にしてやってくれ」


「当たり前ですよ。俺の彼女なんですから。絶対に守って……絶対に幸せにしてみせますよ」


「あの子の事、よろしく頼むで」


「はい」

俺は力強く頷いた。




――――――

――――

――





「えと、お待たせ……しました。和真くん、皐月姉さんと何してたんですか?」

リビングに戻るとちょうどそこへ梨乃が料理を運んできた。


「ん? ちょっとした世間話……かな? それよりもごめん、手伝えばよかったな」

今更ながらそんな事に気が付く。


「い、いえ……和真くんはお客さんなんでゆっくりしてい…………和真くん、どうかしたんですか? なんだか少し目が赤いですよ?」


「あ、いや! これは……その、目にちょっとゴミが入ってな……」

さっき泣いたのをすっかり忘れてた……


「そうですか。大丈夫ですか?」


「あぁ、大丈夫。心配してくれてありがとう」

頭を無意識に撫でる。


「はい、えへへ……」

梨乃が気持ちよさそうに目を細める。

……この笑顔を守っていかないとな。


「っと、お料理冷めちゃいますね。ごはん持ってこないと!」

そう言ってまた台所に戻っていく梨乃。

なんか新婚さんみたいだな。ふいにそう思う。


「あんた今「新婚さんみたい」って思ったやろ?」

……ここにエスパーが一人。


「いや、まぁ……」


「家事が得意で健気で可愛い、ほんと申し分ない子や。うちが嫁に貰いたいぐらいや。でもそれだけに親代わりとしてはどーしても不安になるんや。いつか足元から崩れるんやないかって」


「皐月さん……」

この人は本当に梨乃の事愛してるんだな……


「だから本当にあの子の事頼むで、近くで支えてやってや」

これは皐月さんに認められた、と思っていいのだろうか? なんとなくだがそんな気がする。


「大丈夫ですよ、何があっても絶対に離しませんから。たとえ梨乃が嫌がっても、ね」


「いや、嫌がってるのに付きまとったらただのストーカーと変わらへんやろ、あんた捕まるで?」


「このいい雰囲気のいい場面でそのツッコミですか!?」


「はは、冗談に決まってるやろ?」


「全然冗談に聞こえなかったんですが……」


「一々細かいことは気にしんでえぇっちゅうに!」


「はい、はい……」

ちょっとむちゃくちゃな人だけど……良い人だな。





「和真くん、どうぞ」

ほんと、タイミングを計ったようにくるよな。


「あぁ、ありがとう」

梨乃からご飯を受け取る。


「どうしたんですか? すごい顔がニヤけてますけど……」


「そりゃあ、彼女の手料理が食べれるんだからニヤけもするさ」


「あぅ…………は、恥ずかしい……です」

いや、だからほんとね、恥ずかしながら嬉しそうにするのは反則だと思うんだ、うん。


「えと、その……それじゃあ……」


「「「いただきますっ!」」」



――――――

――――

――




「悪いな、晩御飯ご馳走になっちゃって」


「いえ、元々家に誘ったのはわたしですし……それよりも和真くんの口に合いましたか? その……和真くんの好きな料理とか味付けを知らないんでいつも通りの味付けにしちゃったので……」


「いや、美味しかったよ。味付けも俺好みだったし。料理は……そうだな、肉じゃがが好きかな」


「肉じゃが……ですか?」


「あぁ、彼女に作って欲しい料理ナンバーワン家庭料理! 実は好物だったりする」


「肉じゃが……わかりました。今度作ってみます」

梨乃が嬉しそうに答える。


「おう、楽しみにしてる。っと、そろそろいい時間だな」


「はい、また明日です」


「おう、お休み」

梨乃と軽く唇が触れる程度のキスをし帰宅した。





――――――

――――

――





「ただいま」

誰もいない家にそう言って入る。


トゥルルッ!


リビングに入った瞬間狙ったかの様に電話が鳴る。


「こんな時間に誰だ?」


「もしもし、荒木ですけど」


「やっほ~、和真、大好きなお父さんだぞ~」


ガチャッ!


「しまった、予想外過ぎて切っちまった……今の親父、だよな……」


トゥルルッ!


「もしもし……」


「なんだ和真連れないじゃないか、いきなり切るなんて」

どの口がそれを言う……ちょっと鳥肌立ったくらいだぞ。


「もう、お父さんったら、あんな風にしたら切られて当然ですよ、いくら久々に和真の声が聴けるからと言ってーー」


「そういう母さんもはしゃいでいたじゃないか」


「それはそうですど……」


「あ~えっと……」

俺はどう反応すればいいんだ?


「あ、ごめんなさいね和真。遅くなったけど久し振り、1ヶ月ぶりぐらいかしら?」


「あ、あぁ……えと、母さん、久し振り。ついでに親父も」


「お父さんはついでなのかい!?」

いや、だってなぁ?


「まぁそれは置いておくとして、こんな時間にどうしたんだ?」


「和真、お父さんは悲しいぞ。およよ……」

ちょっとだけうざいと思ってしまった……


「ところで和真、こんな時間って? 今は昼だけど……」


「いや、母さん、地球には時差っていうのが……」

さすが母さん、その辺は相変わらずだな。


「……あっ!? ご、ごめんなさい和真! 母さんったらそんな事に気付かないなんて! もしかして寝てた……?」


「いやまぁ寝てないけどさ」


「ほ、本当にごめんなさいね」

声で分かるぐらい申し訳なさそうにする母さん。

……母さんって梨乃と気が合いそうだな。性格似てるし。


「それよりもどうしたんだ? 電話してくるなんて珍しい」


「あ、うん。実はねーー」


「それについては父さんから話そう」


「あ、あぁ」

さっきからコロコロ変わるから反応に困るな。

スピーカーモードなんて携帯も便利になったよな。


「実はな、仲間から休暇を取れ取れ言われてな……今週の金曜日に着く様に帰ろうと思っているんだ。それでなんだが、和真、土日の予定空いてるか?」


「あーえっと……」

まぁバイトはないけど梨乃とのデートがあるんだよな……


「あら? もしかしてもう予定入っちゃってた……?」

母さんが淋しそうに言う。


「土日って事は泊まりで何処かに出かけるのか?」

とりあえず何するかわからない以上答えれない。


「あぁ、母さんが桜を見たいと言ってな、ちょうどこの時期に桜をが咲いている温泉旅館を見つけたから和真も一緒にどうだと思ってな」


「なるほど……」

家族水入らずで旅行か、たまにはいいかもな……でも、また梨乃を放っておくのか? ……それだけは嫌だ。


「あ、そうだ! もし良かったら美冬ちゃんとかも誘っていいわよ。ね、お父さん」


「それもそうだな。それはそうと和真、美冬ちゃんとは何処まだ行ったんだ?」

親父が急にそんな事を聞いてくる。


「いや、何処までもなにもいつも通りだけど?」


「なにぃ!? 美冬ちゃんに鍵を渡したのに変わりないだと!?」


「いや、何を求めてるか知らないけど美冬は幼馴染だろ?」


「そ、そうか……」

一体何を残念がってるんだか……。


「くそぉ……美冬ちゃんに私の事をお義父さんと呼ばせる計画が……!」


「……母さん、親父があんな事言ってるけど放って置いていいの?」


「ふふ、そうね。でもそれも和真の事を思っているからこそ、ね?」

電話から聞こえる声だけで親父が悶えて母さんがそれを見て微笑む姿が容易に想像出来る。


「はは……」

自然に笑みが溢れる。


「和真? どうかしたの?」


「あ、いや。やっぱ親父と母さん仲良いんだなと思って」


「そりゃあね、仲良くなかったら結婚てないわよ」


「まぁそれもそうか」


「で、ええっと……何の話だったかしら?」


「何の話って温泉旅行の話だろ?」


「あ、そうだったわね」

たぶんだけど今母さんは胸の前で両手の平を合わせただろう。

何かに気付いた時にする母さんのクセだ。


「それで……和真はどうするの?」


「そうだな……ちなみに友達を連れて行くなら何人までいい?」

まぁ皆で行けるならそれでいいし、1人だけなら母さん達には悪いけど断ろう。梨乃の性格を考えると『久し振りの家族水入らず何ですからわたしの事は気にしないで行ってきてください』て言うだろうし。


「何だ、和真の友達を呼ぶのか? 何人でも良いぞ!」

おお、なんか親父が太っ腹だぞ。


「えと……」

まずは梨乃だろ? それに美冬、智子、健吾に洋介かな。

意外といるな……大丈夫かな?


「5人なんだけど……母さん、いいかな?」


「5人……美冬ちゃんに智子ちゃん、健吾くんに洋介くんよね。あら? これだと4人ね……他に母さんが知ってる子居たかしら? あ、陽菜ちゃんかしら?」


「いや、先輩じゃないよ。春に引っ越してきた子だから母さんは知らない」


「あらあら、そうなの? ちなみにどんな子? 男の子? 女の子?」


「女の子、性格は……母さんに似てるかも」


「なにぃ!? 和真! 今すぐその子を私に紹介しなさい!」

駄目だこの親父早く何とかしないと……。


「母さん、親父本当に放っておいていいのか?」


「ふふ、大丈夫よ」


「なぁ和真……そろそろお父さんの相手をしてくれてもいいんじゃないか……?」

なんかすごい寂しそうな声が聞こえるが気のせいだろう。


「いや~うん。とりあえず変な事言わなければ構うからさ。それより5人なんだけど……いいか?」


「わたしは全然構わないわ。お父さんもそうでしょ?」


「そうだな、ただ親御さんにちゃんと許可取るんだぞ?」


「それについては大丈夫。それにまだ皆行くかわからないから」


「まぁ人数については大丈夫だから皆誘いなさい。っと一つ忘れてたな、その旅館プールがあるらしいから水着持ってくるといいぞ」


「旅館にプールなんて珍しいな。まぁ皆には一応伝えておくよ」


「よし、じゃあそろそろ出発の時間だな。母さん」


「えぇ、それじゃあ和真、金曜日に会いましょ」


「じゃあな和真」


「あぁ、待ってるよ母さん、それと親父」



お待たせしました。約2ヶ月ぶり……いや、それ以上ですね。Twitter 見てる人はわかっていると思いますが、現在ノベルゲームのシナリオ書きと平行していて中々進まないんです……orz

とまぁもう書かなくなった、と思ってしまう人もいるかもしれませんが、ちゃんと書いてます。もし書かなくなったら報告します。なので安心(?)してください。


さて、今回の話ですが、この話からちょっと脇道に逸れます。簡単にいうと「みんなで遊びにいこー!」という話です。

というわけで、更新が昔に比べてだいぶ遅くなってますがよろしくお願いします。

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