第10話 呼び名とパフェ
晴れて恋人同士になった和真と梨乃、しかしその2人にいきなり先輩からの駄目出しが……
ガクモノ!! 10話、ここから真の話が始まる。
なんとか本鈴ギリギリで教室に入ることに成功した俺たちを待っていたのは喜び、怒り、嫉妬といったように様々な視線を感じ思わずその場で立ち竦んでしまった。
その後ろに隠れるように河上さんが中を覗いている。
「荒木と河上、なにやっている早く入れ」
「え、あ、はい……」
正直ここから離れたい気分だったがさすがにそこまでする勇気はないので大人しく自分の席につく。
「ふふ、和真もこれから大変だね」
「あぁそうだな……」
その後HRもつつがなく終わり、1時間目の授業が終わった瞬間――
「で、いきなりなんなんだよ……」
なんともまぁ予想通りに健吾、美冬、智子、それとなぜか洋介に囲まれる俺と河上さん。
「なんだよ……じゃないよ! 和真くん! 掲示板にあった新聞の話は本当なの!?」
「あーあれはだなぁ……」
新聞の事実を問われているのならNoだ、実際あの時はまだ付き合ってないしな。
ただ、付き合ってるかどうかだとYesになる。
正直ただの屁理屈だと思うが質問の内容によっては答えを分けなければいけない。自分の身の安全のために。
「記事の内容なら嘘だよ。確かに日曜日河上さんと映画は見たけどそんな関係じゃないよ、ね?」
そう言うと一瞬悲しそうな顔をされてしまった。
俺は慌てて『話合わせて』と目で送る。
するとそれが伝わったのか小さく頷いてくれた。
「えと、はい……」
「う~ん、怪しいなぁ~ねぇ、みぃちゃんもそう思うよね?」
「え……? う、うんそうだね……」
「? どうかしたのか? なんか元気ないぞ美冬」
「あ、うん。ありがとう。何でも、ないから」
「まぁ、そういうならいいんだけどさ……」
どうも大丈夫そうに見えないんだよなぁ。気になるけど気に留める程度にしておいたほうがいいか。
「んで、一緒に映画には行ったんだよな、しかも腕組で」
健吾が珍しく色恋沙汰? で口を開く。
「まぁ……な」
それは事実なので隠しようがない。なんせ写真があったぐらいだしな。
「そうそう! 腕組だよ! う・で・く・み! いくら友達でもそれはおかしいよ!」
「いや、お前だってよく美冬としてるだろ?」
無駄な突っ込みだと分かりつつもつい、言ってしまう。
「それは別に女の子同士だからいいの! 問題は2人が腕組してたって事だよ!」
なんかすごいこと言われた気がしたがそこには触れないで置こう。それよりもその後だ。
「それは……その、なんだ――」
キーコーンカーコン、キーコーンカーコン。
その時丁度休み時間の終わりを告げるチャイムが流れた。
「っと、休み時間終わりだな。ほら、戻った戻った」
「ぅ……まだ話は終わってないからね!」
そう捨てセリフを吐き智子と美冬が自分の席に戻っていった。
「ふぅ~……厄介な事になったな……」
「そう、ですね……」
「っとそうだ、さっきは話合わせてくれてありがとう。……そのもしかして辛かった?」
「え!? な、なんでわかったんですか……?」
「あ、いや『そんな関係じゃない』て言ったときにすごい悲しそうな顔されたからさ……その、俺もそうやって言うのちょっと辛かったし河上さんもそうなのかなぁ~と思って」
「はい……ちょっとだけ、悲しかったです。でも……荒木さんも同じ気持ちだったんですね」
「そりゃあ……な。じ、自分の好きな人を自分で否定するなんて嫌だよ」
「荒木さん……」
「あー、君たち今授業中でしかも後ろに僕がいる事忘れてない?」
「なんだ洋介、勝手に恋人の空間に入ってくるなよ」
「なんだかひどい言われようだね……というか皆にはいつまで隠すつもりだい?」
「……隠すつもりはないさ」
「ふーん。まぁいいや。もっとも森下嬢には見透かされているみたいだけどね」
「あぁ、そうだな……なんとなくだけどそんな気はしてた」
「皆には後で話すよ」
「そうかい。君がそういうなら君の意見を尊重しよう。……でも、ファンクラブには気をつけて、今はあくまでスクープみたいな感じだからすぐに冷めるだろうけど実際に付き合ってるのがバレたら――」
「みなまで言うなよ、それもわかってる」
それからの授業はまったく頭に入らずに休み時間に入った。
1時間目の休み時間同様3人が俺たちの所に集まってきた。
「それじゃあさっきの続きだけど……」
そうやって始めようとする智子を手で制止する。
「その事なんだけどさ、昼休みに話すよ」
「ほんとに? やっぱりやめたとかなしだよ?」
「あぁ、わかってる」
「う~ん。だって、みぃちゃんもそれでいい?」
「う、うん……カズくんが話すって言ってるんだから大丈夫だと思うよ」
「みぃちゃん大丈夫? さっきから調子悪そうだけど……」
さすがの智子様子がおかしいのに気が付いたのか心配そうに声を掛ける。
「あ、うん。大丈夫だよ。ちょっと考え事してて……」
「みぃちゃん……」
「おい、和真。美冬の奴どうかしたのか?」
「どうかって言われても……考え事してたって言ってただろ?」
「いや、どうみてもそんな様子じゃないから聞いたんだが……お前がそういうって事はどうしたのかは知らないって事か」
「あぁ」
健吾には悪いが何となくだが心当たりはある。が、それは本人以外に言う必要はない。
変に突っ込んでこない辺り信用されているんだろう。悪いな健吾……。
そう心で呟くと同時に休み時間終了を告げるチャイムが鳴った。
その日の昼休み――
約束通り俺たち6人で屋上の日当たりが悪い、ようは人気が少ない場所に赴きそれぞれの昼食を広げる。
「とりあえず時間がもったいないし食べながらで、それで? 何が聞きたい」
「だから、2人が腕組んでって事だよ!」
「あぁ、そうだったな……。後、せめて口押さえろ……米粒が飛んできたぞ」
「ぅ、ご、ごめんなさい……」
俺がそういうと素直に謝る智子。
そういう所は素直なんだよな。
「で、腕組の事なんだが、その……言ってもいいかな?」
「は、はい……」
俺は本人に確認を取り、事実を伝える。
「実はその日ホラー映画を観る事になったんだが、河上さんホラーが苦手で映画館入る前から震えちゃってて……」
「それで腕に捉まられたって事か?」
「あぁ、そうだ。それで運悪くそこの写真を撮られちゃったって訳だ」
「和真くんひどい!!」
智子がいきなり叫び出す。今度は唾を飛ばして。
「な、なんだ? いきなり叫ぶなよ……」
「だってそれって和真くんが嫌がるりっちゃんを無理やり連れて行ったって事だよね!」
「ちょ、ちょっと待て! それは誤解だ! 別に無理やり連れてったりはしてないぞ!」
「う~ん、和真くん嘘つかないし本当にそうなのかな……りっちゃん本当?」
「は、はい……」
「うん、わかった。じゃあ2人は別に特別な関係じゃないんだね」
そう言ってなぜか安堵する智子。
どうやら誤解は解けたらしい。いや、ある意味問題が残ってるわけだが……そこは追々でいいだろう。
「ねぇカズくん、梨乃ちゃんちょっといいかな?」
すると今まで黙っていた美冬が突然話し出し、少し離れたところを指差す。
「あぁ、いいぞ」
「梨乃ちゃんもいいかな?」
「は、はい……」
美冬に言われたとおり少し離れた場所で対峙する。
「それでなんだ?」
「あ、うん。2人に聞きたい事があって……」
「聞きたいこと?」
なんとなくわかっていたがあえてそう聞き返す。
「うん……その、2人共付き合ってるんじゃないかなっと思って……」
「それはさっき説明しただろ? だから――」
「うぅん、そう意味じゃないの。2人が『今』付き合ってるんじゃないかなっと思ってるの」
「……あぁ、付き合ってるよ。今日の朝から」
そう言って河上さんを自分の元へ寄せる。
「そっか、うん。そうだよね。なんとなく、そんな気はしてたんだ。おめでとう、2人とも」
そう言って今朝の顔色の悪さが嘘のように笑顔になる美冬。
「あ、あぁ」
だが、その笑顔が少し寂しそうに見えたのは気のせいだろうか?
「ありがとうございます……」
「ねぇ梨乃ちゃん」
「は、はい」
「カズくんのこと、これからよろしくね」
「はい!」
----放課後----
放課後すぐに生徒会室、正確には資料室に向かおうとした俺たちだが――
『あ~、呼び出しをするわ。2-B組の荒木和真、河上梨乃は至急生徒会室にくるように。繰り返すわ、荒木和真、河上梨乃は至急生徒会室にくるように。こない場合は明日朝日が拝めないと思うように。また、ファンクラブ会員に通達、もし万が一2人に手を出した場合……どうなるかわかってるわよね? 以上! 早く来なさいよ~!』
「今の声、一ノ瀬先輩……よね?」
「あぁ、そうだな」
「……カズくん何かやったの?」
美冬が疑いの目を向けてくる。
「う~ん、何にもやってないと思うけど……河上さん何か心当たりある?」
「え!? えと、その……な、なんでしょうね? あははは……」
今の反応、何か知ってるな……まぁいいか。
「そっか、なんなんだろうな」
「さ、さぁ~? その、早く行った方がいいんじゃないですか……?」
「それもそうだな。あんまり遅いと怒られそうだし。早く行くか」
「はい」
はてさて、何を隠しているのやら……まぁ隠せてないけどさ。
美冬たちと別れた後生徒会室へ向かうが周りからの視線がすごい。
さすがに正面掲示板の効果は大きいな……。1ヶ月はこの状態と考えたほうがいいか。
そんな視線を感じながら生徒会室に辿り着く。
さて、何が飛んでくるかな……。
いつでも避けられるように構えながら扉をノックする。
『は~い、誰? 和真?』
扉の向こうからそう聞こえてきた。
「荒木です。入っていいですか?」
『やっときたわね。入っていいわよ~』
「失礼します」
声の大きさから考えて扉近くにはいないだろう。
ほっと胸を撫で下ろし扉を開ける。
「遅い!」
扉を開けた瞬間、腹部に激痛が走る。
「ぐはっ!」
か、完全に油断してた……ぅ。
「か、和真!? ちょっと、何倒れてるの!? ねぇ!」
あぁ、声が聞こえてくる……そうか、この声先輩の……目の前が段々暗く……。
「…………さい!」
なんだろう……なんだが聞き覚えのある声が聞こえてくる……。
「…………起きてください!」
起きる? あぁ……俺寝てるのか……でも眠いんだ……このまま寝させてくれ……。
「荒木さん! 起きて……くだ、さい……ぅ……うぅ……」
今度ははっきりと声が聞こえた。泣いて……いるのか?
「うぅ……ぐすっ……あ、らき……さん……」
あぁ、俺が泣かせてるんだ……起きなきゃ……。
「………………河上……さん?」
「っ……ぐすっ……あっ……」
目を開けるとそこには涙で顔を濡らした河上さんの姿があった。
「っ……あ、荒木さん!」
「っとと……」
急に抱きつかれ倒れそうになったがなんとか留まる。
「よかった……です。本当に……っ……わ、わたし……もう、目覚めないんじゃないかって…………ぐすっ……ほんとに……」
「そんな大げさな……ちょっと気絶しただけだよ」
「大げさ……じゃない、です……っ……うぅ…………」
「河上さん……ごめん」
それから河上さんが落ち着くまで優しく抱きしめた。
「で、先輩、何か言う事はありませんか?」
「なによぉ~さっきちゃんと謝ったじゃない」
「いや、謝った、謝らなかったっていう事じゃなくてですね……」
「あ~もう、わかってるわよ。もうやらないわ。これでいいでしょ?」
「そうです。本当にやめてくださいよ。シャレにならないんで」
「はぁ~なんで私が説教されないといけないのよ……」
「何か言いましたか?」
「いいえ、なんにも」
先輩に知らぬ存ぜぬとでも言いたげに軽くあしらわれる。
「はぁ~……」
これ以上やってっも時間の無駄だしもういいか……。
「わかりました。じゃあこの話はこれで終わりでいいです。それより何か用があったんですよね?」
「あーそうそう。ふふふ…………」
「なんですか……その、悪巧みでも考えている様な笑いは……」
「い、一ノ瀬先輩、ちょっと怖いです……」
「大丈夫よ。悪巧みは考えてないわ。もう用意……違うわね、悪巧みは終わっているから考える必要もないわ」
「さいですか……。でも終わっているって?」
意味がわからない。さっきの鳩尾殴りが悪巧みだったのだろうか?
「ふふ、いや~2人が付き合う事になって嬉しいわ。ほんと、映画のチケット渡して正解だったわね」
「いや、先輩。あの例の記事は嘘ですよ?」
「ん? 記事? あぁ、あの記事ね。確かにあれは嘘ね。だってその時2人とも付き合ってないものね?」
……え? 先輩なんで知ってるんだ……? 付き合ってる事を知ってるのは本人である俺たちと浅井と美冬だけのはず……浅井も美冬もそんな人に言いふらす奴じゃないし……あの校舎裏のやり取りでも見られていたのか? いや、その時の先輩は生徒会室でファンクラブの人たちを絞めてたはず……じゃあ何処で…………まさか。
俺は慌てて河上さんの方を向く。その目は軽く泳いでいた。
「河上さんもしかして先輩に話した?」
「っ!? あ、えと……その……す、すみま……せん。話……ちゃい、ました……っ」
「そっか。でもなんで?」
基本的に隠すつもりはなかったがファンクラブの件があるからヘタに知られたくなかったんだが……先輩なら関係ないだろうが。
「えと、その、あの……っ……すみま……せん」
河上さんが瞳に涙を浮かべる。
「あ、ちがっ!? べ、別に責めてるわけじゃないんだ! ただ、なんで話したのかが知りたくて……だからその……なんだ」
「わぁ~和真が彼女を泣かした~」
「先輩は黙っててください!」
「……その、先輩と……約束……したんです……」
「約束……? どんな?」
先輩に目をやるとそっぽを向いていた。俺は気にせず言葉に耳を傾ける。
「その……あ、荒木さんとの……その、仲が進展したら連絡するって……」
「仲が進展したら……?」
「はい……」
「先輩、どういう事ですか?」
「はぁ~……どういう事もなにも2人が中々前に進まないから私が手助けしたのよ。それで進展したら言うように、そう約束しただけよ」
「手助け? ……あっ!? もしかしてあの映画の……」
「そうよ、2人共全然動かないからなにかしたくなるじゃない。特に和真、あんた鈍感すぎ」
「うっ……ひ、否定できない……」
実際に気付いたのはあの映画がきっかけだし……その部分では感謝、かな……。
「梨乃ちゃんは奥手だからしょうがないとして……もうちょっとしっかりしなきゃ駄目よ?」
「はい……面目ないです……」
言い返せないのが辛い……。
「ふぅ~まぁ、とりあえず説教はこれくらいにして、2人共おめでとう」
先輩が笑顔で、たぶん本気で俺たちの事を祝福してくれた。
「はい、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「うんうん、私も鼻が高いわ。ただ一つだけ納得出来ないところがあるけど」
「納得できないところ……? 何が納得できないんですか?」
「何って……まったく……はぁ~」
先輩がわざとらしくため息をつく。
「2人共なんて呼び合ってるの?」
「……は? なんでそんな事……」
「いいから答えなさい」
「普通に『河上さん』ですけど?」
「梨乃ちゃんは?」
「えと、その『荒木さん』……です」
「はぁ~~~~~~」
今度は盛大にため息をつかれる。
「な、なんですか……?」
「一体何処に苗字で呼び合うカップルがいるのよ!」
「あーえっとそれは……」
それくらい言われなくてもわかってる。わかってるけど……。
「そっちの方が慣れてるから……ねぇ、河上さん?」
「は、はい……それに呼び捨てにしたり……とか失礼だと思ってその……」
「あーもう! 苗字で呼び合うの禁止! 名前で呼びなさい」
確かに先輩の言っていることはもっともだ。もっともだが……正直恥かしい。
かといってこのまま逃げれそうにないし、自分自身呼んでみたいというのもある。
ここは1つ挑戦してみるか。
そう心に決め、河上さんを真っ直ぐ見つめる。
「あ、荒木……さん?」
俺の顔を不安そうに見つめてくるがその顔は何処か期待染みて見えた。
「り、梨乃…………」
「っ!?」
言った瞬間梨乃の顔がトマトのように真っ赤に染まる。
そこまでとは言わないが俺の顔も相当赤いだろう。
実際さっきからすごく体が熱い。
「……えと、その……か、和真………………さん…………」
「!?」
や、やばい。すごくいい……最後がちょっとあれだったけどそれでも破壊力は十分だ。
これが、これが普通だというのか……?
「なんでそうなるの!」
言われた本人はそれで満足したというのに少し後ろで見ていた先輩がなぜか突っかかってきた。
「だ、だって……こんなの……恥かし、すぎて……っ……」
……よっぽど恥ずかしいのだろう。その目には微かに涙が滲んでいた。
「しようがないわね~。ちょっと耳貸しなさい」
先輩が一言、二言言った後、梨乃が小声で呟きながら頷く。
「あの! えと、その、あの……えぇっと……か、和、和真……くん…………っ」
「っ!?」
「ご、ごめんなさい! こ、こんな呼び方嫌……ですよね……わ、私どうしても呼び捨てが出来……なくて……それでその……」
「良い……」
「え……?」
「凄く、良い……」
くん付けなんて慣れていると思ったが全然違う……凄く……良い……。
「本当……ですか……?」
「あぁ、そう呼んで欲しい。梨乃は嫌……?」
「い、嫌じゃない、です……。か、和真くん……」
互いに顔を赤らめながら見つめ合う。
「「………………」」
「あーもしも~し。私がいる事忘れてないかしら!」
「なんですか、先輩。用が無ければ向こう行っててくださいよ。今良いところなんですから」
まったく、なんで邪魔するかな……。
「ねぇ、和真。もう一度寝させてあげようか?」
先輩が不気味な笑顔をみせる。
「すみません!それだけは勘弁してください! じよ、冗談に決まってるじゃないですか。はは~」
目が本気だったよ……先輩相手に冗談は言うもんじゃないな……。
「はぁ~そういう事にしておいてあげるわ。2人とも私に感謝しなさいよね」
「そう……ですね。先輩のあの映画の件がなかったら気がつくのはもっと遅かったと思います」
「そうでしょ、そうでしょ、というわけでなんか奢りなさい!」
「別にそれ位良いですけど……何を食べるんですか?」
「和真のバイト先の料ーー」
「それは勘弁してください!」
冗談じゃない! そんなの学生じゃ厳しいってレベルじゃない……。
「何よぉ~」
「そんな高い所無理に決まってるじゃないですか! どうせなら女の子らしくクレープとかパフェにしたらどうですか?」
「ふふ、言ったわね……」
そう聞いた先輩が待ってましたと言わんばかりの不気味な笑顔を向ける。
い、嫌な予感しかしない……一体何を言われるのやら……。
「ふ、ふ、ふ……。所で梨乃ちゃんはパフェは好き?」
「はい♪」
その笑顔はとても生き生きしていた。
「という事で和真、よろしくね。あ、後飲み物もね」
「分かりましたよ……」
「うんうん。じゃあ早速行くわよ」
「ちょ、ちょっと待ってください! 今から行くんですか?」
「当たり前よ。何? これから用事でもあるの?」
「用事って……体育際の資料探しをしようと思ってるんですけど……」
「そんなのいつでも出来るじゃない」
「そりゃあま……いやいや! 後1週間ぐらいしかないですよ!」
「1週間もあるじゃない。そんなに時間かけるつもりなの?」
「それは……」
確かに言われてみればその通りだ。資料探しなんて2、3日あれば終わるだろう。ただ、しなかった分だけ2人っきりで居られる時間が少なくなるわけで。
「というわけで、行きましょ」
「え、ちょっ!?」
先輩に腕を強引に引っ張られる。
「あ……」
「先輩ホント離してください!」
「和真が早くしないからでしょ」
「わ、分かりましたから! 腕組みのフリして関節固めるのはやめてください!」
「はぁ~相変わらず根性なしね~」
「いや、根性あるとかないとかじゃなくてーー」
「あ、あの!」
そんなやりとりをしていると突然梨乃が大声をあげ俺の左腕にまるで『渡さない』とでも言わんばかりにくっついてきた。
「梨乃……?」
「うぅ~……」
目を瞑ったまま動かない。
これってもしかして……。
「あらら、嫉妬されちゃったみたいね」
そんな梨乃をみて先輩がさっと関節技を解き、離れる。
「梨乃……」
「……あっ!? えと、えと、い、これはその、あの……ご、ごめんなさい!」
自分でしたことがよっぽど恥ずかしかったのか慌てて手を離す。
「あーえっとその、なんだ……」
「うぅ~……」
こういう時なんて言えばいいんだ……。
「ごめん……なさい……」
何を言おうか悩んでいると突然梨乃が謝りだした。
「え? なんで謝るんだ?」
「だって私……一ノ瀬先輩が和真くんと腕組みしているのを見てそれで和真くんが取られるのが嫌で……一ノ瀬先輩は絶対そんな事しないのに、なのに私ムキになって…………こんな彼女嫌、ですよね……すぐに嫉妬して……うぅ……」
「はぁ~……なんだそんな事か……そんなの気にしなくても良いのに。それにそんな事で嫌いになるわけないだろ? むしろ嬉しいくらいだよ。そこまで俺の事思ってくれてるなんて」
「っ、本当……ですか……?」
「当たり前だろ? 俺のか、彼女なんだから……」
言ってて自分が恥ずかしくなっちまった……。
「和真くん…………」
「梨乃…………」
互いに見つめ合いーー
「あーはいはい、昭和のノリは良いから」
「……っ!」
先輩に茶化されすぐに離れられる。
「あぅ……あぅあぅ……」
「はぁ~目の前で惚気られる気持ちにもなりなさいよ。まったく……」
「す、すみません……」
「まぁ、いいわ。さ、行くわよ」
そう言って生徒会室から出て行く先輩。
「ふう~。俺たちも行こっか」
「はい」
多少のトラブル? はあったものの、俺たちは先輩の後を追う為生徒会室を後にした。
…………ところで鍵は掛けなくてよかったのだろうか……?
後で先輩に聞いた所なぜ閉めなかったのか怒られた。なぜ…………。
そう思わずにはいられなかった。
「え……? ここ……ですか……?」
「そうよ、あれ? 和真ここにくるの初めて?」
「い、いえ、どちらかと言うと常連ですけど……パフェ……食べるんですよね……?」
「そうよ。何かおかしな所でもある?」
「いえ、特には……」
「ならいいじゃない」
うーん、確かにここのパフェも美味しいけど街に専門店があったはずだからてっきりそっちに行くかと思ったんだがどうやら違ったらしい。先輩が好意で安い所にしてくれたんだろうか? いやーー
「和真くん? 入らないんですか?」
「ん? あぁ、ごめん。ちょっと考え事してた」
「また考え事ですか?」
「いや、そんな対したことじゃないよ。なんでここなのかなぁ~と思っただけ。街に専門店があるからてっきりそっちに行くと思ってたんだ」
「そうなんですか……。専門店……」
梨乃がちょっと期待染みた眼差しで見上げてくる。
「あーえっと……今度食べに行く?」
「はい♪ 行ってみたいです」
「じゃあ今度の休みにでも行こうか」
「はい♪」
さり気にデートの約束しちゃったな。今から楽しみだ。
「こらー2人とも早く入ってきなさい!」
「あ、すみません。今行きます」
店に入り先輩の姿を探すが見当たらない。
「あれ?」
「一ノ瀬先輩何処に行ったんでしょう……?」
「あら? 和真君? もしかしなくても『彼女』さんをお探し?」
「……は? 何言ってるんですか? 葵さん」
「え? さっき入ってきた赤髪の女の子彼女さんじゃないの?」
「違います。ただの学校の先輩ですよ」
「あ、そうなんだ。その子が自分から『彼女です』て言ったからてっきり……」
「そういう人なんですよ……」
「ふ~ん、そっか。まぁ知ってるんだけどね。ちょっと前までうちの常連さんだったし」
「そういう冗談はやめてくださいよ……ホントに」
「あはは、ごめんごめん。和真くんからかうの楽しくてつい……」
「本人の前でそんな事言わないでください! いや、陰で言われるのも嫌ですけど!」
「うんうん、そのツッコミがいいのよ。ごちそうさま。席はいつもの場所だから。じゃあね」
葵さんは言うだけ言って別の客の所へ行ってしまった。
「はぁ~……」
「え、えと……お疲れ様です」
「うん、ありがと」
葵さんに言われたとおりいつもの席に向かった。
「遅かったわね。店前でイチャついてでもいたの?」
「先輩が葵さんに変な嘘吹き込むからですよ!」
「えー、あんなのただの冗談じゃない」
「知ってる人が聞いたら冗談ってわかりますけどそれ以外は本気にしちゃうんでほんとやめてくださいよ。いや、まぁ葵さんは面白がって乗ってきましたけど……」
「まぁまぁ、細かいことは気にしないの」
「あ、あの!」
「ん? なぁに? 梨乃ちゃん」
「えと、その……あの……。か、和真くんは……その、わ、わたしの……彼氏……さんなんですから……い、いくら一ノ瀬先輩でも渡しませんっ」
「梨乃……」
そんな風に言ってもらえると目頭が熱くなるな……。
「……ふふ」
不意に先輩がいつもの馬鹿にするような、何かを企んでいるような笑いとはまったく違う嬉しそうな笑いを漏らす。
「先輩……?」
「ごめんなさいね。ちょっと2人を試したかったのよ」
「試す……ですか?」
「そう、和真が同情かなんかで言ったんじゃないかな~と思って。まぁ和真の事だから大丈夫だとは思ってたけど……大丈夫そうね」
「当たり前ですよ! 同情なんかで告白するわけないじゃないですか!」
「……心配だったのよ。本気なのか……」
「先輩……?」
先輩のその目はいつになく真剣だった。
「ねぇ、和真。あなた美冬の事どう思ってる?」
「……? なんで急にそんな事……」
「いいから答えなさい」
短いながらもその言葉にはやけに重みがあった。
先輩のこの質問にはきっと何か意味がある。普段冗談を言っている分その真剣さがヒシヒシと伝わってきた。
「そうですね……。小学生の頃……いや、たぶん物心つく前からからずっと一緒でこういう事言ったら馬鹿にされるかもしれませんが幼馴染って言うより家族、ていう感じですね。いつも頼りになるお姉さんとか思えば実は結構甘えてくるところもあって妹みたいに思う事もあって……とても大切なもう1人の家族だと思ってます。……えぇっと、このことは本人に絶対言わないでくださいよ。恥ずかしすぎますから」
「そう……和真が美冬の事をどう思っているかはわかったわ。とりあえずその事は本人に話しておくとして……」
「ちょっと待ってください! 今さっき言わないでくださいって言ったばっかりじゃないですか! ほんと、恥ずかしいんでやめてください!」
「うるさいわね……そんなの絶対話s……冗談に決まってるでしょ」
「嘘だ! 今絶対話すって言おうとしてましたよね!?」
「あーもうそんなのどうでもいいから先、進めるわよ」
「ぜんぜんどうでもよくないんですが……。はぁ~……もう好きにしてください……。それで、なんで急にそんな事聞いたんですか?」
「んーそうねぇ~。美冬は2人のこと知ってるの?」
「はい」
「なるほどね……。それでなんて言ってた?」
「えっと『おめでとう』て言われましたけど……」
「ふむふむ。そのとき何か変わったことなかった? なんかカラ元気だったーとか調子悪そうだったーとか」
「そうですね……。ちょっと元気がない感じはしました。後『おめでとう』て言われたとき笑顔だったんですけど少し寂しそうに見えた気がします」
「……なるほど。和真はなんで元気がなかったかわかる?」
「いえ、聞いても教えてくれなかったので」
「むーこれはちょっと思ったより重症なのかな……」
「重症……?」
「あー、なんでもないわよ。こっちの話、こっちの話。ね、梨乃ちゃん?」
「ふぇ!? そ、そんないきなり振られても……えと、その……そう、ですね……」
「えぇっと……?」
2人は何か知っている様子だがぜんぜんわからない。
「後で教えてあげるはよ」
「は、はぁ……でもなんで後なんですか?」
「そんなの注文した物が来たからに決まってるじゃない」
「え?」
「マウンテンお待たせ~」
「は……?」
ちょうど来た葵さんが持ってきた物が眼前にそびえ立つ。比喩とかそんなものじゃない、本当に巨大なパフェが目の前にある。
高さは……1m近くだろうか? とにかくでかい…………。
「す、すごいです…………」
梨乃はというと空いた口が塞がらないという様子だがその目は宝物を見つけた子供の様な目をしていた。
「ふふ、和真は何か感想はあるかしら?」
「い、いえ……凄すぎて何を言えばいいか……」
こんなデカイの初めて見た……というかこの喫茶店にこんなデザートがあるなんて知らなかった。
「いやー久々に作ったから疲れたわ」
「え!? もしかして私が来てない間誰も食べてないの!? 信じられない! こんなに美味しいのに……」
そう言ってさっそく天辺にあるアイスクリームを丸ごと1本小皿に乗せ、食べる。
なんでパフェでアイスクリーム丸々1個が……しかもそれ1個ならまだいいがぱっと見ただけでも8個はある。
「いや~ほんとこのパフェ頼んでくれるの一ノ瀬さんだけよ~。お姉さん嬉しい!」
「あーえっと……」
「あらら、ごめんなさいね。はしゃいじゃって」
「いえ……それよりこれ……」
「ぅん? 葵喫茶イチの大きさを誇るマウンテンパフェよ。そういえば和真くん達は見たことなかったっけ」
「初めてですよ……こんなものがあるなんて知りませんでした……」
「そうねぇ~うちの隠れメニューの一つだからねぇ~知らなくても同然、か」
「隠れメニューの一つって……まだあるんですか?」
「えぇ、うちの旦那のがねぇ~。これがまた美味しいんだ~。なんなら注文してみる?」
「い、いえ……遠慮しておきます」
「そう……残念……」
本当に残念そうにするから困る……。
「あ、あの一ノ瀬先輩!」
「んぅ? ふぉあにぃ?」
「先輩……せめて口の中片付けてくださいよ……」
「うるはあいわねぇ~……んぐっ……。で、何かしら?」
「えと、わ、わたしも食べていいですか!?」
「り、梨乃……?」
あーえっとなんか目がすごい血走ってるんだけど……。そんなに甘いものが好きなのか、それともパフェが好きなのか、その辺りは今度聞いておこう。
「いいわよいいわよ~。どうせ和真の奢りだし」
そうだった……そういえばそうだったな。
……ところで値段はどれくらいになるんだろうか? なんか聞くのがすごく怖い……。
「ところで先輩、このパフェの値段は……」
全然想像出来ないが3000円ぐらいだろうか? 普通のが400円ぐらいだと仮定して大きさ的には4~5倍、それにアイスクリームなどが乗っている事を考えるとそれくらいだろう。
正直ギリギリと言った所か。
「ん……えーと確か私の記憶が正しければ……4700円ぐらいだったかしら?」
「っい!?」
よんせんななひゃくっ!? 払えない額じゃない、額じゃないけど……!生活費が……。
「か、和真くん? か、顔色悪いですけど大丈夫……ですか?」
「あ、あぁ……大丈夫だ……」
親の金は使いたくないし……後で葵さんにツケにしてもらおう……。
と、ちょうどそこへ葵さんがやってきた。
「はい、紅茶3人分ね。一ノ瀬さんに言われたとおりちょっと高級な紅茶を入れてあげたからゆっくり味わってね」
「……葵さん」
「ん? なぁに?」
「ちなみにこの紅茶おいくらですか……?」
「1杯500円よ。ちなみにアールグレイね」
「あ、あははは…………」
3杯で1500円……合計6200円……。
無理だ……一層先輩に出して……いや、元々奢るのを了承したのは俺なわけだし……。
「あの……和真くんもしかしてお金……」
「そ、そんな事ないぞ!? 生活費削ればなんとか出せるからな!?」
「和真、それ自爆よ」
はっ!? しまったつい言ってしまった……。
「え、えと、その……は、半分くらいなら出せ……ます」
おずおずと財布に手をもっていく梨乃。
「いや、いいよ。大丈夫。それに俺が奢るって言ったんだから」
「で、でも……」
「葵さん、ちょっとお願いがあるんですが……」
「ん? 何? もしかして今払えないから来月まで待って欲しいって話?」
「ぅ……そのとおりです……」
「まぁ、和真くんは常連さんだし、来月からうちで働いてもらうしいいわよ」
「ほ、ほんとですか!?」
「えぇ、なんとなくそんな気はしてたから」
さ、さすが葵さん……お見通しというわけか。
「まぁとにかくお金のことは気にしないでパフェを食べちゃいなさい。解けるわよ?」
「そうですね。ありがとうございます」
「いえいえ~。それじゃあごゆっくり~」
「さて、それじゃあ俺も食べ――」
いざ食べようとスプーンを片手にパフェに向かうと1mはあったものが半分以下にまで減っていた。
「もう半分!?」
いくらなんでも早すぎるだろ!?
「んー? だって和真全然食べないから、ね~梨乃ちゃん?」
「え、えと、すみません……美味しくてつい……」
「あはは……」
それから3人で1mパフェを会話を交えてつつき、あれだけの量をたった40分程で食した。
女の子って皆こうなのか……?
その帰り道――
「すみません……家まで送ってもらっちゃって……」
「別に気にしなくていいよ。それに彼女を家まで送るのなんて当たり前だろ? いくら明るいって言ってもなんかあったらいやだし」
「あ、ありがとう……ございます」
急に梨乃の顔が赤くなる。……俺、もしかして相当恥ずかしいことを口走ったんじゃ……。
「お、おう……それじゃあその、また明日……」
「は、はい……」
お互いに手を振りながら別れる。本当はキスとかしてみたいが……正直こんな人目の付く所でするのは恥ずかしいのといきなりやって嫌われるのが怖いってのがあるから今日はやめておく。
……これってヘタレ、なのかなぁ……。
そんな事を考えながら俺は美冬の家に向かった。
というわけでついに記念すべき10話になります。
一応内容的には折り返し(予定)です。
さて、ここからは本当にもう色々な事が連続して起きていきます。
和真と梨乃のイチャラブとかイチャラブとかイチャr(ry
それだけじゃなくちょっとしたシリアス展開があったり……お楽しみに!