第08話 資料探しと休日 中編 修正版
河上さんとのデート? 当日、和真は彼女からある話を聞く。その話とは……
ガクモノ!! 初の(序章→1話含まず)最終投稿日2日以内での投稿、第8話中編がここに始まる。
---- 4月11日 ----
今日は待ちに待った河上さんとのえと、なんだ、その……これはデートなのか? いやいや、でも2人きりってだけでただの友達同士の……うーん。
そんなどうでも言い事で悩み始めてはや一時間、ようやく待ち合わせ1時間前だ。つまり俺は2時間以上早くここに来たわけで……。季節は言うまでもなく春、暖かな陽気が俺を包み込む………………といいのだが今日に限って少し風が強く薄着だと少し肌寒い。
「うーん。いくらなんでも早く来すぎたな。というか待ち合わせ場所ここで合ってるよな……?」
若干不安になる。こんな時に携帯があれば便利なのだが生憎と河上さんは携帯電話を持っていない。まぁ持っていたとしても本人をびっくりさせるだけだろうが、それはそれで反応が面白そうだ。
何だが最近そんな事を考えることが増えてきた気がする。この間だって資料探しをすると言っておきながら資料とは別にアルバムが出てきて二人で下校時間まで悪いとは思いつつもそれを見ていた。そして分かれた後はずっとそのことが頭から離れずに…………。
「はぁ~……。俺どうしちゃったんだろうな。ほんとに……」
何だか頭の中にモヤモヤしたものが出てきたり消えたりするのだが、最終的に何も分からずそのモヤモヤが晴れずに終わる。そのせいか最近では周りからよく心配する声を掛けられる。美冬には『最近なんだか上の空だけど、どうかしたの?』と言われ智子には『和真くん最近元気ないよね〜もしかして失恋!?』と相手がいないのにそんな事を言われ、健吾に至っては『お前最近変だぞ? 魂でも抜けたのか?』と言われる始末だ。そういう事はどちらかというと洋介が言うかと思ったが洋介にはいまいちよくわからないこと。言われた『ふふ、そこまで来たならもうすぐだろうね。まぁ、頑張りなよ。といっても悠著にしていると後で後悔することになるよ』。
正直未だに洋介が言った意味がわからない。いつもの冗談だと思ったのだがその時だけはなぜか冗談を言っているように見えなかった。
そんな最近の自分を振り返っていると道路の向こう側によく見知った小柄な女の子、河上さんが見えた。
……なんか心拍数上がってきた気がする。よく考えると美冬以外の女の子と2人でこうして待ち合わせをして遊ぶのは初めてな気がするな。俺が覚えてないだけかもしれないが。
もう一度向こう側を見ると河上さんが小さく手を振っていた。
「っ!?」
や、やばい……か、可愛すぎる……!
今日は肌寒いはずなのに汗が出てくる。
お、お、落ち着け俺! 大丈夫だ、問題ない! 何が大丈夫なのかわからないが大丈夫だ!
と、とにかく冷静に、いつも通りにするんだ!
というか俺なんでこんなに焦ってるんだろう……。
「荒木さん、難しい顔してどうかしましたか?」
そう言って下から俺の顔を覗き込む。
「う、うわぁ!!」
「きゃあ!?」
俺を驚かせた河上さんが俺の声で悲鳴をあげる。
「び、びっくりした……」
「あぅ〜すみません。まさかそんなに驚くなんて思わなくて……」
「あ、いや、悪い。ちょっと考え事しててな」
「そうなんですか、よかった……」
ホッと胸を撫で下ろす河上さん。
「ん? よかったって何が?」
「えと、荒木さん私が向こうにいる時気付いてましたよね?」
「あぁ、手を振ってるのが見えたな」
「はい……でもその後すぐに顔を逸らしたので私なにかしちゃったのかと…………あ、もしかしてこの服どこかおかしい……ですか?」
「あ、ご、ごめん! それは別に河上さんのせいじゃないんだ! それとその服だけどその、うん、すごく可愛いよ」
「っ、ほ、ホント……ですか?」
「あ、あぁ、本当だ。すごい似合ってる」
なんだが急に恥かしくなり言葉が途切れ途切れになってしまった。
「あ、りがとう……ございます。えへへ……」
さっきまで暗い顔をしていたのが嬉しそうに目を細める。
…………やっぱり可愛いよな。
自分の顔が少しずつ赤くなっていくのを感じる。
「あ、あぁ」
「ど、どうしたんですか? 顔がすごく赤くなってますよ?」
「い、いや、なんでもない。なんでもないんだ…………そ、それよりも上映までまだ時間あるからそこの喫茶店に入らないか?」
この空気から逃れたい一心で近くにある俺がよくここに来たときに利用する喫茶店を指差す。
「はい♪」
河上さんは楽しそうにそう、答えた。
「は~い。カップルさん2名様ごあんな~い」
店に入り、人数を伝えるといきなり女性店員がそんな事を言い出した。
「ふぇええええ!? あ、あのあのあの、わ、私たちか、カップルな、なななんかじゃ……!」
河上さん動揺しすぎ……。まぁ俺も内心動揺しているが言ってる人が言ってる人だからな、もう慣れた。
「あの、ミッk――」
「うふふ、何かしら和真くん? この美秋さんに言いたいことでもあるのかな?」
見た感じはものすごく笑顔、でも目が笑っていない。
しかもこのプレッシャー……。視線で虫を殺すとはまさにこれの事だろう。
「い、いえ! なんでもないです。美秋さん」
こええ……。久しぶりでつい『ミッキーさん』と言いそうになってしまった……。
美秋だからミッキー子供の頃はそう呼んでいたが今では極端に毛嫌う、いやまぁっこの年でミッキーなんて呼ばれるのは嫌だよな……。
まぁそれは置いといて、この人の名前は森下美秋、苗字で分かると思うが美冬のお姉さんだ。
ちなみに名前を見て美春と美夏がいると思った人に一応言っておくがいない。
ただ単に父親が秋、母親が冬が好きなだけらしい。
まぁ美冬が言った事だから本当のことだろう。
「そう、ならいいわ。それにしてもあの子以外の女の子と一緒にここにくるなんて珍しいわね」
「そうですか? 智子とか共一緒に来てるじゃないですか」
「ううん。そういう意味じゃなくて女の子と2人でって意味ね」
「あーそういう事ですか。そう言われればそうですね」
「何、もうあの子に飽きちゃったの? まったく……我が妹ながら情けない! だからあれほど押しなさいって言ったのに……」
どこか遠い目をする美秋さん。
「あの、美秋さん。意味がわからないんですけど……」
「あらら、なるほどね。ふ~ん、へぇ~」
美秋さんが俺を舐めるような目つきで見てくる。
「あの、なにか……?」
「ううん。なんでもない、独り言よ。気にしないで」
「は、はぁ……」
よくわからないがそういう事にしておこう。
「さてと、それであなたは?」
そう言って河上さんに目を向ける。
「あ、えと、その……あ、荒木さんと同じクラスの友達……です」
「そうなの!? ご、ごめんなさい。てっきり後輩かと……」
「い、いえ……。いつもの事ですから」
「そっか、じゃあ美冬がよく言ってた転校生ってあなたの事ね」
「ふぇ……? あの、美冬さんの事知っているんですか?」
「知っているも何も美冬は私の妹よ」
「ふぇええええええええええ!? え? え?」
はは、驚いてる驚いてる。まぁ普通そういう反応だよな。
「あ……ご、ごめんなさい! わ、私失礼なことを……」
「ふふ、気にしないでもう慣れてるから。それよりあなたころころ表情が変わって面白いわね」
「あ、あぅ……」
恥かしそうに顔を俯ける河上さん。
「はは……。でもまぁそんな気にしなくてもいいと思うよ。実際美冬と美秋さん全然……ってわけじゃないけど似てないし」
「そうなのよ。あの子って私より頭は良いのに肝心なときに行動を起こせない子だからね。私とは正反対よ」
「美秋さん、それ、さり気に自分をディスってるのに気付いてますか?」
「何よ! 頭悪くて悪かったわね!」
「なんか逆切れされた!? というか俺そんな事一言も言ってませんよね!?」
「今までの会話内容を考えればわかるわよ!」
「そりゃあ……まぁ、そうなんですけど」
「あ~もうっ! なんか腹立つ! 2名様早く16番席に行ってください!」
そう言って俺におしぼりを手渡してくる。
「いや案内してくださいよ!」
「案内しなくてもわかるでしょ! いつもの席よ!」
そう叫んで美秋さんは厨房に入っていった。
「え、えと…………」
河上さんが目をパチクリさせながら固まっている。
「あーその、とりあえず座ろうか」
「は、はい……」
よりにもよって美秋さんが居るときにこの店に入るとは…………イジられること確定だよ……。
いや、まぁ開口一番でイジられたけどさ……。
映画を見る前から精神的に疲れるのであった。
「はぁ~……よりにもよって美秋さんが居る日だったなんて……」
「あはは……、すごい明るい人ですよね」
「まぁ明るいのはわかるけどさ、もうちょっと限度ってものがあるわけで……それにしてもごめんね。店に入った瞬間俺の彼女扱いされて……迷惑だよな」
「い、いえ! そんな、迷惑だなんて……むしろそのゴニョゴニョゴニョ…………」
「? ごめん、最後の方よく聞こえなかったんだけど……」
「ふぇえ!? い、いえ! な、なななんでもないです! い、今のは忘れてください!」
「あ、うん。別に聞こえなかったから忘れるもないんだけど……まぁいいか」
最近の河上さん隠し事多いよな。まぁ人に言えない事なんていくらでもあるだろう。
隠し事と言えば前に美冬と一緒に商店街を案内した時に撮った写真大事そうに抱えてたな、涙目で。
やっぱり気になるな……不謹慎かもしれないが聞いてみるか。
「ちょっと聞きたい事があるんだけどいいかな?」
「なんですか?」
「あー話したくなければいいんだけど……その、この間商店街に行った時にプリクラ撮ったよね?」
「はい♪ 今持ってますけど見ますか?」
「あ、いや、そういうわけじゃないんだ。その……河上さんプリクラ撮った時に少し涙目になってたよね。それでどうしたのかな〜とおも……」
話を進めるに連れ俯いていく河上さんの姿を見てそこで止める。
「ご、ごめん! 変なこと聞いちゃって……い、今の話はなしで!」
俺の馬鹿!自分の好奇心に腹が立つ。折角2人で遊ぶっていうのにいきなり暗い雰囲気にしてどうする!
「………………荒木さん」
「な、なんだ?」
「その、ちゃんと聞いてくれますか……?」
「あ、あぁ……。でも本当に嫌なら話さなくても……」
「いえ、荒木さんに聞いて欲しいんです」
普段の河上さんにはない何処までも真剣な姿がそこにあった。
「……わかった俺が話しにくいことを振っちゃったんだ最後まで真剣に聞くよ」
「ありがとうございます……」
「いやいや、そんなお礼を言われる程の事じゃないだろ……というか無理やり聞いたのは俺だし」
「あはは……、そうですね。荒木さんは優しいですけどその辺りはもうちょっと気を使ったほうがいいと思いますよ?」
「うっ……善処します……」
「はい、そうしてください」
くっ……まさか河上さんにこう説教? されるとは……不思議と嫌な気分にはならないけど。
「それで、その私の話なんですけど、荒木さんは前の学校での私の事をどれだけ知ってますか?」
「どれだけといわれても……そうだな。洋介に前の学校では『クラスの妹』て言われてて結構人気があったーとしか……うん、それだけかな」
「そうですか……浅井さんから聞いたのはそれだけですか?」
「あぁ、それだけだ」
「えと、ですね……実はそれ間違いなんです」
「えっ! そうなの!?」
「あんの野郎……また偽情報教えやがって……! 覚悟しろよ……!」
「あわわわ。ま、待ってください! ち、違います! そういう意味じゃないんです! 浅井さんが言った事は本当です。本当なんですけど、その後に続きがあるんです」
「続き? それって……」
「はい、コーヒーとオレンジジュースお待ち~」
俺の言葉を遮るように注文したものがテーブルに置かれる。
どんなタイミングだよ……狙ってきたんじゃないか?
「何、和真くん。その『なんていうタイミングで来てくれたんだこのおばさん!』な目は…………誰がおばさんですって!」
「いや言ってませんよね!? 被害妄想もいいところですよ!」
「言ってないだけで思ってたんでしょ!」
「それはまぁ……ちょっとは……でもそこまでひどくないですよ! それより美秋さん。なぜオレンジジュースを俺の前に……?」
「え、てっきり和真くんがオレンジジュースを飲むかと……」
「俺、そんなに子供っぽいですか……」
「私から見ればまだまだ子供ね。というか高校生なんて大人ぶりたいだけの子供よ」
「そういうもんですかね?」
「そういうもんよ」
そんな話をしていると俺が座っている前の席から悲しげな声が聞こえて来る。
「うぅ……オレンジジュースなんて子供っぽいですよね…………」
「あ、いや! ち、違う! その、男がオレンジジュースなんて頼むのが子供っぽいっていうだけであってだな……」
「あら、和真くん必死~。ダメよ、彼女を泣かしたら」
「誰のせいですか! はい、自分のせいですね! すみませんでした! 後最初に言いましたが彼女じゃないですよ!」
はぁ……はぁ……この人との会話は疲れる……。
「まぁ、後は頑張りなさい」
「え、ちょっとま――」
俺の声を最後まで聞かずに行ってしまった。
「あーえと、その……全然、子供っぽくないからさ……。なんていうのかな……男ってそういうのが恥かしいんだよ。だからどうしてもそう思っちゃうんだ」
「ホント……ですか?」
「あぁ、こんなことで嘘ついてもしょうがないし。だから気にしないで」
「はい」
「ふぅ~……ちょっと話の腰が折れちゃったな、それでそのさっきの続きなんだけど……」
「あ、はい。浅井さんの言葉には続きがあるという所からですね」
「うん」
「ちょっと待ってくださいね。すぅ~、はぁ~」
河上さんが大きく深呼吸する。そんなに話しにくいことなのか……。
中々喋り出さない河上さんをひたすら待ち続ける。こういう事は焦ったらダメだ、相手に合わせないとな。
「…………1年前、ある高校にとても背の小さな女の子が入学しました」
大体1分ぐらい経ったころだろうか? まるで他人事、物語のように話し出す河上さん。俺はその言葉に耳を全力で傾ける。
「その女の子はとても恥かしがり屋で人と話すのが苦手でした。そんな女の子に同じクラスのある女の子が声を掛けました」
『初めまして。私の名前は千堂恵美、あなたは?』
『えと、あの……その……』
「女の子は戸惑ってしまいました。それだけその女の子は恥かしがり屋だったんです。中学の時ならそのまま何も喋らない女の子から離れて行くだけだったのですが、その声を掛けた千堂さんは違いました」
『大丈夫だよ、そんなに緊張しないで。自分のペースで良いから。私、あなたとお話してみたいの』
「千堂さんは女の子に優しくそう言いました。そんな千堂さんを見て、女の子は勇気を振り絞りました」
『えと、その、あの……か、河上……梨乃……です』
『河上梨乃ちゃん……か。うん、梨乃ちゃん、可愛い名前だね。もちろん本人もね』
「そう言って千堂さんは笑いました。ただ自己紹介するだけで恥かしい女の子が突然可愛いなんて言われてまともに出来るわけなく……」
『そ、そそそんな……か、可愛い……なんて……そ、そんな事……ない、ですよ……』
『え~そうかなぁ~私はすっごい可愛いと思うけどなぁ~。もしかして自信ない?』
『そんな……自信なんて……あるわけない……です。その、背も低いし……その、む、胸……だって……』
「そう答えた女の子は恥かしさの余りすぐそこから逃げ出したい気分でした。でも、不思議とそこから逃げちゃ駄目だと思いました」
『あはは、そんな気にすると事ないと思うよ? そんな胸なんて気にしないでいいのに。というか梨乃ちゃんが巨乳だったら私身投げしてるよ~。なんでこんな小さい子が私より大きいんだー! って、ようはバランスだよ。梨乃ちゃんはそれがちょうどいいんだよ』
『そう……なんですか?』
『そうだよ、じゃあちょっと試してみようか』
『え……?』
『ねぇ~男子たち~直感でいいからこの子の事どう思う?』
「そう言って千堂さんはその女の子を指差しました。当然、周りの男の子視線はその子に集中します。そんな視線で女の子は恥かしくなり顔を真っ赤にして俯いてしまいました」
『ちょ、ちょっと、そんな俯いてどうするの?』
『む、無理だよ千堂さん……。わ、私恥かしいよ…………』
『わわ、そんな大丈夫だから、ね? そんな泣きそうな顔しない』
『で、でも……』
『可愛いんじゃないか?』
「そんな中、1人の男の子がそう答えました。その男の子は後にクラス一のイケメンと言われるぐらいの子でした。そんな男の子の言葉を後に一斉に周りの男の子が答えました」
『まぁ、可愛いと思うよ。俺のタイプじゃないけどさ』
『だな、でもどっちかっていうと妹みたいな可愛さだよな』
『お、奇遇だな。俺もそう思う』
『はいはい、シスコン乙』
『あぁ!? 誰がシスコンだって!』
『ね? これでわかったでしょ? 梨乃ちゃんは自分に自信がなさ過ぎるんだよ。もっと自信を持って、折角可愛いんだからさ損だよ?』
『で、でも……』
「それでも女の子は納得しませんでした。なぜなら今までこんなことを一度も経験した事がなかったからです。そこで千堂さんはその女の子にある提案をしました」
『うん、わかった。じゃあさ自分を変えようよ!』
『自分を……変える……?』
『そうだよ。今の自分に自信がないんだよね?』
『う、うん……』
『だったら自信を持てるようにしちゃえばいいんだよ』
『そ、そんな事急に言われても……ずっとこんな性格だし……』
『だ~か~らぁ~! 私が手伝ってあげる!』
『え……? で、でもそんな……それじゃ千堂さんが迷惑じゃ……そ、それにこのまま変わらないかもしれないし……』
『私の事はいいの。私が勝手にやるだけだから。問題は梨乃ちゃん自身だよ』
『私……自身?』
『そう、梨乃ちゃんは変わりたい? 私みたいにじゃなくていい。まぁ、それはそれで嬉しいけど。もし、少しでも変わりたいって気持ちがあるなら全力で手伝うよ』
『か、変わりたい……けど……。どうして千堂さんは私なんかのためにそこまでしてくれる……の?』
『なんか、じゃないよ。私は一目見て梨乃ちゃんが気に入ったの。もし私が男の子だったら間違いなく告白してるね。後さ、『私なんか』なんて言わないで、私、自分の友達が傷つくの大嫌いなんだ』
『友……達?』
『うん、友達。私たちもう友達でしょ? あ、もしかして迷惑だった……? もし、そうだったらごめんね。私自分で言うのなんだけどすごくお節介だからさ、梨乃ちゃんみたいな子放っておけないんだ。……そうだよね、こんなの図々しいよね……いきなり声掛けて……』
「千堂さんは自分が言った事が迷惑だったんじゃないかと思い、そう言いました。でも、女の子の答えは違いました」
『そんなの事ないよ!』
『え……』
『千堂さん……私……すごく、嬉しい……今まで、こんな風に私の事……見て、くれる人……い、いなく……て、その、わ、私の……こと、友達って……言って……くれて……す、すごく、うれ……嬉……しい……』
「女の子はずっと我慢してきましたがとうとう耐え切れずに泣き出してしまいました」
『わわ、な、泣かないでよ。そんな、えと……どうしよう……』
『ひっぐ……っう……ずぅ……うぅ……』
「こうして女の子にはとても大切な友達が出来ました。それから女の子は少しずつ、人と話せるようになり、その時から少しずつ、クラスの男の子、女の子から妹のように可愛がられるようになりました。恥かしがり屋なのは変わりませんでしたが、それでも女の子は少しずつですが変わっていきました」
「…………これが『クラスの妹』の所以です」
そう語り終え、少しオレンジジュースを口に含む河上さん。
意外だった、そんなことがあったなんて……。確かに河上さんはすごい恥かしがり屋だと思う、でもその裏にはとんでもない物語があった。千堂さん、一度会ってみたいな。
「その、千堂さんとは……今でも仲いいのか?」
「はい、今でも仲良しですよ」
「そっか、俺も今度会ってみたいな……その、河上さんを変えた人にさ」
「そうですね。機会があればご紹介しますね。でも気をつけたほうがいいと思いますよ?」
「え? なんで?」
「えと、その……たぶん『梨乃ちゃんは誰にも渡さないわ! 私が合格点を上げれる男じゃなきゃね!』て言います……というか言われたことあります……」
「あはは……そ、そうか……ってそれって河上さん告白されたことあるって事?」
「え、えと……はい……前の学校で……ですけど……」
「そ、それで……?」
「お断りしました」
「え? なんで?」
「えと、その、単純にタイプじゃなかったというか……」
「そっか……」
ふぅ……よかった……。俺、やっぱり河上さんの事好き、なんだろうな……。すっごいいまさらな気がするんだけど今なら分かる気がする。
「あの、どうしてそんな事聞くんですか?」
「い、いや、なんでもないぞ! た、ただの好奇心!」
「? よくわからないんですけど……荒木さんがそういうなら……」
うん、話題を変えよう。今の話を聞く限り……ってあれ? 俺が聞いたのってこの間の涙の理由だよな? さっきの話を聞く限り涙の理由がないぞ……?
「あのさ、河上さん」
「なんですか?」
「その、俺が聞いたのって涙の理由だよね? さっきの話全然関係ないような……」
「いえ、関係ありますよ。むしろここからは本題ですから……聞いてくれますか?」
「あぁ、もちろん。というか聞きたい」
「はい」
「一番の友達も出来、周りからはちやほやされましたがその女の子にとってはそれがすごく嬉しかったそうです。そうしているうちに少しずつ女の子は明るくなっていきました。でも…………そんな幸せは長くは続きませんでした」
「え……?」
俺は思わず聞き返してしまう。それだけ意外だった。
「その女の子が色んな人達に可愛がられ、1部の男の子告白されるようになったりしてしばらくするとクラスの女の子からその女の子へのいじめが始ったんです」
「いじめ……なんで……」
信じられない、昔の河上さんを知らないからなんともいえないが今の河上さんを見ているとそんなのまったく想像できない。
「引っ込み思案で恥かしがり屋の女の子に嫉妬する子が出てきたんです。最初はモノがなくなる、そんな程度物だったのですが時が経つに連れてどんどんエスカレートしていきました。もちろんそんな事を千堂さんが放っておく訳なく女の子をいじめている子に何度もやめるように言い聞かせました。でも…………それで収まるどころかどんどん酷くなっていきました。最初はその女の子だけだったのですが千堂さんまでいじめられるようになりました」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! いじめがあるのはわかったけどその河か……じゃなくて、女の子は周りから可愛がられていたんだろ? そいつらは助けてくれなかったのか?」
「はい、最初はやめようと言ってくれる人はいました。でも、その女の子を庇ったら自分が標的にされる、だから皆離れていったんです。それにそのいじめいる子はその学校の理事長の娘さんなんです。女の子を庇うたびに皆脅されました」
「そんな…………」
こんなことが現実に……。
「そ、その女の子は皆を恨まなかったのか……?」
「恨める訳……ないじゃないですか……。私をずっと支えてくれた人達なんです……それに自分の身が危ないから自分を守る、それが普通の事なんです……」
「それは……そうだけど、でも!」
「それでも最後まで私を守り続けていた子がいました。それが千堂さんです」
「あ…………」
そうだ……。千堂さんはずっと河上さんを守ってたんだ……自分の事を置いといて友達を助けたい一心で……。
「女の子は辛かったと思います。毎日毎日学校に言っていじめれて、それでも女の子は学校へ通い続けました。その女の子は休むと千堂さんがターゲットになるから。女の子は毎日毎日泣き続けました」
『ごめんね……ごめんね……恵美ちゃん……わた、私のせいで……え、恵美ちゃんまでいじめられて……本当にごめんね…………』
『なに言ってるのよ。梨乃ちゃんは何にも悪くないよ。悪いのはいじめてるあいつらなんだから、梨乃ちゃんは悪くないって! ほら、いつまでも泣いてないで笑ってよ。梨乃ちゃんは笑っているほうが可愛いんだから』
『……っぐ……ひぐっ……えぐっ……ごめん……ごめんね……』
『あーもう! ほら、これで顔拭きな』
『うん……ズゥ……ひぐっ……』
『うん、いい顔になった。あとはこれで笑えれたら元通りだね』
『ひぐっ……う、うん……』
『大丈夫だよ、私が絶対に守るから、ね?』
『うん……あの……ね、私誓うよ』
『誓う? 何を?』
『その……恵美ちゃんは私がいじめられたら助けてくれるんだよね?』
『当たり前でしょ。友達なんだから』
『だから……ね。私も助ける……』
『え……?』
『恵美ちゃんがもし、いじめられてたら私が助ける。その……大事な友達……だから……』
『梨乃ちゃん……うん、わかった。じゃあお互い頑張ろうね』
「そうやって2人は助け合いながらずっといじめに耐え続けました」
「………………」
なにも、言えない。ずっと友達と笑い会ってきた俺には想像もできない世界を体験してきた子が今、俺の目の前に居る。
「そんな2人に奇跡が起きました。1年生の2学期の終わりに女の子と千堂さんをいじめていたグループのリーダーが引っ越すことになったのです。それ以来、少しずつですがいじめはなくなっていきました」
「そうなのか……よかった……」
その事実を知り、安堵する。ほんとに、よかった……。
「でも、そんな2人にまた、辛い現実が待っていました」
「え……?」
そんな……やっと乗り切ったのに……まだ辛いことがあるなんて……。
「学校生活では何もなく、2人共に前の時とは比べ物にならないくらい楽しい学校生活を送っていました。友達もたくさん増えました。だけど…………」
「1年生の3学期に女の子の1番の友達、千堂さんが交通事故で亡くなりました。即死、だったそうです」
「え…………」
そん……な、そんな事って……や、やっと……普通に出来るように……なのに……。
「女の子は何日も泣き続けました。当然ですよね。一番の親友が、一緒に頑張ってきた親友が自分の元からいなくなったんですから。……そして何日も泣き続けたある日、千堂さんのご両親が女の子に会いに来ました。そして女の子にあるものを手渡しました。それは千堂さんが毎日つけていた髪飾りでした。実はその髪飾りにはある約束があったんです」
「約束?」
「はい」
『ねぇ、梨乃ちゃんはさ、髪飾りとかって付けないの?』
『え? 髪飾り? う~ん、どうだろう……私に似合うのかな?』
『絶対似合うと思うの! ちょっと私のこれ、付けてみない?』
『え……? でも、いいの? それ、大切なものなんでしょ……?』
『うん、大切なものだからこそ、梨乃ちゃんに付けてみてもらいたいの』
『うん……わかった。…………どう、かな……? へ、変じゃない?』
『うわぁ~……』
『え!? そ、その反応やっぱり変なの!? うぅ~……』
『可愛い……』
『え……?』
『か、可愛すぎるよぉ~~~』
『え? きゃっ!? ま、待って恵美ちゃん、急に抱きつかないで……く、苦しい……』
『あ、ごめんごめん。余りに可愛いからつい……』
『も、もう……それで、その……似合ってるかな……?』
『うんうん、すっごく似合ってるよ! そうだ! もうすぐ梨乃ちゃんの誕生日だよね? 誕生日にそれあげるよ!』
『え、えぇええええええええええ!? ちょ、ちょっと待って! これってお母さんの形見なんでしょ!? そんなの人にあげちゃったら駄目だよ!』
『いいよ、別に、似合う人が付けてくれたほうがいいし。それにお母さんなら納得してくれると思うから』
『で、でも……』
『別に片方ぐらいいいよ。そうすれば2人でお揃いだから、ね?』
『……わかったよ……じゃあ誕生日、楽しみにしてるね♪』
『うん! 任しといて!』
『あーっとさ、それともう一つ、意味があって、私たちってたぶん大人になってもずぅーーーっと友達だよね?』
『え? そんなの当たり前だよ。でもなんで?』
『でもさ、いくら友達でもいつまでも一緒に居られるわけじゃない、高校卒業してたとえ大学へ行ったとしても社会に出れば離れ離れになっちゃう。だからさ、いつでも私の事思い出せるように。いつでも私が梨乃ちゃんの事を思い出せるように。そんな願い事を込めたいなって。離れ離れでもずっとそばに居るから、そうすれば辛くても頑張って行けると思うからだから――』
『うん、そうだね。……私、河上梨乃は誓います。どんな辛いことがあっても絶対に乗り切っていきます』
『梨乃ちゃん……そうだね。私、千堂恵美も誓います! どんな辛いことがあっても絶対に乗り切って、一生梨乃ちゃんの親友でいます!』
「そのヘアピンを見て女の子はその約束を思い出しました」
そう言ってヘアピンをはずし、懐かしむように優しく撫でる河上さん。
そのヘアピンがそんなに大事な物だったのか……。
「そしてある日、その女の子は親の都合で引っ越すことになってしまいました。女の子としてはずっとその場所に残りたかったのですが、通っている学校には寮がなく、1人暮らしをしようにも女の子は元々体があまり丈夫ではなかったのでそこに留まる事が出来ませんでした。自分が今まで暮らしてきた町を見ながら女の子はヘアピンを髪につけ、こう誓いました」
『恵美ちゃん……離れ離れになっちゃうけど恵美ちゃんずっと私の事見てくれてるよね? そばに居てくれるよね? 少し遠いから毎日は会いにこれないけどお盆とか、命日には絶対に会いに行くから……その、少しの間だけ待ってて…………しばらくの間だけど、バイバイ』
「そして引っ越してきた学校、元々恥かしがり屋だったのはマシにはなっていましたが直ってなくて、いつもオロオロしたり、すぐに俯いたり、緊張すると声が出なくなったりしましたが、友達も出来、その引っ越して来た町で初めて友達に貰ったものが嬉しくて嬉しくて泣きそうになってしまいました。その時に女の子は大親友の恵美ちゃんの事を思い出してしまったから…………」
「ふぅ~…………」
河上さんが息を付く。これで話が終わりなんだろう。
「そんな女の子の話でした。けして私の事じゃないですよ?」
「プッ……」
俺は真剣にそう言う河上さんをみてつい、笑ってしまった。
「あ、荒木さん! わ、笑うなんて失礼ですよ!」
「ご、ごめん。つ、つい……」
「もう…………」
「うん、ありがとう。話してくれて……その、なんて言えばいいか……」
「いえ、何も言わなくていいです。ただ、この事は他の誰にも言わないでください。 その、迷惑掛けたくないので……」
「うん、わかった。約束する。絶対に誰にも言わない」
「ありがとうございます」
「っと、そろそろ映画の時間だな」
「映画……って、あっ!?」
「え? もしかして河上さん映画の事忘れてた?」
「は、はい……つい、話に夢中になってしまって……。あの話聞かせるの初めてで……その、すみません……」
「はは、どう? 言ってみてなんか楽になったりした?」
「はい、なんだかとってもすっきりしました。でも……映画の事思い出してすごく気持ちが沈んでます……うぅ~……」
「あはは、そういえばホラー映画苦手なんだっけ。別に無理しなくて良いのに」
「い、いえ! 折角一ノ瀬先輩がくれたチャンスですから!」
「チャンス?」
「ふぇ? あっ!? い、いえ! な、ななななんでもないです! そ、それより早く行かないと遅れちゃますよ!」
そう言って先に行ってしまう河上さん。
はは、やっぱり河上さんって面白いな。…………俺、千堂さんの代わりになれるのかな? いや、代わりじゃない……もっと近くで支えてあげたい。
洋介、お前が言った意味なんとなく判った気がする。俺、河上さんの事好きだ、友達としてじゃなくて1人の女の子として……そばに居て欲しい、そばで支えてあげたい。それにはまず千堂さんに追いつかないとな。
「よしっ!」
俺は気合を入れて支払いをし、外へ出て行った。
………………出て行くときに俺の余りのテンションに店員さんが白い目で見てきたのは気にしないでおこう。
さすがに期間が短いと書くことがない、ということでまずは……
祝・10万文字越え!
ということで今回の投稿でついに10万文字を超えました! 何気に初だったりします。結構書いてるんですね……。
このペースで行くと梨乃編が終わるころには20万行きそうです。色々と大変ですが、まだまだ続くんでよかったら読んで行ってください。
さて、次は最近あった面白い? 話をしたいと思います。
この間中学の友達飲みに行ったのですが(女の子2人、男3人)そこで彼女(彼氏)にするならどんなタイプ(性格)がいいか? という話になったのですが、そこで自分が『ちょっと天然な子がいいかな』というと5人全員に『ないわ~』と言われてしまいました……orz
と、ちょっと面白い? 話でした! 皆さんは天然な子は好きですか?
今日はこの辺で、でわまた~。
8月18日追記
初期設定のときの文章が使われてたのを現在の文書に差し替えました。
明らかに過去話がおかしく混乱させてしまったと思います。
本当に申し訳ございませんでした。