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第08話 資料探しと休日 前編

ある日和真に先輩から2枚の映画のチケットが手渡される。

そしてその週の日曜日、河上梨乃と一緒に見に行くことになるのだが……。


ガクモノ8話3部構成の前編が今、幕を開ける。

---- 4月6日 ----



ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ。

俺の人生の幸せで1、2を争う睡眠が突如鳴り響いた音で奪われる。


「………………んぅ? 朝か…………」

そのままの体勢で手を伸ばし目覚まし時計を探すが中々見つからない。


「はぁ……」

しょうがないのでベットから起き上がり時計のベルを止めた。


「ふぁああああ〜〜……今日もいい天気だ」

いつも通りに伸びをし、制服に着替え、リビングに向かう。


「美冬、おはよー」

いつも通りに挨拶をするが返事がない。


「ん? 今日は来てないのか?」

2年になってから一緒に朝食を取るのが当たり前になっていたから少し変な感じだな……たった6日程だけどさ。


「とりあえず電話してみるか……」

心配性と言われればそれまでだが昨日の様子もちょっとおかしかったし。

そう理由付けて電話帳を開く。


ガチャッ。


通話ボタンを押そうとした時、鍵が開くような音が聞こえた。

その後すぐに聞き慣れた足音がこっちに向かってくる。


「あ……」

足音を聞いていると不意にリビングの扉が開き美冬と目が合う。


「え、えと、おはようカズくん」

少しぎこちない笑顔で挨拶してくる。


「あ、あぁおはよう」

それに釣られた訳じゃないが俺も少しぎこちないなってしまった。

少しの間無言になるが耐えきれなくなり口を開く。


「朝起きてリビングに行ったら美冬がいなくて風邪でもひいたかと心配したぞ」

言った後に気付いたがこのセリフかなり恥ずかしい物じゃねーか……。


「心配してくれてたんだ……ありがとう」

少し恥ずかしそうな笑顔で答える美冬。


「あ、当たり前だろ。幼なじみなんだからさ……」

ものすごく恥ずかしくなり少し言い方が素っ気なくなってしまったがそんな事を気にすることもなく笑顔でいる美冬。


「うん♪」

「はぁ〜……っとそうだ。こんな所で立ってないで座ろうぜ。時間が時間だからトーストとなんか適当なもの作るよ」

「うん、ありがと」

その言葉を背に台所に向かう。あんまり時間がないからなトーストとハムエッグでいいかな……。

作るものを手早く決めさくっと作る。




「おまたせ」

机に朝食と紅茶を置く。今日は紅茶の気分だ……というか自分が少し落ち着きたいだけなんだが。


「ありがとう」

2人して黙々と食べ出す。

き、気まずい…………。何か話さないと…………。

そう思っていると美冬が口を開く。


「ねぇ、カズくん」

「ん? なんだ?」

「最近梨乃ちゃんと仲いいよね」

「ん〜最近って言っても出会ったばっかりだからな。まぁでも仲は良い……かな?」

「そっか、カズくんは……その……梨乃ちゃんの事どう思ってるの?」

「どうって言われても……そうだなぁ〜……一緒にいると楽しい友達……というより妹って感じかな」

「そっか……」

「なんでそんな事聞くんだ?」

「ただちょっと気になっただけだよ。それより今の梨乃ちゃんが聞いたら怒るよ?」

「ぅ……。この事は内密にお願いします!」

「え〜どうしようかな〜?」

美冬がイタズラっぽく笑う。


「何をお望みですか……?」

「クレープ」

「………………わかりました」


そうやってまた俺の貴重な生活費が削られるのであった。




その日の昼休み――


昼食を食べ終わった後に河上さんに声を掛けられ人気のないところに案内された。

一体何なんだ? こんな人気のないところに急につれてきて……はっ!? まさか愛の告白!? い。いやちょっと待て! お、落ち着け。そんなの自意識過剰もいいところだろ! と、とにかく深呼吸だ!


「ひっ、ひっ、ふぅ~。ひっ、ひっ、ふぅ~」

ってちがぁーう!


「??? 荒木さん何してるんですか?」

俺がパニック寸前だというのに本人はいつもと変わらない様子。


「い、いや、ちょっと緊張して……」

「どうして緊張するんですか?」

「え!? だ、だってこんな人気のない所に連れて来られて……その、愛の告白なんて……ってあっ!」

…………いっちまった……終わった……俺の人生…………。


「ふ、ふぇえええええええええ!?」

1テンポ遅れて河上さんの悲鳴が廊下に響く。

その悲鳴が図星で驚いたのか『いきなり何を言っているんですか!』の驚きなのかが気になるところだ。まぁ間違いなく後者だろうが。


「な、な、なな、何言ってるんですか! ち、ちがっ、違いますよ!?」

顔をりんごのように真っ赤にする河上さん。ほら、当たってた。


「だ、だよね! うん、そうだよね。変な事言ってごめん」

うん、そうだよね……ちょっと自重しようか、俺。……ちょっと寂しい気がするのはなぜだろうか。


「そ、そうですよ…………。――――なら――選びますよ……」

「うん? ごめん河上さん、ちょっと最後の方聞き取れなかった」

「い、いえ! な、なんでもないですよ!?」

目を瞑りながら恥かしそうに両腕を上下に振る河上さん。

ちょっと可愛いと思ってみたり。


「そっか」

「はい、そうですよ…………」

「えと、それで告白じゃないってのはわかったけど何かな?」

告白という言葉に少し顔を赤らめたがそこはまぁ俺のイタズラ心というか自分なりの照れ隠しというか……。


「あ、はい。実はですね――」





「なるほどね……」

河上さんの話はこうだった。

これから行われる体育祭の競技についての事でこれから競技を考える上での参考に昔の体育祭でどのような事が行われたのか調べたいとの事。


「ごめん。そういう所まで気が回らなくて…………」

本来なら俺が真っ先に提案すべきことだろう。それを河上さんに言わせてしまうなんて……駄目だな俺…………。


「い、いえそんな事ないですよ! 荒木さんは私によくしてくれています。それに転校生の私だから気付きやすかったというのもありますし……」

たぶん河上さんなりに慰めてくれているんだろう。


「あぁ、ありがとう」

「えと、それでその、どうでしょうか……?」

「う~ん。そうだなぁ~」

提案的には悪くない。むしろかなりいいぐらいだ。ただ一つだけ問題がある。その体育祭の資料というのが生徒会室にあるという点だ。たぶん……いや絶対に先輩に『あれ? 2人一緒なの? ラブラブねぇ〜』と言って邪魔をしてくるだろう。こういう所がなければ良い人なのに……。


「ダメ……ですか?」

河上さんが目を潤ませて上目遣いをしてくる。

本人はその破壊力に気付いてないだろうがそんな目をされたら『いいよ』としかいえないじゃないか!


「いや、うん。いいと思うよ。えと、そうだな……今日の放課後って空いてるかな? 空いているなら一緒にいこっか」

「はい♪」

河上さんが笑顔で答えてくれた。




放課後――




「神聖な生徒会室を2人の愛の巣にするなんてどういつもりなの!」

生徒会室に行き先輩に事情を説明したら予想以上の言葉が返ってきた。


「先輩、俺はそんな事一言も言ってませんよ……」

「なによ、つまらないわね。もっと怒ると思ったのに」

先輩が不満そうに口を尖らせる。


「怒るを通り越して呆れているんですよ……」

「まぁいいわ。それで何しにきたの?」

「いや、さっき説明しましたよね!?」

「そうそう、そんな反応が欲しかったのよ」

先輩が満足そうに頷く。


「さいですか……」

「まぁいいわ。で、資料だったわね」

「はい」

「うーん……でもそんな資料ここにあったかしら……」

「え……?」

確か学生活動記録は全部生徒会室の資料室に保存されてると思ったんだが……。


「うーん、やっぱりないと思うわ。和真が探している野外プレイのエロ本なんて」

「誰もそんなの探しているなんて言ってませんよね!?」

だ、ダメだこの人……早く何とかしないと…………。


「え? 違うの? 私はてっきり体育祭が終わった後人気のない所に誰かを呼び出して襲うための資料を探していると思ったのに……」

「なんでそこで残念そうな顔するんですか!?」

「あぅ……あぅ……~」

隣を見ると河上さんの顔がすごく赤くなっていた。

まぁそういう事に一切の免疫なさそうだし……。


「河上さんも大変ね。せいぜい外の人気のない所に呼び出されても行ったらダメよ? 行ったら襲われるわよ?」

「襲いませんよ!」

「え…………?」

「なんでそんな『信じられない』って顔をするんですか!」

そう言って俺は先輩に一歩近づく。


「キャーコワイーオカサレルー」

「そういう誤解を招くような事いうのはやめてください! か、河上さんもこの先輩に何か言ってあげて」

「あぅ……あぅ……」

「河上さん?」

「ひゃぅ!?」

さっきからずっと顔を赤くして固まってる河上さんの肩に触れると驚いたように俺から数歩下がられた。

…………泣いてもいいかな?


「キャー! 河上さん逃げてー、外に連れて行かれて襲われるわよー!」

「まだそのネタ引っ張るんですか!」

「あぅ……あぅ……や、野外……ふ、ふた、2人っきり……お、おお襲われ…………」

これ以上にないぐらいに顔を赤くする河上さん


「か、河上さん大丈夫……?」

さすがにそこまで顔を赤くされると嫌でも心配になる。まぁ嫌じゃないけど。


「ふ、ふにゃぁ………………」

「か、河上さん!?」

俺は咄嗟に足元から崩れ落ちる体を抱える。


「あらら、これは予想以上ね。まさか気絶するなんて」

「関心してる場合じゃないですよ! と、とにかく保健室に!」

「はぁ~、待ちなさい和真」

河上さんを背負おうと思ったところを止められる。


「なんですか!」

「保健室はいいからとりあえずそこのソファーに寝かせてあげなさい」

「で、でも……!」

ただ恥かしくて気を失っただけだと思うがもしかしたら別の可能性もあるわけで……。


「和真あなたねぇ……保健室に連れて行くのはいいけど先生になんて説明するつもり?」

「そ、そりゃあ…………うっ……そうですね……ここの方がいいです……」

保健室に連れてったらどうして倒れたか聞かれるわけで……。それでなんて答える? 『エロトークをしていたら気絶しちゃいました』て言うのか? 言った瞬間保健室のビッチ先生こと岡崎映奈(おかざきえいな)先生に間違いなく下校時刻寸前までエロトークで足止めされるだろう。いや、下手したら一晩中……そんなの死んでもごめんだ。


「うん、わかったならいいわ。とりあえず河上さんをお姫様抱っこしてソファーに寝かせてあげなさい」

「わかりました」

俺は先輩の言われたとおりに河上さんをお姫様抱っこして――


「って、なんでお姫様抱っこなんですか!」

「その方が運びやすいでしょ?」

「そりゃあまぁ、そうですけど……俺の目には先輩の顔に別の意図が見受けられるんですが気のせいですか?」

「気のせいじゃ……気のせいよ」

「今絶対『気のせいじゃない』って言おうとしましたよね!?」

「男だったらそんな細かい事を一々気にしないの。後早く寝かせてあげなさいよ」

「…………わかってますよ」

河上さんを近くのソファーに寝かせる。


「先輩、後でちゃんと謝ってくださいよ」

「はいはい、わかってるわよ」

人が真剣に言っているのに軽くあしらわれる。

まったくこの人は……!


「先輩! こっちは真剣に……!」

「あーもう、わかっているわよ。ごめんなさい」

そう言って頭を下げる先輩。


「わ、わかってもらえればいいんです。先輩、頭上げてください。それに俺に謝れても困ります」

先輩の頭を下げる姿なんて初めて見た……。


「そうね。目が覚めたら本人に謝るわ」

「……そうしてください」

「「………………」」

それからすぐ無言になる。

うーん気まずい……。最近こういう事が多い気がするな。


「ちょっと濡れタオル持ってくるわ」

「え? あ、はい」

俺の返事を聞いて足早に生徒会室から出ていく先輩。それを見送り河上さんに目をやる。


「すーすー……」

気持ちよさそうに眠る河上さんかなり可愛いな……。ついその寝顔を見入ってしまう。


「すーすー……」

なんかこんな安心しきった顔を見るとイタズラしたくなるわけで…………ほっぺ柔らかそうだな……少しぐらいなら……。

俺は恐る恐る河上さんのほっぺをつつく。 


ぷにっ。


「んぅ……」

や、柔らけぇえええ!

ヤバい……女の子のほっぺってこんなに柔らかいのか……。


「も、もう一回……!」


ぷにっ。


「ん……んぅ〜……やぁ……」

やばい、楽しい……。

触った時に少し嫌がる姿がまた……。クセになりそうだ。


「あ、後一回だけ……!」

もう一度恐る恐るほっぺに触れようとすると――


「で、和真は寝ている女の子に何してるのかしら?」

「うわぁああああああああああああああ!?」

突然の声に尻餅をつく。


「せ、先輩、いつの間に!?」

「いつの間にもなにも今帰ってきたところよ。それよりも面白そうなことやっていたわねぇ~」

先輩が獲物を見つけた獣のような目で俺を見てくる。


「え、えとですね。これはその~…………」

やばい、やばい、やばい! よりにもよって先輩に見られるなんて! ど、どうすれば…………。

背中が少しずつ汗で冷えていく感じがする。


「まぁそうやりたく気持ちはわからなくはないけど少しは遠慮しなさいよ。それで嫌われても知らないわよ。まぁこの子だったら嫌われるってのはないと思うけどね。だからといって調子に乗らないように」

「は、はい……。以後気をつけます……」

先輩に正論で説教されてしまった……。

なんか悔しい……まぁ悪いのは全部俺なんだけど。


「よし、わかればよろしい。っとはい濡れタオル、頭に乗せてあげなさい」

「あ、はい」

先輩に言われたとおりに濡れタオルを頭に乗せる。


「んぅ…………すーすー」

…………可愛いなコンチキショー! すっげー頭撫でたくなる……誰かさんが居るせいで撫でれないけど。このまま屈んでいるとイタズラしたくなるから仕方なく(?) 立ち上がる。

ちょうど立ち上がったところで先輩が喋り出した。


「後は目が覚めるまで待つだけね。それで和真に一つ聞きたいことがあるんだけど」

先輩がいつにもまして真剣な表情で見てくる。


「聞きたいこと? なんですか?」

「和真は河上さんの事どう思ってるの?」

「へ?」

「だから河上さんの事をどう思ってるのか聞いてるのよ」

「い、いえ言いたい事はわかるんですが……実はそれ今日の朝美冬にも言われたんですよ」

まさか1日に二度同じ事を聞かれることになるとは。


「そう……どう答えたの?」

「えと『妹みたいなものかな』て答えました」

若干朝言った事とは違うと思うがニュアンスは合っている筈だ。


「本当にそう思ってるの? 本当は好きなんじゃないの?」

「え!? そ、そうですね…………そう言われると……いや、正直な所わからないです。確かに最初の頃は今言ったような感じだったんですが最近はなんか違う気はしてます。ただそれが好きかどうかって言われると……あ、友達としては好きです。これは間違いないです」

「そっか。そりゃああの子が心配になるわけだ」

先輩が1人納得したように頷く。


「あの子? 先輩、一体何の話ですか?」

「ん? なんでもないわ気にしないで」

「は、はぁ……」

気になるところだけどここは大人しく頷いておこう。何されるかわからないし


「まぁとりあえずこの話はこれでおしまい。河上さんも起きたみたいだしね」

「ん……んぅ~……ふぁ~……」

後ろに振り返ると河上さんが眠たそうに目元を擦りながら欠伸をしていた。


「河上さんおはよう」

「ふぇ……?」

まだ半分寝ぼけてるみたいだ。ちょっと寝ぼけた顔が可愛い……先輩がさっき変な事聞くから河上さんの顔を真っ直ぐみれない……。


「え、えぇっと…………」

河上さんが辺りをキョロキョロ見渡たす。どうやら状況を理解していないらしい。


「河上さん大丈夫? ずっと気絶してたけど」

「気絶……? ………………あっ!?」

ようやく思い出したのか驚いた声をあげる。


「えぇと確か荒木さんと一緒に体育祭の資料を見るために一緒に生徒会室にきてそれでえと……」

今までの状況を口にしながら振り返っていく河上さん。そして少しずつその顔が赤色に染まっていく。


「あぅ……あぅ……」

「か、河上さん落ち着いて! 思い出さなくて良いから!」

このまま放っておいたらまた気絶しそうな勢いだ。


「は、はい……わかりました……」

「にしてもほんと無事でよかった。河上さんが倒れたときはほんとどうしようかと……」

「あぅ……すみません……」

「和真はたかが気絶しただけで大げさよ。まったく……」

先輩が『しょうがないわね~』とでも言いたげに首を振る。


「元凶の先輩がなに言ってるんですか! というか謝るんじゃなかったんですか!」

「あーもうわかってるってば。まったく、和真は強引ね」

「至極当然の事を言っただけですよ!」

「はい、はい。わかったからそう怒らないの。まったく、河上さんも大変ね、こんな怒りっぽい人が友達なんて」

「い、いえ……そんな……荒木さんは優しい……です。私によくしてくださいますし……」

河上さんが恥かしそうに俯きながら答える。


「あらら、なるほどねぇ……。これはもうどうしようもないわね。後は誰かさんが気付くだけって所かしら」

「先輩、さっきから何1人でぶつぶつ呟いているんですか? というか早く謝ったらどうですか?」

「ん? なんでもないわよ。うるさいわね。今謝るわよ。ちょっと待ってなさい」

先輩が不機嫌そうに答える。なんかこれから謝る人の態度じゃないような……。


「河上さん、ごめんなさいね。ちょっと私がはしゃぎすぎたわ。本当にごめんなさい」

先輩が深々と頭を下げる。

どうやらその考えは杞憂だったらしい。

やっぱ先輩って普段はちょっとアレだけど基本礼儀正しいよな……。年下にああやって頭下げるなんてそうそうできるもんじゃないし。


「い、いえ! そんな! 頭上げてください一ノ瀬先輩!」

「……いいの?」

「いいもなにも一ノ瀬先輩は何も悪い事してないじゃないですか」

「でも、私のせいで気絶したわけだし……」

「ほんと、そんな事全然気にしてないです。だから頭上げてください」

「……わかったわ。ありがとうね。許してくれて」

「い、いえ…………」

ふむ、どうやら解決したみたいだな。個人的にはもっと怒りたいが当の本人が許したんだしそんな事は野暮だろう。


「あの、荒木さん」

「な、何?」

ダメだ……(はた)から見る分にはいいけど正面から見つめられると……。俺は思わず目を逸らしてしまう。


「えと、どうして目を逸らすんですか?」

「えーとだな……その、これは……」

言えない……河上さんが可愛いからなんて絶対言えない……いや、今まで何回も言った気がするけど今だけはなぜか言えない……。

自分でも顔が少しずつ赤くなっていくのがわかる。


「荒木さん、どうしたんですか? お顔真っ赤ですよ?」

「いやーほら、ここ暑いからさ。はは……」

はい、嘘です。自分だけが暑いだけです。


「そうですか? ちょうどいいくらいだと思いますけど……」

「そ、そうかな。はは」

「荒木さんさっきから少し変ですよ? 何か隠してないですか?」

鋭い……笑って誤魔化そうと思ったが無理のようだ。

「いや、ホントになんでもないから……」

「荒木さんがそういうなら深くは聞かないですけど……もし悩み事があるなら私に話してください。話を聞く事ぐらいは出来るので……」

「あ、うん。ありがとう。ホントに大丈夫だから」どうやら余計な心配をかけてしまったらしい。


「わかりました」

納得していないみたいだけそれでも笑顔で返してくれる河上さん。


「あー2人共仲良いのは分かったからそろそろ私の事思い出してくれないかしら」

「「す、すみません!!」」

「はぁ〜まぁいいわ。それより二人ともここに来た理由覚えてる?」

「お、覚えてますよ!」

完全に忘れてた……。


「じゃあこれ、はい、資料室の鍵」

「ありがとうございます」

「今日はもう遅いから明日からにしなさい。一応その鍵預けておくから」

「え? 鍵なんて預けていいんですか?」

「よくはないけど、一々職員室よるのも面倒でしょ。だからその鍵預けておくわ。それ私が勝手に作ったスペアキーだし」

「勝手にって……そんな事して大丈夫なんですか?」

「しょうがないじゃない。毎回鍵取りに行くのは嫌だし。一応黙認されてるわよ」

「はぁ……わかりました。じゃあこの鍵預からせてもらいます」

「あーそうそう、一個だけ注意。その鍵絶対に無くさないでね。もしなくしたら……わかってるわよね?」

先輩から殺気が駄々漏れだ……これは絶対になくせないな。まぁ元々無くすつもりなんてないけど。


「わかってますよ」

「よし、じゃあその鍵は預けた! 頑張りなさいよ」

「はい」

「っとそうだ。今度からここに入るときはノックとかせずにそのまま入っていいわよ。他のメンバーには私から言っておくから」

「はい、わかりました。ありがとうございます」

「さぁーてと、二人共今日は帰りなさい」

「わかりました」

「では、失礼しますね」

「あーごめんちょっと待って河上さん。少し話があるから時間貰える?」

生徒会室から出ようとしたところで河上さんが呼び止められる。


「え? はい、いいですけど……」

「ん、ありがとう。あ、和真はいいから。というか早く出て行きなさい!」

「え!? なんで俺怒られてるんですか!?」

「なんとなくよ! ほらほら、これから女の子同士の話をするんだから男は出て行きなさい」

「わかりましたよ……」

多少の理不尽さは感じるが大事な話っぽいし大人しく出て行くか…………。




「――――で、――こと、――なの?」

扉の向こうから断片的に声が聞こえる。その理由は俺が扉の近く……というより張り付いているからで……側から見たら怪しい人だよな……。幸いもうすぐ下校時間という事もあり、ほとんど生徒が通らない、そこだけが安心できるところだ。

なんかすごい気になるんだよな……。


「え、えとその――――ですけど。あのでも――」

む……聞き取りにくい……。どんな話をしているんだろうか? 先輩と河上さんってそんな接点ないと思うんだけど……。


「――なんでしょ? だったら遠慮しない! そんな事じゃ――――に――もらえないわよ」

先輩の声が先程より大きく聞こえる。それでも断片的だが、今はこの生徒会室の扉の防音性が憎い! いや、まぁ会議中の声が漏れたら駄目だろうけどさ。俺はさらに耳に集中する。


「――ね。これ、――から今度の――――に――で行ってきたら?」

「え!? で、でも私――――なんですけど……」

「――てるのよ! それってつまり――――ってことでしょ!」

「えぇええ!? む、無理です! ――――なんてそんな!」

「――なんでしょ? だったら――――ぐらいじゃないと――――わよ?」

2人の声が段々大きくなっていく。聞こえてくる言葉から考えると先輩が河上さんに無理を言っていると言った所か。


「わかりました……。頑張ってみます」

「うんうん。頑張りなさい。応援しているから」

「はい♪」

何を頑張るんだ……? というかやけに声がはっきり聞こえて……ってまずい!

俺は急いで扉から離れようとしたが間に合わず……。


「ふふ、和真。あなたここで何をしてたのかしら?」

「あ、荒木さん!? あ、あのもしかして今の会話聞いてましたか!?」

「あ、いや……それはその……」

「大丈夫よ。一応防音扉だから。まぁそんなにいいものじゃないから多少は漏れてるけどね。その証拠に和真はずっと張り付いていたみたいだし」

先輩が俺を冷たい目で睨みつけてくる。


「い、いや……はは~……」

言い逃れ出来ない……。


「まぁ、様子を見る限り重要なところは聞かれてないみたいね。そこは安心ね」

「は、はい……よかったです……」

「ふふ、さぁ~てさっきからずーーーーと聞き耳立てた和真をどう料理しようかしら? ウズウズするわねぇ」

そう言って肩を回したり骨を鳴らしたりする先輩。こ、こぇえええええ!


「あ、あのこのまま見逃すという案はございませんでしょうか……?」

「ないわね」

はっきりとそう答える先輩。


「あ、あの一ノ瀬先輩! そ、それくらいにしておいてあげてください……その、荒木さんも悪気があったわけじゃないと思うんです! きっと何か理由が……」

河上さん、フォローをしてくれるのは嬉しいけどそのセリフは間違いなく地雷だと思うよ!?


「へぇ~そうねぇ~悪気はなかった、ねぇ~。ふふ、自分の友達がそこまで言うからにはさぞ公明な理由があるのよね?」

「あー、あはは……」

「笑って誤魔化せると思ってるの?」

いえ、まったく持って思ってません! でもこの状況笑うしか出来ないわけで……。


「えーっとその……」

だ、駄目だなんて答えればいい! どう答えても地獄行き特急電車の切符を切られる……!


「い、一ノ瀬先輩! ホントに私気にしてませんから……その、許してあげてください。お願いします」

「…………はぁ……河上さんがそういうならしょうがないわね……まったく、何々は盲目というかなんというか……」

先輩が呆れたように俺たちを交互に見る。

えと、助かった……のか?


「まったく……和真、河上さんに感謝しなさいよ。彼女のおかげであなたは地獄行き切符を切られずに済んだんだから」

「はい……。河上さん、その、ありがとう」

「い、いえ……」

「ふふ、じゃあちょっといきなりだけど2人に渡したいものがあるのよ」

そう言って先輩がポケットから二枚の紙切れを取り出す。何かのチケットだろうか?


「はい、これ。実は役員の子に映画のチケット貰ったんだけどその日に別の用事がはいちゃってね。そのまま使わないでいるのも勿体無いから2人にあげるわ」

チケットを手渡される。そのチケットには映画のタイトルが書かれていた。


「『恐怖の館』か、確かこれベストセラー小説を実写映画化した奴だっけ」

「そうよ」

「でも、いいんですか? こんなの貰っちゃって」

「別にいいわよ。どうせ行かなかったら当日に捨てるし。あ、ちなみにそれの期限今週の日曜日にね。和真バイト大丈夫?」

「あ、はい。この日はバイト入ってませんけど……河上さんは?」

「え!? は、はい大丈夫……です」

「ん? 河上さんなんかちょっと顔色悪くない?」

「い、いえ! そ、そそそんなことないですよ!?」

「そう? ……もしかしてホラー系苦手だったりする?」

「っ!?」

あ、図星か。まぁ河上さんこういうの苦手そうだしな。


「えと、その……はい、苦手……です。でも、その……一度見てみたい……です」

「え? でも苦手なんでしょ? 別に先輩に貰ったものだからって無理しないくてもいいんだよ?」

たぶん河上さんの事だ、人から貰ったから……とかそんな理由だろう。


「い、いえ。そういうわけじゃ……。た、確かに1人だと怖いですけど……その、荒木さんと一緒なら……」

河上さんが恥かしそうに手を前に組んでモジモジする。


「そ、そっか。うん」

やばいちょっと恥かしそうにした仕草が可愛い……。

これは当日楽しみだな……。


「は、はい……」

「うん、二人共大丈夫そうね。私の分まで楽しんできて。あ、そうそう和真、来週感想聞かせてよね」

「はい、わかりました。先輩ありがとうございます」

「んじゃ、私は職員室に鍵を預けてくるから」

そう言って立ち去っていく先輩……て、あれ?


「先輩、鍵ってスペアじゃなかったんですか!」

「あーもう! 和真、あんたほんと鈍いわね!」

そう言って先輩は角を曲がって行った。


「あーえっとその、帰ろうか。にしても最後のどういう意味だ……?」

「あははは……」

そうやって2人家路に着いた。


はい、8話です。

今回は3部構成ということですごく長いです。

思ったより長くかかってしまって申し訳ない。

短いですが今日はこの辺で、でわ。

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