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キバラナ  作者: 地藤零一
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第二話ノ5

「──雷電」

 ぽかんと有馬は呟く。隕石危機以前、世界中が血みどろになって資源の奪い合いをしていた時期、本土防衛戦に地道を上げていた対爆撃機用戦闘機が、なんで。

 キバリーは二機目、三機目のシートをはがしていく。全部種類が違った。二機目はもっと細い胴体をした四枚プロペラの機体。三機目は首なしで胴体だけ。

「すっげー! ヒコーキじゃん! 何ここ秘密の格納庫?」

 お宝お宝と騒いでいる。

 たぶん、ここは戦闘機用の地下防空壕か何かだったのだ。大戦期の機体は終戦がうやむやになってから、その多くが死蔵されたと聞く。何十年も経っているから動くものはごくわずかで、エンジンだけが取り外されて輸送機に転用されたり、外国に輸出されたり。資源不足に陥ってからは朽ちるのを待つだけの化石みたいな機体。

 そういうものの一つなのだ。これは。

「こいつら直せば動くかな? そしたらすげーおもしろくねえ?」

 キバリーも、同じことを考えていた。

 うまくいくのだろうか?

 想像は回転する。その先はどんな道でも一枚の壁にぶち当たる。この基地に来る前から、トールジイに協力を願い出たときから、ずっと靴の裏にこびり付いたガムみたい付きまとってきた誤魔化しようのない事。

 キバリーは、無邪気な顔で喜んでいる。

「出よう。怪しまれるし」

「おおう、りょーかい。あたっ、あいたたた」

「どうした? 怪我してるの?」

「大したことねーよ。これにバウンドして落っこちたから」

 足をひょこひょこしている。

 怪我なんかしないと思っていた。

「あんなに怪力なのに、ぱっと治せないの?」

「怪力じゃないですフツーです。さっきのは鍵のほうを脆くしたんだかんね」

「じゃ、ほら」

 手を引いて、背中を貸した。

 ──キバリーはモノじゃない。



 むっちゃ重たかった。

 歩くだけならまだしも、懸垂運動が入ると人を背負ったままでは物凄い重労働になることが判明した。あんまりカッコつけるのは止めようと後悔する有馬である。

「いやー……なんとも気恥ずかしいですね」

「はずかしぃ!?」

「弟分の世話になるのは気が引けるんでぃ」

「こっちが格下だったのかよ!」

 有馬はハエを払うようにしてキバリーから遠ざかった。

「とにかく退散! 鍵もとに戻してよ! こんなとこ見つかったら大目玉どころじゃ済まない──」

 どん、出口で何かにぶつかる。

 そおっと見上げると、鬼のような顔のジジイがいた。

「くぉ────らぁあああ─────!!」

「ぎゃあ!」

 それがトールジイで、人の悪い笑み全開で腕組みしているのを知ると、噴火するような怒りが沸いた。どいつもこいつもガキばっかりだ!

「ふん。おかしいとは思ってたがな。有馬、どうしてここがわかった」

「わかった……?」

 トールジイは役場に出かけたはずだ。

 こっちこそ聞きたい。ここで何してるんだ?

 じゃらじゃらと胡桃のようにシリンダー錠を弄んでいた。

「原付、整備して走れるようにしたらしいな。ありゃ不可能なはずだ。一体何年前のモノだと思っとる。疲労や腐食は目をつむるとして他の消耗部品はどうした。ジローさんが後生大事に取っていたとも思えんな」

「……どうして?」

 どうしてそう思う。その根拠は──

「なんでそんな事がわかるって顔してるな」

 悪党そのままの笑み。

「なにせありゃあ、俺も直そうとしたことがあるからな」

 そして、とても愉快そうに笑う。



 有馬が恐れていたことは、キバリーの正体を他人に知られることだ。

 しかし、町を出るために、キバリーも自分の力を惜しみなく使おうとしている。何も無いところから何かを生み出す、夢のような力をだ。

 町を盛り上げるために何が必要か。

 お金。電気。周囲の理解。大まかに分けてこの三つ。

 とりわけ三つ目が重要になる。

 子供にできることなんて、たかが知れているのだから。


 キバリーの正体を知って、信用できる大人の存在が、絶対必要不可欠なのだ。

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