恩返し
掲載日:2026/02/21
深夜。
耳元で、ささやく声。
「お目を開けなさるな。私は、あなたに命を助けられた者です。あなたをお慰めいたしたいのです」
そのような覚えはなかったが、断る理由もない。目をつむったまま、沈黙で応えると、ちろりちろりと生暖かかく柔らかい何かが身体を這う感触があった。私は、その快楽に身を委ねた。
毎夜、それは現れた。
友人に会った。
「キスマークか。お盛んだな」
友人は、私の首すじに赤い痣があると指摘した。
事の次第を話すと、それは悪い霊であるという。
確かに、恐ろしい。私は塩を撒き、寝所を清めた。
それ以来、それは現れなくなった。
寝所には、大きなナメクジが干からび死んでいた。
ナメクジには、ヤスリのような口があるという。私は、ナメクジの化け物に、少しずつ削られ食われていたのだ。




