『ふたつの月のしたで』
掲載日:2025/12/17
とりあえず読んでみてください。
夜の椅子に 誰かが凭れてゐる
それは 私の影に似てゐて
静かに 別の夜を 呼吸してゐる
街燈は
濡れた石畳に 沈み
遠ざかる靴音だけが
記憶の底で かすかに 鳴る
(あれは 私のなかの 誰だったのだらう──)
胸の奥に 罅の入った硝子があり
そこに 言葉になるまへの沈黙が 澱んでゐる
浮かびかけては ほどける声たちが
水の皮膚に かすかに触れて 消えてゆく
私は 私に 触れようとして
凍えた手を
もう一方の手が
そっと 拒んでゐるのを 見つめてゐた
夢のなかでは いつも
ふたつの月が 空に浮かび
ひとつは 私の影を 照らし
ひとつは 私の眠りを 静かに 見下ろしてゐる
読んでくださった方々、ありがとうございました。




