第77話 決別
砕け散ったマルキエルの剣の破片が、鋭い光を放ちながら落ちていくのとほぼ同時だった。
縦一文字に切り裂かれたマルキエルの体は、まるで糸が切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。
「......終わったの?」
息を切らし、膝をつきながらシュオが問いかける。
ラムジュは、倒れたマルキエルの体を大剣で突いてみたが、その体はピクリとも動かなかった。
「......ああ、終わったみたいだな。」
その言葉を聞いた瞬間、シュオは全身の力が抜け、その場に仰向けに倒れ込んだ。
「......ははは、やったね、ラムジュ。僕たちがこの世界を救ったんだ。」
「ああ。やったな。だけど、俺たちだけの力じゃない。」
そう言うと、ラムジュは後ろを振り返った。そこには、傷つきながらも自分たちの戦いを最後まで見守っていた仲間たちがいた。
「みんなが力を合わせたからこそ、天使たちを倒すことができた。お前の兄貴やその仲間、エシュやガイアたちがいたからこそ、俺たちは再び立ち上がれたんだ。」
ラムジュはシュオの近くに歩み寄ると、手を差し出した。
「そして相棒。お前がいなかったら、俺はこうして再び立ち上がれなかった。今ほど、お前の体に俺の魂が入っていたことを嬉しいと思ったことはない。」
「ラムジュ......僕こそ、君がいてくれたからここまで成長できたんだ。本当にありがとう。」
その手を掴み、シュオは立ち上がった。
「さて、これからどうするかな。もうお前の体に戻ることもなさそうなんだが。」
「そうだね。ようやく新しい自分の体を手に入れたんだもんね。僕とまったく同じ顔ってのはちょっと気持ち悪いけど。」
そう言うと、シュオは「ハハハ」と笑った。
ラムジュもそれにつられて笑みを浮かべる。
二人の間に流れる穏やかな時間は、戦いの終わりを静かに告げていた。
その時だった。
今までまったく動かなかったマルキエルの体が突然起き上がり、ラムジュに後ろから掴みかかった。
「なに!? こいつまだ生きてやがったのか!」
「......ラムジュ......私は一人では死なんぞ......貴様もろとも、この世界を吹き飛ばしてやる......」
最後の力なのか、マルキエルの体から再び魔力の増幅が感じられる。
「ラムジュ!」
「こいつ......離せ!」
ラムジュが力を込めて引き剥がそうとするも、マルキエルの体は固まったかのように動かない。
「ラムジュを離せよ!」
シュオが後ろから短剣を突き刺すが、マルキエルは何も感じていないのか、怯みもしなかった。
「こいつまさか......使役の魔法を自分に使ったのか!?」
詠唱により術者の指示する通りの行動のみをする第三世界にしかない魔法の一つを、マルキエルは最後の力で自身に唱えていたのだ。
指示した行動は魔力の上昇。
「......ラムジュよ......お前たちが言った通りだ......私は自分と肩を並べて歩くことができる仲間が欲しかった......だからこそ、この世界で様々な仲間を作ったお前が羨ましい......」
「うるせえ! そんなことよりこの手を離せ!」
ラムジュは必死に抵抗してみるも、術にかかったマルキエルの腕はまったく離れない。
その間にも、マルキエルの魔力はどんどん増幅していく。
再び地面が揺れ始め、校舎の崩壊が始まった。
周りにいた全員が、あまりの揺れに立っていられず、地面に手をついている。
「ラムジュ......私にとって友と呼べる存在はお前だけなのだ......私はお前と共に歩んでいきたかった......」
「知るか! お前と俺は敵だ! 死んでも一緒に歩くわけないだろ!」
崩壊が始まり出していることに焦るラムジュ。
その時、彼の目に入ったのは、天使たちがこの世界へとやってきたゲートだった。
「くっそ......やっぱそれしかないのか......!」
必死にマルキエルを剥がそうとしているシュオに、ラムジュが叫んだ。
「シュオ! もういいから離れろ!」
「でもこのままじゃ世界が終わっちゃう! こいつをなんとかしないと!」
「俺がなんとかするから離れてろ! お前まで巻き込みたくない!」
その言葉に、シュオはハッとする。
「ラムジュ......何をする気!?」
「こいつが離れないなら、こいつごと別の世界に行く! そこで爆発させる!」
それを聞いて、シュオはゲートのことを思い出す。
「まさか......第三世界で爆発させるってこと!? でもそれじゃ、ラムジュ、君まで死んでしまう!」
必死に叫ぶシュオに、ラムジュは落ち着いた声で話しかけた。
「シュオ。元々は俺がこの世界に来たからこそ起きたことだ。この世界を巻き込むわけにはいかない。俺は、この世界を......ここでできたたくさんの仲間を守りたいんだ。」
「ラムジュ......」
ラムジュの覚悟を聞き、シュオの目から涙が溢れてくる。
「君は......君は僕の一番の親友だ! どんな時も僕を応援してくれていた、一番の親友だ! 今まで本当にありがとう!」
シュオの頭の中に、これまで共に過ごした記憶が鮮明に蘇る。
辛い時も悲しい時も、ずっと一緒だった最高の親友が、今自分の前から去ろうとしている。
これ以上彼を引き留めることは、自分はしてはいけないとシュオは悟った。
「シュオ......今までありがとうな。お前とはいつまでも最高の親友だ。元気で生きるんだぞ。」
「......分かったよ......」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしているシュオを見て、本当にこの世界に来てよかったとラムジュは感じた。
そして、この世界は絶対に守り抜くと改めて誓った。
離れようとしないマルキエルを逆に抱え、ラムジュはゲートへと歩き出す。その歩みは、決意に満ちていた。
「な、何をする気だラムジュ......」
「うるせえ。お前が一人で死にたくないなら付き合ってやる。ただし、この世界じゃなく、俺たちの世界でだ」
「ば、バカな……やめるんだ、ラムジュ!第三世界を崩壊させる気か!?」
「ああ。お前たち天使を丸ごと吹き飛ばしてやるよ。」
魔力の上昇が止まらないマルキエルを抱え、ラムジュはゲートの前までたどり着いた。
「じゃあな、相棒......」
その一言を残すと、ラムジュはゲートへと飛び込んだ。
一瞬の静寂の後、ゲートは静かに消え去った。
「ラムジュ......ありがとう……」
ゲートがあった場所を、シュオは涙で滲んだ瞳で見つめ、そう呟いた。
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