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〜Doragoon Life〜 最強種族の王子、転生して学園生活を謳歌する  作者: かみやまあおい
第3部

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第69話 エシュを探せ

マルキエルによる魂の封印から奇跡的に解放され、シュオ・セーレンが再びこの世界にその存在を取り戻してから、数日が経過した。街は変わらず活気に満ち、人々はそれぞれの日常を送っている。

しかし、シュオとマリアにとって、まだやるべき大切なことが残されていた。

それは、かつてシュオの護衛であり、今はセーレン家を下野して再び冒険者としての道を歩んでいる女戦士、エシュ・ホランドを探し出すことだった。


シュオが無事であるという何よりの吉報を彼女に伝え、そして、もう一度セーレン家に戻ってきてもらうために、二人は街中の酒場を巡っていた。

ベロニアの冒険者ギルドで得た情報によれば、エシュはつい最近、大きな依頼を終えてこの街に戻ってきたばかりだという。

ならば、きっとどこかの酒場で、戦いの疲れを癒しているに違いない。二人は、そう判断し、活気に満ちた街中を駆け回っていた。


ベロニア王国の首都には、大小様々な酒場が、星の数ほどとは言わないまでも、数えきれないほど存在している。

その中でも、特に腕利きの冒険者たちが好んで集まる場所は、おおよそ三か所に絞られていた。このどこかに、きっとエシュはいるはずだ。二人は、そう信じていた。


一軒目に訪れたのは、屈強な男たちが集う、荒々しい雰囲気が特徴の酒場だった。

そこは、日中の土木作業を終えたであろう、筋骨隆々の労働者たちが大勢で酒を飲み交わし、大声で騒いでおり、およそエシュのような、どちらかと言えば静寂を好む者が長居するような場所ではないように思われた。

案の定、店の中を隅々まで見渡しても、彼女の特徴的なピンク色の髪は見当たらない。


二軒目の酒場は、先程とは打って変わって、客たちが皆、静かに、そしてどこか厳かな雰囲気で酒を飲んでいる、落ち着いた雰囲気の店だった。

ここならあるいは、とシュオは一瞬期待したが、どうやらこの重苦しいまでの静けさは、最近の冒険で命を落としてしまった仲間の、ささやかな弔いを行っているためのようだった。

こんな場所で、さすがの義理堅いエシュも、一人で酒を飲む気にはならないだろう。


そして、三軒目の酒場。

中は、様々な依頼を終えた冒険者や、日々の仕事を終えた労働者たちで程よく賑わっていた。

一軒目のような荒々しさもなく、かといって二軒目のような重苦しい雰囲気もない。いわゆる、ごく一般的な「冒険者の酒場」といった感じの、誰がいてもおかしくない、活気と安らぎが同居したような雰囲気だ。

シュオはゆっくりと店内を見渡し、注意深くエシュの姿を探す。

彼女のトレードマークである、鮮やかなピンク色の長髪が見つかれば、すぐに分かるはずだ。

シュオはカウンター席の隅々まで、目を凝らして探した。しかし、残念ながら、エシュと思わしき人物の姿は、ここにも見当たらない。


「ここにも、エシュさんはいないのか……。一体、どこに行ってしまったんだろう…。」


シュオは、期待が外れたことに、がっくりと肩を落とす。


「シュオ様、気を落とさないでくださいまし。こうなったら、ベロニア中の酒場を、片っ端から探し回るしかありませんわ。シュオ様をあれほどまでに心から慕っていたエシュ様が、この街のどこかにいらっしゃることは、まず間違いありませんもの。諦めずに探しましょう。」


落ち込むシュオを、マリアが力強く、そして優しく励ます。

彼女もまた、かつての気高く、そしてどこか近寄りがたいお嬢様の雰囲気は鳴りを潜め、今はシュオを支える、頼もしいパートナーとして、その隣に寄り添っていた。


「ありがとう、マリィ。そうだよね。エシュさんは、絶対にこの街のどこかにいるはずだよね。よし、諦めずに探そう。」


シュオは、マリアのその温かい言葉に気合を入れ直し、再び店を出ようとした、まさにその時だった。


「うわあぁぁぁっ!!!」


二階へと続く、少し急な木の階段から、甲高い悲鳴と共に、一人の男がまるでボールのように、派手な音を立てて転げ落ちてきた。

それとほぼ同時に、二階の廊下からは、何やら激しく揉めているかのような、複数の男たちの怒声が、店内に響き渡った。


「ここの二階って……。」

「確か、旅人や冒険者向けの、簡易的な宿屋になっていたはずですわ。おそらく、宿泊者同士の何らかのトラブルのようですわね。あまり関わらない方がよろしいかと…。」


シュオとマリアが、そんな会話を交わしている間に、また一人、今度は随分と体格のいい、屈強な男が、階段を派手に転がり落ちてきた。

あんな屈強な男を、いとも簡単に階段から転げ落とすとは、二階にいるのは、相当な腕利きの実力者なのだろう。

転げ落ちた男は、痛みに顔を歪めながらも、すぐに起き上がると、二階に向かって、怒りに満ちた大声を張り上げた。


「てめえ、エシュ! 報酬の分配については、ダンジョンに入る前に、ちゃんと全員で話し合って決めていたはずだろうが! 今更になって、それを一方的に覆すなんて、そんな理不尽なことが、許されると思ってんのか!」

「え!?」


男が叫んだその名前に、シュオはハッとして、弾かれたように二階を見上げた。

その魂からの叫びとも言える声に反応するかのように、二階の薄暗い廊下から、見慣れた、そして懐かしい、鮮やかなピンク色の長髪の女が、ゆっくりと、しかしどこか威圧的な雰囲気を纏って姿を現した。


間違いない、エシュ・ホランドだ。


「今回のダンジョン攻略において、一体誰が一番活躍したと思っているんだ? 私がいなければ、お前たちのような半端者たちは、とっくの昔に、あのダンジョンの奥深くで、魔物の餌食になって全滅していただろう。その私が、他の者たちよりも少しばかり多めに報酬を貰うのは、当然の権利じゃないのか?」

「黙れ! こっちだって、お前と同じように、命を懸けて戦ったんだ! それなのに、お前一人が、今回の報酬の八割を持っていくなんて、そんな理不尽で、あまりにもおかしすぎる話が、まかり通ると思ってんのか!」


男は、怒りに任せて、再び荒々しく階段を駆け上がっていく。そして、エシュ目掛けて、その巨大な岩のような左の拳を、渾身の力を込めて力任せに繰り出す。

だが、エシュは、その大振りの攻撃を、まるで柳に風とでも言うかのように、ひらりとかわすと、再び男の体を、まるでゴミでも蹴飛ばすかのように、容赦なく階段の下へと蹴落とした。悲鳴を上げながら、男は再び無様に、そして派手に転げ落ちる。


「まったく、だらしないにも程があるな…そんな体たらくだから、結局は私のような女に守られることになるんだ。少しは反省したらどうだ?」


エシュは階段の上から、冷たく、そして侮蔑に満ちた視線で、階下でうずくまる男たちを見下ろしながら、そう吐き捨てる。


「ち、ちくしょう……。覚えてやがれ…。」

「エシュさん!」


階段の上に、まるで仁王立ちのように、冷たい表情で佇むエシュに向かって、シュオは、思わず、ありったけの、そして心の底からの声を張り上げて叫んだ。

エシュは、その懐かしい声に、一瞬ピクリと体を震わせると、ゆっくりと、そしてどこか信じられないといった表情で階下を見る。

そして、その視界の先に、紛れもない、あの愛しいシュオ・セーレンの顔を発見すると、ゆっくりと、そして大きく、その美しい目と口を見開いた。

その表情には、驚きと、困惑と、そしてほんの少しの喜びが入り混じっているように見えた。


「エシュさん! もう、危険な冒険者なんてやめて、また僕たちの家に帰ろう! 僕と、そしてみんなと一緒に、セーレン家に帰ろうよ!」


シュオの、そのあまりにも真っ直ぐで、そして温かい言葉と、その懐かしい顔を見た瞬間、エシュは、まるで魔法が解けたかのように、その場で力なく崩れ落ち、かろうじて、そばにあった階段の手すりに、震える手で摑まった。


「シュオ様………? そんな………嘘でしょう…? なぜ…あなたが、ここに…あなたは、一年前に…そ、そんな…、生きて…、生きていらっしゃったんですか………?」

「エシュさん! 僕は、僕は生きてるよ! だから、お願いだ! もう一度、僕たちと一緒に、あの家に帰ろう!」


エシュの大きな瞳から、堰を切ったように、熱い涙が次から次へと溢れ出し、その美しい頬を伝って流れ落ちていく。


「そんな……まさか……あなたが、本当に、生きていらっしゃったなんて……これは、夢じゃないのですよね…?」


階下に転げ落ち、呆然としていた男たちも、そんなエシュの、あまりにも意外な姿を、ただただポカンとして見つめている。

鉄の心を持つとまで言われた、あの冷徹な女戦士エシュが、涙を流すところなど、彼らはもちろん、おそらくこの世の誰一人として見たことなどないだろう。

セーレン家を下野した後、彼女は再び冒険者に戻り、いくつかのパーティーを渡り歩きながら、数々の困難なギルドの依頼をこなしてきた。

エシュは、常に自らの心を鋼鉄の鎧で覆い、気を張り詰めさせて行動していた。

そうでもしないと、ふとした瞬間に、亡くなったはずのシュオのことを思い出してしまい、心が壊れそうになってしまうからだ。

それが今、シュオとの突然の再会によって、張り詰めていた緊張の糸が、ぷつりと音を立てて切れてしまったかのように、エシュの目からは、もう涙が止まらない。


「シュオ様……ああ、シュオ様……」

「エシュさん!」


シュオは、もはや居ても立ってもいられず、一目散に走り出した。

階下に無様に転げ落ちている男たちの体を、巧みにかわすと、一心不乱に階段を駆け上がっていった。

そして、その場で崩れ落ち、嗚咽を漏らし続けているエシュの華奢な体を、力強く、そして優しく抱きしめた。


「シュオ様……! シュオ様……! 本当に、本当に生きていらしたのですね……! 私は、私は、もう二度と、あなたにお会いすることはできないのだと…本当に、本当に良かった……!」

「うん、僕はもう大丈夫だよ。色々と大変なこともあったけど、マリアや、リーザや、カイル、そしてたくさんの人たちが、僕を助けてくれたんだ。」


あまりにも激しく、そして嬉しそうに涙を流しながら、シュオの胸に顔をうずめ、その体をきつく、きつく抱きしめるエシュの姿を見て、傍らでその光景を見守っていたマリアも、そして、先程までエシュと揉めていたはずの、階下に転げ落ちていた男たちでさえも、いつの間にか、もらい泣きをしていた。


そして、シュオの確かな温もりと、その優しい鼓動を、その身でしっかりと、そして心ゆくまで感じ取ったエシュは、ようやく涙を拭い、ゆっくりと立ち上がった。

その顔には、もう迷いの色はなかった。


「おい、お前たち! 聞こえているか! 今回の報酬は、私はいらなくなった! 全てお前たちで山分けにするがいい! その代わり、私は、今日限りでこのパーティーを抜ける! これで、文句はないだろう!」


階下で呆然と立ち尽くす男たちに向かって、エシュは、きっぱりとした、そしてどこか晴れやかな声で叫んだ。

男たちも、その場の雰囲気と、エシュの真剣な表情から全てを察したのか、「…ああ、分かったよ。お前の好きにしな!」と、どこか寂しそうに、しかし温かい声で叫び返した。


「シュオ様、申し訳ありませんが、少々お待ちください。すぐに、私の荷物をとってまいりますので。」

「うん、分かった。僕は、ずっとここで待ってるよ。だから、焦らなくても大丈夫だ。」


エシュは、シュオからゆっくりと離れると、宿の自分の部屋へと戻り、数少ないながらも、彼女の冒険の歴史が詰まった荷物を背負った。

そして、再びシュオの元へと戻ると、その顔には、先程までの険しい表情はなく、まるで少女のような、晴れやかで、そしてどこか恥ずかしそうな笑みが浮かんでいた。


「お待たせいたしました、シュオ様。準備は、全て整いました。今この時より、私は、再びセーレン家付きの護衛戦士に戻ります。この剣、そしてこの命、全てをあなた様のために。」

「うん。お帰り、エシュさん。本当に、よく戻ってきてくれたね。みんな、みんな君の帰りを待ってるよ。」


二人は互いに微笑み合うと、ゆっくりと階段を降りていく。そして、店の入り口で待っていたマリアと合流し、三人は、賑やかな酒場を後にして、懐かしいセーレン家の屋敷へと、確かな足取りで歩き出したのだった。


――――――――


セーレン家の屋敷。

エシュが無事に屋敷に戻ってきたことを、誰よりも喜んだのは、当主であるアルギリドだった。


「おお、エシュ! よくぞ、よくぞ戻ってきてくれた! これで、我がセーレン家の家族が、ようやく全員揃ったというわけだ!」


と、普段の威厳ある姿からは想像もつかないほどに大喜びで騒ぐと、屋敷の料理長たちに、急遽、盛大な歓迎パーティー用の料理を作るようにと命じた。

そして、次男のヨーカスは、多くを語らず、ただ無言でエシュに拳を向ける。

それは、彼らなりの、再会を祝う挨拶だった。

エシュは、そんなヨーカスの不器用な優しさに、ふっと笑みをこぼすと、それに合わせるように、自らの拳を軽くぶつけた。


「これで、全てが元に戻りましたわね、シュオ様。」


マリアが、心から嬉しそうに言う。


「そうだね。僕も、こうして無事に戻ってくることができたし、ラムジュも、また元のシュオの体に戻ることができた。本当に、全てが元通りになったんだ。」


その時、シュオの心の中から、懐かしい声が話しかけてくる。


『おい、シュオ。勘違いするんじゃねえぞ。お前の中には、まだあの天使野郎の力が、微かにだが残ってる。そのおかげで、ひょっとしたら、お前さん、以前よりもかなり強くなってるんじゃないのか?』

「え? 僕は、全然そんなこと分からなかったけど、そうなのかな、ラムジュ?」

『ああ、間違いない。まあ、百聞は一見にしかずだ。ちょっと、久しぶりに、そこの腕利きの姐さんにでも手合わせしてもらえよ。それで、お前がどれだけ強くなったのか、すぐに分かるはずだからよ。』


ラムジュにそう言われ、シュオは、自室で旅の荷を解いていたエシュの元へと向かった。


「エシュさん、すみません。今、少しだけお時間よろしいですか? 実は、久しぶりに、エシュさんと手合わせをお願いしたいのですが、いかがでしょうか?」


部屋のドアの前で、中にいるエシュに声をかけると、エシュはすぐにドアを開けて出てきた。


「ええ、もちろん構いませんよ。シュオ様が、一体どれほどお強くなられたのか、私も興味がありますからね。そうですね、もう一年も手合わせしていなかったのですから、久しぶりに、じっくりとやりましょうか。」


エシュは、訓練用の木剣を部屋に取りに行こうとしたが、シュオはそれを静かに止める。


「エシュさん、ありがとうございます。でも、今回は、できれば真剣で手合わせをお願いしたいんです。今の自分が、一体どこまで戦えるのか、それをこの体で確かめてみたいんです。」


シュオの、その真剣な眼差しと、確かな覚悟に満ちた提案に、エシュは一瞬少し悩むような素振りを見せたが、やがて、その申し出を静かに、そして力強く承諾した。


シュオとエシュ、二人の、一年ぶりとなる真剣勝負が、今、まさに始まろうとしていた。

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