第66話 しばしの休息
マリアとラムジュが学院に戻るとそれはもう大騒ぎとなった。
一年前に死んだはずのシュオ・セーレンが突然帰ってきたからだ。
生徒だけでなく教師達も驚きを隠せずに今までどうしていたのか問い詰めてきた。
そこに慌てて飛んできたカイルとリーザによって2人は生徒会室へとやってきていた。
ソファにラムジュを座らせるとリーザが治癒の魔法を唱え出す。ボロボロだった体はあっという間に全快した。
「リーザ、すごいな。1年前よりも魔法の使い方が上達してる。」
「当たり前でしょ。これでも訓練を続けてきたんだから。」
ラムジュに褒められ、少し照れ臭くなったリーザはそっぽを向く。
「それでラムジュ、シュオの方はどうなんだ?」
カイルが尋ねるとラムジュは腕を組んで唸り出す。
「天使のかけた封印がなかなか厄介でな。今少しずつ解除はしてるんだがもう少しかかりそうだ。」
「そうか......早くシュオと話をしたいけど、生きていてくれただけでも御の字だな。そういやお前これからどうするんだ?」
「どうするって家に帰るに決まってるだろ。親父殿も兄上殿も待っているんだ。」
「お前なぁ...一年前に死んだと言われた息子がいきなり帰ってきたらどうなると思ってるんだ。」
カイルが呆れた表情で言う。
確かにアルギリドなど泡を吹いて気絶しかねない。
「ラムジュ、先に貧民街に行ってくれないか? お前が死んでアーニャがメイドを辞めて貧民街に帰っちまったらしいんだ。」
「ほう。アーニャには世話になってたし元気な顔を見せてやるか。」
そう言うとラムジュは立ち上がってドアに向かう。
「あ、待て! ラムジュ!」
カイルが止まるのを聞かずドアを開けたラムジュはドアの前で待っていた生徒教師に囲まれてしまうのであった。
――――――――
「まったく酷い目にあったぜ......」
囲まれて質問攻めに合うラムジュをマリアが引っ張ってなんとか学校から逃げ出す事ができた。
「あんたが何も考えずに外に出るからよ。」
「まさか俺の事をあんなに注目してるとは思わないじゃねえか...」
「あんたアホなの!? 死んだ人間が帰ってきたら注目されるに決まってるじゃない! ...見えたわ。あそこが貧民街ね。」
2人の前に見えてきたのはベロニアの綺麗な街並みとはまったくかけ離れていた風景だった。
路地に座り込む子供達。
歩く大人の目つきは荒んだ眼をしており、子供たちに目もくれない。
皆服はボロボロの物を着ており、とてもじゃないが服としての機能をしていない。
ちょっとでも油断をして歩いていたら子供にスリをされる。
その辺りには飢餓のせいか倒れている老人もいる。
これがベロニアの闇......
光り輝く中央通りから少し離れるとこのような地獄の光景が待っている。
ラムジュは第三世界でもこのような光景は見慣れていた。
反吐が出るような光景。
こんなものを第四世界でも見るなんて思ってもいなかった。
一方のマリアは見たくもない物を見させられているかのように口を抑えている。
貴族世界で生きてきた自分にとってこのような世界はつらい物だった。
「なんだよ。お嬢様はここから先はついてこれないか?」
「そ、そんな訳ないでしょ。行くわよ。」
2人は貧民街の中を歩いていく。マリアは周りを警戒しながら歩いている。
シュオはその辺りに座っている子供の髪を掴み上げると、
「おい、この辺でアーニャっていう女がいると思うんだけど知ってるか?」
子供は急に髪を掴まれおびえた様子で「し、知らないよ...」と答える。
「ちっ」と言うとラムジュは子供の髪を放す。
「ラムジュ、乱暴はダメよ!」
「いいんだよ。こういうやつらは低いところから物を聞いても嘗め腐って答えは出てこないんだよ。」
さらに歩くと酔っ払いのような男が向こう側からくる。
ラムジュはその男の胸倉をいきなり掴む。
「ラムジュ!」
「おい! お前さっきこっちをちらっと見たろ! お前アーニャの場所を知ってるな!」
「この人今歩いてきたんだよ!?」
「向こうでこっちをちらっと見てから酔っ払いのふりして歩いてきたんだよ。だからこいつはわざと俺達に近づいてきたんだ。」
鋭いラムジュの観察眼。
マリアはそこまで気が回っていなかった。
男の顔は酔っぱらった感じではなく、ラムジュの狂気に怯え切っている。
「そんでアーニャはどこだ? 知らねえとか言ったらその首切り落とすぞ!」
「し...知ってるよ!! 知ってるから手を離してくれ!」
「ラムジュ、離してあげて!」
マリアに言われラムジュは男の首根っこを離す。ドスンと地面に落ちる男。
「ねえ、アーニャはどこにいるの? 私達アーニャに会いにきたの?」
男は少し躊躇うそぶりを見せたが、
「......アーニャなら鉄友団に戻った。1年ぐらい前にフラフラとこの貧民街に戻ってきたと思ったらまっすぐにそこに向かったよ。」
「おい、鉄友団ってなんだ?」
「この貧民街を支配する組織さ。小さい頃にアーニャはそこにいたんだ。だけどどこかの貴族に引き取られていったはずなのに...なんでまた戻ってきちまったのか...」
男は向き直るとラムジュに土下座する。
「頼む! アーニャを鉄友団から解放してやってくれ! あいつは小さい頃によく面倒を見た奴なんだ! またチンピラなんかに戻って欲しくない!」
ラムジュは何も言わず男の肩に手を置く。
「最初からそれが俺達の目的だ。邪魔する奴はぶっ潰しアーニャを連れて帰る。」
「とりあえずその鉄友団のアジトに行きましょ。さっさと片付けるわよ。」
「アジトはそこを右に曲がった先にある『闇のカラス亭』って酒場だ! そこに行ってくれ!」
2人はアジトの場所を聞き出すと走り出したのだった。
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