第59話 恋する少年
マリアが学院に戻ってきた。
元々優秀だった彼女は約一年のブランクなどものともせず、あっという間に成績上位になった。
クラスメイトに対しても前より柔らかい対応をするようになり、今まで話しかけづらかった者でもマリアと仲良くなる事ができた。
女王だった彼女は一転して彼女にしたい女性No1へと変化した。
1日にしてマリアのファンクラブが復活するぐらいの勢いだった。いや、以前よりもその人数が増えるぐらいにマリアの人気はあがった。
そんなマリアに他の男子と同じように恋をしている者が1人。
1年生のグリオ・ロヴァンという。
才能がすごい訳ではなく容姿端麗でもない普通の少年である彼がなぜマリアに恋をする事になったのか。話は2週間前に遡る。
グリオはその日当番として教授の授業材料を運んでいた。
その教授は当番をするのが面倒なぐらい資料を大量に登板に渡してくる。
それをヒィヒィ言いながら教室まで運んでいた。
重さに集中していたからだろうか。
曲がり角の先に人がいると言う事に気づかなかった。
曲がり角を曲がった瞬間反対側から来た生徒にぶつかる。
飛び散る書類。
そして勢いで倒れるグリオ。
相手は倒れる事もなくただただ驚いていた。
廊下に尻餅をついたグリオは慌てて散らばった資料をかき集めようとする。
「ごめんなさい、大丈夫?」
ぶつかった女生徒は慌てて飛び散った資料を一緒に集めてくれる。
そしてある程度集め終わるとグリオの手に「はい」と渡す。
「私もだけど気をつけようね」と最高の笑顔で言うと女生徒は行ってしまった。
あまりの華麗さにぼーっとしてしまうグリオ。
周りの女生徒が「さすがマリアさん、前よりも素敵になったわー」などという声を聞き、彼女がマリアだという名前だと知った。
それ以来グリオはマリアに恋をしたのだった。
グリアはそれ以来マリアについて色々と調べた。まさにストーカーのそれである。
彼女の得意な事、苦手な事、何が好きで何が嫌いなのか。
そして彼はシュオ・セーレンという生徒にたどり着いた。
1年生の時には自分と同じように落ちこぼれと揶揄されていたものの、急に性格が変わったかのように成績があがった。
生徒会に突然選抜され、国の騎士団と共に魔獣という伝説上にしか存在しなかったはずのものと戦い撃破する。
彼はだんだんとこの学校でも注目の生徒となっていった。
だが、去年の夏に突然の死を遂げる。
原因はわからない。
どの資料を調べても彼の死因については記載されていなかった。
彼の死がマリアを1年も塞ぎ込ませたらしい。
彼になりたい、いつしかグリオはそう思うようになった。
彼のような男になれればマリアと恋仲になれるのではないか、グリオは決心しトレーニングを始めた。魔法についても練習を繰り返した。
しかしどんなに頑張っても自分の力はすぐに伸びるものではなかった。
彼は自分の才能を恨みながらもなんとかしてマリアに近づきたいと思っていた。
そして彼は決意した。
放課後の学院内図書館。
グリオは1人椅子に座っていた。
色々と考えて出した方法はマリアに直接手紙を出し、彼女に自分の思いを伝える事だった。
胸の高まりが止まらない。
彼女に出した手紙には放課後に図書館に来てほしいと書いた。
果たして本当に彼女は来てくれるのかどうか、そして彼女は自分の思いに答えてくれるかどうか、頭の中で様々な事がグルグルと回っている。
少しの時間が経過した後、図書室の扉が開いた。
途端に彼の心臓が跳ね上がる。
中に入ってきたのは自身が望んだマリア嬢その人であった。
彼女は周りをきょろきょろしてグリオの顔を見るとこちらに近づいてくる。
「あなたが手紙をくれた方かしら。」
優しく、そして気高い声でマリアが話しかけてくる。
グリオは声を出そうとするが緊張して言葉が出てこない。
まさか本当に来てくれるとは、体が固まってしまい、頭の中がパニックになってしまう。
「あなた1年生ね。私に何か用だったの?」
マリアの声を聴くたびにグリオの心臓が高鳴る。
頑張れ自分、グリオは自分の心を奮い立たせて声を出す。
「あ、あの......自分は1ねんしぇ...1年生のグリオ・ロヴァンと言います。」
噛んでしまったものの無事自分の事は言う事が出来た。
さあ、次は本題だ。
「あ、あの........実は.........その.........」
「ん? どうしたの?」
次に言う言葉は決まっている。「僕とお付き合いしてください」だ。
だがその言葉がなかなか出てこない。
こんなに自分に勇気がない人間だとは思わなかった。
「グリオ君ね、あなたと私って会った事あるかしら?」
「は...はい...一度だけですが......」
「ふーん...じゃあひょっとしてこれって告白ってやつ?」
マリアに言い当てられグリオの頭の中がますますパニックになる。
「何回かこうやって呼び出されては告白をされてるから慣れちゃって。」
マリアは軽く微笑みながら言う。
その笑顔も素敵すぎてグリオにはもう耐えられなかった。
今にもその場に崩れ落ちそうなぐらいに膝が笑っている。
「......でも」
急にマリアの表情が真剣になった。
「......私には好きな人がいるの。この人しか愛せないってぐらい好きな人が。」
「..........それってシュオ・セーレンさんの事ですか..........?」
急にシュオの名前が出てきたことにマリアは驚く。
「一年生なのによく知ってるわね...」
「は、はい......失礼でしたがマリアさんの事をずっと調べさせてもらいまして......」
「そうなの。それだけ真剣だったって事ね。あなたの言う通り私はシュオ様以外の男性とそういう関係にはなるつもりはないの。確かにシュオ様が亡くなってから1年経つわ。もう忘れた方がいいと言われた事もあるけど、私は忘れたくないの。」
図書室の天井を見つめながら答えるマリアの表情はどこか寂し気ではあるが心に強い思いを持っていると感じるものだった。
それを見てグリオは自分では無理なんだなと感じた。
「......マリア先輩。お話していただきありがとうございました。おかげで自分は吹っ切れる事が出来ました。」
「そうなんだ。キミ、今さっきよりいい顔してるよ。」
マリアに指摘され、自分の顔の力が抜けている事を感じた。
「今のキミならきっと他にいい女の子が見つかるわよ。」
「......ありがとうございます。頑張ります。」
マリアはふふっと笑うと何も言わずに図書室を出ていった。
シュオ・セーレンという人には勝てないかもしれないけど、それぐらいすごい人になろう、グリオは決意を秘めて図書室を後にした。




