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〜Doragoon Life〜 最強種族の王子、転生して学園生活を謳歌する  作者: かみやまあおい
第2部

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第49話 秘密の武器

「これで、トドメだ!」


ラムジュの鋭い声と共に、黄金色の光を纏った魔銀鋼の短剣が、魔獣の太い喉元に深々と突き刺さった。そのまま力任せに首を横薙ぎに切り裂くと、魔獣は断末魔の叫びを上げ、紫色の血を大量に噴き出しながら、巨体を大地に沈めた。


「まったく...今日も今日とて、こんな雑魚相手に駆り出されるとは思わなかったぜ。」


ラムジュは、短剣についた魔獣の血を軽く振って払い落とすと、慣れた手つきで鞘に納めた。

あのヴァルフ王術学院との対抗戦以降、ベロニア周辺では、第五世界からと思われる魔獣の出没が急に増加していた。

その度に、シュオ・セーレンの中に眠るラムジュの力が頼られ、彼はこの2週間で既に5回も、このような魔獣討伐に駆り出されていた。

いくらラムジュが強大な力を持つとはいえ、シュオの肉体への負担は決して小さくない。正直、たまったものではなかった。


「お疲れ、シュオ君...いや、今はラムジュ君、だったかな。」


土煙が収まる中、第三騎士団の白いマントを翻し、騎士団長のアイス・フォルドが涼やかな笑みを浮かべて近寄ってきた。その表情は、先ほどまで死闘を繰り広げていたとは思えないほど穏やかだ。


「お疲れ、じゃねえよ、アイスの旦那。」


ラムジュは、忌々しげにアイスを睨みつけた。


「最近、俺を呼び出す頻度が多すぎるだろうが。こっちは、表向きはしがない一学生なんだぞ。学業だってあるんだからな。」

「はは、それは重々承知している。だが、現状、このベロニアで魔獣に確実に対抗できるのは、君のその力だけなんだ。我々騎士団の武器や、学院の教師たちの魔術では、悲しいかな、奴らに有効なダメージを与えることが難しいのでね。」


アイスは、困ったように肩をすくめた。


「そこだよ、問題は。いつまでも俺一人に頼ってばかりじゃ、埒が明かねえだろう。なんかこう、もっと根本的な対策は考えられないのか? 例えば、魔獣に効く新しい武器を開発するとかさ。」

「それなんだが、実はな...。」


アイスは周囲に人がいないことを確認すると、ラムジュの耳元にそっと口を寄せた。


「実は今、王国の魔法師部隊と、極秘裏に作られた特殊部隊が連携して、討伐した魔獣の死骸を徹底的に解析し、対魔獣用の特殊武器の開発を、極秘に進めているんだ。」

「ほう? 特殊武器、ねえ。」


ラムジュの口元に、わずかに興味の色が浮かんだ。


「まだ試作段階ではあるが、もしこれが実用化できれば、魔獣との戦いも、今よりは格段に楽になるはずだ。そうなれば、君にばかり負担をかけることもなくなるだろう。」

「なるほどな。そんな便利なモンができるんなら、俺としても大歓迎だ。いちいち呼び出されるのも、正直うんざりしてたからな。」


確かにそのような武器ができて騎士団が魔獣と対等に戦えるようになれば自分への負担はなくなる。

シュオの体の負担を考えるとそれは非常に有難い事だった。


「近々、その試作武器の最初の運用試験を行う予定になっているんだ。もしよかったら、君にも見学に来てもらいたいのだが、どうだろうか? 君の、魔獣と戦った経験からの意見も聞かせてもらえると助かる。」

「ふん、面白そうじゃねえか。どれほどのモンか、この目で確かめてやるのも悪くない。ちょっと見に行ってみるとするか。」


こうして、シュオ本人の意思とは全く関係なく、ラムジュはアイスからの誘いを快諾し、数日後に王城で行われるという、極秘武器の試用試験に立ち会うことになったのだった。


――――――――


そして3日後。

シュオは、ラムジュに半ば強引に言いくるめられ、一人でベロニア王城へとやってきていた。

高くそびえ立つ城壁、威圧的な正門。

第三貴族の三男坊であるシュオにとって、王城などという場所は、生まれてこの方、足を踏み入れたことのない、まさに雲の上の存在だ。


(本当に、こんなところに来ちゃってよかったのかな…)


シュオは、緊張で早鐘のように打つ心臓を押さえながら、おそるおそる城の正門へと近づいた。当然のことながら、屈強な鎧に身を包んだ門番の兵士たちに、即座に制止される。


「待たれよ! 何者だ!」

「あ、あの…! サディエル王術学院2年の、シュオ・セーレンと申します! 第三騎士団長のアイス様に呼ばれて、参りました!」


シュオが必死に説明するが、門番たちは訝しげな表情を崩さない。


「アイス騎士団長が、お前のような小僧を? 一体、何の目的でだ?」

「え、えっと、それは…その…。」


(まあ…そうなりますよね…)


アイスが言っていた武器開発の件は、国家機密レベルの極秘事項のはずだ。

一介の門番兵が知る由もなく、そんな話をここでペラペラと話したところで、信じてもらえるはずがない。それどころか、不審者として捕らえられてしまう可能性すらある。


(どうしよう…ラムジュ、何か言ってよ…)


シュオが心の中で同居人に助けを求めようとした、まさにその時だった。

城の奥から、白いマントを翻し、一人の騎士がこちらへ向かって走ってくるのが見えた。アイスだ。


「ああ、シュオ君! すまない、待たせたね!」


アイスは、門番たちに軽く手を上げて合図すると、シュオのそばに駆け寄ってきた。


「お前たち、すまなかったな。その子は、私が呼んだ客人だ。通してやってくれ。」

「はっ! し、失礼いたしました、アイス騎士団長!」


門番たちは慌ててシュオに敬礼し、道を開けた。どうやら、本当にアイスが呼んだらしいと納得したようだ。

シュオはほっと胸を撫で下ろし、アイスに連れられて、生まれて初めて、壮麗なベロニア王城の中へと足を踏み入れるのだった。


「悪かったね、シュオ君。門番に君が来ることを伝え忘れていたよ。」


ベロニア王城の長い廊下を歩きながら、アイス・フォルドはシュオに詫びた。


「い、いえ...大丈夫です...」


緊張気味のシュオには、その言葉はあまり耳に入っていなかった。

見慣れぬ王城の光景は、まさに雲の上の世界だった。

磨き上げられた大理石の床、壁の壮麗なタペストリー、すれ違う騎士や貴族たち。その全てが、シュオにとって非日常だった。


しばらく進むと、重厚な鉄扉の前に着いた。扉の前には第三騎士団の兵士が4人。厳重な警備だ。アイスの顔を見た兵士が扉を開ける。


「さあ、シュオ君、入りたまえ。」


促され、シュオは部屋へ入る。

その目に飛び込んできたのは、多くの魔導師が研究に没頭し、奥では見たこともない物が動いている光景だった。

白衣の研究員たちが行き交い、室内は独特の熱気に満ちている。


「アイスさん、あれって...?」

「あれは『機械』というものらしい。私も詳しくは知らないが、ズリグル迷宮の奥深くで発見された古代文明の遺物だそうだ。」


ヤチアの街の近郊にある、世界で最も深いと言われるズリグル迷宮。兄ヨーカスがいつか踏破すると語っていた場所だ。


「シュオ君、こっちへ来てくれ。」


アイスに呼ばれ部屋の奥へ進むと、特別な作業台の上に1本の異様な剣が置かれていた。

刃先は鋭利な剣だが、持ち手から鍔にかけて大小様々な色の宝石が埋め込まれ、細い金属管で繋がっている。武器というより、精密な魔道具のようだ。


「これは...?」

「これこそが、我々が開発を進めている、対魔獣用の特殊武器の試作品だ。」


アイスは誇らしげに、しかしどこか不安げな表情で剣を見つめる。

シュオが興味深げに剣を眺めていると、背後から落ち着いた女性の声がかかった。


「あなたが、シュオ・セーレン君ね。この武器に興味でも持ったのかしら?」


振り返ると、金髪に銀縁眼鏡をかけた、スタイルの良い白衣の女性が立っていた。胸には「王立魔導技術研究所 主任技師 キュア・ミトン」と刺繍されたネームプレートが輝いている。


「彼女はキュア・ミトン技師。この計画の最高責任者だ。」


アイスが紹介する。


「はじめまして、シュオ・セーレン君。私がキュア・ミトンよ。あなたの武勇伝はかねがね伺っているわ。今回の武装開発に、ぜひ貴方の力を貸してほしいの。」


キュアはにこやかに手を差し出す。


「ちょ、ちょっと待ってください! 僕は今日はこの武器の見学に来ただけで何かするつもりはないですよ!」


あら?という顔をしてキュアはアイスを見る。


「シュオ君。今日来てもらったのはこの武器を見てもらうだけでなく、実験に協力してほしかったんだ。」

「え、そんな事はラムジュから何も聞いてないですよ! 武器を見せてもらおうってだけで...」


その時心の中でラムジュの声がする。


『いいじゃねえか。せっかくの珍しい武器だし試させてもらおうぜ。』

「まったくいつも君は勝手に話を進めようとするんだから...分かりました。でも危ない事はしませんよ。」

「ええ、それでいいわ。私達もあなたに危ない事をさせるつもりはないから。」


キュアは笑顔でシュオに答える。そして剣に目を向ける。


「この武器の原理はね、握った者の魔力を、持ち手の『魔力増幅宝石』で極限まで高め、そのエネルギーを刃先に伝達させるというものなの。」


キュアは目を輝かせ、熱っぽく説明を始めた。その姿は根っからの研究者だ。


「私たちの計算では、魔力を最大限に纏ったこの剣は、あの魔獣どもの硬い皮膚や甲殻だろうと、容易く切り裂くことができるはずよ。」


横で聞いているアイスも完全には理解していないようで、複雑な表情をしている。


「シュオ君。あなたにしてほしい事は、この新しい武器の最初のテストをしてほしいからなの。」

「テスト、ですか?」

「そう。この武器が本当に実戦で使えるのか、そして何より安全に扱えるのか。それを、実際に魔獣と戦った経験のあるあなたに試してほしいの。魔獣との戦闘経験があるあなたなら、この剣を使いこなせるはずだと信じているわ。」


キュアは真剣な眼差しでシュオを見つめた。


「…分かりました。でも生きている魔獣と戦えってのは無理ですからね。」

「当たり前よ。こっちに過去にあなた達が倒した魔獣の死骸を保管しているの。それで試してもらうわ。」


シュオは、キュアから宝石が散りばめられた奇妙な剣を受け取り、しっかりと握りしめる。そして、アイスとキュアに案内され、さらに奥にあるという厳重に隔離された広大な地下試験場へと足を踏み入れたのだった。

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