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〜Doragoon Life〜 最強種族の王子、転生して学園生活を謳歌する  作者: かみやまあおい
第2部

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第48話 対抗戦終了

サディエル王術学院とヴァルフ王術学院の記念すべき第60回対抗戦は、魔族の出現という前代未聞の事態により、中止という形で幕を閉じた。

カイルの左腕の骨折は、リーザとエミリアの懸命な治癒魔法でなんとか繋がったものの、完全な回復にはまだ時間がかかりそうだ。

一方、サイの凶刃に倒れたマリアは、学院の医務室では処置しきれず、王都の治療院へと緊急搬送されることとなった。

魔族と契約していたヴァルフ王術学院のサイ・ドルエンは、その場で身柄を拘束され、憲兵隊によって連行されていった。おそらく、厳しい事情聴取が待っているだろう。

闘技場にいた観衆たちは、興奮と恐怖が冷めやらぬ中、速やかに退出させられた。

そして、討伐された魔族ゲルトの死骸の検証と事態の収拾のため、王国第三騎士団が正式に召集された。

ラムジュと入れ替わっていたシュオは、生徒会役員として第三騎士団による検証作業の手伝いを命じられ、騒然とする闘技場に残ることになった。


「シュオ君、大丈夫だったか?」


騒ぎが少し落ち着いた頃、騎士団長の鎧を纏ったアイス・フォルドが、心配そうにシュオに声をかけてきた。


「アイスさん...僕は、大丈夫です。でも、僕の大切な友達が...」


治療院へと運ばれていったマリアの、血に濡れた姿が脳裏に焼き付いて離れない。

胸が締め付けられるように苦しい。

もし、最初からラムジュに任せて対抗戦に出ていれば、マリアをあんな危険な目に遭わせずに済んだのかもしれない。後悔の念が、シュオの心を苛む。


「我が国の治療院の腕は確かだ。優秀な治療師たちが揃っているから、マリア君のことは心配ないだろう。」

「...そうですね。」

「それよりも、だ。今回は魔獣ではなく、魔族が出現するとはな。どちらも、我々にとっては伝説上の存在でしかなかったはずなのに、それがこの1年弱の間に立て続けに現れるとは...一体、この世界はどうなっているんだか。」


アイスは、腕を組み、険しい表情で魔族の死骸を見つめている。


「そうですね。まさか、あんな恐ろしいものと自分が戦うことになるなんて、夢にも思っていませんでした。」

「しかし、その魔族までも見事に倒してしまうとは...ますますもって、君の力は大したものだな、シュオ君。どうだろう、卒業したら、我が第三騎士団に入団する気はないかね? 君ほどの逸材ならば、大歓迎なのだが。」


突然のアイスの誘いに、シュオは驚きを隠せない。


「えっ!? い、いえ! 前回の魔獣の件も、今回の魔族の件も、決して僕一人の力じゃないんです! だから、僕なんかが第三騎士団になんて、とてもとても無理です!」

「そういえば、君は以前もそのようなことを言っていたな。一体、どういうことなんだい? 君ほどの力がありながら、なぜそう頑なに自分を卑下するんだ?」


アイスの真剣な眼差し。前回の魔獣討伐の際も、彼はラムジュの戦いぶりを目の当たりにしている。そして今回は、多くの観衆の前で、再びラムジュが魔族を倒してしまった。もう、隠し通すのは無理かもしれない。シュオは、意を決した。


「アイスさん...実は、僕の中には、僕とは違う、もう一人の人格...いえ、魂が存在しているんです。」

「は? 突然、何を言い出すんだ、君は?」


シュオは、昨年からの出来事...ラムジュという竜人族の王子の魂が自分に憑依したこと、記憶を失っていた三ヶ月間のこと、そして、今回の魔族との戦いも、自分の中にいるラムジュの力によるものだということを、洗いざらいアイスに話した。


「...なるほど。君の中に、第三世界の英雄の魂が宿っていると......普通に聞けば、到底信じられない、まるで作り話のような内容だが...私は、この目で君が、いや、君の中にいるというラムジュ君が魔獣を倒す瞬間を見ているからな。信じないわけにはいかない、か。」


アイスはまだ半信半疑といった表情だったが、シュオの話を頭から否定することはなかった。まあ、当然と言えば当然の反応だろう。


「アイスさん、この話は、どうか他の方には...ご内密にお願いします。」

「ああ、分かっている。だが、今回、実際に君が魔族を倒したところを、多くの民衆に目撃されてしまっているからな。その辺りの辻褄合わせは、君自身でなんとかするんだぞ。」

「はい...どうすればいいか、今から考えておきます...」


シュオは、深いため息をついた。


「ははは、そう難しく考えるな。いざとなったら、『あれは実は、手の込んだ演劇のショーでした』とでも言えば、なんとかなるかもしれんさ。」


アイスは冗談めかしてシュオの肩を叩くと、部下たちの元へと戻っていった。その背中を見送りながら、シュオは途方に暮れるしかなかった。


―――――――


魔族ゲルトの死骸の本格的な解明は国の専門家たちに引き継がれることになり、生徒会のメンバーはようやく解放された。

しかし、今日の対抗戦での出来事は彼らの心に大きな爪痕を残していた。

生徒会室に戻っても、誰一人として明るい表情の者はいなかった。


「しかし、今回の対抗戦はとんでもない目に遭ったな。」


左腕を包帯でぐるぐる巻きにされ、痛々しい姿のカイルが、シュオに声をかけてきた。無理に動かせないように固定されているため、相当な重傷だったことが窺える。


「カイル...腕、もう大丈夫なの?」

「大丈夫なわけないだろ。骨折自体は治癒魔法でなんとかなったけど、まだズキズキ痛むよ。」


カイルは、左腕をさすりながら、顔をしかめて答えた。


「だけど、いい経験にはなったぜ。あの魔族の強さ…今の俺のままじゃ、絶対に勝てないってことが、よーく分かったからな。」

「すごいね、カイルは…...よくまだ、あの魔族と戦おうなんて気になれるよ。」


シュオはカイルの前向きな言葉に少し驚いた。


「当たり前だろ! 俺は将来騎士団に入ってこの国を守るために戦うって、そう決めてるんだ! もっともっと強くなって、今度こそあんな魔族だろうがなんだろうが、ぶっ飛ばしてやるぜ!」


カイルはニカッと歯を見せて笑った。その屈託のない笑顔を見ると、シュオはなんだか心が救われたような、温かい気持ちになった。


だが、シュオにとっての本当の試練は、これからだった。自宅である。

重い足取りでセーレン家の屋敷に帰宅し、恐る恐る食堂の扉を開けると、そこには、父アルギリド、長兄ラルフ、次兄ヨーカス、そしてエシュとアーニャが、皆、一様に難しい顔をしてシュオを待っていた。

シュオは観念しておとなしく自分の席に着く。重苦しい沈黙が、食卓を支配していた。

最初に口を開いたのは、長兄のラルフだった。


「シュオ。今日の対抗戦での戦い、見させてもらった。あの得体の知れない魔族相手に勝利したこと自体は、素直に褒めてやろう。だが…あのような強大な力、一体どこに隠していたのだ?」

「あ…えっと…あの…その…」


(やっぱり、こう来るよね…)


シュオはどう答えていいか分からず、言葉に詰まる。

父アルギリドも心配そうな表情でシュオに話しかけてきた。


「シュオよ。なんというか…先ほどの戦いの最中、お前は、以前の…記憶が戻る前の、まるで別人のようだったシュオに見えた。あれは一体、何だったのだ? 説明してはくれまいか?」


(さすがは父上だ…僕のことを、よく見ていらっしゃる…)


ラムジュのことを、いよいよ家族にも話すべき時が来たのかもしれない。しかし、どう説明すれば信じてもらえるのだろうか。

ラルフとアルギリドは、さらにシュオを問い詰めてくる。それは、シュオにとって、まるで拷問のような時間だった。

その時、そっと助け舟を出したのは、エシュだった。


「旦那様、ラルフ様。シュオ様も、今日はお疲れでしょう。これ以上の詮索は、どうかご容赦ください。」


エシュの静かな、しかし有無を言わせぬ言葉に、アルギリドとラルフは、むぅ、と少し不満そうな顔をしながらも、それ以上何も言わなくなった。


「シュオ様。今日はもうお風呂に入って、ゆっくりとお休みください。詳しいお話は、また日を改めて伺いましょう。」

「…ありがとう、エシュさん。」


シュオはエシュの気遣いに心から感謝し、その場を逃げるように食堂を出ると、風呂に入り、早々に自室のベッドへと潜り込んだ。

ベッドで横になりながら、シュオはぼんやりと、虚空に自身の左手を掲げた。

そこに浮かぶ、竜の痣。

以前よりも、その色が濃くなっているような気がする。ラムジュが、シュオの光属性の力と融合して戦った影響だろうか。そして、痣の色も、以前の禍々しい赤黒さから、どこか神々しい黄金色へと変わっているように見えた。


(ラムジュと力を合わせたから…? それに、僕の中に新しく覚醒した、光の属性…...これが、本当に僕の力なんだろうか? この力が、これから魔族と戦うための、僕自身の武器になるんだろうか…?)


様々な疑問が、次から次へと湧き上がってくる。だが、今日の激闘による疲労は、シュオの思考力を奪っていく。

やがて、シュオは心地よい疲労感に包まれ、いつしか静かな寝息を立て、深い眠りへと落ちていったのだった。

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