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〜Doragoon Life〜 最強種族の王子、転生して学園生活を謳歌する  作者: かみやまあおい
第2部

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第44話 対抗戦

アレキサンドライトの月。

夏の日差しが眩しく降り注ぐ、対抗戦当日。

サディエル王術学院の生徒たちは、いつもとは違う高揚感に包まれていた。

シュオ・セーレンもまた、学院から支給された決戦用の服に袖を通し、鏡の前に立つ。

黒を基調とした、動きやすさを重視しながらも洗練されたデザインの戦闘服。

これを身に着けると、自分が本当に学院の代表として戦うのだという実感が湧き、自然と背筋が伸びる。


着替えを終え、緊張した面持ちで階段を降りていくと、玄関ホールには見慣れた顔ぶれが揃っていた。

父アルギリド、長兄ラルフ、次兄ヨーカス。そして、いつもシュオの世話を焼いてくれるメイドのアーニャと、剣術の師であるエシュの姿も。

皆、シュオの晴れ舞台を見送りに来てくれたのだ。


「頑張れよシュオ。お前なら、私のように対抗戦で勝利を掴めるはずだ。」


ラルフが、普段の厳しい表情を少しだけ緩め、激励の言葉をかけてくれる。


「ありがとうラルフ兄さん。」

「これは私からの餞別だ。」


そう言って、ラルフは一つの首飾りをシュオに差し出した。

銀の鎖に、小さな青い宝石がはめ込まれたシンプルなデザイン。


「それには守護の魔力が込められている。多少の魔法攻撃なら、防いでくれるはずだ。」

「ありがとう兄さん。これをつけて、絶対に勝ってみせます。」


シュオは首飾りを受け取り、しっかりと身に着けた。兄に認められたような気がして、胸が熱くなる。

ヨーカスは、いつも通り無言だったが、何も言わずに1本の短剣をシュオに差し出した。

それは、シュオが以前ヨーカスからもらった魔銀鋼の短剣とは違う、より洗練され、強力な魔力を秘めているように見える、真新しい短剣だった。


「ヨーカス兄さんこれは?」

「...リッテに頼んで作ってもらった、対抗戦用の短剣だ。お前なら、短剣を多く持っていた方が戦いやすいだろうと思ってな。」

「リッテさんの武器って...それって、すごく高いものなんじゃ!?」


鍛冶師リッテの作る武具は、特殊な素材と卓越した技術により、他のどんな武器よりも高価で、そして強力だ。

そんなものを、わざわざ自分のために。


「気にするな。これくらい、今の俺なら稼げる。」


ヨーカスはぶっきらぼうに言ったが、その瞳の奥には弟への深い愛情が感じられた。

シュオは、新しい短剣を腰に差し、兄たちの想いを胸に刻んだ。

もう、負けるわけにはいかない。


「じゃあ、行ってきます。」

「うむ。私たちも、後で応援に向かうからな。」


アルギリドの力強い言葉に送られ、シュオは家族と使用人たちに見守られながら、勇ましくセーレン家の屋敷を後にした。


対抗戦の会場である学院の大闘技場は、既に両校の生徒や関係者で埋め尽くされ、熱気に包まれていた。

最初の種目は、魔術戦。

闘技場の中央に設置された2つのフラッグ。相手のフラッグを先に倒すか、相手チームの3人を戦闘不能にすれば勝利というルールだ。


1年生同士の対戦は、序盤から激しい魔法の応酬となり、会場を大いに盛り上げた。

まだ学院に入学して間もない1年生たちは、魔術のコントロールこそ未熟なものの、若さ溢れる勢いでぶつかり合う。

勝負を分けたのは、連携力だった。


個々の能力では互角に見えた両チームだったが、リーダーシップを発揮する生徒がいないサディエル側に対し、ヴァルフ側は、サシエ・リヒュードという小柄な魔術師の少女を中心に、巧みな連携を見せた。

サシエは、1年生とは思えない冷静な判断力で戦況を把握し、的確な指示で味方を動かす。

自身も巧みに補助魔法と攻撃魔法を使いこなし、サディエル側を翻弄した。

サディエル側は、個人技に頼った攻撃が目立ち、連携の取れたヴァルフ側の術中にハマる形となった。

そして、一瞬の隙を突かれ、サディエル側のフラッグがヴァルフ側の魔法によって倒されてしまう。

ヴァルフ王術学院の1年生チームの勝利。リーダーとしてチームを勝利に導いたサシエ・リヒュードは、この対抗戦を機に、将来有望な魔術師として注目を集めることになる。


続く2年生同士の魔術戦は、サディエル王術学院の一方的な勝利となった。

新副会長となったリーザの防御魔法は、この1年でさらに磨きがかかっていた。

彼女が展開する風の障壁は、ヴァルフ側の攻撃魔法をことごとく受け流し、完璧な守りを見せる。

その間に、サディエル側の他の2人の魔術師が、リーザの的確な補助を受けながら攻撃に集中し、あっという間にヴァルフ側のフラッグを破壊した。


そして、3年生の戦いは、両校の最高学年らしい、ハイレベルな魔法戦が繰り広げられた。

攻撃、防御、補助、あらゆる魔法が高度なレベルで飛び交い、一進一退の攻防が続く。

どちらが勝ってもおかしくない、手に汗握る展開だったが、最後は、ほんの一瞬の判断の差が勝敗を分けた。

ヴァルフ側が、サディエル側の魔法の隙を巧みに突き、フラッグを奪取。

これにより、魔術戦はヴァルフ王術学院の総合勝利となり、サディエル王術学院の武術チームには、大きなプレッシャーがかかることとなった。


休憩を挟み、いよいよ武術戦が開始される。

ルールは魔術戦と同様、3人が戦闘不能になるか、フラッグを奪われれば敗北だ。


1年生の武術戦。サディエル側は、タニアが参加したものの、他にまだ突出した才能を持つ生徒がおらず、苦戦が予想された。

対するヴァルフ側は、見るからに鍛え上げられた体躯を持つ3人の生徒を揃えてきた。

特に目を引いたのは、グレール・カッシュという、巨大なウォーハンマーを軽々と振り回す大男だった。

彼の放つ一撃は凄まじく、サディエル側の1年生たちは、そのパワーに為す術なく弾き飛ばされていく。

タニアも最後まで抵抗したのだが、さすがに3対1ではどうする事もできなかった。

結果、サディエル側は3人が戦闘不能となり、ヴァルフ側の圧勝に終わった。


ここまでの試合を見て、シュオは改めて対抗戦のレベルの高さを痛感していた。

どの選手も、それぞれの分野で血の滲むような努力を積み重ねてきたのだろう。

その気迫が、ひしひしと伝わってくる。


(果たして、僕なんかが、この舞台でまともに戦うことができるんだろうか...)


不安が、黒い霧のようにシュオの心を覆い始める。体が、小刻みに震えているのが分かった。


『なんだシュオ。やけに震えているじゃないか。』


頭の中に、ラムジュの、どこか面白がるような声が響いた。


「そりゃそうだよ...ラムジュと違って、僕はこんな大きな舞台での実戦なんて初めてなんだ。怖くもなるよ...」


シュオは、心の中で弱音を吐いた。


『それなら、俺と代わるか? 俺が出れば、あんな雑魚ども一瞬で片付けてやれるぞ?』

「それは、ダメだ。」


シュオは、きっぱりと首を横に振った。


「それでは、僕が勝ったことにはならない。僕自身の力で勝って、初めて自信がつくんだ。それに、もう君の力に頼ってばかりじゃいけないって、分かってるから。」

『いい心がけだ。立派な戦士として戦えるように、ここからゆっくりと応援しててやるさ。』


ラムジュは、どこか楽しむような口調で言うと、再び意識の奥へと引っ込んだ。

ラムジュとの短い会話で、少しだけ気持ちが落ち着いた気がした。

その時、会場にアナウンスが響き渡った。


「続きまして、2年生、武術の部! 両校選手、入場!」

「いよいよだな、シュオ! なんか、俺、武者震いがしてきたぜ!」


隣にいたカイルが、興奮した様子でシュオの肩を叩いた。その手は、シュオと同じように、わずかに震えている。


「君もか、カイル...僕も、さっきから体の震えが、全然止まらないんだ。」

「お2人とも、落ち着いてくださいまし。」


そんな二人に、マリアが冷静な、しかし力強い声で言った。


「私が中央で指揮を取ります。カイルは右翼、シュオ様は左翼をお願いいたしますわ。」

「...分かった。マリィに従うよ。」


シュオは頷いた。今の自分には、マリアの自信に満ちた言葉が、何よりも頼もしく感じられた。

シュオ・セーレン、カイル・ディラート、そしてマリア・ガナッシュ。

サディエル王術学院2年生武術チームの3人は、それぞれの想いを胸に、観客の大歓声が響き渡る闘技場の舞台へと、ゆっくりと足を踏み入れていく。

シュオにとって、本当の意味での自分自身の力を試す、運命の対抗戦が、今、始まろうとしていた。

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