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〜Doragoon Life〜 最強種族の王子、転生して学園生活を謳歌する  作者: かみやまあおい
第2部

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第42話 魔力測定

ヒスイの月――サディエル王術学院では、全生徒を対象とした年に一度の魔力測定が行われる月だ。

自身の魔力量や安定度を客観的に知ることは、魔術師を目指す者にとって、そして自身の限界を知るという意味で剣術士にとっても、非常に重要な機会とされている。

しかし、シュオ・セーレンにとってこの魔力測定は苦い記憶しか呼び起こさない、憂鬱な行事でしかなかった。


一年前の測定。

シュオに下された判定は「E級」。

それは、測定可能な最低ランクであり、実質的に「魔術の才能皆無」という烙印を押されたも同然だった。

その結果が、彼を「落ちこぼれ」としてクラスメイトから嘲笑され、マッシュ・ランフォードによる執拗ないじめのきっかけとなったのだ。

当時のシュオの落ち込みようは尋常ではなく、親友であるカイルやリーザがどんなに励ましても、その心は深く閉ざされたままだった。


(今年も、またあの屈辱を味わうのか…。)


測定会場である大講堂に集められた生徒たちの中で、シュオは一人重いため息をついた。

周囲の生徒たちは、測定結果に期待したり、不安になったりと、どこかそわそわとした雰囲気に包まれているが、シュオだけは早くこの時間が終わってほしいと願うばかりだった。


「シュオ様、おはようございます。本日の魔力測定、シュオ様の素晴らしい結果を拝見できるのを楽しみにしておりますわ。」


不意に、隣から甘く、しかしどこか熱のこもった声がかかった。

見ると、そこには燃えるような赤い髪の少女、マリア・ガナッシュが、期待に満ちた瞳でシュオを見つめていた。


「あ、おはよう、マリィ…えっと、そんなに期待されても困るんだけど…」


シュオは苦笑いを浮かべるしかない。まさか、自分の魔力ランクが最低のE級だなんて、こんなキラキラした目で見つめてくる彼女に口が裂けても言えなかった。


「あら、ご謙遜を。シュオ様ほどのお方でしたら、A級は確実、もしかしたらS級もあり得るのではないかと、私は信じておりますわ。」

「い、いや、だから、それは本当に…」


シュオが必死に否定しようとしたが、マリアは「ところで」と、まるでシュオの言葉など聞こえていないかのように話を続けた。


「マリィは、以前アルドラの学院にいた頃、魔力測定でA級と判定されましたの。あと一歩でS級に届かなかったのが、今でも心残りでしてよ。」


さらりと言ってのけるマリア。

A級。それは、学院でもトップクラスの魔力量を持つ者だけが到達できる領域だ。ますます、自分のE級という結果を言い出しにくくなってしまった。


(ど、どうしよう…何か、話題を変えないと…)


「そ、そうだ! マリィは、どうして僕のこと、そんなに強いって思ってるの? 何か、きっかけとかあったの?」


シュオは、半ばヤケクソで、核心に触れるような質問をぶつけてみた。


「それはもちろん、あの魔獣との戦いでのシュオ様の獅子奮迅のご活躍を拝見したからに決まっておりますわ! あの絶望的な状況で、たったお一人で魔獣に立ち向かい、見事討伐されたお姿…! まさに英雄そのものでした! あの時、マリィの心は、完全にシュオ様に奪われてしまったのです!」


マリアは頬を上気させ、うっとりとした表情で語る。その瞳は、もはやシュオを通り越して、彼女の脳内にいる理想の英雄像を見ているかのようだ。


(やっぱり、あの時のことか…あれは僕じゃなくて、ラムジュなんだけどな…)


シュオは心の中でため息をついた。

その時、測定会場の前方から、担当教官の大きな声が響いた。


「次! シュオ・セーレン! 前へ!」


とうとう自分の番が来てしまった。


「シュオ様! いってらっしゃいませ! きっと素晴らしい結果ですわ!」


マリアが満面の笑みでシュオの背中を押す。


「う、うん…何を頑張るのかよく分からないけど…行ってくるね。」


シュオは重い足取りで教官の元へと向かった。

そこには去年と全く同じ水晶のような台座が設置されていた。

この台座に両手を置き、魔力を流し込む。すると、魔力量に応じて台座の色が変化し、その色によってランクが判定されるという仕組みだ。

教官に促され、シュオは恐る恐る台座に両手を置いた。

そして、深呼吸をして自分の中にある魔力を手のひらに集中させる。

ラムジュとの魔力混合の経験のおかげで、以前よりはスムーズに魔力をコントロールできるようになったはずだ。


台座が、ぼんやりと光り始めた。

無色だった台座が、淡い青色に変わり、そして、水色へと変化する。だが、色の変化はそこで止まってしまった。


「…シュオ・セーレン。第一次測定結果、D級。」


教官が、抑揚のない声で結果を告げる。

D級。去年よりは、一つランクが上がった。

この一年間の努力が無駄ではなかったことの証だ。シュオ本人としては、正直、少し満足していた。

しかし、周囲の生徒たちからの視線は、なぜか冷ややかだった。


「おい、シュオの奴、本気出してないのか?」「あれだけ去年派手にやったくせに、出し惜しみかよ。」「期待外れだな。」


そんな心無い陰口が、シュオの耳にも聞こえてくる。


(だから、去年大暴れしたのは僕じゃなくて、ラムジュなんだってば…!)


皆、あの魔獣討伐の時のラムジュの圧倒的な力を期待しているのだ。

今の自分は、まだその期待に応えられるほどの力はない。

場違いな雰囲気を感じ、シュオは一刻も早くこの場から立ち去りたくなった。

そのためにも早く二回目の測定を終わらせようと、再び台座に手を置こうとした、その時だった。


『おい、シュオ。なかなか面白そうなことをやっているじゃないか。少し俺に代われ。』


頭の中にあの忌々しい、しかし今はどこか頼もしくもある声が響いた。

一番話しかけてほしくないタイミングで、一番話しかけてほしくない相手――ラムジュだ。


「だ、ダメだよ、ラムジュ! そんなことしたら、ズルになっちゃうじゃないか!」


シュオは周囲に聞こえないように、小声で抗議する。


『何を今更。いいだろう? どうせ、周りの連中も、本当の『俺』の力とやらを期待しているんだろう。だったら、見せてやろうじゃないか。こいつらがひっくり返るような、圧倒的な力をな。』

「やめてよ! そんなことしたら、僕の今後の学院生活がどうなるか…!」

『ごちゃごちゃうるさい奴だな! いいから、さっさと代われ!』

「も、もう…! 分かったよ…! でも、絶対にやりすぎないでよ!」


結局、シュオはラムジュの強引さに押し切られた。

深いため息をつき、意識を集中させる。

『魔力混合』。シュオ自身の水属性の魔力を最大限まで高め、ラムジュの未知の属性の魔力と融合させる。

シュオの体から蒼い光と赤黒い光が溢れ出し、やがてそれが一つに溶け合い、純白の輝きとなって周囲を照らした。


「おおっ! シュオの奴、本気を出す気だぞ!」「やっぱり隠してたのか!」「さすがは魔獣殺し!」


周囲の生徒たちが途端に色めき立ち、期待の声を上げる。

やがて光が収まると、そこに立っていたのは先ほどまでの気弱な少年ではなく、絶対的な自信と威圧感を放つ、竜人族の王子ラムジュだった。

ラムジュはニヤリと不敵な笑みを浮かべると、再び台座に両手を置いた。


「それでは、第二次測定を開始します。台座に魔力を集中させてください。」


教官が少し緊張した面持ちで告げる。

ラムジュはその言葉に頷くと、両の手に先ほどのシュオとは比較にならないほどの膨大な魔力を集中させた。

瞬間、台座の色が目まぐるしく変化し始めた。

無色から、青、水色、黄色、紫、赤、そして、純粋な白へと。それは、S級を超える魔力を持つことを示していた。


「ま、まさか…! S級を…超えただと!?」


教官も、周囲の生徒たちも、驚愕に目を見開き言葉を失う。

しかしラムジュの勢いはまだ止まらない。


「うぉりゃああああああっ!!」


ラムジュが雄叫びを上げ、さらに強大な魔力を台座へと注ぎ込む。

台座が激しく振動し始め、純白の光は虹色の光へと変わり、激しく点滅を繰り返す。まるで、限界を超えた機械が悲鳴を上げているかのようだ。

そして、次の瞬間。


ボンッ!!!


けたたましい爆発音と共に、魔力測定用の台座は粉々に砕け散ってしまった。


『ラ、ラムジュ! だから、やりすぎるなって言ったじゃないか!』


シュオが意識の奥で悲鳴に近い声を上げる。


「うるさいな。俺のせいじゃない。この台座があまりにもショボすぎるのが悪いんだ。」


もうもうと立ち込める煙と飛び散った台座の破片を見下ろしながら、ラムジュは不満げに呟いた。

呆然とする教官が、震える声で結果を告げる。


「そ、測定結果……不明……」

「まあ! さすがですわ、シュオ様!」


いつの間にかラムジュのすぐ後ろに来ていたマリアが、興奮した様子でその腕に抱きついてきた。


「まさか、測定器そのものを破壊してしまうほどの魔力をお持ちだったなんて! マリィ、ますますシュオ様に惚れ直してしまいましたわ!」

「あー……悪い、シュオ。こいつ、どうも俺は苦手だ。後は頼んだ。」


マリアの熱烈なアプローチに耐えかねたのか、ラムジュは一方的にそう告げるとすっとシュオの意識の奥へと戻ってしまった。体の主導権を取り戻したシュオは、マリアに腕を絡まれたまま、呆然と立ち尽くす。


「…シュオ・セーレン君。悪いが、ちょっと…職員室まで来てもらおうか…」


粉々になった台座の残骸を前に、なんとか平静を装おうとしている教官の疲れたような声が響いた。

シュオは諦めたように天を仰ぎ、深いため息をつくしかなかった。

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