第39話 新生徒会出動
カイルとシュオが生徒会室に駆け込むとすでに他のメンバーが集まっていた。
新入生の3人も集まって何が起こるのか分からず戸惑っている。
「よし来たか。お前らで全員集合や。」
生徒会長のマティが全員揃ったところで会長席から立ち上がる。
副会長のリーザが準備をしようとしたところである事に気づく。
「シュオ君、その後ろにいる人は誰?」
リーザに言われてシュオが振り向くと、そこにはなぜか着いてきてしまったのかマリアが立っていた。
「マリィ!? なんでここにいるの!?」
「シュオ様が私を置いて慌てて走っていくからですよ。まさか生徒会室に来るとは思いませんでしたけど。」
リーザがつかつかとマリアに近づく。
「あなた、ここは生徒会役員しか入れない部屋よ! すぐに出てきなさい!」
「あんた何者? 私がシュオ様と一緒にいるのが気に食わないっていう訳?」
「シュオ君! いったいどういう事!? この女なんなの!?」
「あんたずいぶんとシュオ様に馴れ馴れしいけど、あんたこそ何者なのよ!」
女性2人がにらみ合う。間に電気がバチバチ走っているのが見える。
「あーもう、リーザはそんなに怒らんでええやろ! 今はそんな事しとる場合やない!」
間にマティが入り2人のにらみ合いを止める。
「それでマティさん、突然呼び出して何があったんですか?」
「ああ、王国騎士団から援軍の要請が来た。」
騎士団の要請という言葉に1年生の3人は「え!?」と驚く。
「1年生には言ってなかったな。俺達生徒会は王国騎士団から応援要請が来た時には手伝いに行く約束になっとるんや。」
「あ、あの...会長? 騎士団から、というのは本格的な戦闘に行くという事ですか...?」
ゼスが恐る恐る質問する。
「ああ、そうや。だから一番最初にシュオにテストしてもらったやろ。お前ら気合入れとかんと命落とすからな。」
マティからの厳しい言葉に1年生の3人はゴクリと唾をのむ。
「まあまあ、最初は無理せず後方で支援してくれればあとは俺達でなんとかするから大丈夫だよ。ここで最前線に出るのはマティさんとシュオだからさ。」
カイルが3人の緊張を解くようにフォローする。
「とりあえず今回は第二騎士団と第三騎士団が出撃している。それぐらい大量のモンスターが現れたって事や。」
「第二騎士団?」
シュオの頭に第二騎士団に所属する兄ラルフの顔が浮かぶ。
ラルフも戦闘に行っているのだろうか。
だとしたら一緒に戦う事もあるのか。
「とにかく事態は急を要する。学院の転送陣から一気に飛ぶで。」
転送陣、それは学院と王立魔導協会の共同で制作した転移装置だ。
座標を指定して装置を起動させれば一瞬でその座標に転移できる国家機密レベルのものである。
シュオは改めてマリアの肩にてを置く。
「マリィ、ここからは生徒会の仕事なんだ。生徒会ではないマリィは帰ってくれないかな。」
「嫌ですわ。自分の夫になる方が戦地に行くというのに自分だけ助かろうなんてガナッシュ家の恥です。私も一緒に行きます。」
シュオの説得にマリアは拒否する。
確かにマリアは強い。ついてきてもそれなりに活躍はするかもしれない。だけど危ない目に合わせてしまうかもしれない。
「ガナッシュ...ってあんたマリア・ガナッシュか。あんたの話は聞いた事ある。実力だけならこの中でもトップクラスやろ。しゃあないから今回だけはついてきてもええで。」
「マティさん!?」
「騎士団だって今は猫の手も借りたいぐらいなはずや。強いやつは1人でも多い方がいい。」
マティは真剣な顔になってシュオに言う。それだけ今回は切羽詰まっているのかもしれない。
「よっしゃ、全員5分で準備! その後転送陣で一気に飛ぶぞ!」
マティの声に全員「はい!」と返事した。
――――――――
転送装置で転送された場所、そこはとある森の中だった。
「ここは......?」
「生えている植物の種類からするとベロニアから東に離れた森ね。コボルド達が住処にしている森のはず。」
リーザの博識にメンバーは「ほー」と唸る。
その時、遠くから剣のぶつかる音と多数の悲鳴が聞こえた。
「あっちや、行くぞ!」
マティに続き全員走る。
森の中をしばらく掻き分けていくと、やがて木のない広い場所に出た。
そこで見たものにシュオ達は目を見張った。
第二騎士団と第三騎士団が共に連携を組んで戦っているのだが負傷者が多いようだ。
後ろに待機する魔導部隊が負傷者を必死に治癒している。
モンスターはコボルドだけではなく、様々な種族がいて大乱戦となっている。
だがモンスターたちの様子が少しおかしい。
「マティさん、あのモンスター達...なんか好戦的と言うより何かから逃げてきてる感じしませんか...?」
カイルの言う通り、モンスター達はどちらかと言うと道をふさぐ騎士団達をどかすために戦っているように見える。
「どういう事や...? さらに向こう側にとんでもないモンスターがいるとか言うんか...?」
そのうち騎士団の壁を抜けてきたモンスターが何体か生徒会の方に向かってくる。
「来たぞ!」
マティとカイルが武器を構える。
その時追いかけてきた騎士団が後ろからモンスター達を切り倒す。
「生徒会か! 大丈夫だったか!」
駆けつけてきた騎士は生徒会メンバー達に声をかける。そこで騎士の1人が反応を見せる。
「シュオ、お前も来ていたのか。」
「ラルフ兄さん!」
駆けつけた騎士の1人はセーレン家の長男、ラルフだった。
ラルフは第二騎士団の部隊長でもある。
「兄さん、敵は何かにおびえているようだけど。」
「ああ、向こうから何かとんでもないやつが来ているようだ。生徒会は後方で支援してくれればいい。騎士団でなんとかしよう。」
「でも兄さんに何かあったら僕は...!」
その時、はるか前方より大声が上がった。
「魔獣だ! この先から魔獣が向かってきている! 総員戦闘準備!」
走ってくる斥候部隊の後を黒い闇のオーラを纏った犬型のモンスター-『魔獣』が走ってきていた。
「あれは魔獣!?」
「またどこからか召喚されたっていうのか!?」
騎士団が武器を構え迎え撃つ。
魔獣はまっすぐ向かってくると騎士団達とぶつかり合った。
騎士達が魔獣に対して攻撃を繰り広げるも、普通の武器では魔獣に傷一つつける事も出来ない。
逆に魔獣の攻撃により騎士達は次々と怪我を負っていく。中には命を落とす者まで現れている。
(この状況はまずい...だけど今の状態でラムジュの力を使う訳には...)
シュオはちらっとラルフを見る。
ラルフは一生懸命騎士達を鼓舞しながら指揮をしている。
(せめて第二騎士団だけでもいなくなってくれれば......)
どうしたらいいかシュオが悩んでいる時だった。
「逃走しているモンスターが首都に向かっている! 第二騎士団はそっちのモンスター達を追ってくれ! ここは我々第三騎士団が引き受ける!」
離れた場所から声が聞こえる。
叫んでいたのは第三騎士団長のアイス・フォルドだった。
彼はシュオと眼が合うとウィンクをして見せる。どうやらうまく第二騎士団を連れ出してくれるようだ。
「分かった! 第二騎士団は首都に向かったモンスターの討伐に回る! 魔獣は第三騎士団に任せたぞ!」
騎士団長の言葉に第二騎士団員は魔獣を警戒しつつ移動を開始する。
「シュオ! 絶対に無理はするんじゃないぞ! 危なくなったらお前はすぐに逃げるんだ!」
ラルフは強く言いつけていくと他の騎士団員と一緒に移動していった。
「さて、この魔獣、シュオならやれるんか?」
邪魔だった第二騎士団がいなくなった事でマティはシュオに聞く。
「はい、僕とラムジュの力ならなんとかなります。」
シュオは一歩前に出る。そして目を閉じて自身の魔力を高める。
だんだんとシュオの体が光に包まれていく。そして最高潮に達した時、光がシュオの中に収束された。
「あ、あれは私と戦った時の......」
その光景を後方から見ていたマリアは自分とシュオとの闘いを思い出した。
自分の時もあの光の後、シュオが別人のようになり力もスピードも尋常ではなくなったのだ。
シュオの雰囲気も目つきもオーラもすべてが変わる。
普通の人間ではなく竜人族の王子、ラムジュとしての意識が覚醒した。
「......よし、準備はできた。犬コロなら前に戦っているから扱い方は分かってるし、躾を始めるか。」
シュオと入れ替わったラムジュは懐から短剣を抜いた。
かくしてラムジュと魔獣の戦いが再び開始されようとしていた。
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