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第3話 親友

サディエル王術学院の壮麗な校門が、朝日に照らされて輝いていた。

エシュに連れられてその前に立ったシュオは、これから始まるであろう未知の学院生活に、わずかな好奇心と、それ以上の面倒くささを感じていた。


「シュオ様、私はこれで失礼します。帰りにまたお迎えに上がります。」


エシュはそう言うと、シュオに一礼し、踵を返してセーレン家の屋敷へと戻っていく。その背中を見送りながら、シュオはふと視線を感じた。


校門のすぐ内側で、二人の生徒がこちらに向かって大きく手を振っていた。

一人は太陽の光を反射して輝くような金色の髪を持つ少年、もう一人は風にそよぐ若葉のような薄緑色の髪をした少女。どちらもシュオが見たことのない顔だ。当然、シュオは警戒心を露わにし、その二人を鋭い目つきで睨みつけた。

しかし、二人はシュオの険しい表情など意に介さない様子で、満面の笑みを浮かべながら駆け寄ってきた。


「シュオ! よかった、目が覚めたんだな! めちゃくちゃ心配したんだぞ!」


金髪の少年が屈託のない笑顔でシュオの肩を叩いた。その明るさは、まるで暗闇を知らない太陽のようだ。


「本当よ、シュオ君。三日も意識が戻らないなんて、私たち、気が気じゃなかったんだから。」


薄緑色の髪の少女も心底安堵したという表情で頷いた。その瞳には、心配と喜びが入り混じっている。

突然馴れ馴れしく話しかけられ、シュオは戸惑いを隠せない。


この二人は誰なのだ? 見たところ、自分と同じくらいの年齢のようだが、全く記憶にない。


シュオが返答に窮していると、先ほど立ち去ったはずのエシュが、いつの間にかシュオの隣に戻ってきていた。

彼女は駆け寄ってきた二人の生徒に向かって、静かに、しかしはっきりとした口調で告げた。


「カイル様、リーザ様。申し訳ございませんが、シュオ様は現在、先日の事故の影響で記憶を失っておられます。」

「ええっ!?」

「記憶喪失!?」


カイルと呼ばれた金髪の少年と、リーザと呼ばれた少女は、同時に驚きの声を上げた。二人は信じられないという顔で、シュオとエシュを交互に見る。


「うそだろ、シュオ!? 俺のこと、忘れちまったのかよ!?」


カイルがショックを受けた様子でシュオに詰め寄る。その純粋で傷ついたような瞳で見つめられ、シュオは思わず罪悪感のようなものを感じてしまった。


「…あー…すまん。全く、思い出せん。」


シュオはばつが悪そうに視線を逸らしながら答えた。

カイルはがっくりと肩を落としたが、すぐに気を取り直したように顔を上げた。


「そっか…まあ、仕方ないよな! じゃあ、改めて自己紹介だ! 俺はカイル・ディラート! お前の親友で、クラスメイトだ! よろしくな!」

「私はリーザ・フローレンス。カイルと同じく、あなたの幼馴染でクラスメイトよ。これからまた、少しずつ思い出していきましょうね。」


リーザも優しい笑顔で自己紹介をした。


(カイル…リーザ…親友、か)


シュオはラムジュとして生きていた頃を思い返した。

王子という立場、そして最強の戦士という肩書き。

周囲には常に臣下や兵士がいたが、その立場や肩書きに怯え、まともに自分に接触して来ようとする者はいなかった。

対等に、屈託なく話しかけてくる「友人」と呼べる存在はいなかった。

ヨーギは忠臣であり、師であり、兄のような存在ではあったが、友人とは少し違う。この感覚は、シュオにとって新鮮なものだった。


「カイル様、リーザ様。シュオ様のことを、どうぞよろしくお願いいたします。」


エシュは深々と頭を下げ、今度こそ本当に立ち去っていった。

残されたのは、シュオと、カイル、リーザの三人。


「さあ、シュオ! 教室に行こうぜ! 記憶がないなら、俺たちが色々教えてやるよ!」

「そうね。まずは自分の教室の場所から覚えなくちゃ。」


カイルとリーザは、ごく自然にシュオの両隣に立つと、校舎に向かって歩き出した。シュオも特に異論はなく、黙ってその後ろをついていく。

二人のまるで昔からの友人のように振る舞う姿に、シュオは奇妙な心地よさと、同時にわずかな居心地の悪さを感じていた。


巨大な校舎の中は、多くの生徒たちで賑わっていた。

様々な髪の色、様々な体格の少年少女たちが、楽しそうに談笑しながら廊下を行き交っている。

シュオはその光景を観察しながら、カイルとリーザの後を追った。階段を上り、三階へ。長い廊下を進み、一つの大きな教室の前で二人は足を止めた。


「ここが俺たちのクラスだ。」


カイルがそう言って、教室の扉を開けた。

教室の中には、すでに多くの生徒たちが集まっていた。

しかしシュオが教室に入った瞬間、それまでざわついていた教室が一瞬にして静まり返った。

全ての視線がシュオに集中する。だが、その視線には、好奇心や歓迎の色はない。むしろ、侮蔑、憐憫、そして明確な拒絶の色が浮かんでいた。

誰もシュオに話しかけようとはしない。まるで、汚物でも見るかのように、彼を避けているのが明らかだった。


(…なるほどな。このシュオという奴は、相当嫌われていたか、あるいは見下されていたらしい)


シュオはその冷たい視線に若干の苛立ちを覚えたが、表情には出さなかった。

ラムジュの頃には、これ以上の敵意や殺意に満ちた視線を浴びることもあったのだ。

この程度のことで動揺するほど、シュオは弱くはない。


「こっちだ、シュオ!」


カイルはそんな教室の雰囲気を気にする様子もなく、シュオの腕を掴むと窓際の一番後ろの席へと連れて行った。


「ここが俺の席で、シュオはこっち。リーザは隣な!」


カイルは自分の席に座ると、その隣の空いている席を指さした。シュオは黙ってその席に座る。リーザも、その隣の席に静かに腰を下ろした。

席に着くと、カイルとリーザは、早速シュオに色々なことを教え始めた。

このサディエル王術学院のこと、クラスの雰囲気、主要な教師の名前、そして、シュオ自身のこと――成績は常に下位で、特に魔術の実技は壊滅的であること、運動神経も鈍く、剣術の授業でも苦労していること、内気で臆病な性格であること、など。


「……」


聞けば聞くほど、元のシュオという少年が、いかに「落ちこぼれ」であったかが分かる。

シュオはそんな情けない人間に自分が転生してしまったことに、改めて溜息をつきたくなった。

しかしカイルとリーザは、そんなシュオのことを馬鹿にするでもなく、ただ心配そうに、そして親身になって話してくれている。

その事実はシュオのささくれた心を、少しだけ和ませた。

だがやはり記憶は戻らない。ラムジュにとって、シュオ・セーレンとしての人生は、完全に白紙の状態だった。

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