第33話 新入生
ダイヤモンドの月。
学院に新たにたくさんの生徒が入学してくる。
それぞれ将来に夢を抱き、目を輝かせている者がほとんどだ。
教室の窓からシュオとカイルはその風景を眺めていた。
「俺達も1年前はあんな風にキラキラ輝いてたよなぁ。」
「なんだよそれ。もう俺達は輝いてないみたいじゃないか。」
新入生を羨ましそうに見るカイルにシュオがツッコむ。
自分の1年前はどうだったか。
考えてみると半ば強制的にこの学院に入学させられたシュオ。
剣術もまともにできず、魔法すらも上手に扱えない自分を学院に入学させた親を恨んでいた気がする。
幼馴染のカイルやリーザに励まされ、それでもうまくできず、自分の部屋で落ち込んでいた日もあった。
それでもあの日、マッシュの行動で意識を失いそこにラムジュという竜人族の魂が入り込み、それ以来学院生活は一気に変わった。
自分の性格や体格もまるっと変わった。
今では落ち込むこともほとんどない。やる事にも自信がついた。
毎日の学院生活が楽しいものとして感じていた。
「2人とも、今日は生徒会室ではしっかりしててね。新入生が3人入ってくるんだから。」
後ろからリーザが声をかけてくる。
生徒会はガイアからマティに会長が変わってから方針が変わった。
今までは才能があり成績も優秀な生徒のみ生徒会に入れるようになっていたが、今後は生徒会で一緒に学院生活をいい物にしていきたいという志を持つ者は入れるようになっていた。
「分かってるよ。心配なのは俺達よりマティさんだろ?」
「それよね...あの人の事だから絶対何かやらかしそうなのよね...」
リーザは困ったように腕を組む。
元々マティは生徒会長という柄ではなく、賑やかし役と言った方が向いている。
だがなぜか前会長のガイアは自分の後継者としてマティを選んだ。
ひょっとしたらガイア自身も生徒会の雰囲気を変えてほしいというのがあったのかもしれない。
「とりあえず授業が終わったらさっさと生徒会室に行こうか。」
しゅおの提案にカイルとリーザは了承した。
――――――――
放課後、3人は荷物をまとめると急いで生徒会室へと向かった。
マティが何かをやらかす前に止めなければならない。
走って生徒会室まで行くとドアを開ける。と同時にパーンという音と共に紙吹雪が舞った。
「うぇるかむーようこそ生徒会へ......ってなんや、お前らかい。」
中でクラッカーを鳴らして新入生を迎え入れようとしていたマティが不満げに言う。
3人は遅かったか、と肩を落とす。
「マティさん! こんな事するのやめてください!」
ズカズカ中に入ったリーザは壁につけられた装飾を剥がしていく。
「何すんねん、リーザちゃん! せっかく準備したものを!」
「当たり前ですよ! 生徒会は遊び場じゃないんですから!」
ガンガンと生徒会室を片付けていくリーザ。それをがっくりした顔で見守るマティ。
『俺はこういうの好きだけどな』というラムジュにシュオは心でうるさいと言う。
結局シュオやカイルも手伝い部屋の掃除を完了させた。
「これでなんとか新入生を迎え入れられるわね。」
リーザは掃除用具を片付けるとパンパンと手のほこりを払う。
「まったくいつもこれや...生徒会長としての威厳はどこへやらや...」
「そう思うなら生徒会長らしいまともな事をしてください!」
マティの持っていたクラッカーを奪い取るとリーザはゴミ箱に投げ捨てる。
「リーザってすっかりお母さんみたいになったよな...」
「うん、僕もそう思う...」
カイルとシュオは小声でリーザの変化について話をした。
その時、トントンとドアをノックする音がする。
「新入生が来ちゃった! マティさんはそっちの椅子に座って! 生徒会長っぽくしてくださいね!」
リーザが慌ててマティを移動させる。
「しゃあないなぁ」とぼやきながらマティは移動する。
マティが椅子に座ったのを見てカイルとシュオがドアを開けた。
ドアの前には1年生と思われる生徒が3人立っていた。男子が1人、女子が2人だ。
「いらっしゃい、ようこそ生徒会へ! 中に入って座って!」
リーザが中から3人を呼び入れる。3人は若干オドオドしながら中のソファに座った。
「さて、私が副会長のリーザです。そこの会長机に座っているのが会長のマティさん。ドア横に立っているのは広報担当のカイルと生徒会幹部のシュオです。」
リーザがメンバーの紹介をする。
シュオの名前が出た時、男子の目が光り輝いた。
「シュオさんってあのシュオ・セーレンさんですか! 第五世界から現れた魔獣を倒し、剣術大会で準優勝したっていうあの!」
男子は立ち上がりシュオの元へ近づく。
「僕、ゼス・ドルファと言います! シュオさんに憧れて生徒会に来ました! 握手してもらえませんか!」
「え......ああ......ありがとう......」
シュオは差し出された手を握手する。
自分がまさかそんな人気者になっているとは思いもしなかった。
とはいえ半分ラムジュの力でもあるので心境としては難しいところだ。
「ゼス君、きみの事は分かったわ。いったん座って。他の2人の自己紹介も聞きたいから。」
リーザがゼスに注意するとゼスは「あ、すみません...」と言いながらソファに戻った。
「私はルア・サイルです。魔導師コースです。」
「わ、私はタニア・キュイ! ゼスと同じ剣術コースの1年生でゼスとは昔からの友達です!」
2人の女子も自己紹介をする。
「オッケー、分かった。3人とも生徒会に入りたいんやろ? そんならみんなで楽しい学院生活を送れるように学校をよくしていこうや。」
マティが話をまとめる。
「とりあえず、ルアちゃんはリーザちゃんの下について一緒に色々覚えてもらおうか。タニアちゃんとゼス君はシュオの元で一緒に動いてもらった方がええやろな。」
「え!?」
突然の事にシュオは驚きを隠せない。
「2人とも剣術コースなんやろ? だったらシュオに稽古つけてもらってまずは強くなってもらった方がええやろ。でないと死ぬことになるで?」
不意に出てきた死ぬ、という言葉。その意味を理解しているシュオは確かに、と思うが、理解ができていない2人は戸惑う。
「...分かりました。とりあえず2人は僕の下についてもらうね。」
「シュオ、とりあえずその2人の実力を見とき。闘技場を生徒会の名前で借りておくから。」
「今からですか!?」
「そや、早い方がいいやろ。一種の入会試験みたいなもんや。」
そう言うとマティは早速闘技場の予約システムに予約を入れる。
「分かりました...それじゃあ2人とも武器を持ってついてきてくれるかな。」
シュオの言葉に2人は「はい!」と返事をすると立ち上がる。
「頑張ってや~」というマティの言葉を背に受け、シュオ達は部屋を出た。
闘技場。
数か月前にここで剣術大会を行い準優勝という結果を出した。
もう数か月も経ったのか、シュオはなんか懐かしくなる。
「シュオさん、ここで何をするんですか?」
「ああ......多分生徒会長はキミ達の実力を見ておけって事だと思う。」
「それって学校内の治安を守るためには実力が必要って事ですか?」
「うーん......ちょっとまだ言えないけどそれ以外にも実力がないと難しかったりするんだよね。」
シュオはどこまで話をしていいか困りながら詰まったような答えを言う。
「とりあえず順番に僕と戦ってみようか。まずはゼス君からかな。」
「はい! シュオさんと剣を交える事ができるなんて光栄です!」
ゼスは腰につけた長剣を抜く。
シュオは腰から短剣を2本抜いた。
1本は兄ヨーカスからもらったもの、もう1本はラムジュが買ったという短剣。折れていたものを鍛冶師のリッテが直してくれていたのだ。
「それじゃ始めようか...」
「はい!」
シュオとゼスはお互いに構えを取った。
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