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〜Doragoon Life〜 最強種族の王子、転生して学園生活を謳歌する  作者: かみやまあおい
第1部

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第26話 特訓の成果

ベロニアの首都から北へ馬車で半日ほど揺られただろうか。

鬱蒼とした森を抜け、岩肌が剥き出しになった丘陵地帯に、その洞窟はぽっかりと口を開けていた。

入り口付近には、人の背丈よりも低い、歪な形の木々がまばらに生えている。

冷たく湿った空気が、洞窟の奥から漂ってきていた。


「ここが、依頼対象の洞窟だ。」


先に馬車から降りていたヨーカスが、洞窟の入り口を指さしながら言った。

シュオも緊張した面持ちで馬車を降りる。

洞窟の入り口の前には、すでに三人の人影があった。ヨーカスが合流するのを待っていた、彼のパーティメンバーたちだ。


「おお、ヨーカス。遅かったな。」


最初に声をかけてきたのは、その三人の中でひときわ小柄な、しかし頑強そうな体つきの男だった。

豊かな白い髭を蓄え、その背丈ほどもある巨大な戦斧を軽々と肩に担いでいる。鋭い眼光と、年季の入った革鎧が、歴戦の戦士であることを物語っていた。ドワーフだ。


「すまん、アルグ。少し手間取った。」


ヨーカスは短く詫びると、隣のシュオを示した。


「こいつは弟のシュオだ。今日は見学で連れてきた。」

「ほう、ヨーカスの弟御か。ワシはアルグ。見ての通り、しがないドワーフの戦士じゃ。よろしく頼むぞ、シュオ坊。」


アルグと呼ばれたドワーフは、ニカッと人の良さそうな笑みを浮かべ、ごつごつとした手を差し出してきた。

シュオは少し戸惑いながらも、その手を握り返す。想像以上に力強い握力だった。


「アルグの隣にいるのが、イドネス・ガウ。俺たちの中衛、魔術師担当だ。」


ヨーカスが次に紹介したのは、深い青色のローブを纏い、先端に宝玉が埋め込まれた杖を持つ、黒髪短髪の精悍な顔つきの男だった。

年の頃は三十歳手前だろうか。冷静沈着そうな雰囲気を漂わせている。


「イドネスだ。よろしく、シュオ君。今日は無理せず、後方で見ているといい。」


イドネスは軽く会釈をし、落ち着いた声で言った。その瞳には、シュオの実力を見定めるような、鋭い光が宿っている。


「そして、こちらがフィエリッテ。後衛で弓を担当している。」


最後に紹介されたのは、息をのむほど美しいエルフの女性だった。

陽光を浴びて輝く長い金髪、透き通るような青い瞳、そしてエルフ特有の尖った耳。

軽鎧に身を包み、背中には優美な曲線を描く弓を背負っている。見た目はシュオとさほど変わらないように見えるが、エルフの寿命を考えれば、実際はもっと年上なのだろう。


「フィエリッテよ。愛称はフィーアって呼んでね、シュオ君。」


フィエリッテは、柔らかく微笑みながら言った。その声は、まるで竪琴の音色のように心地よい。


「は、はい! シュオ・セーレンです! 今日はよろしくお願いします!」


シュオは緊張で声が上ずりながらも、三人に深々と頭を下げた。

ヨーカスの仲間は、皆、只者ではない雰囲気を醸し出している。

B級冒険者パーティというのは、これほどの実力者たちの集まりなのかと、シュオは改めて身が引き締まる思いだった。


「ふむ。ヨーカスの弟御なら、それなりに腕は立つんじゃろうな。今日は頑張らんといかんな、ヨーカス。」


アルグが悪戯っぽくヨーカスを肘で突く。


「…足手まといにならん程度には、鍛えてあるはずだ。」


ヨーカスは表情を変えずに答えたが、その声には微かな弟への期待が滲んでいるようにも聞こえた。


「まあ、話はこれくらいにして、さっさと潜るとしようか。ゴブリン退治とはいえ、油断は禁物だ。」


イドネスが杖を持ち直し、洞窟の入り口へと歩き出す。


「シュオ君は無理しなくていいからね。危なくなったら、すぐに私たちの後ろに隠れるのよ。」


フィエリッテが、シュオの肩を優しく叩きながら、気遣うように言った。

エルフの彼女は、どこかでシュオの境遇(落ちこぼれだった過去)を察しているのかもしれない。

フィエリッテもまたエルフの村で落ちこぼれと扱われ村を出て冒険者になるために特訓を続けたのだった。

だからこそシュオの境遇は他人事には思えなかった。

フィエリッテの優しさに、シュオは少しだけ心が和んだ。

五人は一列になり、洞窟の中へと足を踏み入れた。入り口から数歩進んだだけで、外の光はほとんど届かなくなり、完全な闇が訪れる。

ひんやりとした湿った空気が肌を刺し、岩壁を伝う水の滴る音だけが、不気味に反響していた。


「『ライト』。」


イドネスが短く詠唱すると、彼が持つ杖の先端の宝玉が、まばゆい光を放ち始めた。周囲がぱっと明るくなり、洞窟の内部が照らし出される。

壁はゴツゴツとした岩肌が剥き出しで、天井からは鍾乳石のようなものがいくつも垂れ下がっている。道は狭く、大人一人がやっと通れるくらいの幅しかない場所もあった。

先頭を歩くのは、屈強なドワーフのアルグ。その巨斧で障害物となりそうな岩を砕きながら進む。

次にヨーカス、そしてシュオ。

シュオの後ろには魔術師のイドネスが続き、最後尾を弓使いのフィエリッテが警戒しながら歩く。完璧な布陣だ。

しばらく洞窟の奥へと進んでいくと、不意にアルグが足を止め、低く唸った。


「…来たな。鼻が利く奴らめ。」


アルグの鋭い視線の先、通路の曲がり角から、複数の気配が近づいてくるのが分かった。キィキィという甲高い鳴き声と、小さな足音が、闇の奥から聞こえてくる。


「数は…十、いや、十五はいるか。ゴブリンの群れだ。」


ヨーカスが冷静に状況を判断し、腰の剣に手をかけた。


「配置につけ! シュオ、お前は前に出るな。俺の指示があるまで、一体だけ相手にしろ。無理だと思ったらすぐに引け!」

「は、はい!」


ヨーカスからの指示に、シュオは緊張しながらも頷き、兄から貰った魔銀鋼の短剣を鞘から抜いた。ひんやりとした金属の感触が、震える手に伝わってくる。


「イドネス、牽制を頼む! フィーア、後方から各個撃破!」

「承知した!」

「任せて!」


ヨーカス、アルグ、イドネス、フィエリッテ。四人の熟練冒険者たちは、瞬時にそれぞれの持ち場につき、臨戦態勢を整える。

次の瞬間、通路の角から、緑色の醜い小鬼たちが、錆びた剣や棍棒を振り回しながら、わらわらと姿を現した。

ゴブリンだ。知能は低いが、数が多く、集団で襲いかかってくる厄介なモンスター。


「キシャァァァッ!」


ゴブリンたちは、人間たちの姿を認めると、奇声を上げながら一斉に突進してきた。


「フンッ!」


先陣を切ったのはアルグだ。その巨斧が唸りを上げ、襲い来るゴブリンたちをまとめて薙ぎ払う。骨が砕ける鈍い音と共に、数匹のゴブリンが紙屑のように吹き飛んだ。


「貫け、『ウィンド・アロー』!」


フィエリッテの放った風の矢が、正確にゴブリンの眉間を射抜き、一撃で沈黙させる。彼女の弓術は、まるで精密機械のように正確無比だった。


「散れ!『ファイア・ボール』!」


イドネスの杖から放たれた火球が、ゴブリンの群れの中で炸裂し、数匹を炎に包む。阿鼻叫喚の悲鳴が洞窟内に響き渡った。

ヨーカスもまた、無駄のない動きでゴブリンたちの攻撃を捌きながら、的確に剣を振るい、一体、また一体と敵の数を減らしていく。

B級冒険者パーティの実力はシュオの想像を遥かに超えていた。あれだけいたゴブリンの群れが、あっという間に半数以下になっている。


(すごい…これが、本当の戦い…。)


シュオは兄たちの圧倒的な強さに息を呑んだ。しかし、感心している場合ではない。自分も戦わなければ。ヨーカス兄さんに、足手まといだと思われたくない。

シュオは意を決し、兄たちの戦いから離れ、一体だけ孤立していたゴブリンに狙いを定めた。


エシュさんとの訓練を思い出すんだ。落ち着いて、相手の動きをよく見て…。


「キィッ!」


シュオの殺気に気づいたのか、ゴブリンが汚らしい棍棒を振り上げ、こちらに向かって突進してきた。

来た! シュオは短剣を構え、ゴブリンの攻撃を受け止めようとした。

しかし――体が、動かない。

頭では理解している。


こう来たら、こう受け止めて、こう反撃する。エシュ先生に叩き込まれた動きは、体に染みついているはずなのに。


目の前で、醜い緑色の顔が、涎を垂らしながら迫ってくる。棍棒が振り下ろされる。分かっているのに、足がすくんで、一歩も動けないのだ。


(怖い…!)


初めて対峙する、本物のモンスター。訓練場の木剣とは違う、殺意をむき出しにした存在。その圧倒的な恐怖が、シュオの体を金縛りにしていた。


「シュオ! 何をやっている! エシュ殿との特訓を思い出せ!」


遠くで戦いながらも、シュオの様子に気づいたヨーカスが、檄を飛ばす。

兄さんの声が聞こえる。でも、ダメだ。体が言うことを聞かない。震えが止まらない。


「キシャァ!」


ゴブリンの棍棒が、シュオの頭上へと振り下ろされようとした、まさにその瞬間。


「危ない!『サンダー・ニードル』!」


横から飛んできた鋭い雷の針が、ゴブリンの側頭部を正確に貫いた。ゴブリンは短い悲鳴を上げ、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。イドネスが助けてくれたのだ。


「……あ……」


シュオは目の前で倒れたゴブリンの死骸を見つめ、呆然と立ち尽くすしかなかった。


結局、自分は何もできなかった。兄さんに声をかけてもらったのに、仲間が戦っているのに、恐怖に竦んで、ただ助けられただけ。


「もう終わりか。雑魚ばかりだったな。」


アルグが斧についた血を振り払いながら、つまらなそうに言った。ゴブリンの群れは、すでに全滅していた。


「シュオ君、大丈夫だった?」


フィエリッテが心配そうに駆け寄ってくる。


「…すみません…僕、何もできなくて…」


シュオは俯き、消え入りそうな声で謝った。情けなくて、悔しくて、涙が出そうだった。


自分は、やっぱり落ちこぼれのままなんだ。いくら訓練しても、いざという時に動けない臆病者なんだ。


「まあ、初めての実戦ならこんなものだろう。気にすることはない。」


イドネスが、慰めるように言ったが、その言葉はシュオの心には響かなかった。


「……」


ヨーカスは何も言わず、ただ黙ってシュオのそばを通り過ぎ、洞窟の奥へと歩き始めた。その無言が、シュオには何よりも重く感じられた。兄さんは、きっと失望したに違いない。


(やっぱり、僕なんかがついてくるべきじゃなかったんだ…。)


重い足取りで、シュオは仲間たちの後を追った。初めての冒険は、ほろ苦い失敗と、深い自己嫌悪だけを残して終わろうとしていた。

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