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〜Doragoon Life〜 最強種族の王子、転生して学園生活を謳歌する  作者: かみやまあおい
第1部

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第24話 失われた3ヶ月

サディエル王術学院の片隅にある、エア・グリニスの研究室。

そこにシュオが通い始めてから、3日が経過していた。

部屋の中は相変わらず、怪しげな薬品の匂いや、用途不明な魔導具が発する微かな動作音で満ちている。


「うーん、やっぱり何度測定しても、今のシュオ君の魔力波形は、ごく標準的な水属性のものねぇ。3ヶ月前の記録にあるような、雷や炎、ましてや未知の属性の痕跡なんて、全く見当たらないわ。」


エアは、シュオの体に様々な測定器具を取り付けながら、少し残念そうに呟いた。

彼女の研究対象としては、以前の「別人格のシュオ」の方が、遥かに興味深い存在だったようだ。


「そうですか…。」


シュオは少しがっかりしながら答えた。

自分の中に眠るかもしれない、あの強大な力の片鱗だけでも感じ取れないかと期待していたのだが、そう簡単にはいかないらしい。


「まあまあ、そんなに落ち込まないで。時間はかかるかもしれないけれど、根気強く調査を続ければ、きっと何か分かるはずよ。」


エアはシュオの肩をポンと叩き、励ますように言った。

そして、悪戯っぽい笑みを浮かべると、付け加えた。


「…それとも、このまま原因が分からなくて、ずーっとこの部屋に通い続けて、私の可愛いペットになっちゃうっていうのも、悪くないかもね?」

「え、ペット!?」


シュオは顔を赤くして後ずさった。


「そ、そんなの嫌ですよ!」

「あら、残念。」


エアはクスクスと笑いながら、「冗談よ、冗談。さ、今日の検査はこれでおしまい。また明日、いらっしゃい。」と言った。

エアの言葉に(そして若干の恐怖から)逃げるように、シュオは研究室を後にした。


外に出ると、空はすでにオレンジ色に染まり、夕暮れの涼しい風が頬を撫でる。季節は確実に、冬へと向かっている。

カイルとリーザには、エア先生の研究室に通う間は待たずに先に帰るように伝えてある。

校門まで行くと、予想通り、二人の姿はもうなかった。一人で帰る通学路は、少し寂しい。


(…僕が眠っていた、空白の三ヶ月…。)


シュオは、とぼとぼと一人で大通りを歩きながら、考えずにはいられなかった。

あの間、自分の体を使っていた「誰か」は、一体どんな日々を過ごしていたのだろう。

カイルやリーザの話を聞く限り、それは決して穏やかなものではなかったはずだ。

マッシュとのいざこざ、ガイア会長との決闘、そして魔獣との死闘。まるで、物語の主人公のような、波乱に満ちた日々。


(僕には、そんな力も勇気もないのに…。)


元の、臆病で落ちこぼれだった自分。そして、突如として現れた、圧倒的な力を持つ、もう一人の自分。そのギャップに、シュオは混乱し、そして劣等感のようなものを感じていた。

そんなことを考えながら歩いていると、突然、背後から明るく、力強い声がかけられた。


「あれ? もしかして、シュオじゃんか!」


振り返ると、そこには見慣れない、しかしどこか印象的な女性が立っていた。

歳は二十代前半くらいだろうか。長い青い髪をポニーテールにし、日に焼けた健康的な肌をしている。

鍛冶作業用の革エプロン姿だが、その下には、鍛え上げられたしなやかな筋肉と、女性らしい豊かな曲線美が見て取れた。

特に、エプロンで強調された胸元は、目を引くほど豊満だ。


「…あの、すみません。どなたですか?」


シュオは、見覚えのないその女性に、戸惑いながら尋ねた。

女性はシュオの言葉に一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに合点がいったというように、ニッと笑った。


「あー、そっかそっか。前に会った時とは、なんか雰囲気違うもんな。私だよ、私! リッテ! リッテ・カーネルだって!」


リッテ・カーネル。その名前にも、シュオには全く聞き覚えがなかった。


「…すみません、やっぱり分からないです。ひょっとして、人違いじゃ…?」

「はあ? 人違いなわけないじゃんか!」


リッテは呆れたように腰に手を当てた。


「あんた、どう見てもシュオ・セーレンだろ? その顔、その制服。間違いないって!」


リッテの確信に満ちた言葉にシュオは確信した。この女性もまた、自分が失った三ヶ月の間に出会った人物なのだと。


「…あの、リッテさん、ですよね?」


シュオは少し緊張しながら尋ねた。


「すみません、実は僕、少し前に事故に遭って、ここ三ヶ月くらいの記憶が、すっぽり抜け落ちちゃってるんです。だから、リッテさんのことも、覚えてなくて…。」

「え? 記憶喪失? マジで?」


リッテは、驚いたように目を見開いた。


「道理で、なんか雰囲気違うと思ったんだよなー。前のあんたは、もっとこう…目つきが悪くて、偉そうで、近寄りがたい感じだったからさ。」

(やっぱり…そんな感じだったんだ…)


シュオはリッテの容赦ない評価に、あはは、と乾いた笑いを漏らすしかなかった。どうやら、もう一人の自分は、相当性格が悪かったらしい。


「でもさ、」


リッテは、少し真面目な顔になって付け加えた。


「前のあんた、確かに態度はデカかったけど、見る目は確かだったよ。このベロニアで、私の作った武具の本当の価値を見抜いて、ちゃんと褒めてくれたのは、あんたが初めてだったんだから。」

「僕が…リッテさんの武具を…?」

「そうだよ。あの時、収穫祭の露店でさ。あんた、私が作った『月鋼』の短剣を見て、『これほどの業物の価値が分からんとは、ここの連中の目は節穴だ』なんて、偉そうに言ってたじゃないか。」


リッテは当時のことを思い出したのか、クスクスと笑った。


(武具の価値を見抜く…? 僕に、そんな知識や経験があるわけないのに…。)


シュオは、改めて自分の中にいた「誰か」の存在を強く意識した。その人物は、ただ強いだけでなく、武具に対する深い造詣も持っていたらしい。


(やっぱり、僕とは全く違う…別の魂が、僕の体に入っていたのかもしれない…。)


エア先生の仮説が現実味を帯びてくる。


「それにあんたその後の学院祭で私の短剣を買っていってくれたじゃないか。私との約束も守ってくれたし、そこそこ高い短剣を買っていってくれたし、あんたは私にとっては大事なお客様だよ。」

「短剣...ですか...」


もう1人の自分は短剣を買っていた。

ヨーカスが自分にくれたのも短剣だった。

確かに自分の体じゃ長剣を使うには貧弱だった。

きっと短剣なら扱えるだろうと考えたのか。

そういうところまで分析していたのか。

シュオは改めてもう1人の自分の凄さを痛感する。


「ところでシュオ、なんでまた急に記憶が戻ったんだ? 入れ替わってた魂は、どっか行っちまったのか?」


リッテが不思議そうに尋ねてきた。


「それが…僕にもよく分からないんです。」


シュオは正直に答えた。


「気がついたら、目が覚めてて、三ヶ月経ってたって感じで…。」

「ふーん、なるほどねぇ。」


リッテは腕を組み、何かを考えるように唸った。


「ま、難しいことはよく分かんないけどさ。今のシュオは、前の尖ってた頃より、話しやすいし、可愛いから、私はこっちの方が好きかもな。」

「えっ…。」


リッテの意外な言葉に、シュオは少し顔を赤らめた。前の自分の方が良かったと言われると思っていたから、少し驚いたのだ。


「あ、いや、もちろん、前のシュオも、なんていうか、ミステリアスでカッコよかったけどね!」


リッテは慌てて付け加えたが、その言葉はどこかぎこちなかった。


(…前の僕の方が、好きだった、か。)


シュオはリッテの最初の言葉を思い出し、胸の奥がチクリと痛むのを感じた。

やはり、あの強くて、自信に満ちた「もう一人の自分」の方が、魅力的に見えた人もいたのだろうか。


「と、とにかく、そういうわけなんです。だから、もし以前の僕が何か失礼なことをしていたら、すみません。」


シュオは頭を下げた。


「はは、気にすんなって! 別に何もされてないし。」


リッテは豪快に笑い飛ばした。


「それより、記憶がないんじゃ大変だろ? 何か困ったことがあったら、いつでも私を頼れよな! 鍛冶屋の仕事の合間なら、話くらい聞いてやるからさ。」

「…ありがとうございます、リッテさん。」


シュオは、リッテの優しさに心から感謝した。

リッテと別れ、シュオは再び一人で家路についた。空はすっかり暗くなり、街灯の明かりが道を照らしている。


(僕も…強くならなきゃ…。)


リッテとの会話で、シュオの心には、新たな決意が生まれていた。

いつまでも、失われた三ヶ月間の「もう一人の自分」に劣等感を抱いているわけにはいかない。

今の自分自身が強くならなければ。あの「誰か」に頼るのではなく、自分の力で、未来を切り開いていかなければならない。

セーレン家の屋敷に戻ると、シュオはアーニャにカバンを預けるのもそこそこに、真っ直ぐにある場所へと向かった。

それは屋敷の裏手にある簡素な訓練場。そしてそこにいたのは、いつも黙々と剣の鍛錬に励んでいる、女戦士エシュの姿だった。


「エシュさん。」


シュオは、真剣な表情でエシュに声をかけた。


「…シュオ様。どうかなさいましたか?」


エシュは鍛錬を中断し、訝しげにシュオを見た。シュオが自ら訓練場にやってくることなど、これまで一度もなかったからだ。

シュオは、昨日ヨーカス兄さんからもらった魔銀鋼の短剣を抜き、その切っ先をエシュに向けた。…のではなく、柄をエシュに向けて差し出した。


「エシュさん、お願いがあります。僕に…僕に、剣術を教えてください!」


シュオは、頭を下げ、力強い声で懇願した。

エシュはそのシュオの言葉とこれまで見たこともない真剣な眼差しに、一瞬、言葉を失った。

エシュは、シュオが幼い頃からこのセーレン家に仕え、彼の成長(というより、その才能のなさ)をずっと見てきた。

剣術に関しても何度か指導しようとしたことはあるが、シュオはいつもすぐに音を上げ、逃げ出してしまっていたのだ。

そのシュオが自ら剣術を教えてほしいと願い出てきた。これは、エシュにとっても予想外のことだった。


「…シュオ様。」


エシュは冷静さを取り戻し、静かに言った。


「失礼ながら申し上げますが、シュオ様の剣術の才は、決して高いものではございません。今から本格的に剣術を学ぼうとなされば、相当な苦労と努力が必要となりますが…それでも、よろしいのですか?」

「はい! 構いません!」


シュオは、迷いのない、強い意志のこもった目でエシュを見つめ返した。


「僕は、強くなりたいんです。自分の力で、大切なものを守れるように。どんなに辛くても、絶対に諦めません。だから、お願いします!」


その、まっすぐで、純粋な少年の決意に満ちた眼差しに、エシュの心が動かされた。

これまで見てきた、臆病で諦めの早かったシュオとは明らかに違う輝きが、今の彼にはあった。


「……分かりました。」


エシュは厳かな表情で頷いた。


「シュオ様のその覚悟、確かに受け止めました。よろしいでしょう。明日より、私がシュオ様の剣術指南役を務めさせていただきます。ただし、私の指導は厳しいですよ。途中で泣き言を言っても、容赦はいたしません。」

「はい! 望むところです! よろしくお願いします、エシュさん!」


シュオは、顔を輝かせ、深々と頭を下げた。その顔は、希望に満ちた、純粋な少年の笑顔だった。

こうして、シュオ・セーレンの、本当の意味での「自分自身」を取り戻すための、そして、新たな力を手に入れるための、厳しい修練の日々が始まろうとしていた。

失われた三ヶ月間の謎、そして自分の中に眠るかもしれない「もう一人の自分」の正体。それらを解き明かすためにも、まずは今の自分が、強くならなければならない。

シュオの心には、確かな目標と、揺るぎない決意が灯っていた。

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