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〜Doragoon Life〜 最強種族の王子、転生して学園生活を謳歌する  作者: かみやまあおい
第1部

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第16話 生徒会の正体

重い扉が閉まる音が、静まり返った生徒会室に小さく響いた。

カイルとリーザが出て行った後の空気は、先ほどまでのわずかな喧騒が嘘のように、張り詰めた静寂に満ちている。

窓から差し込む西日は徐々にその角度を下げ、部屋の中に長い影を作り始めていた。壁に掛けられた大時計の振り子が、カチ、カチ、と単調なリズムを刻む音だけが、やけに大きく聞こえる。


先に沈黙を破ったのは、生徒会長のガイアだった。

彼はデスクから離れ、窓際に寄りかかり腕を組んで外を眺めているシュオに向き直った。

その銀灰色の瞳には、先ほどカイルたちに見せた冷徹さとは違う、純粋な探求心のような光が宿っていた。


「さて、シュオ。二人きりになったところで、改めて聞かせてもらおうか。今回の件、お前はどう思う? 本当に、巷で噂されているような『魔獣』が、この学園の敷地内に出没したと思うか?」


問いかけられたシュオは、窓の外から視線を動かさないまま、肩をすくめるような仕草を見せた。夕陽に照らされた彼の横顔は、どこか影があり、その表情を読み取るのは難しい。


「さあな。見てみないと分からない、としか言えない。だが…」


シュオはわずかに間を置いて続けた。


「そもそも、この世界…というか、この辺りの地域で、そんな大層な『魔獣』なんてもんが出るのか?」


『魔獣』——それは第五世界にのみ存在すると言われる特殊なモンスターである。

そんなものが第四世界に現れるというのはそもそもあり得ない話だった。

だが第三世界の自分が第四世界に転生している事を考えると意外とあるのかもしれない。


シュオの言葉に、ガイアは小さく頷いた。


「その通りだ。少なくとも、公式な記録が残っている限り、このサディエル王術学院のあるラスティーナ地域で、『魔獣』と分類されるような強力な個体が出現したという報告は、この数十年、一度もない。当然、王国騎士団にも、そのような情報は上がっていないはずだ。」


ガイアはそう言うと、部屋の奥、壁一面を埋め尽くす巨大な本棚へと歩み寄った。年代別に整理された背表紙の中から、迷うことなく一冊の分厚いファイルを取り出す。それは黒い革で装丁され、金文字で『ラスティーナ管轄区域 モンスター出現記録 - 過去30年』と記されていた。

彼はそのファイルを抱えてシュオの元へ戻ると、近くのテーブルの上に広げ、特定のページを開いて見せた。


「これを見ろ。これは過去30年間に、この都市周辺で確認されたモンスターの出現報告をまとめたものだ。騎士団から極秘裏に共有されている情報も含まれている。出現日時、場所、モンスターの種類、個体数、討伐または撃退した際の状況、担当した部隊や個人の名前まで、詳細に記録されている」


シュオは、やや訝しげな表情で、そのファイルに視線を落とした。

几帳面な文字でびっしりと書き込まれたページには、確かにガイアが言った通りの情報が、驚くほど体系的に整理されていた。

地図には出現ポイントがマークされ、各種データはグラフ化されているものもある。まるで軍事機密文書のような緻密さだった。


「…これは…」


シュオの眉が驚きに跳ね上がった。


「ゴブリンの小隊規模出現、地点デルタ7、第三騎士小隊および学園教員2名により殲滅。被害軽微…。オークリーダー個体、単独出現、地点アルファ3、生徒会役員(当時)ガイア・アッシュフォードにより討伐…おいおい、あんたも戦ってんのか。」

パラパラとページをめくるシュオの指が、ある箇所で止まった。


「グリフォンの目撃情報、山岳部にて。飛行経路確認、被害なし…。リザードマンの集落発見、湿地帯にて。騎士団本隊により制圧…」


膨大な記録の中に、「魔獣」という言葉はどこにも見当たらない。噂されているような、正体不明の強力な存在を示す記述は皆無だった。


「…凄まじい情報量だな。だが、それ以上に驚いた。」


シュオは顔を上げ、疑念のこもった目でガイアを見た。


「おい、会長。このサディエル王術学院ってのは、いったいどういう場所なんだ? いくら名門とはいえ、ただの学校だろう。どうして騎士団の機密情報レベルのものが、こんなところにある? 普通、こんな情報は共有されないはずだ。」


シュオの当然の疑問に、ガイアは再び腕を組んだ。その表情は真剣そのものだった。


「これは本来、生徒会長と一部の教員のみに知らされる機密事項だ。だが、お前には話しておいた方がいいだろう。…このサディエル王術学院は、単なる教育機関ではない。王国騎士団とは密接な協力関係にあり、モンスター討伐作戦において、陰ながら支援を行っている。特に、学園敷地内や近隣地域でのモンスター出現に対しては、我々が初期対応を行うケースも少なくない。場合によっては、選抜された生徒…特に生徒会のメンバーや、戦闘能力の高い教師が、騎士団と連携して前線に出ることもある。」

「なんだって…?」


ガイアの告白に、シュオは思わず目を見開いた。


学生や教師が、騎士団と肩を並べてモンスターと戦う? それが、この世界の常識だというのか?


シュオの脳裏に、かつて自身が生きた世界の記憶が蘇る。

彼が『ラムジュ』として生きた竜人族の世界では、戦いは屈強な戦士たちの専売特許だった。

もちろん、若者を育成するための訓練機関は存在したが、それはあくまで戦士となるための準備段階であり、学生や教官が実戦、それも命の危険が伴うモンスター討伐の最前線に駆り出されるなど、考えられないことだった。

それは国や種族の未来を担う者を危険に晒す、愚かな行為だとされていた。


「…この国は、そんなに人材が不足しているのか?」


シュオは無意識のうちに、首を捻りながら呟いていた。


「まだ学ぶべき立場の子供や、教える側の人間まで駆り出さなければならないほど、この王国は弱いのか?」


その言葉を聞いた瞬間、ガイアの表情が初めて明確な驚きに変わった。彼はシュオの顔をじっと見つめ、銀灰色の瞳をわずかに細めた。


「シュオ…? お前、何を言っているんだ? お前は確か、有力な貴族であるセーレン家の…それも傍流とはいえ、相応の地位にある家の息子だったはずだ。貴族ならば、国を守るために、身分に関わらず力を尽くすことの重要性を理解していると思っていたが?」


ガイアの指摘は的確だった。貴族階級の人間ならば、国への奉仕や貢献を当然のことと考えるのが、この国の価値観だ。

ましてや、近年はモンスターの活動が活発化しており、騎士団だけでは手が回りきらない場面も増えている。学園が協力するのは、ある意味で当然の流れとも言えた。シュオの発言は、その常識から大きく逸脱していた。


「あ…!」


シュオは内心で舌打ちした。迂闊だった。今の自分は、この世界の常識の中で生きる『シュオ・セーレン』という名の少年のはずだ。元竜人族の戦士『ラムジュ』としての価値観が、思わず口をついて出てしまった。彼が別人であるという事実は、ガイアには絶対に知られてはならない秘密なのだ。


「いや、そういう意味ではなくてだな…つまり、その、効率というか、専門性というか…」


シュオが慌てて言い訳の言葉を探そうとした、まさにその時だった。


「きゃあああああっ!」

「うわあああっ!」


突然、生徒会室の外、それもそう遠くない場所から、若い男女の悲鳴が響き渡った。それは明らかに恐怖に満ちた、切羽詰まった叫び声だった。

静寂を切り裂くその音に、ガイアとシュオは同時に顔色を変えた。


「今の声は…!」


ガイアの目が鋭く光る。


「まさか…もう出やがったか!」


シュオは窓際から飛び退き、臨戦態勢をとった。言い訳などしている場合ではない。第一陣として見回りに出ていた二人が、予想よりも早く『何か』に遭遇したのだ。しかも、あの悲鳴の様子からして、ただ事ではない。


「いくぞ、シュオ!」


ガイアが叫ぶと同時に、二人は生徒会室の扉を蹴破るような勢いで飛び出した。夕暮れの赤い光が差し込む廊下の向こうから、依然として断続的な悲鳴と、何かが破壊されるような鈍い音が聞こえてくる。

ガイアの予測は、良い意味でも悪い意味でも的中した。

そして、その『何か』は、彼らの想定よりも遥かに早く、そして近くに現れたのだった。

二人は悲鳴が聞こえた方角へと、全速力で駆けていった。

廊下に二人の荒い息遣いと、床を蹴る足音だけが響いていた。

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