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響かない心のメロディー

佐倉美月は清峰高校の教室で、窓の外の11月の紅葉を見ていた。高2、17歳。机の上で、麻生翔太の指と軽く触れ合う。学園祭の「本音のハーモニー」で本音を叫び、翔太と付き合い始めたばかりだ。翔太は乱れた黒髪を掻き、笑う。「佐倉、なんか顔赤くね?」美月は「うるさいよ、麻生」と返すが、頬が熱い。学園祭から1カ月、2人はぎこちなくも恋人同士。でも、美月の心には影がある。妹の高橋葵が、最近目を合わせない。

佐倉家に帰ると、リビングで母が言う。「葵、数学のテスト、また60点? 美月はいつも90点以上だったのに。どうしてあなたはできないの?」母の声は軽いが、葵の肩が縮こまる。中3、15歳の葵は、姉と比べられるたび心が軋む。美月は完璧だ。勉強、部活、友達、恋人。葵はピアノを弾くがミスばかり、テストは赤点ギリギリ、友達は表面的だ。母の「美月みたいに頑張りなさい」が胸に刺さる。夜、部屋で葵は鏡を見る。「私、ほんとに姉貴の妹?」自分の存在が薄くなる気がする。

翌朝、教室で美月が翔太に言う。「葵、なんか変なんだ。昨日、私のこと無視したみたいで…」翔太は眉を上げる。「お前の妹? あの金髪ポニーテールの葵か? いつも元気じゃねえか?」放課後、翔太が佐倉家を訪れると、葵の姿が薄い。美月は気づくが、母は「葵? 部活でしょ」と平然。翔太は目を細める。「これ、思春期症候群だろ。去年の俺の時と同じだ」美月の胸が締め付けられる。学園祭で10人の仲間を救ったのに、妹が消えるなんて。

翔太と美月は葵を旧校舎の音楽室に連れる。埃っぽいピアノの脇、10年前の楽譜が残る。「本音を響かせろ」と書かれたメモ。葵は俯く。「私、姉貴みたいにできない。何やってもダメ。母さんも、姉貴も、私のこと見てない」彼女の声は震え、姿が半透明に。美月は息を呑む。「葵、そんなこと…」葵が叫ぶ。「姉貴はいつも完璧! 私、いる意味ないよ!」涙が床に落ち、姿がさらに薄くなる。翔太が言う。「おい、葵、隠すな。バレバレだぞ。お前の本音、俺が見てる」

葵の心が軋む。母の「美月みたいにできないの? ほんと、うちの子?」が頭で響く。ピアノの発表会でミスして笑われた夜、友達のLINEで「葵、いるだけでいいよ」と書かれ、裏で「空気」と囁かれた。美月は成績優秀、友達に囲まれ、翔太と笑い合う。葵の胸は焦りと嫉妬で焼ける。「なんで私、ダメなの?」鏡に映る自分が薄くなる。消えたい、でも消えたくない。誰かに見てほしいのに、誰も見てない。拳を握り、喉が詰まる。「姉貴のせいで…私がこんな目に…」でも、心の奥で知ってる。美月を恨みたいわけじゃない。自分を信じられないだけだ。

美月は葵の手を握る。「私、完璧なんかじゃない。SNSでボロクソ言われて、毎晩泣いてた。頑張っただけだよ、葵」声が震える。学園祭で「見ててほしい」と叫んだ夜、翔太に「俺が見てる」と言われたこと。努力の裏で、怖くて眠れなかった夜。美月は葵を抱きしめる。「お前は私の妹だよ。ダメなんかじゃない」葵の涙が止まらない。「姉貴…私、怖かった。消えるのが怖かった…」

翔太が言う。「葵、お前の本音、隠すな。俺も美月も、ちゃんと見てる」彼は美月の手を握り、葵を見つめる。葵はピアノに触れる。「私、ピアノ好きだけど…下手でもいい? 姞貴みたいじゃなくていい?」美月が頷く。「お前は葵だよ。それでいい」葵が鍵盤を叩く。ぎこちない音が響き、姿が戻る。翔太が笑う。「いい音だな、葵」

学校近くの浜辺で、3人は夕陽を見る。波音が響く。葵が呟く。「母さんに、ピアノ続けたいって言う。私、姉貴の真似じゃなく、私でいいよね?」美月が笑う。「当たり前だよ」翔太が肩を叩く。「お前ら、姉妹揃ってうるせえな。まあ、悪くねえ」美月が翔太を睨むが、頬が赤い。葵が笑う。「姉貴、翔太さんとラブラブじゃん」美月が「バカ!」と叫び、3人で笑い合う。

家で、母が言う。「葵、テストまたダメだったの? 美月は…」葵が遮る。「母さん、私、ピアノ頑張るよ。美月姉貴みたいじゃなくていいよね?」母は驚き、笑う。「そうね、葵は葵でいいわ」美月が翔太の手を握り、葵を見つめる。「これからも、ずっと見ててやるよ」翔太が笑う。「お前もな、佐倉」

END

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