おじさん、旅への一歩
急に一緒に旅に出ようと言うおじさん。
少女はその言葉に困惑してしまう。
でも、おじさんは説得していく。
少女は旅に出ることを、願うのか。
見ていこう。
俺の急な言葉に、ミラちゃんは驚きを隠せないようだった。それも無理はない。こんな話を突然にされて、受け入れられることではないだろう。
でも、今は話をするのが先だと思って、そのまま俺は話を続けていく。
「君はもっと世界を見ていったらいいなって思うんだ。たくさんの楽しい事が、世界に溢れてるんだから。」
『楽しい…事…?』
「そう!色んな事が経験できる。ここでは見れない花、知らない動物、見たこともない景色、たくさんの人がいる街!」
「花…街…。」
「そう!君が知らない事が、世界にはたくさんある!」
俺は演説をするかのように、ミラちゃんに向かって話して大きく手を広げて顔を近づける。
それくらいミラちゃんに旅に出て、世界を知って楽しんで欲しいと思っている。
ミラちゃんが戸惑っているのがわかる。分かってはいるが説得をしたくて、俺はさらに続けた。
「いいかい?君はもっとたくさんの事を知るべきだ。怖い事もあるかもしれない。苦しい事もあるかもしれない。
でもそれ以上に、美しくて、輝かしくて、楽しいことがいっぱいある。その事を君に知っていってほしい。」
『おじさん…。』
手を広げて、これからのことをミラちゃんに伝える。俺の居た世界にも、たくさん体験できる事があった。
なら、この世界でも、たくさんの景色や物などがあるだろうから、様々な事を体験できるはずだ。
貴重なこれからの時間を色んな体験をすることに使ってほしい。
小さくて狭い世界ではなく、大きくて広い世界を、鳥のように大空へ羽ばたけるように、俺はミラちゃんの手を取って、一緒に行きたいんだ。
そう言う思いを込めて、ミラちゃんへと話す。
「それにね、俺もこの世界を知りたいんだ。俺にとっては知らない世界だから。」
『私が、おじさんを…。』
「こーら。殺した訳じゃないんだよ。たまたま起こった出来事なんだ。気にする事はないよ。」
『でも…。』
まだ、俺を殺したと言う事に囚われてしまっているミラちゃんの肩に俺は両手をかける。
怒られると思ったのだろうか、ミラちゃんはグッと体をグッと縮こめる。
俺の行動一つ一つが怖いからだろう。少し悲しい気持ちになったが、それでも大事なことは伝えなければいけない。
意を決して、ミラちゃんに伝える。
「ミラちゃん。こうして出会えたのは、きっと必然なんだと、俺は思う。」
『ひつぜん…?』
「そう。出会う運命だったから、今、この時を過ごしているんだ。」
『運命だった、の?』
「そうだよ。君と俺は、出会うべくして出会ったんだ。だから、俺は後悔も何もしていない。君と一緒にいられることは、嬉しいことなんだよ。」
『私に会えて、おじさんは嬉しかったの…?』
こちらを伺うように尋ねてくるミラちゃんに、俺は満面の笑みで返す。
俺は本当に後悔なんてしてない。出会えた事に感謝すらしている。
可愛い女の子があんな目にあったんだ。楽しいこと、嬉しいこと、たくさんの事を知ってほしい。そう思えば思うほど、俺はワクワクして笑顔になれる。
思ってもない程の笑顔の俺にミラちゃんは驚いた顔をする。
満面の笑みのまま、元気よく話をしだす。
「当たり前じゃないか!出会いは大事なんだよ。これだけは覚えてほしい。」
『何?』
「俺はこの出会いは、本当に嬉しいと思っている。嘘じゃない。」
『おじさん、嬉しいの…?こんな事されたのに、ここに連れて来られたのに。』
「うん、出会えて嬉しい。出会わせてくれて、本当にありがとう。」
『私も…嬉しいです…。』
「そっか、良かった…そう思ってもらえてて。」
俺が安心したように言うと、小さく笑ってくれたような気がした。初めて俺に見せてくれた笑顔で、俺まで嬉しくなって笑顔になる。
ふと、そうだったと、思い出す。言いたい事があったんだったと。
少し言いにくいけど、言う事にする。
「ミラちゃん。」
『なぁに?おじさん。』
「君に言いたい事があったんだ。」
『うん。』
「俺と家族になってくれないか?」
『え…。』
俺の突拍子のない言葉に、呆然とするミラちゃん。でも、俺の中ではそんな事はない。ちゃんとした理由もある。
俺は仲のいい家族で、幸せな暮らしをしてきたと思う。でも、その中でも妹や弟との仲はとても良かった。
もちろんの事、両親との仲も良かったけど、殊更、仲のよかったのは、妹と弟だった。
悲しいかな、反抗期はあったが。
でも、こちらでは、もう会う事はできない。
家族は悲しんでくれていると思う。仲は良かったしな。
だからって、ミラちゃんを妹や弟と重ねているわけではない。ただ、過去を見てって訳だけでもない。
俺のことを考えてないてくれる、苦しそうにしてくれた。そんな優しい子を、俺は妹のように感じていた。
会って1日くらいなのに、何故かこの子を妹として感じていたんだ。
どんどんと、この思いは膨らんできて、この世界の家族になってくれないかなと思った。
寂しいって気持ちもあるからだろう。ここの世界では、1人になってしまったから。
だからこそ、俺はミラちゃんと家族になりたいと思った。
その気持ちをミラちゃんに伝える。
「ミラちゃん。俺、この世界で1人なんだ。」
『あ…。』
「だから、ミラちゃんが家族になってくれると嬉しいなって思うんだけど、どうかな…?」
『えっと…でも、私…。』
「あ、殺したとかは気にしないの。」
『うっ。』
「俺は気にしてないし、むしろ今気にしてるのは、ミラちゃんが家族になってくれるかどうかかな。」
『かぞく…。』
「そうだよ。俺と家族になってさ、そして、一緒に世界を旅しよう。…うーん、話が飛んでる気もするけど。」
ちょっと笑いながら、ミラちゃんに提案する。ミラちゃんは悩んでいる様子だった。
確かにこんな話を急にされても、困惑するだろうな。俺でも急にそう言われたら、絶対同じく困惑してしまうしな。
ミラちゃんに話しながらハッとする。大事な事を聞き忘れていた。
「ミラちゃん。聞きたい事があるんだけど…。」
『うん。』
「ミラちゃんって、このまま天国に行きたい?もし、俺と来てくれるなら、一緒にいてほしい。」
『一緒に?』
「うん、一緒に旅がしたい。」
『でも…行けるのかな…?』
確かに、俺も行けるかどうかは分からないけど、やってみなければ。
もしかしたら、俺が表に出てしまうとミラちゃんが消えてしまうかもしれない。
可能性としては、俺のようにミラちゃんが自分の体に戻って、俺が消えるかもしれない。
それでも、俺は2人とも残ると言う選択肢に賭けたい。
俺はしゃがんで、ミラちゃんの目を見つめて話しかける。
「ミラちゃん。やってみよう。2人で旅をしよう。旅を日記に書いて、どんな所を巡ったか、書いていこう!」
『いいのかな…?』
「いいに決まってる!だから、一緒に行こう。外の世界に。」
『…行きたい。私、おじさんと一緒に行きたい!』
「その言葉を聞きたかった。」
今までで見た事のない笑顔で、俺に向かって頷いてくれる。
俺もうっすら微笑んで、ミラちゃんを抱きしめると、そっと背中に手を回してくれた。
暫く抱きしめていたが、どちらともなく、そっと離れてミラちゃんに笑顔で話す。
「さぁ、一緒に外の世界を見て回ろう!」
『うん!おじさんと一緒に行く!』
「そうしよう!」
俺はミラちゃんの手を弟と妹と同じように片手で手を握って立った瞬間に目の前が光り出す。
「第7話 旅への一歩」でした。
いかがだったでしょうか?
ここからが、話の大事な所に繋がっていきます。
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