第6話 能力検査
連れてこられた訓練棟には様々な機械が置いてあった。
一人ずつ、検査室に入っていく。
検査室といっても、外から声も聞こえるし、姿も見える。
アクリルのような壁が立っているだけである。
そこにいた先生から話が始まる。
「ようこそ皆さん、十二宮学園処女宮ヴァルゴへ。私はこの学園で研究員をやっています、札幌芽衣です。よろしく〜。今日は皆さんの術式の出力を調べさせてもらいます。と、いっても簡単です。この装置をつけてもらって、詠唱を唱えて術式を発動してもらいます。この装置は術式の権能は起動せず、出力を数値化したもののみが記録できるというものです。なので、どんなに危険な術式でもここは壊れません。あんまりすごいと機械は壊れちゃうかもしれないですけど。あと、詠唱は完全なものでお願いします。詠唱というのは究極的には自己暗示のようなものなんですけど、術式の最高出力を出すにはそれが必要です。略式詠唱との出力の違いは今後調べていきます。ロマンチックな言い方になってしまうんですけど、自分の深層意識、そこにいる各々の神に祈るように唱えてください。」
正直、芽衣先生の話は長かった。
だが、必要な話であることはここにいる全員が理解したようだった。
「じゃあ、前の人から順番に入って来てください。大丈夫ですよ。皆さんやることですから、詠唱も恥ずかしいことじゃないですよ。」
前の人というと俺たちか。
特に一番前にいたのは凛と氷焔だった。
「じゃあ、先に女の子から行きましょうか。」
凛が前に出る。
装置をつけて、肩幅に立つ。
「準備ができましたね。」と芽衣先生が言う。
「はい。」と答え、術式を詠唱する。
「天女は舞う。己が武力を自覚しながら、それでも自らの美のために舞う。極楽を蔑み、失楽を笑う。左手に聖剣を、右手に魔剣を持つ。腰には双銃を構え、高らかに舞い踊る。天女は月に舞を捧げる。ツイン・プレイス。」
機械に数値が表れる。
「はい、ありがとうございました。数値は六十二ですね。ちなみに基準は偏差値を一緒で五十が平均的、基本的には百が限界なのですが、時々、百を超えるようになる人もいますね。それじゃあ、次の人、どうぞ。」
「はい、よろしくお願いします。」
氷焔は元気よく返事しながら装置をつけていく。
「八大と八寒の地獄。そこは幾多の罪人を捌く場所。われはそこの悪鬼なり。われの戦いは守り人との戦いではなく、規律との戦いであり。悪即斬を掲げる悪人を滅するが職務、裁くが秩序、更生こそ至高。人の子よ、憎きを抑え、秩序と規律の贄となれ。八大寒地獄。」
氷焔の詠唱が終わる。
皆、先ほどから静寂に支配されている。
心地よい緊張感だ。
「ありがとう。数値としては四十八ですね。ギリギリ平均いかないぐらいかな。大丈夫、みんな大体こんな感じよ。」
二人がこっちへ帰ってくる。
「ふー、なんか疲れたぜ。あんま高くなかったしよ。」
「私も思うようにいかなかったな。」
「ドンマイだよ。」
「ああ、これからこれから。」
「はーい、盛り上がっているところ悪いんだけど、次の子、よろしく。」
「はーい。」
俺たちの番が来た。
「まずは女の子からどうぞ。」
「はい。機械は機能を備えたモノ。一生の傷を残している。機能とは神の与えた神に近い産物。それのみで機能するというのに機械という偶像を通してでしか動かない。ならば私こそがその偶像になろう。すべては私の機能のために。マシン・ファンクション。」
「うーん、伸びませんねぇ。四十二ですね。これから頑張っていきましょう。」
確かに四十二だと、平均より低めなのだろう。
たださっきも四十八だったのに六つの差は大きいのだろうか。
「じゃあ、次の子ね。」
俺の番が来た。
「じゃあ、行きます。神は星を創り、天を創り、地を創り、海を創り、樹を創り、命を創り、正義を創り、自由を創った。その地に人は繁栄をし、治めることとなった。人は神に非ず、しかして悪魔にも非ず、人を支配するは人、さして王は神に愛されし人なれば、我は神の名のもとに汝ら敵に裁きを下す。悪き人の子よ、天を仰ぎ、祈るがいい。せめて自らの死が幸せのもとに下されることを。ジ・オーダー。」
「…嘘ぉ。九十二です。ちょっと異常ですねー、これは。松江さんは何か訓練とかされていたんですか?」
「え、いやー。そんなこともあったかなぁ。」
ここは誤魔化さないと。
俺の過去を調べられると色々まずい。
そういう過去を持っている。
「まぁ、深くは聞きませんけどね。そういう子もここにはたくさんいますから。」
よかった。
周りの人も優しい目で俺のことを見ている。
そういう目はちょっと辛いんだけどな。
「はい、じゃあ、次の方―。」
そんな調子で検査が続いていた。
俺たちも運動能力の方の検査が行われた。
それが終わると、俺たち四人は帰るように促された。
帰る先は教室ではなく、寮の方だというので俺たちは学校を見学することにした。