第3話 街の紹介
十時を過ぎた頃、タブレットに一通のメッセージが入った。
それは、先輩二人と仙台さんの四人で作られたグループチャットからだった。
いつの間にこんなものを作ったんだ?
少なくとも昨日の夜にはこんなものはなかった様に思えるが。
そのことは置いといて、メッセージには「十時半に一階リビングに集合」と書いてあった。
十時半といえば、後数分じゃないか。
急いで身支度を整える。
寮内はスリッパだったので靴下を履き、鞄を用意して帽子をかぶる。
靴を履いて、一階へ向かった。
時間まで後二分くらいといったところだが、目当ての人影は一人もいない。
あの人たちは時間にルーズなのだろうか?
それとも他の人たちもいきなりメッセージが来たのだろうか?
四十分ほどになって、一人また一人とやってきた。
全員、おしゃれをしていて、自分とは釣り合っていない様に思えた。
「皆さん、お綺麗で俺浮いちゃっていますね。」
「そんなことないぞ、後輩くん。そのジャケットかっこいいし。」
神戸先輩がそう言ってくれる。
「そうそう、私らの方が比べられちゃうよ。」
「私なんて、後輩くんに合わせてこの服選んだんだからもっと自信を持ってよ。」
仙台さんや高松先輩も励ましてくれる。
特に高松先輩の言葉がじんと染み込んでくる。
「美桜先輩、合わせたってどう言うことですか?今日は初めて顔合わせたんじゃないんですか?」
「そうだよ、美桜。どう言うこと?」
二人が高松先輩を質問責めにする。
「どうって、さっき朝ごはん食べに行く時にばったりあったんだよ。その時からジャケット着ていたから、合わせようと思って。」
「それってさぁ、美桜。」
「何よ。」
先輩二人はイチャイチャしている。
「先輩方、行きましょうよ。混んじゃいますよ。」
先代さんに背中を押されて、玄関を出る。
まずはとりあえず、ヴァルゴの島内を歩いていく。
駅前の商店街へ向かう。
そこはショーウィンドウが立ち並ぶ、割と女性向けのアパレルショップの通りを歩く。
女性陣は一つ一つのショーウィンドウに目を輝かせている。
ほぼ全てのお店に入って行った。
服屋、宝石屋、雑貨屋など女の子が好きそうなお店ばかりだった。
特に服屋と雑貨屋が長かった。
宝石屋は学園生には流石に高かったようだ。
服屋は気になる服を一着一着手にとって体に当てていく。
それで気に入ったものは試着室で試着している。
三人が試着室に入った時には周りの視線をやたら気にしてしまった。
結局、大抵の服屋では買い物はせずに見ているだけと言うことが多かった。
合間に入ったメンズファッション店では一式揃えて買ってしまった。
その時には女性三人の意見も多分に含ませてもらった。
雑貨屋では伊達メガネやら、ブレスレットなんかを当ててキャッキャしていた。
アパレル通りを歩き終えるとすでに時刻は一時を過ぎていた。
お昼の時間か。
「皆さん、お腹空きませんか?」
「私は空いたー。」
「そうねぇ。どこか、食べに行こうかしら?」
「うん、この時間なら少し空いているかも知れないし。」
みんなでマックに向かう。
女性の足音の中に俺の音は聞こえない。
人通りは多い街の中である。
マックに着くと予想通り昼食どきを過ぎた今の時間では人は少ない。
ハンバーガーを買いシェイクとポテトのセットで頼む。
四人ともそれぞれ好きなものを頼んでいる。
先輩二人はお互いにハンバーガーをあーんし合っている。
仙台さんはそれを羨ましそうに見ている。
「仙台さん、誘ってみたら?」
「いや、そんなこと(照)。いや、行きましょう。」
グッと胸元に手を握りしめて意気込む。
「あの詩先輩、私のハンバーガーも美味しいですよ。食べてみませんか?」
「そうなの?じゃあ一口もらおうかな?」
二人で、いや三人で百合百合しい会話を続けている。
仙台さんも二人のハンバーガーをいただいて満足そうだった。
ハンバーガー屋で一服して店を出る。
「次どこに行こうか?」
「イオンでいいんじゃない?映画館とか服とかみに行こうよ。」
また、服を見に行くのだろうか。
皆さん、よくあきないでみていられるな。
移動して、イオンに辿り着く。
この島の最大のショッピングセンターで、本日は春休みということもあって、学生のお客さんが多い。
カフェやアパレル関係なんかはかなりの人数が店にいる。
俺らは映画館でチケットを買った後、時間潰しのためにアパレルショップを回った。
商店街とは差別化されていて、値段的にはこちらの方が学生向きという感じだった。
正直、服の値段による違いなんかはわからないので俺はこっちで買えばよかったと思っている。
「三人に何か買いますか?」と聞くと、荷物になるから買うとして後だねと返されてしまった。
上映の十分前になったのでジュースとポップコーンを買いに行った。
ジュースを四つと、ポップコーンを小さいのを二つそれぞれ買った。
映画の楽しみは上映前の来期の映画の予告放送、という人もいるだろう。
なにしろ俺もそのうちの一人だったりする。
暗くて時間はわからないが、多分十分以上は経っただろう。
予告が終わり、上映中の注意事項が流れ始め、それが終わると、ようやく映画が始まる。
映画は恋愛もので学園ラブストーリーだった。
最初こそ、展開にワクワクしたものの途中であっさり付き合ってからはグダグダな展開が続いていた。
映画が終わる時、隣を見ると全員しかめっ面になっていた。
女性にこんなことを言うのは失礼だが。
映画館を出る時俺らに会話はなかった。
しばらく黙って、ショップの並びを歩いているとある時高松先輩が切り出した。
「ちょっと酷かったね。あの映画。」
「前半は良かったんですけどね。最後まであの勢いで行って、告白で終わらせてくれたらもっと良かったんですけど。」
「あー、そうね。後輩くん、脚本のセンスあるよ。」
そのあとは、夕食の時間があるので、寮に帰った。
帰りの会話が少なかったのは言うまでも無いことである。