第2話 寮の生活
四人で先ほどのリビングへ戻る。
「二人は自分の術式は知っているの?」
「術式ですか?一応、ここに来ているので知ってはいますが。」
「私も知っています。」
「そうなの!じゃあ、ちょっと教えて欲しいな。ここでの縁もあるしさ。それにどうせ学園の最初の授業でみんなにバレちゃうんだし。」
高松先輩はそう聞いてくる。
秘匿しなくてはいけない個人情報というわけではないのだからいいかとも思った。
「俺は大丈夫ですよ。あ、でも、完全詠唱は勘弁してください。あれ長すぎるんで。」
「わかるわ。生まれつきのものとは言えなんであんなに長いのかしらね。」
先輩も俺の意見に同意らしい。
「私も大丈夫ですよ。隠しているわけじゃないから。」
仙台さんもオッケーのようだ。
「うーん、普通はこれから先戦うこともある人に自分の術式は教えないんだけどね。」
神戸先輩はちょっと不安げな感想を述べる。
「えー、私は普通に教えるけどな。」
「そりゃ美桜は普通じゃないし。」
「ひどい。」
高松先輩は涙目だ。
「まぁ、嘘ですけど。」
神戸先輩…。
「私も嘘泣きですけど。」
高松先輩…。
「まぁ、一年生が教えてもいいっていうんだったら教えてもらったら?」
「そうだね。よろしく頼むよ、後輩くん。」
「俺の術式はジ・オーダーといいます。できることは、正直多すぎてできないことを探す方が難しいかもしれません。」
「へぇ、すごいね。戦闘経験がないはずなのにそうまで言わせるほどの力とは。」
「凛ちゃんは?」
神戸先輩が話を回す。
「私のはそこまですごいものじゃないですよ。ツイン・プレイスです。できるのは双剣と双銃の扱い方を知り、それに見合う技を先人から継承するというものです。」
「て、ことは戦闘特化みたいな感じかな?」
「はい、でも、技は身につけられても身体能力は当人のものを参照するので私ではあんまり強くないんですよね。」
「あー、そういう感じか。それは大変だ。さて、後輩くん二人の術式も聞いたし、私も教えておこうかな。」
高松先輩は自分の術式を話し始める。
「私、高松美桜の術式はですね。エンドレス・ワルツというものです。生物の成長段階を操作できるもので、例えば、人の年齢をいじったり、術式の出力を変えたり、草木を成長させたりできます。まぁ、サポート系ですね。」
高松先輩は神戸先輩に視線を移す。
「はいはい、私のはフルスコアって言って。幻想と歌を現実にする能力です。限度はあるけど、思ったことを形にすることができるよ。空飛んだり、相手の動きを止めたりとか。」
神戸先輩の話が終えると、僕らは術式の話も含めながら、俺らが通う学園に関しての話で盛り上がった。
そのあとは四人で夕食を食べた。夕食は寮母さんのお手製らしい。三百人近くのご飯を一人で用意とは恐れ入る。
食事中に先輩たちに翌日、一緒に街を探索しないか、と誘われた。
探索といっても先輩方のことだから探索と称して僕らに街を紹介してくれることなのだろう。
腹も膨れたことなので部屋に帰る。
途中までは高松先輩と一緒だ。
部屋に帰ると、タブレットを開く。
タブレットで動画サイトを立ち上げて、動画を開く。
動画を見て二、三時間ほどが経つ。
キョウに呼ばれて、意識が飛びかけていたことを自覚する。
外はもう暗い。
部屋から出て、この階のトイレに向かう。
トイレについてから、お風呂の準備を一緒に持って行けば良かったなどと思った。
まぁそんなことを思っても後の祭りなので、とりあえず排尿を済ます。
部屋に帰ると置きっ放しのタブレットが光っている。
俺が部屋に帰ってきたことに気付いたキョウが立ち上がる。
「ご主人様、メッセージが届いています。」
タブレットを持ち上げると、メッセージの通知が来ている。
そこには「後輩くん、明日は楽しみだね。」といったメッセージが二通、二人の先輩から来ていた。
返事を打ち込み、お風呂の用意をする。
浴場は一階なので降りるのが少し面倒ではあるが、九階の浴場は九階以上の寮生しか使用しては行けない約束らしい。
この寮の浴場は大、浴場なのでとにかく大きい。
お風呂でゆっくりしてお布団に着く。
長時間移動で疲れていたのだろう。
すぐに眠りについた。
翌日、春の朝陽の斜光を目に受け、目を覚ます。
部屋を出て洗面台の鏡に映る自分の姿を確認しながら、顔を洗い、髪を直す。
歯を磨こうかと思ったがご飯を食べてからにしようと思った。
なんとなく、するのを忘れる気がする。
部屋に戻ると、クローゼットから服を出す。
一応、学園の方とのお出かけなので力を入れて、シャツとジャケットとズボンにベルトを用意する。
「ご主人様、気合い入っていますね。」
キョウに会釈を返して、タブレットをもって朝食を食べに行く。
部屋を出ると、高松先輩も同じタイミングだったようだ。
「あれ?後輩くん。おはよう。って、恥ずかしいなぁ。」
そう言う先輩の格好を見ると未だパジャマといった感じだ。
確かに女性からしたら恥ずかしいかもしれない。
「朝ごはん食べに行くの?一緒に行こうか。」
「はい。一緒に行きましょう。」
二人並んで階段を降りる。
この寮のエレベーターは朝、混むらしい。
なので十階くらいまでの寮生は階段を使うらしい。
十階は相当な階段数になると思うが大丈夫なのだろうか。
先輩に聞くと、笑ってだんだん慣れてくるのよ、と言われた。
とりあえず、八階にいる仙台さんに祈りを捧げた。
朝食はホットサンドだった。
ホットサンドとスープだったのに、食堂の窓口にはナイフとフォークが置いてあって、それを取る人もいた。
先輩もその一人で、ナイフとフォークで綺麗にホットサンドを食していた。
食事を終えると、また後でね、といって部屋に帰って行った。