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もののけタクシー  作者: 浅野案子
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ツチノコ大移動

3月中旬にノベルアップ+さんのイベントに参加した際のものです。

地図アプリなどで、なんとなく見てもらえればと思います。

 日報を書き込みその日の運行の一覧を見る。飛び込みの客は滅多に無く今日も1回も乗せてはいない。

 いつも人型のお客ばかりが飛び込みでフロントガラスに飛び込んできた。幸いスピードは出ておらず回送中を表記させたまま走行していたが。


  「危ないじゃないですか。死にますよ!」

  「(小声)あの乗せてもらえませんか?」

  「どちらまで?東北まで」

  「東北のどちらです?」

  「岩手と秋田の境の山にでも」

  「県境の山というと。。八幡平(はちまんだいら)あたりでしょうか」

  「ああ。いいですね。静かそうで」

  「お引越しですか?」

  「そのようなものです」


 空車だったので乗せることに。土で汚れているので申し訳ないとは思いつつも身体の汚れを落としてから乗車してもらうことを条件とした。(こころよ)快諾(かいだく)いただく。


 無線が届かないため電話で実車報告。


  「259より本部。兵庫県宍粟(しそう)市回送中手を挙げられ乗車。行き先は岩手県と秋田県の県境八幡平。途中給油の際に再度報告します」

  「兵庫宍粟から八幡平。了解。長い距離ですので、適度に休憩し安全運転に努めてください」

  「259了解」

  「ご安全に」


 乗客はどう見てもヘビ。一応声はアプリで翻訳したので理解できているが、どうしてまた兵庫から東北まで。お客さんに根掘り葉掘り聞くのはよろしくないので聞きはしないが。言いたくなったら聞こう。


山崎IC手前のガソリンスタンドで給油


  「あの後ろのお客さんは」

  「小さくなって寝てまして」

  「だからですか。失礼しました」

 

 会社のカードで支払い。

 満タンになり一安心。


 しばらく何事もなく走る。


ぶーん


  「ふあああ」


 やばい。少し疲れが出てきた。ええとここは、敦賀(つるが)か。お客さん静かだな。よく聞き耳を立てると聞こえたのは小さくイビキのような音。疲れてるのかな。


  「お客様。もう少し先ですが、杉津(すぎづ)PAにて停車します。一度休憩を入れさせてください」

  「おや?もうそこまで来ましたか。速いですねさすがです」

  「PA到着しましたら起こしますね」


ぶーん


  「杉津PAに到着しました。一旦休憩します。なにか食べますか?飲みますか?」

  「では、よく濡らした雑巾と木の葉を少々」

  「かしこまりました」


 人型ではないからなのか。水分補給をしたいようだ。


  「ふぅすっきりした。では、雑巾を濡らして、下には雑誌でいいかな。その上に置いて木の葉をっと。これでいいだろうか。戻ろう」


  「あの。これで良いでしょうか」

  「助かります。ああこの湿気と濡れたのと乾ききった木の葉のマリアージュ。たまりませんね」

  「では、もう一息しましたら出発します」


ぶーん


  「あの。運転手さん。私のこと聞かないのですか?」

  「ええ。まぁ。プライベートなことをお聞きするわけには参りませんので」

  「暇でしょうから少し私の話を聞いてもらえますか」


 そう言うと語り始めた。


  「世間からは、ツチノコと呼ばれているただのヘビでして。その昔は神と(あが)められた事もありましたが、人の記憶は短く妖怪のように言われてしまいます。なるべく人に見つからないように生きてきましたが、100年に一度見つけられてしまいます。そういう時に限って、腹をすかせて人のいる道に降りてしまって。普段口にすることのない罵詈雑言を吐き捨てて驚いてる間に逃げるのです。生きた心地がしません。それから覚えたのは、土の中のミミズを食べればよいのだと。そうして、間引くように少しずつ場所を変えて食べていたのですが、間違えて針を飲み込み釣り上げられてしまいました。これで終わったと思いました。でも、ヘビが釣れたと思われたのか捨てられて助かります。喉の奥が痛くて何度もエヅキましたが。そうです。そうです。私脱皮してこうして生き続けているのです。特定の(つがい)はおりませんが、たまに美女(へび)から誘われ一時期の番となることもありますが、彼女らの命は人より短く。別れが寂しいのでなるべく番を持たないように注意して生きております。良いのです。私は死ぬことが出来ないどこにでもいるヘビ。キレイな水のあるところへ移動して生息地(せいそくち)を替えながら生きております。私が死ぬときはどんなときなのでしょうね。街にたくさんの馬とキラキラと光るもので人同士が殺し合うのを見てました。短い人生なのだから争うこと無く田を耕し生きていけば良いものを。またあるときは、山の向こうの街に煙が見えました。空には大きすぎる鳥がたくさんの糞を落とすんです。それが落ちた後は煙が立ち上ります。中には木の子のような形の雲を見たこともありました。焼けた臭いが嗅いだことのない臭い。なにがあったんでしょうね。人里に降りれない私にはわかりませんが。あの頃は広島の山奥で島根という人が住んで無さそうなところにいました。見つかりにくそうですが、案外島根の人たちは山の中に入ってくるので油断できません。疲れた私は、移動しここ何年かは宍粟という地で過ごしました。水が美味しく食べ物が豊富で居心地が良いのです。しかし、人が少し増えたのと山が崩され住める場所が減ってしまいます。なので、もっと人のいないと言われる秋田に。秋田の山奥なら人は来ないだろうと。秋田は記憶にないくらい昔に住んでおりました。懐かしく思い秋田を目指しており移動を決めたのです」


 とてもヘビらしく長い説明を聞かせてもらった。


  「ご苦労されたのですね。疲れたのではありませんか?でしたらもう少しお休み頂いて結構ですよ。興味深いお話ありがとうございます」


 疲れたのか静かになり聞き耳を立てると「グゴー」イビキのようだ。


 本来人間とは関わらないように生きていたであろうヘビが、私にならと身を(ゆだ)ねたのかもと思うと嬉しく思う。

 しかし、島根や秋田が人がいないからという理由はネタとしては面白く聞こえるが、ヘビも同じことを言うのかと思うとなんとかせねばならない問題なのかも知れない。だが、ただのもののけタクシー運転手では何も出来ない。投票することしか。


 新潟を過ぎてようやく半分くらい。まだまだ距離はあるが目的地に近づいた気分は充分にある。

 磐越道(ばんえつどう)から東北道へ。この辺で休憩がしたい。山道で疲れた。

 阿賀野川(あがのがわ)SAに入ろう。なにか甘いものが食べたい。


  「休憩しますね。なにか必要なものでもありますか?」

  「お気遣いなく」

  「SAなので人が多いでしょうから」


 見えないように上から新聞紙を掛ける。


  「すみません。ご配慮に感謝します」

  「では少し休憩してまいります」


 トイレに行き出すもの出すと店に行くと、レモンの形をした小町レモンというお菓子。かわいいな。これは美味しそうだと4個入りを1つ購入。それと、帰りの食事用にスターブレッドというパンを購入。店員さんからそのままでも美味しいですよと言われ購入した。どちらもパサパサだから飲み物も補充しよう。炭酸と水と麦茶。これで足りるだろう。


 よく言われるのが、せっかくPAやSAに入るんだったら食事したらと。それはダメなんだ。それをすると眠気が出やすいから。だから片手で食べられるものを買うんだ。空車になったら何食べても良いんだけどね。帰りはなるべく拾いたくないから本部まで高速使って帰ろう。


  「お待たせしました。では八幡平へ向かいます」


ぶーん


 途中福島市や仙台市を通るとわかる。都会だって。山間を長いこと走っているからか人里に降りた気分。こういうのをお客様は見ていたのだろうかと思いにふける。ところどころ新幹線の陸橋が見え追い抜かれるのが見えるとどことなく元気がもらえる。車窓から見ている子どものように。

 盛岡市が見えた。正直ものすごく疲れた。新幹線に力をもらいながらも時折見えるイーストアイ。東海道新幹線などで見られたドクターイエローの東北版である。本当に効果があるんだなと思うほど勇気とパワーが漲る。私は、鉄道オタクというわけではないが、世間がイーストアイを崇め奉る(たてまつる)のが今日ほど理解できた日はない。たまに見かけていたが、それほどではなかった。今回は1000kmを超える長距離運転。疲れを癒やすのは、口さみしいの時に舐める飴くらい。そこへたまたまでも見かけるイーストアイに疲れが癒される。不思議なものだ。鉄道なんてしばらく乗ったことがないというのに。


  「お客様。盛岡まで来ました。間もなく高速を降りて一般道に入ります。左手に見えるのが岩手山です。あの先に八幡平がございます」

  「ご親切に。よく眠れました。水分があるとホッとしますね」

  「ええ。ほんとうに」


 お客様とあと少しでお別れか。寂しいな。

 県道23号に入り八幡平市に入るが、柏台を過ぎると再び山道だ。厳しい峠道。冬の間は通行止めになると書いてあるが。なるほど。確かにこれは危険だ。


  「お客様揺られて具合が悪くはございませんか?」

  「いいえ。運転がお上手なのでしょう。心地よいですよ」

  「それはありがとうございます。峠道ですのでゆっくりと走ってはおりますが、このあたりは雪深いらしいですね。このような寒い場所でも大丈夫なのですか?」

  「お気遣いありがとう。土の下に枯れ葉がありそこで暖を取ります。一休みはしますが温かい土の中は極楽なのですよ」


 どうやら冬眠のことを話されているようだ。極楽ならそれもまた良い。


 到着したようだ。山頂には展望台が見える。なるほど。人が集まりやすい。目立つな。どこでおりていただこうか。


  「くんくん。少し煙たいですね。人が多くいる臭いです」

  「そうですね。山頂の展望台がありますからね。車も多いです。どうしましょう」


 少し戻ると数台止められる休憩所がある。そこへ向かう。

 幸い誰も止まっていないし車の通りが少ない。


  「いかがでしょう。もう少し小道でもあればそちらに入るのですが」

  「いえいえ。探していただき感謝します」


 もののけタクシーに乗車されるほとんどの方が礼儀正しく人間よりずっと良い。


  「この辺で結構です」


 車を駐車スペースに入れ左側を斜面に寄せる。こうすることで車道から隠すことが出来るとして。


  「お支払いは結構ですよ。それがもののけタクシーです」


 そう。もののけタクシーは国から特別交付されている。もののけの類が一般のタクシーに乗り込み迷惑をかけられるという申し出があり道路族が無理に法案を通したという。税金でメシを食うのは役人だけではない。我らもののけタクシーも同じである。相手は金を持ち歩かないもののけ。なので、料金メータはドライバーが記録するためだけに存在するのである。それと、タクシーと見せかけるためでも。


  「それでは申し訳ありません。私が歩いては何十年とかかる距離を一瞬で連れて行ってくれたのです。なにか。そうですね。なにか。なにがあるかな」

  「お代は日本国から戴いております。無事に到着できたのは、珍しいヘビのお方のお陰かもしれませんね。なんてあははは」

  「でしたら、私の脱皮で良ければ」

  「持ち歩いてるのですか?」

  「いえ。今から脱皮します」

  「いやいやいや。そのような。無理に脱皮してお体を壊されては困ります」

  「はい?気分で脱皮出来るんですよ。背中痒いなと思ったら脱皮してスッキリします」

  「そういうものなのですか?」

  「はい。いつものことです。待っててください」


 うんしょうんしょと小声で前後に動きながら脱皮をする。


  「はぁ出来ました。このようなもので申し訳ありませんが、無事にお戻りになられるようお祈りしながら脱皮しました」

  「ありがたく頂戴いたします」


 両手で額より上に持ち上げ感謝の言葉を述べる。


  「そんな大げさなははは。たくさん眠れましたし元気に動けます。またいつか。ああ。あなたの人生ではもうお会いすることはありませんね。あなたの子か孫の世代で同じようなお仕事をされてましたらお会いしましょう。では」


 尻尾を振りサヨナラを告げてるのかと思いながら去っていく。胴の太いヘビ。


  「やはり、ヘビというよりツチノコなんだよな」

季節柄そろそろ開通するかなと思いこちらでも投稿しました。

最近またツチノコ捜索のネット記事が出てましたね。褒賞金は130万円だったかと。

令和でもツチノコは大人気。

ちょうどよいので、移動時期だったと思ってもらえると嬉しいですね。

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